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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_47.ロドーニア外交交渉②

「我が国日本の公式な立場としては先程も申し上げました通り、戦争当事国との国交は国民の理解を得られません。然し乍ら、ヴァルネクを中心とした連合国の行動は我が国と我が国と友好関係を結んだ国々に対して悪い影響を与えるといった程度では済まない状況を齎す事は間違い無いでしょう。ロドーニア第一外務局長オームスンさんが仰られた通り、ヴァルネク連合によってロドーニアさえも飲み込まれ、そして人工魔導石とやらに変えられる可能性が高い。」


「ええ、ええ、全くその通りです。」


「そこで我々は秘密裏に政府より密命を受けております。そしてこれは公式の話ではありません。尚、失敗した場合は我々は政府の命に背いた独断専行という事となり、またその行動に対する責任は私や山本に帰結する事となっています。」


「……どういった内容か差し支えなければ教えて頂けますか?」


「第一段階としては既に失敗した可能性が非常に高いのですが、ヴァルネク連合への脅迫。これは最初にヴァルネクに対しての挑発行為を行った上で先制して攻撃を行わせ、攻撃してきた物を全て殲滅する。その際には、日本を見学してもらったヴァルネク軍人のみを生かして返す。我々の攻撃能力を見せた上で、相手が引いてくれるならば恐らくこれが一番コストが安い方法だったと思います。」


「それが先程のマルギタ艦隊の話ですね?」


「ええ、そうです。本来はヴァルネク艦隊の全てを殲滅する予定でした。ですが、当のヴァルネク艦隊はそもそも我々の船に対して攻撃を禁止されていたそうです。絶対に日本の船と敵対するな、と。それが何故かマルギタ艦隊だけが命令違反の状態で我々に攻撃してきた事から反撃を行いました。この時点で全く戦意の無いヴァルネク艦隊本隊が残り、我々がヴァルネク艦隊全てに対し完全な殲滅を行うタイミングを逸してしまい、結果としてヴァルネク艦隊と協議の末、中立国テネファでの外交交渉が決まりました。」


「なるほど……これは現在の状況は第一段階の途中という事ですね?」


「そうです。第一段階でヴァルネクは恐らく引かない方向で舵を切った事が判明した。そこで第二段階なのですが、ここからが非公式の話になります。」


オームスンはここまで聞いた段階で、一体何故にこの日本という国がこれ程までに対外的な戦争や紛争行為に対して禁忌に近い対応をしているかが分からなかった。だが、それも恐らくはこの日本という国の体制が国民に主体がある事に関係しているのだろうが、正に国民の理解を得られないといった柊の言葉が表しているのだろう。今後、我がロドーニアが日本と友好的に付き合う未来があれば、この謎も解決するだろう。それにしても、日本が考える第二段階とは一体どういう事を……?


「さて、第二段階ですがこれは日本政府も関与していません。完全に私と外務省某機関の共同で立案された内容となっています。その為、この件に関するあらゆる情報は制限されており、ごく限られた者しか関与しておりません。さて、ロドーニアのお二方にはこの第二段階を知ってしまうと後戻り出来ませんが、覚悟は宜しいですか?」


「えっ?!」


「ははっ、冗談ですよ。実は第二段階は詳細にはお伝え出来ません。ですが大まかなフレームの説明は可能かと思います。まずは、これから中立国で行われるヴァルネクとの交渉から第二段階が始まる訳ですが……」


一同は広い部屋の中で顔を突っつき合わせて会談を続けた。


・・・


「ツェザリ長官、ご無沙汰しております。ステパンです。お元気そうで何よりです。」


「おお、ステパン中将! 何時ぞやの海戦以来だな。君も健勝で何よりだ。」


「おかげ様で。ところで猊下からどんな指示が?」


「そうだな……まずはニッポンとの会談内容を君から直接確認した上で、我々の今後の方針を君と擦り合わせる。君も同席して貰うぞ、ステパン中将。」


「私がですか? いや、前回私は彼らニッポン人に外交交渉権を持ってはいないと表明しているのですが……」


「いや、君の同席は猊下の意向でもあるのだよ。まずは君が出会ったニッポン人に対する率直な感想から伺いたい。その上で、会談内容を精査して擦り合わせに移るとしよう。それで宜しいかな、ステパン中将。」


「はい、私はそれで全く構いません。」


「宜しい。それでは君と会談した際のニッポンの主張を再確認するが、ニッポンの担当は何と言ったかな? ああ、ヒイラギか。そう、そのヒイラギはニッポン政府中枢の人間という認識で間違い無いな?」


「そうです、ヒイラギはニッポンの政府中枢の組織から来たという表現を使っていましたね。」


「そうか。次にそのヒイラギが主張したのは、現在我々ヴァルネク連合軍が行っている戦争の即時停止と軍の撤収、そして占領地の返還と被害補償か。よくもまぁこれだけの要求をしてくるモノだな。我が国はともかくこれだけの要求を何の関係も無い第三国の立場で言ってのけるとはな。彼らの目的はどの辺りにある様に見えた?」


「そうですね。彼らが言うにはニッポンとの外交交渉を行う為の最低限の条件と申しておりました。恐らくは外交交渉においてどちらかが戦争状態となれば、色々と交渉に問題が生じる事からの条件なのかと最初は思ったのですが……どうにも真意は別の場所にあるように感じました。ただ、交渉事は通常でも最も呑み難い条件から入る事が往々にして多いでしょうから、我々に対して過酷とも言える条件を提示したのではないかと。」


「ふむ、なるほどな……恐らくは君が言う事の一部は正解だろう。だが……真意はどこらにあるのか。もし、彼らの言う通りに全てを要求通りに呑んだとして彼らは我々ヴァルネクと交渉に入るだろうか?」


「それが彼らの前提条件ですから、通常であれば自らの条件に従って行動するのではないかと。」


「私の考えは違う。彼らは我々を完全に危険な存在として認識しているのだろう。恐らくはロドーニアとの接触の際に、我々の現在行っている戦争の実態を伝えたのだろう。例の人工魔導石の件だとかだな。考えると本国に居る間はこんな事は思っていても口には出来んが、今にして思うとこの度の戦争は開始から何かがおかしい。普通に考えた場合、占領した敵国人を全て魔導石へ変えてしまう行為は、幾ら彼らがレフール教に帰依しないと言っても残酷に過ぎる。それをロドーニアから伝えられたのなら、確かに危険な国だと思うだろうな。」


「ツェザリ長官、その発言は……余りにも危険ではありませんか?」


「ああ、君だから話したんだよ、ステパン君。君とは海軍時代からの付き合いだからな。それに猊下の進める方針に関しては、我々は疑問を持たないように命令を必ず遂行出来るように全力は尽くしている積りだ。ただ、今回ばかりはどうにもどう交渉を進めて良いやら感触が掴めなくてね。」


「成程……ですがツェザリ長官、発言は十分にお気をつけ下さい。ここ最近、どうにも理解不能な出来事が余りにも多いのです。マルギタ艦隊のマスラエフ少将の件は既にお聞きしているかとは思いますが、どうも最近我が連合軍には不可解な出来事が発生しています。あのマスラエフ少将も直前まで不審な素振りは全く無かったにも関わらず、突然の命令違反ですから。」


「うむ、その件に関しては既に猊下も不審に感じている。いずれ明らかになるだろうが、マキシミリアノの親衛軍を動員して調査を行っている様だ。まぁ、それは専門の部署に任せていれば良いのだが、言うなれば今回の交渉に関する人員の選抜もその絡みなのだよ。それが君を同席させる理由の一つでもあるのだ。」


「ああ、それで私に同席せよと……そういう事なら納得です。」


「話が逸れたが元に戻そう。今回の我々の交渉の目的は、ニッポンの真意が奈辺にあるのか。そしてそれは我々が呑める条件なのかどうか。最後に、この交渉を最大限に長引かせる事、の三点なのだ。恐らくはニッポン側も一度の交渉で全てを決めるつもりではあるまい。我々ヴァルネク連合としてはニッポンにはこの戦争に干渉して欲しく無い。可能であれば、我々の陣営について貰いたいのが正直な所ではあるが、同盟側に付かれると途方も無く厄介な存在となる。となれば戦争が終わるまでは兎も角もニッポンを遠ざけておいた方が良いという猊下の判断だ。了解したかな、ステパン君?」


「了解致しました、ツェザリ長官。その方針で今回以降は交渉するという事ですね。つまりは戦争終了する迄はニッポンとの交渉を長引かせ、決められる事も決めずにだらだらと長引かせる、と。」


「そうだ、ステパン君。君にはこの交渉の最後まで付き合って貰うからな。」


「あ、それなんですが……もし私がニッポンとの交渉に今後帯同する事となった場合、教化第二艦隊の指揮官は?」


「聞いていなかったのか、ステパン君。ジグムント大佐が二階級特進の上で教化第二艦隊司令となる予定だ。」


「……な、なんですと?」


ステパン中将は戦艦オルシュテインでのジグムント大佐との会話を思い出した上で猛烈に不安な気持ちが沸き上がり、その後にツェザリ長官との雑談が全く頭に入って来なくなった。

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