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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_36.ヴァルネクと日本、それぞれの思惑

既に日本に探知された事など全く知らないヴァルネク教化第二艦隊は、真っすぐにラヴェンシア大陸南方域を中央ロドリア海に向かって進んでいた。当初ドムヴァル沖の戦いで70隻に減っていた教化第二艦隊は、南方海域に向かう途中でマルギタ海軍とコルダビア海軍と合流し、最後にエストーノ海軍と合流した結果、140隻もの大艦隊となっていた。この艦隊を率いるヴァルネク教化第二艦隊司令ステパン中将は、自らの旗艦である戦艦オルシュテインに各国の艦隊司令を集めて今回の作戦を再度打ち合わせていた。


「各国艦隊司令の諸君、当艦までお集まり頂き感謝する。私はヴァルネク教化第二艦隊司令ステパン中将である。本来であれば、陸の上でこのような協議を行うべきではあるが、火急により当艦で行う事を承諾頂きたい。また、今回の作戦を再度確認させて頂くが、その前に各艦隊の詳細も改めて確認する。宜しいか?」


「承知している。私はコルダビア派遣艦隊を指揮するラヴォチェク少将だ。此度の作戦協力については当然全力で協力させてもらう。それに我々はリェカでの第二打撃軍の借りを未だ返していないでな。その機会があれば、先に出させて貰いたい。」


「宜しく、ラヴォチェク少将。ちなみに貴艦隊の総艦艇数は20隻で間違い無いな?」


「左様、戦艦2隻、重巡洋艦4隻、巡洋艦10隻、補給艦4隻だ。巡行速度は24ノットが可能だ。」


「マルギタ海軍の特務派遣隊司令マスラエフ少将だ。我等もまた全面協力を惜しまん。我々は貴ヴァルネクからの要請で足の早いのを用意させてもらった。総艦数25隻で内訳は巡洋艦1隻、魔導砲艦21隻、補給艦が3隻だ。巡行速度は30ノット、これで宜しいか?」


「うむ、了解した。感謝する。……次はエストーノ艦隊だな。」


「エストーノから派遣されたドルーゲンドルフ准将です。我々は総艦数25隻、同じく足の早い船を用意してます。軽巡洋艦23隻と補給艦が2隻、巡行速度は28ノットが可能です。」


「ありがとうドルーゲンドルフ准将。これで我々の総勢140隻に及ぶ艦隊が一路中央ロドリア海へ向かう事となった。既に聞き及んだかもしれんが、改めて説明させてもらう。我等がジグムント大佐指揮の元でヴァルネクとラビアーノの連合艦隊が、ロドーニアへの奇襲攻撃を画策した事は皆も承知しているとは思うが、この艦隊が消息を断った。最後の通信では、中央ロドリア海に現れた正体不明の船によってラビアーノ艦隊が6隻撃沈され、その後に駆け付けた同盟艦隊によって残存艦隊全てが拿捕された。ここまでは皆も知っている事だと思うが……」


「……だと思うが? まだ何かあるのか?」


「そうだ。まず、この正体不明の船はニッポン国という国から派遣されたという事だ。そしてこの正体不明の船は、我々の魔導探知に反応しない。つまり目視でしか感知出来ん。」


「な、なんですと? それは魔導機関の遮蔽装置を搭載しているという事ですか?」


「そういう事だ。つまり我々が不意に遭遇した場合、相手が万全の体制で攻撃する事が可能なのに対し、こちらが完全に不意打ちを喰らう可能性が高い。それが故に、我々は兎も角も数を用意した上で仮に戦闘となった場合でも対応出来る状況を作る意味で、これだけの大艦隊を率いているのだ。」


「仮に、ですか? すると今回の派遣は戦闘が目的ではない、と?」


「その通り。我々はニッポン国の技術や能力を完全には把握していない。そもそもニッポン国の場所さえも判明していないのだ。そこで第一の目的としてはニッポン国と友好的に接触する事だ。そして第二の目的としては同盟軍との接触、もっと言えば同盟へのニッポン国の参加を阻害する事だ。勿論ニッポン国の対応次第ではどうなるか分からんが、その為の大艦隊だ。」


「一つ疑問があるのだが。ラビアーノ艦隊はそのニッポンの船に撃沈された事は聞いておるが、一体どうやって撃沈されたのかが分からん。その辺りの情報を貴国ヴァルネクでは何も掴んで居らんのかな?」


「うむ、私も詳細は知らぬがジグムント大佐からの魔導通信では、ニッポン国の船からのたった一度の攻撃が1隻を沈めただの、それが短時間の間に繰り返し行われた様な表現をしていた。つまり6回の攻撃で6隻を沈めたと。」


「とするならば、かなり正確な大口径の魔導砲を持っているという事だな?」


「どうもそうらしい。交戦距離は30km程度と聞いているが、恐らくその辺りまで正確に狙える射撃管制装置があるのだろう。何れにせよ、それほどの距離を精確に狙える魔導砲を積むとなると、相当に大きな戦闘用艦艇に違いない。そしてそれらを建造可能な国力を持つとなれば、敵に回れば当然厄介な事になる。それが故に、第一に敵対しない事、第二に敵に回らせない事、という話だ。」


「ふむ、ステパン中将、成程委細承知した。接触の際にはどのような対応を?」


「良く聞いてくれた、ラヴォチェク少将。恐らくは中央ロドリア海周辺域に行けば向こうから接触してくるだろう。だが、向こうが気が付かないのであれば、嵐の海の外周周辺域を遊弋した上でそれらしい船に対して片っ端から当たる。何せ、中央ロドリア海の嵐の海には例の伝説級の化け物が居るからな。あまりそれを刺激したくは無い。」


「だがそのニッポンの船は、あの化け物の海域を真っすぐに突き抜けてきたのであろう?」


「……実はそこも分かっては居らんのだ。ロドーニャ王国東方の嵐の海領域を移動中に突如現れたとしか分からん。もしやあの嵐の海を外周に沿って来たのかもしれん。そうなれば、益々正確なニッポン国の位置が分からんがな。」


「分からん話尽くめだな。だがまあ、その化け物以外なら、この規模の艦隊で如何様にもなるだろうが。」


「ふふっ、確かにな。ともあれ接触したならば、私がニッポン国との交渉にあたる。その為に戦艦オルシュテインを前面に出して移動する事とする。各艦隊は我々と各々1km程度離れた上で追従を願いたい。」


こうしてヴァルネク教化第二艦隊は旗艦オルシュテインを先頭に大きな長い蛇が進むように各艦艇が数珠つなぎでラヴェンシア大陸南方を進んで行く。


・・・


海上自衛隊第6護衛隊の護衛艦きりしまと護衛艦まやからの報告で、ヴァルネク連合と思われる艦艇140隻が真っすぐに中央ロドリア方面に向かって進んでいる状況を報告してきた後、大混乱の舞鶴基地では急遽様々な事が急ごしらえで行われた。


まず、ジグムント大佐一行の日本見学は急遽中止となり、この接近する艦隊に向けてジグムント大佐達を戻すという事となった。その為、ヴァルネク連合の艦隊に接触する為の選定となった。まず舞鶴の第3護衛隊と第14護衛隊の計8隻の護衛艦が全て投入される事となり、更には万が一に備えて百里基地でF-2戦闘機を装備する第3飛行隊が待機する事となった。


そして、ジグムント大佐を招待した内調の柊が、外務省から派遣された外交官と共に護衛艦ひゅうがに乗り込み、中央ロドリアに向かう事となった。既にヴァルネクの艦隊構成を上空から偵察済みで、その殆どが戦闘艦で占められている事にひゅうがに集まったひゅが艦長寺岡1等海佐を始めとして各艦の艦長や柊、そして派遣されてきた外交官の山本はヴァルネクの意図を推察していた。


「これは友好的接触を目的とはしてるが、仮に戦闘となった場合でも対処が可能という構成では無いだろうか?」


「恐らくそうでしょうね。既に前回の戦闘で向こうの船を6隻沈めた事を連絡済みである事はジグムント大佐から確認しています。彼らは誘導弾の存在を知りませんから、この6隻の撃沈方法を知りたがるでしょうね。ただ、ジグムント大佐達一行を、この艦隊に戻してしまえば、日本という国に対する印象は恐らく恐怖の対象となるでしょう。戦闘する事無く引き返す事になると思いますが。」


「柊さん、そのジグムント大佐というのはどの程度の立場なのだ?」


「ヴァルネクの指導者であるボルダーチュク法王の信任厚い軍人ですよ。彼が言うには日本もヴァルネクと友好国になり双方の技術交流が進めば、そしてヴァルネクのレフール教に日本が教化されれば、想像を絶する程の発展と神の恩恵が得られるそうです。」


「は? 一体どういう教義なんだか。何れ信仰の自由がある日本とはその部分でも相容れないな。」


「私も教義自体は詳しく聞いては居ないんですが、どうにも異教徒は存在に値しないように聞こえてきますし、そういう対応をこれまで戦争中の他国にしていた様です。彼らの侵略はラヴェンシア大陸に留まらず、大陸東方のロドーニア島、そして更に東方のヴォートランまでもが彼らの目標としている様ですね。」


「まだ国交が無いロドーニアは兎も角、ヴォートランを目標とされるのは問題があるな。もし侵略の手がヴォートランに伸びれば我々の石油資源が断たれる可能性があるかもしれん。その辺りの能力はどうなんだろう。」


「そうですね……ヴォートラン単独では対抗出来ないでしょう。彼らに自衛する為の技術的提供を更に緩和して行う必要性が出てくるでしょうが、それも彼らの侵攻速度によります。事によっては日本が彼らの肩代わりをこれまで以上にする事になるでしょうね。何よりヴォートランは北ロドリア海戦でほとんど全ての艦船を失ってますし。」


「なんと、そうなのか……政府はどう考えているんだろう。外務省の山本さん、何か聞いてますか?」


「そうですね。方針としては極力相手とは敵対せずに穏便な方向で。ただ……」


「ただ?」


「柊さんは御存じでしょうが、裏の命令が出ています。もし仮に戦闘となった場合は、ジグムント大佐達を戻した船以外を全て撃沈せよ、と。」


「それでか……道理でハッキリ言わん訳だ。詳しい事は出航後に柊から聞け、と言っていたのはこの件だな?」


「まあ、流石に他の目も耳もありますからね。戦闘を目的とした出港では無いと思わせたい所から外務省の方も帯同した訳ですしね。ただ、政府はヴァルネク連合は相当に危険と判断していますよ。表立っては言いませんが。」


こうして舞鶴を出港した第3護衛隊と第14護衛隊は、中央ロドリア海に向かうヴァルネクの艦隊の方向に進路を取った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『知らないということは恐ろしい』のひとことですよね。 日本とヴァルネク連合では、思想や価値観の点で絶対に相容れないこと。 ヴァルネクのレフール教を、日本が受け入れるなど永遠に有り得ないこと…
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