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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_62.テネファの決定

「まず、ムーラとテネファの魔獣の森で共通している事は、我々の魔導兵器の類がほぼ効果が無い事です。彼等は、森から供給される魔力を元に活動している為、森から離れる毎に力を失っていきます。その森が供給する魔力の源はどこなのかは分かりません。ですが、森から魔獣が溢れる際には、恐らくですが人間が持つ魔力を喰らい続ける事により魔力を補充し、その活動範囲を広げます」


「それでは魔力の供給源とやらを断ってしまえば、魔獣達の力が弱るのでは?」


「その可能性はあります。ですが一体どんなモノが魔力を供給し、しかもその供給する場所がどこなのか、さっぱり分からないのです。勿論、過去に我が国はムーラは共同で供給源を探る為の調査を行った事がありますが、結果は惨憺たるモノでした。両国共同の調査隊も結局は結果を出せず、全滅を繰り返した結果がダーレントの惨劇に繋がったのです。そしてそれ以降、我々は森を刺激せず、森を遠巻きにして決して魔獣の森に関わらぬように生きてきたのです」


「ああ……なるほど……そのダーレントの惨劇以降に森から魔獣が溢れた事は?」


「いえ、ありません。我々は不注意な者を除き、森と遠巻きに関わらぬようにしており、それは我等テネファ以外の隣国ムーラ等も同様です」


「ちなみにですが……例えば魔獣はその魔導探知に引っ掛かるのですか? それで所在や数等を把握可能ですか?」


「魔導探知には引っ掛かる種類も居ます。というか大抵の魔獣は魔導探知によって場所や大きさ、数等は把握可能です。探知出来る範囲内に関しては、ですが。ですが、魔獣の種類によっては探知不可能なものも数種類存在し、そういう類も魔獣は人間の手に負える類ではありません。人間並みに狡猾で魔導探知されず、その生態はあまりよく分かっていないのです」


「……それは相当厄介なのでは……?」


「そうです。それが森の深部に潜むと言われる類の魔獣です。森の浅い部分に住む魔獣であれば人間が対処可能な範疇に収まっていると言えましょう。例えばニェレム(緑怪)と呼ばれる緑色をした半透明の魔獣は、身体的特徴が周辺環境に溶け込むように擬態し、罠を張って獲物を捕食します。またこの魔獣は浅い森でもよく見かけてる類の魔獣であり、魔獣と呼ばれる類の中では最も弱いと言えるでしょう。ですが、我々人間が相手をするには手に余る。何故なら我々が持つ武器が全く通用しないからなのです」


「魔導銃が効かない、と言っていたアレですね? それは小型兵器では効かないという事ですか? それとも……」


「そうです。そして森の中部に近づくにつれ危険で厄介で狡猾な魔獣の生息域となります。例えばディダンと呼ばれる多脚の魔獣は森の中では比較的巨大で体長が100mにも及び、これには魔導銃が効きますが、この身体の大きさと動きの速さから中々銃を当てるのが難しく、しかも森の中では大型の兵器も持ち込む事が出来ない為、手持ちの武器では対抗は難しいのです」


「なるほど、そういう事ですか。……ああ、これは陸の人を連れて来たら良かったですね」


「更に森の深部には我々も知り得ぬ魔獣の類がおります。我々が知らないのは探りに行った調査隊が全滅したからですが、そこに至る通信や魔導探知によって何等かの危険な魔獣が居る事は確認しております。ですが、その正体も能力も皆目分かっておりません。我々は遭遇しない事をレフールの神に祈るだけです」


暫くは戦艦オルシュテインからの連絡に言葉を失っていたツェザリだったが、ステパン中将が早急にコルダビア軍に対して休戦を申し入れたドムヴァル軍に対し再度の情報伝達を行った報告を受けた事により、漸く立ち直って日本側に向き直った。


「ヒイラギさん、今回の交渉はここで一旦終了した上で改めて後日という事で願いたい。大変申し訳無いが、貴国との交渉は今後引き続き行うという事を確約するが、一旦棚上げとしたい」


「ツェザリさん。この事態に当然我々もそうは考える。だが、我々は貴国を含むラヴェンシア大陸全体の問題とも考える。未だ交友の無い諸国ではあるが、日本国としてはかかる事態に対し、何等かの国際的な枠組みを構築した上で協力を申し出たいのですが」


「いや、我々ヴァルネクはそのような枠組みは既に連合として持っている。そしてそれ以上を現時点では望んではいない。残念だがヒイラギさん。申し出は有難いが、我々連合だけで対処が可能だと判断している」


「そうですか、それは残念ですね。いや、それではまた次回という事にしましょう。期日に関しては、この事態が落ち着き次第という事になりますかね」


「ええ、そうして頂けると正直有難い。それと……また改めて連絡をしたいのですが、ニッポン国との連絡方法に関してはテネファを仲介させる形で宜しいでしょうか、ヤマモトさん?」


「そうですね。日本としてはそれで構いません」


こうしてヴァルネクと日本との外交協議は一旦棚上げされ、ヴァルネクの外交艦隊は引き上げていった。そしてシュリニクは、ヴァルネクの外交使節団を見送った後に一日の休養を挟んで日本との交渉が始まった。シュリニクは、評議会に対して日本に関する報告よりも、同時に報告した魔獣の森の件に評議会側が敏感に反応してしまい、テネファとしては魔獣の森への監視体制強化と共に、非常事態に対応する為に動員が決定した。だが、日本に対して評議会が下した判断は現状で実態がよく分からない為、判断保留として引き続き日本との交渉を通じて実態把握せよ、との事だった。


つまり平たく言うと、シュリニクは引き続き日本との交渉を担当する事となったのである。その為、テネファ外交部の内部では日本に対するテネファの立ち位置を再確認の上で、どのような交渉を行うかについて協議が行われた。


「さて、改めて我々テネファとしてはニッポンとの外交を開設したい方向で話を進めたい。ですが、その前に色々と確認すべき事があります。それは現状で二点の問題があり、一つがヴァルネクが進めている戦争。そしてもう一つが魔獣の森の件です」


「そこは同様の懸念を抱いている所ですな。まず彼等ニッポンは双方の陣営と等距離の外交交渉を行っている訳ではありません。どちらかと言えばニッポンが外交交渉を進めているのはロドーニアが最初であり、ロドーニアが属する陣営としては同盟軍が近い。つまりはヴァルネクとは敵対する可能性が高いと思います。そのニッポンと外交交渉を進めた場合、ニッポンがヴァルネクと完全に敵対する事が明白となった場合は、我々の中立も怪しい状況になる可能性が高い」


「だが、もし仮に魔獣の森が北側で溢れた場合、彼等が現在行っている戦争の遂行事態が怪しくなる可能性がある。もう少し言うならば北側だけで森が溢れるのであれば良いが、もし仮に南側に溢れた場合は我々も危険な状況となる。評議会側でも動員をかける事から、もし溢れた場合は総力を上げて対応せにゃならん。だが仮に我々が周辺国と協力したとしても、魔獣に対抗出来るかどうか分からん。さてシュリニク、君が見た所で良いがニッポンはこの魔獣に対抗する事が可能なのか?」


「……そうですね。私も未だニッポンに関しては不明な点が多すぎてなんと答えて良いやら分かりません。ですが彼等から得た情報で二つの事実があります。まず一つは嵐の海に生息する例の大魔導士をニッポンが撃退した事。そしてもう一つはマルギタ砲撃艦隊を被害を受ける事無く殲滅した事。この二つの事実が指す事は、ニッポンという国が相当に戦闘能力が高いモノであると判断可能だとは思います。ですが、それが直ぐに魔獣に対抗出来るかと問われた場合は私には何とも申し上げる判断材料がありません」


「そうか。ニッポンの海軍力自体は相当に高いと判断出来るだろう。だが、その能力が魔獣の森で発揮出来るかというとその限りでは無い訳だ。ちなみにニッポンはヴァルネクとの交渉はどういう立ち位置なのか改めて教えて欲しい、シュリニク」


「そうですね……ヴァルネク自体はニッポンとの交渉を長引かせたい。何故なら北側で行っている戦争の決着が着くまでニッポンに介入されたくは無い。その後にニッポンとの友好的な外交交渉を纏めたい。ニッポン側としてはヴァルネクの思惑を見越した上で、ヴァルネクが呑めない要求を強硬に主張しておりますね。つまりは戦争の即時停止と互いの国へ戦力の撤収、という事ですね」


「戦争の即時停止か……一体ニッポンは何をヴァルネクに求めているのか?」


「そうですね。相互に友好的な互恵的関係を構築したい。だが、その関係を構築するに辺り障害となるのが、現在ヴァルネクが遂行している戦争です。ですからこの戦争が無くなればニッポンとしては互恵的関係、例えば貿易なり何なりを互いにやり取り可能とする関係を結ぶ事が可能である、と考えているのでしょう」


「ふーむ、そうか……シュリニク。引き続きニッポンとの交渉を続けてくれたまえ。私の想定が合っているのであれば、ニッポンという国はそれ程に危険な国とは思えないが、その確証が欲しい。評議会の決定通りだが、君にはニッポンという国との交渉を通じて、ニッポンという国の情報を探ってくれたまえ」


「勿論その積もりです、ウウヴ局長」


こうしてテネファのシュリニクは日本との外交交渉を開始した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、なるほど、この魔獣の森の中心にタイトルが埋まってるのか…
[一言] …若干ネタバレになるかもしれないのですが、魔獣の森とカルネアの栄光、何かしらの関係があるのではなかろうか…(真実は作者のみ知る事であろうので、正解じゃないかもしれませんが
2021/10/04 15:20 退会済み
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