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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_42.ボルダーチュクへの報告

ヴァルネク教化第二艦隊司令ステパン中将の顔面は蒼白だった。

命令違反を犯し、突撃していったマルギタ艦隊は僅か2時間も掛からずにステパン中将の目前で全滅したのだ。しかも日本の艦隊は僅か数艦しか直接の戦闘に参加しておらず、しかも全く損害を受けていない事実が、彼我の戦闘能力の差を如実に表していた。ステパン中将は全く発する言葉が出なかったが、この静寂の中で魔導探査機操作員の静かな声が響いた。


「マルギタ特務派遣艦隊巡洋艦ビストリッツァ、完全に沈黙しました。ビストリッツァは総員退艦を発令した模様。尚、生き残った砲艦は2隻、どちらも航行不能のまま当該戦域を漂っています。」


「なんという……こ、これ程迄なのか……」


誰に語るとも無くステパン中将は独り言を言ったが、それを耳聡く内調の柊は聞き逃さなかった。


「そうですね。我々の能力の一端は先程見せました映像の通りではありますが、実際にご覧になって頂いた方がご理解は早いでしょう。あの艦隊は大変残念な事になりましたが、どこと言いましたっけ?……ああ、マルギタ国の海軍ですか。我々は我々に対して攻撃をしてきた者に対しては全く容赦しないのですが、これでも相当に加減していますよ。対艦弾道弾を使ってませんし。」


その時、どこからともなく轟音が近づいてきた。

全く姿は見えないが、何か強力な音を発する物がこちらに近づいてきているのをステパン中将は理解した。


「それと、この辺りの海域には我が方の対艦攻撃能力を持つ航空機が数機程上空を待機しています。もし仮に貴方方ヴァルネクの艦隊が総力を上げて我々に危害を加えようとした瞬間に、貴方方の戦闘能力を持つ艦艇は全て数分のうちに撃沈する事になるでしょうね。」


「そ、それはこの音の主を意味しているのか?」


「そうですね。先程の映像にもありました大魔導士の塔を殲滅した際に使用した航空機ですが、あれが数機程居ます。我が方の護衛隊と合わせて、15分以内に貴方方の艦隊は全て海の藻屑となるでしょう。私には政府からその許可が与えられています。」


先程の映像をステパン中将は思い出していた。

見慣れない鋭角の浮遊機が連続して放つ大きな筒は、大魔導士が住むという塔に当たっては大爆発を繰り返していた。しかもその浮遊機の速度たるや、我々が持つ如何なる浮遊機が決して達する事の出来ない速度で飛翔していたのだ。あれら日本の浮遊機が我々の艦艇を、あの筒で……対艦誘導弾、といったか。あれで攻撃されよう物なら、我々は一体どのような抵抗が出来るだろうか? ……無理だ。


「……ヒ、ヒイラギさん。繰り返し言わさせて頂きたい。我々ヴァルネクは貴国ニッポンに敵対する意志は無い。また、我々の艦隊はニッポンを攻撃する意志も毛頭無い。それはご理解して頂きたい。あのマルギタ国の艦隊は我々の与り知らぬ理由で勝手に攻撃を行ったのだ。その責を我々に問うのは当然であろうし、我々としても謝罪はする。だが、」


「貴方方の艦隊の一部が我々を攻撃しましたよね? そのマルギタ艦隊司令が錯乱しようが、何か別の理由があろうが。」


「それは勿論なのだが……」

「ステパン中将!! 通信が入っております。ボルダーチュク猊下より緊急入電!」


「なんだと! ああ、ヒイラギさん済まない。少々離席の許可を頂きたい。」


「ええ、ごゆっくりどうぞ。」


ステパン中将が汗びっしょりになりながら貴賓室を後にして法王ボルダーチュクとの通信に向かった。再び柊とひゅうが艦長寺岡一佐、そして外務省の山本が残された。そして外務省の山本が柊に向かって話始めた。


「柊さん。取り合えず我々の目的の第一段階は果たした。ですが、他の艦はどうするのです? どこら辺りを落としどころにする御積りですか?」


「そうですね、接触は成功した。ヴァルネク側から攻撃させる事も成功した。攻撃した艦を全て撃沈する事にも成功した。だが、あのマルギタ艦隊以外の戦闘艦は全て残っている現状。流石にヴァルネク側には既に戦意も敵意も存在しない状況で、こちらから更に攻撃をする事は余りに非道でしょうね。」


「そうなんですよ。これで我々の意図が正しく伝わるかどうか……」


「恐らく、向こうの法王猊下からの通信で、この現状はヴァルネクにはキッチリ伝わるでしょう。その上で彼らが敵意を向けるか、否か。これは予想なんですが、彼らが我々の能力がどこまで続くのかが判断出来ない状況では敵対という選択肢は絶対に取れないと思います。逆に、その能力を知ってしまったのなら恐らくは敵対とい選択肢は現実の物となるでしょうね。ですから我々の能力と戦力、特に継戦能力に関しては絶対に悟られてはいけません。」


「数を頼んで押して来る、という事ですか……」


「ええ、恐らく。彼らには無い能力を持ち、強力な兵器を持ち、継戦能力の欠ける国。恰好の餌食です。何せ、最初の強力な攻撃を凌ぎ切れば、後に残るのは技術の山が無防備に転がっている土地ですから。」


「……確かに。」


「だからこそですよ。我々日本の覇権主義国家に対する姿勢は、高度な能力を持つ正体不明の国として振る舞わなければならないんですよ。何せ価値観が全く違う国が唯一理解し合えるのは、戦闘能力です。これはお互いがその能力を結果で推し量れますからね。」


「なんとか元の世界に戻りたい物ですね、それは……」


「元の世界も似たような物なんですけどね。いずれにせよ現在我々が持つ民主主義的な価値観は、彼ら覇権主義国家群には微塵も価値を見出さないでしょう。そんな国々が近場でどんどん侵略を繰り返しているのなら、何れ自分の所に向かって来るのも自明の理です。それ故に、我々は彼らが唯一理解出来る言語を以て、日本には手を出せない、と彼らに教育する事が必須です。ですが、我々にもリソースが限られている。が故に、最大限の効果を得る為に最大限に有効な武器を使います。恫喝の台詞でも、大口径の砲でも。」


「いや、それは理解していますが……余り外交的にはそぐわない言葉の羅列に慣れてなくてですね。」


「ははっ、何れ慣れますよ。これが最初ではあっても最後では無いでしょうし。」


奇しくも柊の言った言葉を外交官の山本は別の場所で実感する事になるのである。


・・・


良いタイミングで法王からの通信が入った物だ。

あの場ではどう言い繕っても、我々の非は否定出来ない。あの圧倒的な能力を持つ軍隊に対抗出来る力は我々には無い。何せ、魔導探知出来ないという事は照準が合せられないという事だ。向こうは百発百中で当てて来るのに、こちらは盲撃ちだ。この時点で圧倒的不利な状況であるのに、彼らは更に強力な対艦誘導弾という、冗談のような武器まで持っている。しかも同じ兵器を浮遊機が積んでいるのだ。これはもう俺の権限を超えた状況だ。


「猊下、ステパンです。報告が遅くなりまして申し訳ございません。現在、ニッポンの外交官と接触をしておりますが……」


「おお、それではニッポンとの接触に成功したのだな? ジグムント大佐の生存報告以降の連絡が無かった故に、一体何事が起きているかと気を揉んでいたぞ、ステパン中将。」


「申し訳ありませぬ。ただ……」


「ただ、なんだ? 申してみよ。」


「マルギタ特務艦隊司令マスラエフ少将がニッポンの艦隊を目視して以降、命令違反でニッポンの艦隊に攻撃を仕掛けました。」


「なんだと!? 一体どうしてだ。何故、そんな事を、」


ボルダーチュクはそこまで言った後で思い出した。ジグムント大佐率いる派遣艦隊でも同様の出来事が起きていた事を。そしてかねてから疑念に思っていた、ヴァルネク連合内に潜む敵対者が居る疑念を確信した。


「良い、それは後の話題とする。ともかくマルギタ艦隊は一体どうなった?」


「僅か二時間程でマルギタ特務艦隊12隻の戦闘艦隊全てが撃沈乃至は行動不能となりました。ニッポンの艦隊は八隻中三隻のみ直接戦闘に参加し、全く無傷です。尚、我が艦隊上空には超高速で飛ぶニッポンの対艦装備の浮遊機が跋扈しております。その速度たるや、我が軍の最も早い浮遊機の2~3倍の速度で飛翔しております。猊下、ニッポンは我々に要求してまいりました。それも相当に強硬な内容です。」


「聞こう。どういった要求だ?」


「ニッポン国政府関係者のヒイラギという者と接触した際に、語った事をそのまま伝えます。」


こうしてステパン中将は柊が要求した内容をボルダーチュクにそのまま伝え、それを聞いたボルダーチュクは言葉を失った。


「一つ聞きたい、ステパン。ニッポンは我々との戦争を望んでいるのか?」


「いえ、国と国との付き合いとしては友好的に付き合いたいと申しておりました。ですが、侵略的な行動を行えばニッポンは自衛権を行使する、と。」


「自衛権だと!? 自衛権を遥かに逸脱した要求ではないか、これは!! そもそもその話が本当であればロドーニアと外交交渉中であるという事は友好国ですら無い! それに現在我々が行っているラヴェンシア大陸統一は、奴等ニッポンにとっては全く微塵も関係の無い出来事では無いか!! それらに国々を返却して国土を戦争前に戻せだと!! 内政干渉もここまで要求するのは、最早属国に対する扱いではないか!! 一体何の権利を以て我々にそんな要求をする!!」


「猊下……彼らにはその実力があります。要求を実行出来る能力があるのです。」


「一体どういう事だ。詳しく話せ、ステパン。」


こうしてステパン中将は、ジグムント大佐から聞いた日本の話、そして柊から見せられた日本の紹介ビデオの話、更には目の前で起きたマルギタ特務艦隊が全滅する様をボルダーチェク法王に話始めた。


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