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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_46.ロドーニア外交交渉①

スヴェレは外交使節歓迎用の建物に日本からの一行を案内がてら、嵐の海西方で行われたであろう件についてひゅうが艦長の寺岡一佐に尋ねてみたが、寺岡一佐は柊と山本の方をちらりと向いた後で曖昧な笑顔で答えた。


「どうやらロドーニアの方々もあの海域での出来事で詳細を知りたい様ですね。後程、正式な形で柊の方から状況の説明を行う予定です。資料も用意しておりますので、少しお待ち頂けますか?」


「なるほど、了解致しました。楽しみにお待ちしています。」


「それよりも我々がここロドーニアに来た件は、両国の国交に関する事でして…」


「ああ、それは勿論ですよ、ヤマモトさん。オームスン局長は我々ロドーニアの外交関係の長です。今日は双方にとって実り多い日になる事を期待しています。」


「期待に副える結果となるかどうかは、これからの話合いでしょうね。ともあれ再び元気で再開出来たのは喜ばしい事ですよ、スヴェレさん。」


面識のあるスヴェレは楽しそうな雰囲気で、やってきた日本の一行を歓待していた。

だが、オームスンはこの正体不明の国家日本に対して、無邪気なスヴェレのようには対応出来ない。そもそも日本が何を考え、どんな方向での付き合いを指向しているか、そしてそれは我がロドーニアにとって損か得か、我々の将来にとって日本がどのような役割をするのか、皆目想像が出来ていないのだ。それが故に、この正式な場にてロドーニアと日本の関係をどの程度まで築き上げていけるのか。それとも双方に何か譲れない何かが存在する可能性もある。直ぐには決められない。それに日本が国交を樹立する為の条件の中で、事前の話では問題となる事がある。それは現在行われているラヴェンシア大陸の戦争の件だ。我々はこの戦争の当事国となっている事から、日本国政府がロドーニアとの外交を結ぶ事に難色を示す可能性がある、ともスヴェレからは聞いている。だが、当のスヴェレはその日本国の外交団に対して燥ぎまくっている有様なのだ……


そして外交交渉が始まったが、まずは当の嵐の海の件から話は始まった。


「まず、本来の外交交渉に入る前にお知らせしなければならない事があります。それは先だって行われた嵐の海西方海域で行われた、我が国の海上自衛隊第3護衛隊への一方的なマルギタ国海軍からの攻撃の一件です。こちらの資料をご覧ください。」


「おお、あの件ですな。やはり、マルギタ海軍だったのか……」


「その前に一点お伺いしたい事があります。マルギタ国を含むヴァルネク連合国及びロドーニア、または同盟諸国は何か共通の紛争解決に関する国際条約や、それに類する物はありますか?」


「国際条約ですか? ……いえ、個別に当事者国同士や友好国同士での条約はありますが……もちろん当該条約の締結国以外である第三国を拘束するような物はありません。」


「それでは、何か紛争や国家の対立に関する国際慣習法的な物はありますか?」


「過去ありましたが形骸化しています。そしてそれを均一に適用される事が担保される環境にありません。結果として法規の解釈や適用の相違が表面化した事により、一度結んだ筈の規約や条約が一方的にどちらかに力によって捻じ伏せられ破棄される事が幾度もあった結果、どの国もそれらの全ての国を縛るかもしれない法的な物を軽視する傾向にあります。」


「ああ、なるほど。つまりは力ある国が一方的に非人道的な行動を行ったとしても、それを裁くべき場が存在していない訳ですか。なるほど……だとすると、やはり我々が行った方法も強ち悪手では無かった訳だ。」


「……と、申しますと?」


「話を戻します。我々は我々の法に基づいて正体不明だったマルギタ国艦隊に十分な警告を与えた上で、攻撃を続けるマルギタ国艦隊と交戦し、これを殲滅しました。果たしてこの行為が、当時国であるマルギタ艦隊を含む何等かの条約か何かに抵触する可能性があるかどうかを確認したかったのです。」


「ああ、なるほど。一応安心して頂きたいのですが、一方的に攻撃された場合は、逆にこれを攻撃してもそもそも罪にはなりませんし、国家間で問題になるのは当事国同士のみでしょう、一般的には。ただ、彼らはヴァルネクを中核とした連合国となっておりますので、ヴァルネク側がどういった判断をするのかは分かりません。」


「そうですか。いえ、一応ヴァルネクの艦隊も居りましてね。その艦隊司令官と話合った上で、数日後に中立であるテネファという国で外交交渉を行う予定なのです。ですが、その前に我々の外交に関する条件を出してましてね。」


「え、ヴァルネクと?! そ、それは一体どういう内容ですか? あ、すいません。教えられる訳も無いですよね。」


「構いませんよ。そもそも我々はヴァルネク連合に対しては、若干危険視している事は教えても構わないでしょう。一応、我々は政府から障害となるヴァルネク関係からの攻撃はこれを一切排除せよ、とも命令を受けてましてね。その上で、彼らヴァルネクの司令官に対して、かなり無茶な要求を出しています。」


「……一体どんな条件を?」


「1、戦争前の国境に軍隊を戻す。2、占領した領土の返還。3、被害の弁済。そして現在行われている連合と同盟間で行われている戦争を即座に終結させる事。その上で、改めて外交交渉に双方が入る条件が整う、と提示しました。」


「馬鹿な! そんな条件をヴァルネクが呑む訳が無い。第一、それを強制可能な力なんてどこの世界にも無い! あ……」


「そうなんですよね。それで先程国際的な法が存在するか否かを確認したのですが、どうやらそういった物が存在する訳ではないようで、それならば次に国家を拘束可能な物は何か、という話になりますよね。」


「……貴国ニッポンが持つ武力が、様々な事を担保する事になるでしょうね。」


「勿論我々はこういった力の行使が良い物では無い事を知っています。そう、可能であれば使用したくは無いのです。ですが、現状で貴国が取り巻く環境はそういう事を許す環境には無い。そして、彼のヴァルネク連合が持つ力は、ロドーニアを飛び越えヴォートランにまで及ぶ可能性も出てきた訳で。となると日本としては、まだ芽が小さいうちに脅威は取り除きたい。」


「ヴォートラン王国に? 彼らはそこまで侵略の手を伸ばそうと!?」


「あくまでも最悪の想定ですが。彼らもまた、嵐の海という障壁の存在が無くなった事によって東方に手を伸ばす事の可能性に気が付いています。そして現状で、戦況はヴァルネク連合有利のまま進展している様に見えます。そこで、我々がこの戦争に対して参戦せずに、最大限効果があるだろう方法で彼らヴァルネクと接触した際に、上記の条件を提示してみた訳です。これで戦争が停止可能であるならば、最もコストが掛からない方法で。」


「お互いの言葉だけで問題が収束するなら、確かにコストはかからないですよね……」


「ええ、ですが恐らくは失敗した可能性が高い物と思います。で、ここからが本題なのですが、我が日本は戦争中の国との国交は結べないだろう事はスヴェレさんから伺っているかとは思います。それに、もし我が国とロドーニアが仮に国交を結んだとしても、集団安全保障条約的な何かを結ばないと軍事的な行動は行えません。」


「え、でもそれなら、その集団安全保障条約を結べば良いのでは?」


「ええ、ですからまず国交を結ぶ事が戦争当事国相手には敷居が高いんですよ、国内事情的に。集団安全保障条約に関しても、国際紛争を解決する手段として戦争や武力の行使に訴える事は憲法上認められておりませんし。マルギタ艦隊なり何なりと前回戦闘を行った件に関しては、我々に対して攻撃を仕掛けてきたが故です。ですが、戦争となる事や集団安全保障が要求されるような戦争当事国との国交は我が国の国内事情として許されない可能性が高い。」


「……そ、それは……そうなると……いや、それでは……我々ロドーニアは……」


スヴェレは明らかに落胆した顔でオースムンの方を見ていたが、オースムンは彼らが言う法律に基づいた行動をしている事に好感を持っていた。なるほど、彼らは法律に縛られた国であるようだ。とするならば、その法律が定める事が余りに異常ではない限りは、どこよりも全うな国家でありそうだ。と、するならば彼らとの協議もまた常識から外れない範囲で何等かの妥協を引き出せるに違いない。何せ、彼らが言う様にヴォートランの次は、恐らくは日本が目的となる筈だ。であるならば、彼らの国内事情が何にせよ、彼ら自身が何も手を打たなければ危険となる状況を、手をこまねいて放置するのは国の指導者がやるべき事ではない。


「なるほど、ニッポン国が考えている方向性と現在の状況は理解しました。ですが、この状況を放置し続けるのも相当に悪い未来の予測しか見えてこない筈だ。貴国ニッポンが我々と外交を結びたくとも、既に我等が滅び去った後では何も得る物は無いでしょう。それに、彼らヴァルネク連合がこの戦争で行っている事は、人を魔導結晶石へと変え果て資源化をしている。既に最初に占領された国々は、石に変えられ抗議の声すら上げる事も出来ない状況だ。このままでは何れ我々も同様の未来が待っている。」


「そこなんですよね。そこで……」


柊は会議テーブルにぐっと身を乗り出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 各国が外交においてきちんと相手を疑い、きちんと相手の説明を聞き、きちんと情報を咀嚼理解して、きちんと理解してる範囲でお互いの立場から譲歩を引き出そうとする状況っていいで…
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