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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_71.テネファ評議会の混乱

日本からやってきた特別魔獣調査隊が引き上げた後も、テネファでは評議会の出した緘口令にも関わらず"どうやらニッポンの武器は魔獣に通用するらしい"という噂で持ち切りだった。調査隊に同行したテネファの研究員達から漏れたのは明白だったが、テネファの評議会側では、どうやってこの武器を手に入れるかが第一の議題であった為、特に国外に漏れさえしなければ由としていた。そう、この日本が行った調査の結果は、隣国ムーラにさえも秘匿していたのだ。


「ネーマ研究員。再度確認するが、彼等の持つ自動小銃と称する武器はニェレムに対して有効であったのだな?」


「はい。恐らく彼等の持つ銃から発射されるのは実体を伴った金属です。我々の魔導銃は、魔導結晶石から取り出した高純度のエネルギーを目標に向けて発射する仕組みです。ですが、彼等の持つ銃は別の仕組みで動いています。恐らく何等かの化学反応的な物か、運動エネルギー的な物か、それともそれらの組み合わせた物かと思います」


「……詳細な仕組みの話は良い。それは何か特別な資格や訓練を要する物なのか?」


「恐らくは最低限の取り扱いや銃の仕組みを理解した上で使用する物かと思います。同行した兵達は、キャンプを行った際に彼等の銃を分解して手入れをしていました。しかも薄暗い中で行っておりましたので、その分解手順を完璧に理解した状態で使用している物と推測します」


「そうか。ただの歩兵でもそういった行為が可能なのであれば、それほど難しい機構では無いのかもしれん。その他に何か特徴や気になった部分はあるか?」


「先ず、ですが。あの銃は実体を伴った金属を高速で射出する仕組みです。それが故に次弾もまた実体を伴った金属です。つまり、彼等の持つ銃が発射する為の弾は、相当大量に用意しなければなりません。それを効率よく運び、銃に何度も装填するという所は、我々が持つ魔導銃には無い欠点かと思います」


「だが魔獣に対しては魔導銃は効かず、ニッポンの銃は有効なのだな?」


「はい、その通りです。どういった仕組みが作用して魔獣に有効なのか、という事はニッポン側がこれから研究すると。そして、その研究結果は、我がテネファにも教えてくれる手筈となっております」


「そうか。その辺りはネーマ研究員、君らの研究所で存分にやってくれたまえ。さて、シュリニク。今後のニッポンとの関係についてだが、彼等ニッポンが持つ武器が魔獣に対して有効であるという一点に於いて、大変に興味をそそられる国であると私は思う」


突然話を振られたシュリニクは、この評議会議員の一言に鼻白んだ。

今迄、散々ヴァルネクの方にしか顔が向いていなかった評議会議員の中でも、こいつは最も日本を軽視してヴァルネクに肩入れしていた議員だ。日本の銃が効くとかいう話を聞いた途端に、喰い付いてくるとか変わり身の速さは流石に評議会議員という奴なんだろう。だが、そんな気持ちをおくびにも出さずにシュリニクは答えた。


「はい、私もそう思います。彼等の持つ技術体系は我々とは別に発展した物と推測致しますが、その優劣は分かりません。然し乍ら、こと魔獣に対抗するという意味においては彼等の持つ武器は有効だと思います、ゲーレン議員」」


「そうだ、シュリニク。つまり彼等と独占的にあの銃やその他の兵器を入手した場合、我々はこの大陸において唯一無二の能力を持つ事となる。これの意味している事が分かるな?」


評議会が開催した特別報告会に集まった議員、そして外交員、研究員達はこの言葉を聞いて騒めいた。

反応は大きく分けて二つ、一つにはラヴェンシア大陸に魔獣を殲滅する事で嘗ての栄光を再び手に入れるのが可能なのではないか?と舞い上がる者達、そして一つにはゲーレン議員の発言はテネファに重大な災厄を呼び込む事になるのではないか?と危惧する者達。シュリニクは後者であったが、彼が所属する外交局の大半は前者の者達が多かったのだ。辺りの状況を判断した上で、シュリニクは慎重に答えた。


「は、それは確かにそう思います。ただ……既にニッポンはロドーニアに接触を行っており、皆様もご存知の通りヴァルネク連合とも交渉を持っています。現状で最も出遅れているのは、我々テネファであると言っても過言ではありません。この状況において、我が国だけが独占的にニッポンの武器を購入するには相当の犠牲を払う覚悟が必要です」


「相当の犠牲、とは一体なにかな、シュリニク君?」


「ロドーニアとの交渉が如何なる物かは私は存じ上げません。しかしヴァルネクとの交渉はある程度把握しています。今の所の彼等のヴァルネクに対する要求は要約すると、戦争が無ければ安全に貿易する事が出来る、その互恵関係を構築したい、以上の事は主張していません。ただ、戦争を続ける積りなら何等かの厄介な事が起きるぞ、と警告しているのです」


「……言いたい事は何だ?」


「極端に戦争を嫌う彼等ニッポンが、他国に武器を輸出するでしょうか? まず最初にこの問題を解決しなければなりません。そして次に、彼等の持つ銃を魔獣殲滅の為との大義名分を掲げて、なんとか銃を輸入するのに漕ぎ付けたとしても、先程申し上げた点が障害となり、この武器を継続して使用する事が難しいかと思います」


「なんだ。先程の点が障害とは一体なんの事だ?」


「この武器は金属を発射する、という点です。我々はこの金属を発射する仕組みを直ぐには再現出来ません。何故ならば、魔導銃との仕組みが完全に違うからです。そして、機構部分を完全に再現出来たとしても、次には発射の際に起きる化学反応部分に関しても、その物質が何であるのか分からない以上は再現は難しいでしょう。平たく言うと、全てを輸入に頼らざるを得ない。そして、この銃がロドーニアやその他の同盟諸国に行き渡る可能性もある。ニッポンの出方次第ですが……」


「成程、言われてみればその通りだ、シュリニク。となれば外交部の今後の対応如何に寄ってはニッポンの武器が滞りなく輸出される未来もあるという事だな?」


ちっ、これはとんだ藪を突いたぞ……

ここで評議会に盾突いても俺に未来は無い。かといって安請け合いの挙句に出来ませんでしたとなると、外交部での俺の立場も無くなるだろう。所謂玉虫色の返答でお茶を濁すしか無いかもしれんが、利に聡いゲーレン議員の事だ。自分の手を極力汚さずに、こちらから最大限の回答を引き出し、それが出来なければ責任をこっちに押し付けてくるだろう。


「そういう未来もあるかもしれません。何れにせよ今後の交渉次第かとは思いますが、ニッポンがどう考えるかに依ってという部分に依存するからには私からは明確な回答をする事は出来ません。そしてそれを判断するには我々には情報がありません」


「その情報を得て、国家の為になる方向を提示のが外務局であろうが。まぁ、確かに未だ情報が足りないのは確かだ。外務局と合同で情報収集の為の例の機関を動かす事は可能なのかな、メイエル評議会議長?」


「そうですね、私もニッポンとの外交交渉を進める事を賛成します。ですが、ゲーレン議員の言う通りニッポンの情報は誠に限られている。現状判明しているのは、機械文明圏である事、そして魔獣に通用する兵器を持つ事、ヴァルネク陣営側がニッポンに大して非常に気を遣う丁寧な外交をしている事、この3点だけです。ウウヴ局長。引き続き外交局はニッポンとの交渉を行い、ニッポンの情報を入手なさい。また、国交を結ぶにあたりどういった危険があるのか、彼の国の目的は如何なる事なのかを探りなさい。その上で、レフール神聖士団の使用を許可します」


特別報告会に集まった一同は、レフール神聖士団を出すという判断をした事に一瞬息を飲んだ。


過去から今に至るまで、人類の中でも特別に能力の秀でた者が居た。足の速い者、力の強い者、遠くの音が聞こえる者、遠くの者が見える者。それらのあらゆる常人とは隔絶した能力を持つ者を集め、選抜し、そして結成されたのがレフール神聖士団だ。レフール教の神の名を冠する彼等は、一人で100人に匹敵する能力を持ち、そしてあらゆる万難を排する能力を持つと言われていた。そしてダーレントの悲劇の時でさえも、魔獣と対等に戦う事も可能な場合さえあったという伝承もあった。このレフール神聖士団が残っていた事が、惨劇により壊滅したテネファが他国から攻め込まれず、再興に漕ぎ付け、そして今なお聖地としてテネファが存在している理由なのである。だが、その比類なき身体能力の高さを持つ人材は相当に限られ、今では殆どが単なる伝説として語られている存在だった。そんな彼等を投入? いや、それよりも未だ存在していたのか!? と、報告会に集まった一同は驚愕していた。


「レフール神聖士団ですが南側の森に魔獣が溢れ出した場合を考え、数人を選抜して派遣します。神聖士団長レルティシア、良いですね。選抜は貴方に任せます。外務局と協力の上で、必ずやニッポンとの交渉を成功させなさい」


「命令のままに、評議会議長」


こうしてテネファのニッポンに対する姿勢は劇的に変化した。

それと同時に、シュリニクは問題の重要性が高くなった事から自分では無く別の外交局員がニッポンの担当を代わるモノとばかりに思っていたが、一向にその通達は来なかった。代りに来たのは一組の男女だったのだ。一見すると普通の、それもどちらかといえばほっそりとしたその男女は、開口一番にこうシュリニクに語った。


「私共はレフール神聖士団から派遣された者です。今後お世話になりますね、シュリニクさん」


「あ、ああ! 貴方方が! なるほど……外交局のシュリニクです。ニッポンを担当しています」


「存じ上げております。一応我々は他者に名乗ってはいけない戒律がありますので、便宜上私はアールと、彼女はエルとお呼び下さい」


「なるほど、アールさんとエルですね。お世話になります、宜しくお願い致します」


シュリニクは初めてみるレフール神聖士団の二人をじっくりと観察してみた。

全く筋肉質でも無ければ、どこかが異常に発達している訳でもない。至って普通の男女に見えたのだ。だが、一瞬の立ち振る舞いでこの二人の能力が尋常では無い事に気が付いた。シュリニクが挨拶をしようと近寄った際に、引っ掛けて落ちかけたコップをすっと近づいてそれを掴み、何事も無かったかのようにテーブルの上に置いた。


俺より離れた場所に居たのに、落下中のコップを掴んで戻すだと?

やはり神聖士団に所属している様な奴は化け物じみた能力を持った奴ばかりなんだな……と、妙な所に感心していたシュリニクだったが、この二人の神聖士団員が付けられたという事は、シュリニク自体が評議会の監視対象となった事を意味していた。どうやらややこしい立場になってしまった様だと、ややげんなりした気持ちで二人を招き入れた。


・・・


深夜遅く、ゲーレン議員は再びシュリニクの調査報告書に目を通していた。

シュリニクの提出したニッポン調査隊の動向報告は、他に同行した研究員達の報告と同様の内容を示していた。曰く、最初には遠巻きにしつつ自分達の兵器が通じるかどうかの確認を行い、それが確認出来た時点でニェレムに対しては、各種の持ち込んだ弾薬の類を試していた。また射撃によって彼等が手持ちで携帯可能なサイズまでにニェレムが縮小化すると、入れ物の中にニェレムを押し込んでサンプルと称して捕獲して持ち帰っていた。この入れ物を更にベースキャンプにある大型の入れ物に閉じ込め、彼等が言う事が確かであれば零下70度以下にまで凍らせて持ち帰った、という。


彼等もまた冷却する術があるのだ。それ程の技術を持っている。

しかも魔導石無しでそれを成し得ているのだ。恐らくは我々が考える以上に発達した国なのかもしれない。これは、我らがテネファに再びレフールの本尊を取り戻す天啓なのかもしれん。恐らくはラヴェンシア大陸北方は、今後数十年に渡って復興の見込めぬ不毛の大地となるだろう。それはヴァルネクも当然含まれる。そもそもが既に戦争で荒廃した所にもってきての魔獣の氾濫だ。とするならば、北方優勢の勢力図は今後大きく変わるだろう。勿論今のままで我々が何かを力を頼りに行おうとしても、我々にそれ程の力は存在しない。だが、日本という国が後ろ盾に居たならば?


ゲーレン議員は報告書を流し見しつつ、再びレフール教信者達が唱える神の祭典がテネファで行われる事を夢みていた。だが、この夢を破ったのは無粋な評議会連絡員だったのだ。


「夜分遅く失礼します、ゲーレン議員! 緊急事態です!」


「一体何事だね。緊急事態だと? 本当に緊急の事態なのか?」


「ムーラ政府からの緊急警告です。同様の内容を北方魔獣監視塔の全てが発しています!」


「今直ぐ行く、暫し待っておれ」


こうしてゲーレン議員は評議会に再び訪れ、自らの席に深く腰を落とすと直ぐに皆に尋ねた。


「一体何事なんだ。こんな深夜に呼びつける程の緊急事態とは魔獣でも溢れたか?」


「そうだ、ゲーレン議員。北方の森の端、ムーラとテネファの際だ。つまりドムヴァル軍が追い込まれた例の場所から、魔獣が溢れ出したそうだ。日没を境に森から魔獣の類が出て来た状況と判断している」


「あー、それはつまりヴァルネクとドムヴァルに魔獣が襲い始めたという事だな。予測された事では無いのか?」


「まあそう言うな、ゲーレン。魔獣氾濫は過去のそう何度も起きた事では無い。それに我々の世代で起きたのが偶々森の反対側であったが故に何もせずに静観する訳にもいくまい?」


「だが我々が出来る事も限られるであろうよ。何せ森を渡る事は出来ぬしな。で、我々を集めてどうするつもりだ、ローハン議員。仲良く顔をつっつき合せて北方が滅びる様を皆で談笑しようという腹か?」


「……な!?……口を控えよ、ゲーレン議員。どこからそういう発想に至るのだ?」


「静まりなさい、皆さん」


「……これは、メイエル評議会議長」


緊急で招集された評議会に、最後に入ってきた評議会議長のメイエルは口を開いた。

夜の部更新です。/お昼の部です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >レルティシア なんかどっかで見た事の有るような似た名前が出てきたぞーw
[良い点] 更新(夜の部)お疲れ様です。 おお、とうとう出てきたチート人間! テネファの勢力だったんですね。 魔術がほとんど存在しなかったガルディシア編では浮いて見えたけど、こっちだと「そりゃいるよね…
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