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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_39.ステパン中将の苦悩

ヴァルネク教化第二艦隊司令官ステパン中将は、戦艦オルシュテインの貴賓室で待つ日本の将校達の元に急いだ。ジグムント大佐他10名は日本の情報を他でペラペラ喋られないように、別室待機という名目で一室に監禁していた。貴賓室に入ると3人の日本人が立ったまま待っていたので、直ぐに改めて自分の立場を表明した後に着席を促した。


「小官はヴァルネク教化第二艦隊を預かる中将のステパンと申す。此度は我が艦隊の将校をお救い頂き感謝したい。先ずは各々方にはご着席頂きたいのだが宜しいだろうか?」


「丁寧なご挨拶感謝します。我々は偶発的な事故から発生した貴国艦隊の中からジグムント大佐以下10名の救助を行い、日本国にて保護をしておりました。貴国の艦隊が当該海域に来た事により、我々としても貴艦隊と接触した後にヴァルネク軍人の方々をお返ししたいと思いまして推参致しました。次いでと言っては何ですが、我々が貴国ヴァルネクとの国交を取り持つ可能性についての打診も行いたく、我が国の外務省からも1名派遣して参りました。」

「貴国ヴァルネクの担当を拝命致した日本国外務省の山本と申します。以後、宜しくお願い致します。」


ステパン中将は、ジグムント大佐の言葉を100%信じた訳では無かった。だが、彼が語る言葉の半分の実力を持っていたとしても日本は恐るべき戦闘能力を持っているだろう事は想像に難くない。その彼らが我々と国交を持った場合、どういう事になるだろうか。自分自身がジグムントから言われた時に思ったように、彼らの方が強力な軍隊と組織を持ち技術において優勢であるなら、劣った連中の下につくような愚かな国は無いだろう。平たく言うなら自分達ヴァルネクが日本と友好した暁には、必ずや我々が何等かの形で優勢な部分を失い、そして滅ぼされる事は必至だ。つまりは現在のヴァルネク連合諸国に対して、将来的にヴァルネク自身が行おうとしていた事を日本が我々に対してやるだろう事なのだ。ここは、法王がなんと言おうが日本との友好関係は表面上の物のみに留めるべきであり、更には敵対せずに遠巻きに置かなくてはならない。そこで彼は一部、嘘を混ぜながら返答した。


「宜しくお願いしたく思う。だが私は一介の軍人に過ぎず、外交的な話し合いは別途専門の機関の者と話合わねばならないのだ。今回は彼らジグムント大佐の件に関してのみの話し合いとしたく思うが如何だろうか?」「


ステパン中将は日本との外交関係を結ぶ関連の全てを法王ボルダーチュクから任されている。つまりは外交的な話し合いに関しても、ステパン自身が日本と交渉を行う権限を持っているにも関わらず、日本人に対しては権限を持っていない風に装って返答した。だが、政府関係者と称する柊という日本人が、その後を仕切り始めた。


「ええ、軍人でしたらそういう事もあるでしょう、ステパン中将。我々は答えを急いでは居りません。一応、もしもの可能性を考えて外交職員を帯同させただけですので、もし外交的な交渉が出来ないのであれば構わないですよ。ところで、恐らく我々の軍備に関してはジグムント大佐から軽くお話を聞いているかとは思いますが、我が国の紹介をする映像を持参しましたのでご覧いただけますか?」


こうして柊は手持ちの荷物の中からノートPCを取り出し、ステパン中将に特に軍事関連の物を中心に編集した、対ヴァルネク用日本国紹介映像を見せた。その映像の最後には、嵐の海中央の骨の島で行われた死の大魔導士に対する、空対艦誘導弾と艦対艦弾道弾、そして500lb爆弾での波状攻撃の様子が映っており、その映像の最後で大魔導士が死んだ後に辺り一面を吹き荒れていた嵐が瞬時に消え去る映像を見せてきた。勿論、この映像は編集によって都合よく自衛隊が倒した形にしていたが、大魔導士消滅と共に晴れ渡る嵐の海領域の映像を見たステパン中将は絶句した。


(まさか……ジグムントが言った事は本当だったのか……確かに500年間晴れた事の無い嵐の海領域が晴れたのは確かだ。つまりは嵐は、あの大魔導士が引き起こしていた。それをニッポンが大魔導士を殲滅する事により、その魔法が解消されたという事だろう。あの大魔導士さえも滅ぼす事が可能なこの国が、我々の陣営に引き入れよう物なら、彼らの都合によって我々がめちゃめちゃになる可能性の方が高いだろう。とするならば、彼ら自身を我々の陣営に引き入れるならば、何等かの足枷が必要だ。それが出来ないのなら、前にも考えた通り、遠ざけて敵対しない道を選ぶしか無い。だが、それを法王猊下は理解して頂けるだろうか……)


「……」


「我々がどういった能力を持つかの一部はジグムント大佐には実際にご覧頂いた訳ですが、ステパン閣下にもその知識を共有して頂きたく、我々の能力の一端をこの映像によってご覧頂いた訳です。ご理解いただいたと前提した上で申し上げたい事が数点あります。まずは我が国は個人の信仰の自由を我が国が定める法により保障しています。そして、我が国は一切の理由を問わず、侵略戦争への加担は行いません。我が国は専守防衛であり、我が国が他国に攻め入る事はありません。然し乍ら、我々自身の存亡の危機である状況に陥った場合は、その限りではありません。」


……これは……我等ヴァルネクに対する牽制の内容だ! 自国の国力を見せた上で、我が国に対し圧力をかけようとしている! 自分よりも力が劣る連中に対し、自らが傘下になるか、無害になれば何もしないで済むだろう。これ程に力の差がある事が見せつけられた場合、我々に打つべき手が無いのは明白だ。…だが何故牽制なのだ? これ程に軍事力があるのであれば、問答無用で押し潰す事も可能だろうに。


「なるほど……つまりニッポン国は自らの危機に応じては都度反撃を行うが、放置しておけば何もしないという国であるという事ですかな? そうであるならば、我々ヴァルネクとしてもニッポン国へは近寄らぬようにしたい所だが。」


「そうして頂きたいのは山々なんですがね、ステパン中将。貴国は大陸を統一した後にどこに向かいますか?」


「……それはどういう事かな?」


「ラヴェンシア大陸東方にはロドーニャ王国があります。既にこのロドーニャ王国とも交戦に入っていると聞いています。そして嵐の海によって交流が断たれていたロドーニア東方にはヴォートラン王国がある。この二国は元々友好国同士なんですよ。」


ステパン中将は、柊が何を言い出すのか概ね理解した。

そうだ、ヴォートラン王国は古に大魔導士による嵐の海によって交流が断たれたが、ロドーニアとの歴史を遡れば両国の仲は悪くない。この嵐の海が無くなれば当然ロドーニアとヴォートランは国交回復に動くだろう。つまり……


「我々日本としては、ヴォートランは既に国交があり友好国であり、そして我が国にとって最恵国待遇の国です。。そして。彼の国に対する攻撃は我が国存亡の事態を引き起こす物と理解しています。そのヴォートランが友好国としているロドーニアが現在、貴国の連合によって攻撃を受けている。正にロドーニアのトーンの港も貴国連合によって焼き払われたと聞いている。」


「待って頂きたい! 我々は貴国ニッポンと構えるつもりは微塵も無い。だが、この戦争において我々はロドーニアの参戦は想定外ではあったが、先に我々に攻撃を行ってきたのはロドーニアだ。そこはご理解頂きたい!」


「いや、ええとですね。正直な話、貴方方がどこで戦おうと攻めようと関心はあんまり無いんですよ。それは好きにして下さい。ただ、日本国とその友好国に対して火の粉をかけるような真似をするならば黙っては居ません。勿論その能力も我々には有ります。試してみますか?」


「一体貴国はどこまでは許容範囲として認識しているんだ……でしょうか?」


「我々ですか? そうですね、元々に引かれていた国境線ですね。そこから1cmも出る事を許容出来ません。それは争いごとの元ですから。ああ、今回の戦いにおいて占領した土地は全て元の国の国民に返却した上で、全ての戦力を元に戻す。そして相手国に与えた被害を弁済するというのが理想です。これ即ち我々が考える貴国連合対同盟の戦いにおける戦争集結の条件です。そうすれば日本国の友好国に対しても安全が確保出来るでしょうから。」


「ば、馬鹿な……そんな条件を我らが呑める訳が無いではないか! まさか、それを口実に戦争を仕掛けようとする腹か!」


「ええと、我々は自ら戦争を仕掛ける事はしませんが、我々の友好国に対して攻撃を仕掛けたならば、それは我が国の自衛権が発動しますよ、という警告です。ついでに言うと、我が国は貴国ヴァルネクが攻撃する前の段階で、ロドーニアとの国交交渉に入っている。これの意味する事はご理解頂けますか?」


なんだと!? ……これはしまったぞ……今の説明で言うなら、ニッポンが我が国への攻撃を正当化出来る手札を既に持っているのではないか! しかもこれは既に相当怒っているのかもしれん。我が国の旧国境まで後退して相手国への戦争被害を保障せよ、など聞いた事も無い交渉条件だ。これはもう俺の手には負えん……


「ニッポンの使者の方々が仰りたい事は理解した。ただ、先程も申し上げた通り、小官には外交権が無い。それ故に貴国の主張を我が国の上層部に届けた上で改めて権限を持つ者を派遣したい。この件について、交渉の窓口は如何なる場所となるのだろうか?」


「そうですね。ロドーニアに外務省の窓口を近々設置します。そこにお願い致します。」


「ロ、ロドーニア王国に、ですか!? いや、他にどこか別の場所はありませんか?」


「ロドーニア王国に、です。他は無いです。」


交戦中のロドーニア王国への日本の交渉窓口の設置。

ここ以外に窓口は設けないと明言した柊の態度を見たステパン中将は、そもそも日本には交渉する気が無いが、もし交渉するならばロドーニアを含む周辺国と停戦した上で改めてロドーニアに、という事なのだと理解した。この内容を法王ボルダーチュクになんと報告すれば良いのか……と思った矢先の出来事だった。


「マルギタ艦隊、当該海域を離脱! 前方40kmに出現したニッポンの艦隊の方向に前進を開始しました!!」


「いったい何が起きている? マスラエフ少将を呼び出せ!!」

今日は休みだった筈だ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 「丁寧なご挨拶感謝します。我々は偶発的な事故から発生した貴国艦隊の中からジグムント大佐以下10名の救助を行い、日本国にて保護をしておりました。貴国の艦隊が当該海域に来た事により、我々としても…
[気になる点] 日本側の要求が筋通ってなくておかしい、極めて自分勝手で独善的すぎる。 弱い国しかいないもんだから増長して帝国主義時代のアメリカ帝国にでも変化したの?そのアメリカ帝国より理不尽だよ? …
[良い点] 更新お疲れ様です。 ヒイラギさんの圧力外交、このくらい強気に出て前線を停滞させないと、あっという間に連合がロドーニアに侵攻して来ちゃいそうだから、実のところ日本側としても結構ギリギリのとこ…
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