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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_35.ヴァルネク教化第二艦隊

今回の同盟軍による浮遊機の大規模空襲作戦によって潜航部隊を殲滅した事により一気にドムヴァル沖の制海権を確保するべく同盟艦隊を派遣した。当初ドムヴァル沖に展開した同盟軍艦隊は、ヴァルネクの教化第一艦隊に対し優勢に進めていたものの、コルダビア海軍とマルギタ海軍の出現によりドムヴァル沖の海域は膠着状態となった。この時点で完全に北方戦区共々身動きが取れなくなってしまった。つまりは同盟軍側としては戦略的に取りうる手段がどの戦区においても無くなってしまったのである。


一方、ヴァルネク連合側の被害はその同盟側の投入戦力を勘案してもそれ程大きくは無かった。何故ならばどの空域での戦闘も同盟軍側が直ぐに引き返す事によって双方の被害はそれ程拡大せずに終わったのだ。だが、この攻撃の本命は北方戦区における四隻のヴァルネク潜航部隊である事がその後の被害状況の調査によって明らかになった。北方戦区における潜航部隊の存在は、海軍側の攻撃主力であるヴァルネク教化第二艦隊を南方に引き抜かれても尚、同盟軍艦隊のドムヴァル沖への進出を阻んでいたのだ。そして、この潜航部隊を喪失した事によって北方戦区の戦力バランスが同盟軍側に傾いた事は明白だった。それにいち早く気が付いたヴァルネク側は、教化第一艦隊をコルダビア海軍とマルギタ海軍を以て補強した上でドムヴァル沖へと送ってきた結果、前述の通り同盟軍との拮抗状態を作り出したのだ。


そして中央戦区及び南方戦区はヴァルネク軍優勢で、既にソルノク王国は風前の灯だった。ドムヴァルでの拮抗は北方戦区の同盟優勢を帳消しにし、それによって北方の陸上戦力はヴァルネク軍を投入せずとも安定し、北方の安定はドムヴァル中央のブオランカ盆地攻略中のヴァルネク軍第三軍と第四軍が、その任務に専念する事によって遂にはブオランカ盆地を占領するに至った。今や、ボルダーチュクの懸念は南方に送った教化第二艦隊だけだったのだ。


・・・


護衛艦みょうこうはジグムント大佐以下10名を収容した後に、一度ロドーニア王国に立ち寄り、外交官スヴェレと魔導科学技術団のエーブレを下した後に、直ぐに日本の舞鶴へと帰投した。その間、柊はジグムント大佐から現状におけるヴァルネク連合の戦力と規模を詳しく聞き出していた。ジグムント大佐は、日本との関係を友好的に保った上で最終的にヴァルネク連合へと日本を組み入れる為に或る程度正直に答えてはいたが、所謂軍人として譲れない守秘義務は守っていたつもりだったのだ。それは、同様に日本に連れてこられていた10名のヴァルネク海軍軍人達も同様だった。だが、既に柊が知りたかったヴァルネクの情報は概ね把握していたのだ。そして柊は彼ら10人の軍人達を日本をある程度案内して日本を理解させた上で、直ぐに国に戻すつもりだった。その理由としては、この時点でガルディシア帝国への工作を続けていた内調高田が行っていた亡命エウグスト人達への訓練と教育の規模が予想以上に大きかった為に、同様の手が使えなかった事と、柊とヴァルネク軍人達の会話で彼らとの価値観が決定的に違う事が判明した為に、ある程度情報を掴ませた上で、彼らに恐怖を叩き込み、日本と事を構える事は彼らにとって何も益が無い事を知らしめる、という方向に舵を切ったからである。彼らはそうとは知らずに、現時点では非常に楽観的な見方をしていたのだった。


そして舞鶴に着いた以降に柊が取った手段は自衛隊の戦力規模を悟られる事無く、その攻撃能力を彼らの戦力と比較して明確に絶望するだろう事実の開示を徹底的に行う事だった。その為、舞鶴に着いて初日から彼らは舞鶴の海上自衛隊基地で海上自衛隊第3護衛隊を中心とした海上自衛隊戦力を間近で見学する事となった。


これらの見学には、ジグムント大佐を筆頭に、副官のマレック大尉、砲術部からは砲術長ロベルト、武器整備長リシャルド、船務部からは船務長スワヴォミル、機関部からは機関長シモン、応急長タデウシュ、魔導技術長トマシュ、航海部からは航海長ヴォイチェフ、浮遊機部からは浮遊長スビグニエフ、整備長ラファウの計11名が参加した。


「どうだ、ロベルト。彼らニッポンの船からは何が読み取れる?」


「ジグムント大佐……さっぱり分かりません。そもそも魔導結晶を使用していない事で何が出来て何が出来ないかが読み取れません。ですが……あの映像情報、でぃすぷれい、ですか? あれで見せられた映像では、例の平べったい艦橋の船が攻撃を行う主攻撃方法は、砲ではありませんでした。それは、我々が連れてこられた船みょうこうも同一でした。つまり、ニッポンの持つ戦闘艦艇は、あの誘導弾という奴が主攻撃方法である事を示しています。ただ……誘導弾、ですよ?」


「ああ、誘導と言っていたな。一体どういう原理で目標まで誘導するのだ? そしてあの筒はどれだけの速度が出るのだ。マッハ0.85とか時速1000km程度とか言っていたが、それ程の速度が出ていたのか? しかもそんな速度が出る物の誘導が果たして可能なのか? おい、魔導技術長。どう思う?」


「大佐。そもそも魔導技術が使われていない物に対して、私の意見は全て憶測に過ぎない事になる事を了承下さい。その上で申し上げますが、彼らの技術は我々の持つ物とは全く作動原理が違う物ですが、もし仮に恐らく同じ原理を持つ技術として比較しても50年以上の技術的乖離があると思います。我々には誘導という概念は合っても方法が思いつきません。」


「だろうな……それは俺もそう思う。だが、この国が我等ヴァルネクと協力関係を結べば、どれ程の事が出来るのか。」


「あの、ジグムント大佐…宜しいですか?」


「なんだ、マレック?」


「気が付きましたか? ニッポンは我々に彼らの軍事情報を惜しみなく見せつけています。」


「ああ、そうだな……確かに、全く惜しみなく見える。」


「我々が自らの軍事力を他国の連中に惜しみなく見せる場合は、それが絶対に他国の連中が我々に敵わない程に戦力や技術の乖離がある場合、もしくは別の理由がある場合です。我々は彼らにとって恐らく相当に低く見られています。若しくは敵にならない程度に無害な蛮族といった辺りでしょう。」


「まあ、確かにラビアーノの勝手な先制攻撃から始まった上に、何も攻撃を受けないままに6隻も沈める程だったからな。しかもあの正体を教えられても対抗手段も何も無い現状は、そう彼らに思われても仕方が無いだろうな。」


「それにルドビスキでの話し合いの際に、彼らは侵略的戦争行為は断固反対の立場だと申しておりました。そこから判断するに、我々とは敵対の意志こそ無いが、ニッポンが友好国と判断する国への何等かの侵略的な行動は断固たる対応をするものと思われます。その為に我々に彼らの圧倒的な戦力を見せた上で、その戦意を挫くのが目的なのではないかと。」


「……それは、どうかな? 何故なら、我々が彼らと同様の立場なら、有無を言わせずに我等の戦力を以って叩き潰すだけだろう。事実ラビアーノ艦隊にもそうしたしな。第一、そんな回りくどい手段を使う理由がないだろう。」


「だと良いのですが……」


「考えすぎだ、マレック。兎も角もこのニッポンという国を詳しく知る事が我々が今出来る事だ。」


こうしてジグムント大佐一行の海上自衛隊舞鶴基地見学1日目が終わった段階で、突然に舞鶴基地は慌ただしい雰囲気となった。それはラヴェンシア大陸南方に出現したヴァルネク教化第二艦隊を探知した為だった。それは、中央ロドリア海からラヴェンシア大陸南方周辺域の測位・地形調査の為に海洋調査船"かいれい"を派遣していたが、この船の安全を確保する為に海上自衛隊第6護衛隊の護衛艦きりしまと護衛艦まやが同行していたのだ。そして護衛艦きりしまによって、ヴァルネク教化第二艦隊総数140隻の艦隊がザラウ国沖を真っすぐに中央ロドリア海に向かって航行しているのを発見したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジグムント大佐、日本をヴァルネク連合へと組み入れることを、未だ諦めてないんですか。 無駄な足掻きもいいとこだというのに……。 日本には絶対にかなわないこと、ヴァルネク連合が日本を支配するな…
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