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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
56/155

1_55.魔獣の森

現在、8万5千弱のドムヴァル軍イメド守備隊と輜重部隊は西にテネファ国境の魔獣の森、そして東にムーラ国境の魔獣の森に押し込まれ、前方には包囲していたヴァルネク第二軍に代わって部隊の再編を終えたコルダビア第二打撃軍が展開している状況だった。その中で、イメド守備隊のバリンストフ少佐と輜重部隊を取りまとめるゲーブルト大佐は、中立国ムーラの国境に広がる魔獣の森を突破してサライに逃げ込む事を画策していた。だが、この魔獣の森を横断してサライに行く為には、直線距離にして40kmに渡る森を突破していかなくてはならない。その名の通り、正体不明の魔獣が住まう森の中をだ。しかも、彼等の装備は軽装備に過ぎず、大型の魔獣が出た場合は対処の方法が無い。だが、それは前方に展開するコルダビア第二打撃軍を相手にするよりも、この時は容易であると判断していたのだ。何故なら、コルダビア第二打撃軍は重装備の機甲軍を展開しており、もし陣地を破られたなら、軽装備のドムヴァル軍に待っているのは敗北しか無い。


そこでバリンストフ少佐はイメド回廊守備隊を二つに分け、殿をバリンストフ少佐が勤め、最後まで防御陣地に留まった上でコルダビア第二打撃軍の前進を押し止め、彼等の足を可能な限り遅滞させる事を目標とした。そしてバリンストフ少佐の作戦参謀であるノーデン大尉が森へ入る前衛啓蒙部隊とし、その後続をゲーブルト大佐の輜重部隊が森へと続いていった。


・・・


ムーラ国境の森は中立国ムーラ北方の国境沿いに沿って広がりサライ近隣まで広がっていた。この森は近隣諸国の住人であれば絶対に立ち寄らない森で、近隣諸国には魔獣の森として知れ渡っている。この森の中に住む魔獣はどれだけの数が居て、どんな生態を持っているかは誰も知らない。昔から調査を行った者は行方不明となっていたからだ。だが数少ない生存者の目撃情報により、数体の凶悪な魔獣が居るらしいという朧気な情報だけが残っていた。


そしてこの深い森の中でも比較的森の外周部に彼女は居た。

彼女はその外周部の森の内側をテリトリーとし、自らのテリトリーに入った得物を狩る日々だった。そして彼女は数日前から聞こえる耳慣れない何かを転がす音と大勢の小さな足音に注目していた。器用に木々を避けながら、その音がする方向に徐々に近づいていった。


ここ数日、彼女は何も食べる物が無く餓えていた。

何やら森の外で日々行われている騒がしい出来事によって、森の奥に餌が皆逃げてしまっていたのだ。その為彼女は徐々に活動範囲を広げて餌を捕食出来る狩場を比較的森の浅い所へと移動しつつあったのだ。だが、彼女が近づくよりも早くどんどんと大勢の小さな生き物の歩く音が近づいて来る。あの足音から考えるに大した大きさでは無いと思われるが、何も食べられないよりはマシだ。それにどうやら思った以上に大量に居る気配がある。これで暫くは食べる物に困る事も無いだろう。彼女は慎重に、その小さな生き物の群れに近づいていった。


・・・


イメド守備隊先遣の第26大隊600名程が深い森の中に入って半日が経過した頃、その後方5km程を進んでいた第38大隊周辺に、一切の動物の鳴き声が聞こえなくなった。動物の鳴き声が聞こえなくなって直ぐに38大隊の一部は異臭を感知した。


「……なんか変な臭いがするな」


「おい、警戒しろ。鳥の鳴き声が聞こえないぞ」


「おいおい不味いな。魔獣って奴か?」


「知るか。全員、着剣しろ。不測の事態に備えろ!」


「魔導銃の通る奴なら良いんだがな」


「あれだっ、右前方50m! ……なんだ、こいつは!?」


「おい、近づくな!! 距離を取れ。誰か火を放て!」


周囲に異様な臭いを放ちながら、緑のブヨブヨとした塊がゆっくりと動いていた。その塊は触手のような物をあちこちの木々に飛ばしながら確実に第38大隊の列に近づいていた。そして誰かが緑のブヨブヨに発砲した。だが、着弾した瞬間に緑のブヨブヨは弾を飲み込むと爆発する事無く吸収されたように見えた。


「おい誰だ、発砲したのは! どうなるか分からんのだ、撃つな!」


「見ろ……弾が当たった場所が……」


弾が当たった部分が徐々に盛り上がり、撃ち込んだ筈の魔導弾は爆発する事無くそのままの形を保ちつつ、撃った方向にそのまま吐き出された。弾の勢いは弱く誰にも被害は出なかった。だが、その後に弾を吐き出した部分から伸びてきた触手は、非常に早く危うく被害が出そうになった。


「おい、弾撃ち込んだら吐き出すぞ。絶対に近づくな!誰も撃つな! 触手もヤバいぞ、10m以上近づくな!」


「だが、こいつ何を目的にこっちに来たんだ?」


「知らん! 早く火を持って来い! 効くかどうか分らんが、奴の進路を燃やせ!」


38大隊の行軍中央に現れた緑の塊は、周囲の兵によって炎の壁を作られたが即座に炎を飲み込んだ。そして、炎を飲み込んだ部分から無数の触手を吐き出した。そして遂に38大隊の兵に被害が出始めた。その触手が刺さった38大隊の何人かの兵は、突き刺さった傍から体液を吸われ始め、あっという間に干からびて死んだ。


「エルネス! なんてこった、奴は触手で吸うぞ! エルネスが吸われたぞ!」


「駄目だ、火も効かん! 近づくな! そこの兵、下がれ!」


「奴の動きは遅い、こいつを遠巻きにしろ! 避けて通れ!」


38大隊は後続の別の大隊に警報を出しつつ、緑のブヨブヨとした塊から距離を取って離れようとした。だが38大隊が組織立って行動出来たのはこれが最後だったのだ。


緑のブヨブヨとした物が突然に38大隊から離れる動きをしたかと思った瞬間に、何か巨大な長い物が瞬時に緑のブヨブヨを捕食した。その巨大な何かは恐ろしく動きが早く、しかも何本もの足を持ち大きな口と顎を持つ巨大な多脚生物だった。この巨大な多脚生物は、緑のブヨブヨとしたものをあっと言う間に啜り喰った後で、食い足りないかのように辺りを見渡した。


・・・


彼女が小さな生き物が立てていた足音の場所までやって来ると、既に先客が居た。森の中の魔獣の中では最弱であり、腹が満ちている時では喰らう気にもならない下等な緑の生き物だ。だが、こいつは成長に限界が無い。放置していると際限無く大きくなる上に、そうなると厄介な存在となる。それに、あの小さい生き物と比べたら、あの緑の生き物は面倒な相手だろう。そうだ、これから私がこの小さな生き物を喰らうのだ。にも関わらず、私の前に、この小さい生き物を啜るとは!


若干の怒りを覚えつつ、彼女は緑の生き物を一撃で喰らった。そうだ。これから小さい生き物を鱈腹喰らうのだ。それなのに、この緑の生き物が私の邪魔をしたのだ。許し難い。口の中に得も言われぬ不味さが広がったが、構わず吞み込んだ。この小さい生き物が、こいつよりも美味いと良いが。


彼女は手始めに緑の生き物の周辺に居た小さい生き物を何匹か喰らってみた。これ程小さいと何匹か纏めて喰らっても行けそうだ。味はマズマズだが、この生き物の表面を覆っている物が実に不快だ。だが、それ以外は動きも遅く簡単に喰らう事が可能だ。彼女は先程の不愉快な気持ちよりも、これから訪れるであろう満腹な状態を想像して愉悦に溢れた表情をした。


・・・


前方の第38大隊から壮絶な悲鳴が聞こえ始めた頃、その後方を行進中の第44大隊は38大隊の報告を受けていた。38大隊のど真ん中に現れた緑の怪異と、それに続いて大きな多脚生物が突然現れて38大隊の兵を喰らい始めた事を真っ青な顔の兵から報告を受けた44大隊は、直ぐに魔導銃を構えて戦闘体勢に入ったが実際に巨大な多脚生物を目の当たりにして恐怖の余りに動きが止まった。そして動く事が可能な兵は銃を放り出して逃げだし始めた。そしてそれらの状況はイメド防衛隊前衛を取りまとめるノーデン大尉の元にも入っていた。


「なんだ、その生物とやらは? 一体どういう物か見た者は居ないのか?」


「概ね、全長80m程の多脚生物で人を喰らいます。動きは敏捷で、前足は営利な刃物の様です!」


「厄介だな……銃は通じるのか?」


「動きが早すぎて殆ど当たりません。動きを止めた兵から喰われています。通常設定の魔導銃では当たってもあの生物の鱗のような物で弾かれています」


「ちっ……小隊単位でバラけて攻撃しろ。纏まるな。そして動きを止めるな。それとだ。分隊支援用魔導銃の出力を最大に設定しろ。1発の威力を上げて撃ち込め。魔導結晶石の補給は後ろのゲーブルト大佐が面倒見てくれるぞ。38大隊はどれ程残っている?」


「38大隊は半分程やられました。今、44大隊の方に被害が出始めています」


「半分か、多いな……よし、三個大隊で包囲殲滅する。だが、先程言ったように小隊単位で攻撃をしろ。被害が出た小隊は下がらせろ。38大隊と44大隊、そして44大隊の後ろはどこだ。29大隊か。よし、29大隊も前進しろ。そして足を集中的に攻撃して動きを止めろ」


「了解です、ノーデン大尉!」


・・・


彼女は思いのままにこの小さな生き物を食い散らかした。

だが、当初と違いだんだん小さな生き物を捕らえる事が難しくなってきた。この小さな生き物は当初密集した状態で居た為に、その群れの中に突っ込んで行けば動けなくなった者から順次捕食する事が可能だった。だが、この小さな生き物の動きが小さな数で纏まった挙句に何かを撃ち始めてきたのだ。しかも直ぐにこの小集団は逃げて行ってしまう。彼女の能力を以てすれば、この小さな集団だけを相手にするのは可能だが、小さな集団が限りなく無数に彼女を包囲し始めたのだ。


彼女は小さな生き物を捕食する事が出来ず、全力で捕食する為に動き回っていた。これ程に動き回ったのは随分と久しぶりだ。だが、これ程の餌を目の当たりにするのも久しぶりなのだ。こんな機会は滅多に無い。この小さな生き物が無数と言える程に沸いているのだ。ああ、これを全て喰らい尽くせたら……


そして次第に疲労感が彼女を襲い始めた。


・・・


「こいつ、動きが鈍って来たぞ!」


「よし、動き止めたぞ! 撃ち込め!」


多脚生物を包囲していた29大隊と44大隊に所属する小隊は、多脚生物の足を狙って出力を最大に設定した分隊支援用魔導銃を持った兵達は動きを止めた生物に向かって撃ち始めた。通常よりも口径が大きく連射の効く魔導銃の出力を最大に上げ、数発程度しか撃てないが、1発の威力を引き上げた銃が遂に当たり始め、命中した身体から体液が流れ始め、足をちぎり飛ばした。


「見ろ、通るぞ!! 結晶石が切れた部隊は直ぐに補給を受けろ! 撃てる部隊は前に出ろ!」


「どんどんぶち込め! 足を飛ばせ!!」


「こいつ散々仲間を喰らいやがって。これでも喰らえ!」


「おい、補給部隊はどこだ。結晶石寄越せ!」


そして多脚生物は遂に動きを止めた。

続き更新しました。

--

友達が亡くなってた。連絡来なくなって色々情報集めてたら、亡くなってた。

その後のゴタゴタと、浮かび上がってきた様々な事実。

友人と思っていたのが考え無しにやらかした行動やら。何やら。

超疲弊した。友人も何人か無くした。

今回の話は、途中までしか書かれていないんだけど、今日はここで勘弁してください。

後日続きを書きます、

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新(と現実も)お疲れ様です。 ガルディシア編の山怪みたいなの出てきた! アイツより強そう! と思ったらオードブルでした笑った。 リューシカの現住生物、たまに自衛隊でも下手すると勝てなさそ…
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