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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_57.コルダビア第二打撃軍の動向

ここで再び袋小路に追い詰められたドムヴァル第三軍の構成と動きはどのようになっていたか。


ドムヴァル第三軍は、機甲部隊と歩兵部隊に分けられる。

第三軍における歩兵部隊は8つの歩兵師団(定数14,400)によって構成され、歩兵師団は4つの連隊(定数:3,600)によって構成される。連隊は6つの大隊(定数:600)によって構成される。イメド防衛線の正面防衛を担当していたのは、第二歩兵師団であり、ヴァルネク第二軍の砲撃により壊滅したヴェイニ少佐の部隊は、ドムヴァル第三軍 東部イメド防衛隊 第二歩兵師団 第五連隊 第22防衛大隊に所属していた。


既に機甲部隊は脱出に成功したが、ドムヴァル東部三角地帯に押し込められた総勢8.5万のドムヴァル軍は、以下のような構成であった。一部に砲撃で壊滅した大隊を含む東部防衛の第二歩兵師団(第5、第6、第7、第8連隊、総勢12,900)、第三歩兵師団(第9、第10、第11、第12連隊、総勢14,400)、第四歩兵師団(第13、第14、第15、第16連隊、総勢14,400)、そして中央防衛の第五歩兵師団(第17、第18、第19、第20連隊、総勢14,400)、第六歩兵師団(第21、第22、第23、第24連隊、総勢14,400)、そして一部が既に脱出に成功した第七歩兵師団(第25、第26、第28連隊、総勢10,800)の総数81,300の兵力だ。


現在、ムーラの森を突破する為にノーデン大尉が指揮官として第二歩兵師団が大型第一梯団を、第三歩兵師団が第二梯団を構成し、後続陣地には第四歩兵師団とゲーブルト大佐の補給部隊が出発待ちの状態だった。その反対側では中央防衛を担当していた第五、第六、第七歩兵師団の三個師団がバリンストフ少佐指揮の元で防衛線を構築し、コルダビア第二打撃軍と対峙していたのだ。


ムーラの森の中では、先行する第二歩兵師団所属の第七連隊 第26大隊と、その後ろを38大隊、44大隊、29大隊、次の小型梯団に13大隊、30大隊、と続き、第5連隊以降第8連隊までが中型第一梯団として先行する予定だったのだ。だが、26大隊には異変が無かった物の、それ以降に続いた第29、38、44大隊で多脚状怪生物と遭遇した事から遭遇地域を迂回して移動する事となった。この事により当初より浅い森のルートを選択せざるを得ない状況に陥り、正面対峙しているコルダビア第二打撃軍に森への脱出が暴露する恐れが高まっていた。だが、より深い方のルートを選ぶ事はノーデン大尉は選択出来なかった。浅い程度の森でさえ、あのような怪物が出る森なのだ。もっと深い部分を踏破しよう物なら、如何なる怪異が出てくるとも限らない。果たしてノーデン大尉の判断はどうなったか?


・・・


ゼーダー将軍の元で再編されたコルダビア第二打撃軍は、前身のボレスワフ将軍が指揮した第二軍同様に機甲部隊を中核とした機械化師団として再建された。そして機甲師団と共に重厚な機械化歩兵師団を擁する機動打撃軍となっており、機動打撃を主任務とする陣地への包囲にはやや適さない構成となっていたが、前任により壊滅した汚名を雪ぐべくヴァルネク第二軍と掛け合った後に、ドムヴァル残存勢力の包囲と殲滅を請け負った。ヴァルネク第二軍のグジェゴシェクとしては早々にサライ王国に攻め入りたい所でのコルダビアの申し出に渡りに船とばかりに了承した。


だが、ゼーダー将軍が実際にこの三角地帯の対峙状況を観察するに、実に攻め難い嫌な地形の上にドムヴァル第三軍が構築した陣地は急ごしらえとは思えない巧妙な罠があちこちに設置されていた。森に至る三角地帯の奥の方が高台となっており、包囲をするコルダビア軍は敵陣地から見下ろされる場所に展開する事を余儀なくされた。しかも魔導自走砲殺しの堀があちこちに掘られており、その堀を超えるには周辺の木なり土砂で埋めるなりしない事には、この堀を越えられない。その作業を行おうとすると高台からの狙撃を受ける状況となっており、この最外縁の堀を乗り越えられる事無く双方が対峙している状況だったのだ。


「諸君。我々はヴァルネク第二軍のグジェゴシェク将軍から当該任務を請け負った。前方のドムヴァル軍残党を包囲し殲滅する事だ。だが包囲は為された物の、当のドムヴァル軍残党への攻略が要として進まん。諸君ら将星の忌憚無き意見を求むが如何か」


「ゼーダー中将。彼等は包囲されているとはいえ八万程の戦力を要しています。これは我々第二打撃軍の総兵力六万よりも単純に多い。そして前方に幾重もの塹壕が掘られ、自走魔導砲の突入を阻害しています。そして我々には直射型の魔導自走砲はあっても、間接型の魔導自走砲を持ってはいない。つまり我々の構成がこういった陣地攻撃に向いてはおりません。今一度、ヴァルネクの魔導自走砲部隊の応援を要請しては如何かと」


「リュートスキ大佐。君が言わんとした事は理解しているが、我々の現有戦力を以て奴等を殲滅せねば意味が無いのだ。前任のボレスワフ閣下が残したこの第二打撃軍が、再建後もこういった任務を遂行するに全く支障が無い事を証明せねばならん。現有戦力を以て彼等を殲滅可能な作戦、そういった物を求めているのだ」


「中将閣下。まずは前方の塹壕が非常に厄介です。まずはこれを埋めるべく直射型魔導自走砲前面に地面すれすれに装甲を施し、それによって土砂を塹壕に落とすのは如何でしょうか?」


「ほう、成程な。だが、それだけの資材を用意出来るか、オヴァルトフ大佐?」


「一応修理用として補給部隊には用意しておりますが、搔き集めても10台程度分にしかならぬとは思います、中将閣下」


「デーデン中佐か。修理用とは用意が良いな、だそうだ、オヴァルトフ大佐。10台程度で突破は可能か?」


「10台は少々足りませんな……森の木を伐採して、それを塹壕内に落とす事は可能でしょうか。それならば、それほど修理用資材全てを使わずとも可能ではないかと」


「それだ! そして正面に敵を拘束しつつそれと同時に森の中に歩兵を突入させ、左右から迂回して歩兵を突入挟撃させては?」


「リュートスキ大佐。君は魔獣の森についてどんな事を知っている?」


「は、魔獣の森ですか? この森の奥には人を喰らう類の魔獣が多数潜んでおり、人間が来るのを待ち受けていると」


「そのような噂を持つ森の中に兵を突入させるのか、リュートスキ大佐?」


「ですが、そのような噂を持つ森とは言え、我々も無力な民草では無く精強な軍隊です。多少の危険な獣程度であっても我々の持つ戦力であれば退けられる事も可能ではないかと」、


「ふーむ……どういった獣が出るのか分かるだけでも、対処が出来るだろうな。リュートスキ大佐、君の部隊から一部抽出して森に偵察をしてきたまえ。もし安全に森から奇襲を掛けられるのであれば良し。もし危険な生物が居たのであれば、すぐにどういう類の物か報告を出したまえ。但しだ。森は中立国の領土だ。我々がもし仮にムーラなりテネファなりに我々の侵入が発覚すると後々非常に問題となる。そこは細心の注意を払いたまえ」


「確かにそうですね。国境侵犯……しかし、あの魔獣の森にテネファやムーラは監視を置いているのでしょうか?」


「彼等はあの魔獣の森が魔獣の森たる理由から、全く国境付近に関心を払ってはおらんよ。何せ、そんな監視を置こう物なら監視者自体が魔獣に喰われると思っているからな。それが証拠にもう何十年もの間、あの魔獣の森の国境を犯す者は居らん。だが、だからといって堂々と彼等の国境を突破した場合は当然面倒な事になる。それが故に細心の注意を払えというのだ」


「了解しました。それほど目立たぬ程度の部隊を見つからぬ様に、という事ですね」


「ああ、そうだ。それと近隣の森の中に危険な魔獣とやらが居た場合、魔導銃での撃退が可能か、それとももっと大きな火力を必要とするのかも併せて確認せよ。それと必ず偵察部隊は生かして帰せ。如何なる残留物も残すな。良いな、リュートスキ大佐」


「はっ、了解致しました。早速、兵を選抜した上で偵察を行います」


こうしてコルダビア第二打撃軍は、持てる資材を投入して突破部隊を構築しつつ、テネファの森とムーラの森の中に小規模の偵察部隊を放った。


・・・


こうしてリュートスキ大佐が選抜した偵察部隊は、テネファ、ムーラそれぞれの森の中に小隊規模で侵入した。テネファの森に入った偵察部隊は魔獣に遭遇する事無く、側面攻撃に有効であろう場所を魔獣に出会う事無く確保し、側面から見たドムヴァル軍の構成と配置を確認した上で本隊に報告を入れた。


だが、ムーラの森に入った偵察部隊は、森に入って早々に緑色のドロドロとした魔獣の群れに接触した。リュートスキ大佐からの指示を忠実に守ろうとした偵察部隊は、まず探りを入れるつもりで撃った魔導銃に対して即座に反応し、何等かの餌と認識した緑色の魔獣はゆるゆると移動を開始した。そして周辺の木々に擬態していた緑の魔獣は次々に姿を現し、気が付けば、ムーラの森からの退路を塞いだ緑の魔獣達は、ムーラの森偵察部隊を包囲した上で彼等を捉え、そして捕食していった。


最後に彼等が送った通信は、"魔導銃が効かない魔獣と遭遇、脱出不可能!"だった。そして、この通信内容にコルダビア第二打撃軍は最後まで拘束される事となった。


「ゼーダー中将、ムーラの森に送り込んだ偵察部隊が全滅しました」


「全滅だと? リュートスキ大佐、どういう状況か分かるか?」


「通信内容によると、森に擬態する能力を持つ緑色をした魔獣と遭遇し魔導銃を撃つも銃の類は一切効かず、脱出を図るも周囲を魔獣に包囲された上で通信後に全滅、という状況です」


「そうか……ムーラの森からの包囲は危険だな。テネファからは問題無いのだな?」


「テネファは側面攻撃に適した陣地を構築済、但し大規模の部隊は入れず比較的小規模の部隊のみとの事です」


「となると片面包囲は可能か。であるならば、ムーラの森方向にドムヴァル軍を追いやれば魔獣が始末をつけてくれるかもしれんな。何れにせよ全滅した偵察部隊人員のリストを寄越せ、リュートスキ大佐」


「はっ、直ぐに提出します」


「それとテネファの側面攻撃用の陣地に配備する部隊だが、小規模とはどの程度だ?」


「恐らくは中隊以下かと。再度テネファの森偵察部隊に確認しますが」


「そうか。では中隊規模以下で側面攻撃用の部隊を選抜する。リュートスキ大佐、君の部隊から口径の大きな手持ちの魔導砲による攻撃部隊を選抜しろ。そちらの兵站はデーデン中佐、君に任せる。オヴァルトフ大佐、資材の用意と突入する自走魔導砲の準備はどこまで進んでいるか?」


「木材投擲用の装置に多少手間取ってはおりますが、あと三日頂ければ完了致します。突入可能な自走魔導砲は25台を予定しております」」


「なんとか二日で終わらせろ。三日目には総攻撃を行う」


こうしてゼーダー中将率いるコルダビア第二打撃軍のドムヴァル第三軍への総攻撃準備は着々と整っていった。

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