1_38.教化第二艦隊、日本と接触す
ステパン中将旗下の教化第二艦隊と連合三か国の艦隊総勢140隻は、目標である嵐の海領域に到達しつつあった。艦隊は、嵐の海に生息するであろう化け物を警戒しつつも日本の船を求めて周辺海域を進んでいた。
「ステパン中将、指定海域4に到達しました。」
「良し。周辺で魔導探知に引っ掛かった物はあるか?」
「現在の所ありません。同盟軍及びロドーニャ王国からの動きも有りません。恐らく我々の艦隊規模を見て様子を伺っているのではないかと。」
「そうか……例の嵐の海の化け物はどうか?」
「今の所、魔導反応も気配も感じません。これは若しかすると……」
「若しかすると何だ? 例のバケモンが消え去ったとでも言うのか?」
「いえ、現時点では何とも言えませんが……」
「確証の無い事を言う物ではない。ともあれ現状で判明している事は、我々が探し求めるニッポン国の艦船は未だ見つからんという事だけだ。引き続き警戒にあたれ。」
「申し訳ありません、了解しました。」
「目視観測班より報告! 中央ロドリア海方面より接近する複数の浮遊機あり!! 東方距離35km!」
「ふむ、どこの浮遊機だ? 浮遊機に対して回線開け。呼びかけて所属を明らかにせよ、と。それと、艦隊通信開け。……ステパンだ。全艦隊対空戦闘用意。但し発砲は命令を待て。」
『当艦はヴァルネク連合所属、ヴァルネク教化第二艦隊旗艦オルシュテインである。接近中の浮遊機に告ぐ。所属を明らかにせよ。』
「……応答が無い? 再度呼びかけろ。」
『前方の浮遊機に告ぐ、所属を明らかにせよ。繰り返す。所属を明らかにせよ!』
「依然応答ありません。浮遊機尚接近中、距離凡そ10km、魔導反応ありません!」
「何? ……魔導反応が無いのにこちらに来ているとなるとニッポン国とやらの可能性が高いな。全艦隊、戦闘態勢解除、引き続き警戒態勢を取りつつ待機。」
『ザザッ……こちらヴァル……軍所属が……ジグム……大佐……搭乗……撃つな!……』
「……? 極めて小さい魔導反応確認! あの浮遊機からです! 浮遊機から魔導通信の発信を確認!」
「何だと? ……発信元は何者か?」
「ヴァルネク特務艦隊所属ジグムント大佐と思われます。」
「するとジグムントは生きていたか。だが、何故あの浮遊機に乗っているのだ? 誘導してオルシュテインに着艦させるのだ。それとボルダーチェク猊下にも至急の連絡を入れろ。」
「はっ。何と申し上げましょうか?」
「"所属不明の浮遊機と接触、ジグムント大佐の生存を確認"、だ。追って確認が取れ次第詳細を送る。」
こうして戦艦オルシュテインに誘導された3機のヘリが着陸した。戦艦オルシュテインは後部の砲塔を取り外し、浮遊機甲板に変更した戦艦ルドビスキと同様の改造を施しており、その甲板へ3機のヘリからジグムント大佐他10名が降りて来たのだ。そして甲板に降りたのは彼らだけではなく、護衛艦ひゅうが艦長の寺岡1佐、そして内調の柊と外交官の山本だった。
「貴様はジグムント大佐だな? 後から色々と説明させて貰いたいが、まずはこちらの方々を紹介して頂きたい。」
「こちらの方々はニッポン国の派遣艦隊司令官のテラオカ大佐です。それとこちらは政府関係者のヒイラギさん、そして外務省所属のヤマモトさんです。ステパン提督。我々はラビアーノ艦隊による突然の反乱によってニッポンに意図せぬ攻撃を行ってしまいました。結果としてラビアーノ艦隊は撃滅され、我々の損害もまた大きく移動も儘ならぬ状況に陥った際に、ニッポン軍所属の船に救われました。その後ニッポンへ行き、客としてニッポンを見学しておりましたが、今回の第二艦隊接近を知り、ニッポン政府の計らいでこうして戻れた、という訳です。」
「ニッポンを見学していた、だと!?」
ステパン中将は驚愕すると共に、正体不明の国家だった日本を見学していたというジグムントの言葉に、ニッポンとの敵対を避け友好的な関係を築けそうな可能性が開けた事と、もし可能であれば日本が持つであろう様々な秘密の装備に関して情報が得られるのではないか?と即座に判断し、戦艦オルシュテインの貴賓室へと一行を案内した。そして日本から来た一行と再び会う前に、ジグムント大佐に対して滞在中の状況と、日本のヴァルネクに対する印象、そして同盟軍との関係を確認した。
「ジグムント。ニッポンの将校と話す前に2,3質問がある。良いな?」
「はっ、何なりと。」
「まずは、貴様のニッポンでの待遇だが捕虜扱いであったか?」
「いえ、違います。彼らは自分達に対して"決して捕虜の扱いでは無く、客として扱う"と明言し、事実我々は客の扱いでニッポンという国の現状や戦力的な物を見学しておりました。」
「それはどういう意味だ? ……いや、今は良い。次に聞きたい事だが、ニッポンは我々をどういう存在として見ているか、だ。彼らは我々ヴァルネクに何等かの意図や敵意を持っていたか?」
「彼らは我々ヴァルネク連合にも、同盟諸国に関しても何ら接触を持っておらず、また双方に何等かの関わりを持とうとはしておりませんでした。ですが、彼らは彼らの法を基本に行動しており、専守防衛を謳い敵から攻撃された場合はその法によって攻撃された以上の反撃を行う様に定められています。恐らくは、最初に同盟軍が同様にニッポンへの攻撃を仮に行った場合は、同盟軍がラビアーノと同様の目にあった可能性が高い物と判断しております。」
「成程、今の所どちらの陣営にも与していない、という事か。これは良い傾向だぞ、ジグムント。」
「ただ、彼らの法は我々とは相容れない部分もあります。例えば我らがレフール教に教化する事を提案したのですが、彼らはその法律により全国民が信仰の自由を保障されている為に、それが例えレフール以外であっても国民に他宗教を強制する訳には行かない、と申しております。」
「そうか。教化されぬのであれば、彼らの行く末は決まってしまうのだが……それは理解しているのか?」
「それなのですが……我々は彼らの軍事基地に滞在し、様々な彼らの武装を確認して参りました。その中には我々が思いも寄らない恐るべき兵器を彼らは相当数に装備しております。例えば、実際にラビアーノ艦隊が攻撃された場合に彼らが使用した兵器である一つ、"対艦誘導弾"という物ですが、これは我々の持つ長距離砲の何倍の距離から放つ攻撃兵器で、必ず当たります。」
「は? いや、待て。必ず当たるという意味が分からん。それは如何なる方法で放たれ、どれだけの射程があり、その一撃の破壊力は如何程なのだ?」
「彼らはそれを精密誘導兵器と称しており、150km以上の距離で射撃を行い、目標までの150kmを超高速で飛翔し、その間も常に目標を捉え続け、最終的に目標に当たります。これは我々の艦を一撃で撃沈します。」
「いやいや、それはおかしいぞ、ジグムント。そんな便利な兵器がこの世にある訳が無い。第一、どうやって目標を捉え続けるのだ? それに150km先もの敵をどうやって判別するのだ? それは見学時に欺瞞情報を吹き込まれていないか?」
「提督……ラビアーノ艦隊はそうして沈められたのです。僅か数分のうちに6隻の戦艦と巡洋艦がその兵器によって沈められたのです。実際に私が話として聞いたのなら、即座に否定するような話です。ですが、私はその光景を目の当たりし、かつニッポンで見学した際に、同様の説明を受けてきました。また詳細な攻撃の映像も確認しております。」
「150km先の敵を100発100中で攻撃が可能……それは彼らにとっては通常兵器なのか? それとも何か搭載数に制限があるとか、使用に関しての制限がある類の物なのか?」
「彼らの説明では、通常兵器でありニッポンの戦闘艦であればどれでも積んでいると申しておりました。また、搭載数は分かりませんが、彼らの説明によると一度に8発程度が攻撃可能であると。これは艦の数が増えれば増える程に増して行きます。また、彼らの攻撃に関する制御方法で、同一の敵に指向せず、それぞれの目標に対して瞬時に判断して個別に攻撃が可能、との事です。」
「なんと……」
ステパン中将は、ジグムント大佐が話す内容の余りの恐ろしさに戦慄し、続ける言葉を失っていた。ジグムントが言うには、彼らを運んできたニッポンの船は8隻で艦隊を構成している、という。だが、この対艦誘導弾の内容が正しいとするならば、8隻の船が同時に8発の対艦誘導弾を発射する事が可能であり、それらは同時に別々の目標に対して攻撃を行う事が出来、そして必ず当たる兵器であり、それを今我々が受けた場合、64隻が瞬時に沈む事になる。つまりは、艦隊は戦い始めた瞬間に半数が消えてなくなる計算だ。事実、ラビアーノ艦隊は戦闘開始直後、瞬時に6隻が沈められたと言う。
「なるほど、彼らニッポンの海軍が強いという事は分かった。他に情報はあるか?」
「最大の問題と申しますか……彼らは魔導機関の一切を保持しておりません。つまり我々は彼らを探知する事が出来ないのです。」
「いや、それは知っている。それを前提に我々は多少偶発的衝突があったとしても大丈夫であろう数を率いてやってきたのだが…」
今の対艦誘導弾の話を聞いた後で、"大丈夫な数"というモノがどこまでなのか、自分でも分からなくなったステパンだったが、敢てそれには触れない様にしていたが、次のジグムントの説明で完全に自分達の艦隊規模が全くニッポンに相手にならないと判明した。
「彼らは我々を探知可能です。しかも想像を絶する距離から個別に探知しています。その距離は、我々の10倍から20倍程度でしょう。事実、彼らはこの艦隊が何千キロも離れた状況で探知し、我々に連絡してきました。場合によっては、我々がもし彼らと戦った場合、全く見えない距離から一方的に探知され、攻撃され、そして何か起きたのか、どこから攻撃されたのか分からないうちに撃沈されているでしょう。」
「…何故、そんな恐ろしい能力を持つ国がこれだけ近くに居て、覇権を目指さないんだ。」
「そこです、ステパン閣下。彼らの能力は恐ろしい。ですが、この能力を持つ存在を我々の陣営に引き込めば、我々が持つ総合力は飛躍的に上がります。最早、ラヴェンシア大陸に収まる事なく、世界に向けて覇権を唱える事も可能でしょう!」
……馬鹿な。こいつは何を言っているのだ? 明らかに自分よりも格上の存在が、どこかの集団に与して、その集団の意のままの剣となるだと?? 言う事を聞くどころか、その集団を乗っ取って自分が主導者となるに決まっている。第一、そのニッポンとやらが、どちらにも与していないが、自衛戦闘しかせぬと言っていたではないか。だとするならば、敵対しないように、遠巻きにするのが一番だ。厄介な敵は、戦うのでは無く敵対せずに遠ざけるのに限る。
「そうそう、閣下。嵐の海のバケモノはニッポンが退治した、と言っておりました。」
「は? ……馬鹿な……もう良い、ジグムント大佐。私はこれから彼らに会ってくる。」
昨晩更新出来ずにスミマセヌ。
という訳で昨日分を今日公開。
でも休日は基本更新お休みにしようかと。