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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_03.消え去った嵐の海

中央ロドリア海東方海域周辺を定期的に見回るロドーニア王国の駆逐艦ロムスダールは、今日も近隣に民間船が居ないかどうかを監視しつつ嵐の海のある方向に向かって進んでいた。


魔導結晶石を備えた船は、特異な波を発している。この波を感知する事により相手の位置や結晶石の出力を確認する事が可能な仕組みとなっている。これは魔導結晶石探知機関と呼ばれ、簡単には魔導探知機と呼ばれていた。駆逐艦ロムスダールの探知機には、この辺りの海域で探知機に引っ掛かる船は一隻も居ない。だが、この哨戒任務に出たモンラード大佐の記憶には、過去一度もこの辺りの海域で軍用民間問わず探知された船は一隻も居なかった。それは、この海域の中に居る命を吸い取るバケモノの存在を皆が信じていたからだ。


だがこの日、モンラード大佐は奇妙な事に気が付いた。

いつもなら数時間程の航行後に嵐の海を正面に捉え、その後に嵐の海の海域周辺をなぞる様に探知しつつ帰港するのが通常の任務だった。だが、何時までたっても雷雲が見当たらない。海図を確認すると既に嵐の海の海域東端域に入り込んでいるのだ。つまりどういう事か…?


「航海長、もしや我々は嵐の海の領域に達している筈だよな?」


「はい、現在嵐の海指定領域3km程度内側を航行中です。」


「つまり嵐の海の暴風雨圏内に入っているにも関わらず、嵐が無いという事だな。」


「信じられません。ですが現時点での現在地は嵐の海の影響圏内です。」


「ふーむ……500年間止む事の無かった嵐の海が晴れた、という事か……」


「状況はそうなります。」


「……一旦港に戻る。司令部に送信、中央ロドリア海の嵐晴れたり、我母港に帰還す。」


「了解、送ります。」


何故、突然にあの嵐が止んだのだろう。いや、それよりも例の嵐の中央ロドリアに住まう化け物はどうなったのだ? モンラード大佐は、突然に晴れ上がった中央ロドリア海に広がる青空に不安な気持ちが拭えなかった。だが、予め決められた手順に従い、司令部に嵐が晴れた事を連絡した後に艦を港に向けた。


・・・


「オストルスキ共和国外交官ラドスワフ殿とオースムン外務局局長、入ります。」


「良し。入りたまえ。」


オースムン外務局局長はオストルスキ共和国のラドスワフから現状を聞いた段階で、既に自分がどうこう出来る段階ではなく、より上位の判断を仰ぐ為に国王直属の部署に連絡を行った。その情報は直ぐに国王にまでに連絡が通り、直ぐにラドスワフと会談を行う運びとなった。呼び出された部屋にはロドーニア国王エルリング、そして魔導局局長ゲルハール、軍務局局長ハルワルド、魔法局局長ラグナルの四名が居た。


「久しいなラドスワフ殿。ミハウ閣下は御壮健か?」


「はっ、お陰様を持ちまして。ですが、先だって行われたマゾビエスキ会戦によって我が同盟は相当な被害が出ております。そこで貴国ロドーニア王国に協力を要請したく参上致しました。ここにミハウ閣下の書簡があります。」


「ふむ……ゲルハール、読んでみてくれ。」


「はい……ふむふむ……な、なんと……! この内容は本当なのですか、ラドスワフ殿?!」


「そうです。彼らは人工の魔導結晶石を人間を原料にして作っています。その人工の魔導結晶石を装備したヴァルネクの自走戦闘車両は我が方の火力、出力共に圧倒的で易々と我等の自走戦闘車両を打ち破って行きました。また、浮遊機も我が方よりも高度も速度も火力も高く、全く対抗出来ません。」


「だとすると、我々ロドーニアを頼られてもどうにもならんのではないか?」


「ですが……ロドーニア王国とは魔法の王国。魔導に頼らずとも魔法の力で対抗出来るのではありませんか?」


国王エルリングは困った顔をしながら、魔法局局長ラグナルの方を見た。

ラグナルはラドスワフに向かって話した。


「助けたいのは山々なのですが……まず、我が国は既に魔法から魔導に移っておりまして。魔法も基本的な術式や構築式の手順等を王立魔法院に収めて管理はしているものの、実戦的な魔法士は既に数人しか残っては居ないのです。」


「なんと……そうでしたか……」


ラドスワフはがっくりと肩を落として座り込んだ。

そこに連絡将校が飛び込んできた。


「失礼します! 軍務局局長ハルワルド様、至急の通信が東方哨戒部隊モンラード大佐から入っております!」


「貴様っ、来客中だ。控えろ!」


「はっ…! 大変失礼致しました。通信内容はこれに。それでは失礼します!」


「一体何事だ、ハルワルド? ヴァルネク以上の厄介事でも起きたか?」


「いえ……これは……陛下! 中央ロドリア海の嵐が500年ぶりに晴れた、との事です!」


「なんと……待て、ハルワルド。それはもしや、500年ぶりにヴォートランへの連絡も可能ではないか? 過去の文献では、ヴォートランは海軍が強いと聞いておる。とするならば、ヴォートランへの連絡を回復すると共に援軍も期待出来るかもしれん。まずはヴォートランに使者を送れ、オースムン。」


「確かに。ですが陛下、ヴォートランそのものが今も存在するかどうかは分かりません。然し乍らヴァルネクは現実に存在し、やがては確実にロドーニアを必ず脅かす存在です。今は、ヴァルネク対策に集中するべきかと…」


「そんな事は分かっておるわ、ハルワルド。さて、魔法局局長ラグナルよ。封印されし大規模魔法を使用可能な魔法士は何人居る?」


「ははっ、現在魔法局所属の魔法士は4名、その全員が大規模魔法を発動可能です。ですが…」


「ですが、何だ?」


「問題があります。既に全員が相当に高齢でありまして、後継者も居らず……」


「なるほど……使えて一回程度か。分かった、それはそれで良い。いざという時に使える様にだけはしておけ。それからゲルハールよ、我々の魔導結晶石は確か相当量備蓄しておる筈だ。それを16ヵ国連合に送る手配をせよ。さて、ラドスワフ殿。我々も同盟に協力しようと思う。何れヴァルネクの連中は、ラヴェンシア大陸を制した後はここロドーニアにも押し寄せよう。我々もヴァルネク連合に宣戦布告を行い、同盟の一員となろう。皆も異存無いな?」


「ほ、本当ですか! ああ、ありがとうございます、エルリング国王!」


こうしてロドーニア王国はヴァルネク連合に対抗するべく16ヵ国同盟軍(正確に言うならば既に12ヵ国同盟であるが)に参加した。

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