1_45.ロドーリア、日本との外交交渉開始
嵐の海西方でのヴァルネク連合艦隊との接触後、日本の海上自衛隊第14護衛隊は舞鶴へと戻っていったが、第3護衛隊の護衛艦ひゅうがに乗り込んでいた外交官山本がロドーニアの外交官スヴェレからの紹介で、ロドーニア第一外務局局長オースムンとの会談を行う手筈になっていた事からロドーニアへと向かっていた。ロドーニアの対外的な港は東にトーン軍港、西にナムソス港がある。だが、既にトーン軍港は民間地域も含めてヴァルネクからの空襲により壊滅し、未だ復旧していない事からナムソスの港へ向かう様に案内されていた。
そしてロドーニアのナムソス港には、既にオースムンとスヴェレが日本からの艦隊を待っていた。
既に嵐の海西方域での衝突自体は魔導探知していたが、日本側の情報自体は一切分からなかった。探知していた内容ではマルギタ艦と思われる高速の艦隊が消滅する様を確認していた。
「第一外務局長、そろそろニッポンの船が到着する事ですよ!」
「スヴェレ君、私は君が言うニッポンの話を全て鵜呑みにした訳ではない。だが、本当にヴァルネクの艦隊を沈めたのはニッポンの船なのか?」
「彼らニッポンの船は我々の持つ魔導探知では探知不能なのです。そして明らかに嵐の海西方で消滅した艦隊はヴァルネク陣営に属する者達でした。彼らはあの海域で何者かと何等かの戦闘を行った後に、消滅した。こういう芸当が出来るのはニッポンしかありませんよ。」
「君は随分とニッポンに肩入れしている様だが……まぁ、実際に彼らの船を目の当たりにするのは私も今回が初めてだ。君が言う程の国であるならば、そして我々の味方側についてくれるならば、心強いのだがね。何れにせよ彼らから本当の事が聞けるのだろうさ。」
「ええ、恐らくは。ただ魔導科学技術団のエーブレが言うには、彼らの技術体系が我々と違い過ぎて、一体どういった理屈で攻撃しているのかさっぱり理屈が分からない、との事なんです。」
「それは彼らと共同で戦う事となった場合、我々の攻撃能力にニッポンの正体不明の技術が寄与する余地が無いという事かな?」
「それさえ不明だと。ただ、一点分かる事は魔導結晶石を一切使用していないという事だけです。それでも彼らの戦闘能力は我々と隔絶しています。その彼らがこちらの陣営に居るならば、少なくとも海戦においては全く敵無しでしょう!」
オームスンは興奮しながら語り続けるスヴェレを冷めた目で眺めた。
オームスンとしては、ヴォートランと友好を築きつつあるというニッポンに胡散臭い気持ちを払拭出来なかった。そもそも魔導機関を持たぬヴォートランの科学技術は我々の目から見ても低い。スヴェレが提出した報告書を精査したが、蒸気機関という非常に出力効率の低いシステムを使い、その機関も相当に大きい事から艦の殆どを占め、その為に攻撃能力の低い爆薬を使用した弾を飛ばす船が最新鋭と聞く。だが、スヴェレとエーブレが出したニッポンの科学技術に関する報告書は、その蒸気機関の延長線上に有るらしいのでは、との想定程度しか分からない。内燃機関と称する動力装置を使い、それらが艦を動かし、航空機と呼ぶ浮遊機を飛ばす。信じられないのは、それらの航空機が音速を超える恐ろしい速度を出すと言っている事だ。そして彼らは、誘導弾と称する精密に攻撃する手段があり、スヴェレが言うには必ず狙った相手に命中するのだ、という。スヴェレの報告書では、トーン軍港を襲ったヴァルネクのジグムント艦隊が、その攻撃方法により何隻も沈められた事が明記されているが、正直自分の目で見るまでは信じられない内容なのだ。だが……
「オームスン局長! 聞いてますか! 来ましたよ、彼らが。ニッポンの船が来ましたよ!」
「お? ああ、あれか。……大きいな。相当遠いだろうに、ここから良く見えるとはな。あの一隻は何故甲板上に何もないのだ?」
ナムソスの港には、浮遊機に先導された第3護衛隊旗艦ひゅうが、そして護衛艦みょうこう、あたご、ふゆづきの4隻が入港してきた。入港した状態で、オームスンとスヴェレは間近に日本の船を観察したが、どの船も小さな砲塔が一つだけで、あとは何の意味を持つ装備なのかが皆目分からない。一人スヴェレだけはああだこうだと、日本の船の装備を解説してくるが、オースムンにはさっぱり頭に入って来ない。そのうち、接岸したニッポンの戦闘艦側面が開き、その中から何人もの兵達が出てきてタラップを港に降ろし始めた。
「なんだ、あの機構は? 接岸した場所に自らタラップを降ろしているぞ? しかも船の側面が開くとは、あれは艦の防御的に脆弱にならんのか?」
「あの程度で驚いていたら身が持ちませんよ、オームスン局長。」
「いや、まあいい。早速彼らの代表と会いたい。どの船がそうなのか。」
「平たい船が旗艦と聞いてます。あの船の所に行きましょう。」
こうしてオームスンとスヴェレは護衛艦ひゅうがの接岸した所にやってきた。既に港ではタラップが降ろされ、中からひゅうが艦長の寺岡一佐、そして外務省の山本と柊が待っていた。そこに駆け付け、オームスンとスヴェレは挨拶を交わした。
「ニッポンの方々ですね? 私はロドーニア第一外務局局長のオームスンと申します。宜しくお願い致します。」
「私は、日本国海上自衛隊 第3護衛隊所属護衛艦ひゅうが艦長の寺岡一等海佐と申します。こちらは、日本国政府の柊、そして外務省の山本です。どうぞ宜しくお願い致します。」
互いに挨拶を交わした5人はナムソス市内に用意された外交施設に向かう為、ロドーニアの浮遊機に乗って。ナムソス港を後にした。
・・・
ステパン中将率いるヴァルネク連合艦隊は、嵐の海海域を後にしてオクニツアへと戻っていった。その後の通信ではボルダーチュク法王からの直々の命令で、オクニツアにて外交部長官ツェザリと合流し、再度中立国テネファへ向かえ、との事だった。そしてその際には一度連合を組んだ艦隊から、ステパン中将が乗艦する戦艦オルシュテインと駆逐艦を2隻程度で向かい、第二教化艦隊の残りはオクニツアにて補給後待機という事だった。
これでステパン中将の仕事は一旦は終了となる。面倒な外交交渉部分はツェザリ長官が行ってくれる手筈だ。だが、そのオクニツアまでの航海の中で、ジグムント大佐達から聞き取った日本に対するより詳細な情報は恐るべき内容だった。ジグムント大佐の日本での滞在は非常に短く、そして限られた地域だけの見学、しかも軍事基地のみであった事から、勢い情報は軍事面に限られていた。事前にはレクチャーとしての映像を見せられていたが、それすらも軍事に偏った内容だったという事だ。
そしてジグムント大佐の語る日本の軍事力に関しては、嵐の海西方域で起きたマルギタ海軍砲艦隊撃滅も頷けるような内容であった。また、海軍よりも脅威と感じた例の轟音を放つ航空機という物の存在は、ジグムント大佐の説明により、より現実的な脅威と判断出来る内容だった。彼が言っていた内容が欺瞞情報では無いと前提した場合、ヴァルネク連合は日本に対して海と空では到底勝ち目は無い。こんな存在が、もし仮に同盟軍に組した場合を考えるとステパン中将は暗澹たる気持ちとなった。
「なるほど……猊下が敵対するなと言った理由がよく分かる。これは我々がニッポンと敵対した場合、この戦争の行方も分からんな……」
「何を仰いますか、ステパン閣下。ニッポンはきっと我々と共に、」
「! もう何も言うなジグムント。頼むから黙っていてくれ。」
うんざりした表情でステパン中将はジグムントの部屋を後にした。
この馬鹿は、未だニッポンとの将来を夢見ている。だが、彼らのあの対応からそんな未来が訪れない事は火をみるより明らかだ。何より、ニッポンが寄越したヒイラギとかいうニッポン国政府関係者は、今迄聞いた事も無い条件を我々ヴァルネクに提示してきたのだ。まるで我々が彼らの属国か植民地であるかのような条件だ。あの内容から彼らの敵意を感じない訳が無い。彼らは彼らの目的があるのだろうが、その目的は我々ヴァルネクとは隔絶した内容であろう事は確実だ。一体彼らとどう渡り合えば良いのか。ステパン中将は、渡り合う直接の担当であるツェザリ長官に同情した。
そしてヴァルネク連合の艦隊はオクニツアにて艦隊を解散し、各々の寄港地に帰っていった。
戦艦オルシュテインは再びの出港に備え、整備と補給を行っていた。第二教化艦隊はオクニツアで待機となっていた為、殆どの船員がオクニツアへ上陸し、ステパン中将もツェザリ長官と会う為にオクニツアへと上陸した。
ジグムント大佐は、ステパン中将の嫌悪に近い対応に晒されながらも、その理由が分からずにオクニツアへと上陸した。彼には法王直々に報告しなければならない要請が出ていた事から、オクニツアのヴァルネク軍浮遊基地に向かった。直ぐに法王の元に向かう為に聖都に向かう浮遊機が用意されていたのだ。その途中でジグムント大佐は、側近の大尉から何かを話しかけられたのだ。
だがジグムント大佐はその内容を、後に幾ら思い出そうとしても思い出せなかった。
ここ1か月でやる気がどどーんと無くなる原因が取り除かれたので、今日から再開な勢いです。
それにしても人のリソースやら書く気やらを削りに削った挙句に、無駄な時間を過ごしたと捨て台詞に仰るというのは、こちらの事を一切考えない無謬感やら遥か上段からの物言いに、或る意味人間って素晴らしいなぁと改めて深く感じます。