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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
35/155

1_34.ロジャイネ港、空襲

「こちらマルギタ第一突撃軍ロジャイネ港防衛隊だ。現在、同盟軍の空襲を受けている、至急浮遊機の要請を乞う! 繰り返す、至急浮遊機の要請を乞う!!」


中央戦区に浮遊機戦力を集中していたヴァルネク連合は、北方のロジャイネからの要請に対応すべく急ぎ戦力を抽出して送り込もうとはしていたが、同盟の浮遊機群による波状攻撃にヴァルネク連合全ての浮遊部隊が手一杯でどうしてもロジャイネに援軍を送り込む事が出来なかった。だが空襲による被害は意外な程に少なかった。それはヴァルネク軍主力浮遊機部隊による奮戦で、中央戦区においては陸上に被害を出す前にヴァルネク空軍が未然に同盟側の浮遊機を落としていたからだ。それはヴァルネク側が戦闘能力的にも優位であり、且つ被害を受けても味方の勢力圏故に回収も容易だったからだ。しかしそれ以上に同盟軍側が示威的に侵入した上で、戦闘に深入りする事無く直ぐに逃げの一手を打ってきた為に、ヴァルネク軍の浮遊機も深追いをせず戦果もまた期待出来ない状況となっていた。そして中央戦区の現状を見たヴァルネク軍は、この航空作戦による主目的が陽動にあると判断したのはロジャイネ港へ空襲部隊が襲撃をかけてきた時だった。


「こちらマルギタ軍司令部だ。ロジャイネ港だと? どうせ迎撃が数機上がれば直ぐに引き返すだろう? 既に中央戦区では侵入した敵は直ぐに引き返したそうだ。ロジャイネの迎撃機は上げたのか?」


「その迎撃機が全然足りないんだ!! ロジャイネ港を三方向から空襲に来ている! 一番最初に接敵するだろう東南方向からの攻撃部隊に対して、この地区の迎撃機が全て上がって向かっているんだ! 北と東から接近している敵はフリーハンドでここに来る! そちらからもヴァルネクに要請してくれ!」


「ヴァルネクの中央戦区に応援要請は送ったのか?」


「何度も要請している! だが、こちらも迎撃中で手一杯だと。すぐ敵が引き返しているなら、こちらに送ってくれ!!」


「了解した、こちらからもヴァルネクの司令部に要請する。それまでは何とか耐えろ!」


「……援軍次第だ。通信おわる。」


だが、ロジャイネ港への同盟軍の空襲は、中央戦区のそれとは違っていた。ロジャイネ港に空襲を仕掛けた同盟軍は、明確な目標を以って攻撃を開始していた。それはロジャイネ港の一画に停泊する四隻のヴァルネク潜航部隊の艦だった。四隻の潜航部隊の艦は無防備な状態で停泊し、艦のあらゆる開口部を開けての補給中だったのだ。


連絡将校のノードと接触した潜航艦隊司令のグンドラフは主要な幹部に港の酒場に居た乗組員達に1時間後に艦に戻る様に通達し、その上で酒場を出て自らの艦である潜航艦アウグストゥフに戻ろうとした矢先だった。港には数分前から空襲警報が鳴り響き、グンドラフはロジャイネ港に係留している自らの艦に何時も違和感を感じていたが、今その違和感の正体に気が付いた。そうだ、この港に係留されている艦の上には天蓋が無い。この空襲警報を相まってグンドラフは急激な危機感が沸き上がった。せめてこの空襲警報が鳴り止まぬ間は開口部だけでも閉じておかねばと思った瞬間だった。


・・・


北から侵入した同盟軍第一空襲部隊隊長であるオラテア空軍のネルダ大尉はロジャイネ港手前で徐々に高度を上げ、周辺に迎撃の浮遊機が全く存在しな事に気が付いていた。それは恐らく他の二つの侵入路のいずれか側に敵の迎撃機が向かっている事を意味するだろう。第二と第三には申し訳ないが我ら第一空襲部隊がこの大魚を釣り上げるのだ、とネルダ大尉はほくそ笑んだ。


「各機、目標を再度確認の上で攻撃を開始する。予め各々割り当てられた目標を攻撃後、全速で東に逃げる。だが、敵迎撃機の存在が確認出来んのは絶好の好機だ。必ず仕留めろ!」


こうして16機の第一空襲部隊は全く攻撃を受けないままにロジャイネ港に係留しているヴァルネクの潜航艦に攻撃を開始した。ロジャイネ港はヴァルネクに接収されて直ぐに港の機能は復旧されていたが、防空機能は全く復旧してはいなかった。そしてヴァルネクの教化第一艦隊はヴァルネク本国に移動中だった。つまり、ロジャイネ港は完全に空からの攻撃に無防備だったのだ。これは同盟軍にとっては嬉しい誤算だった。


僅か数分で16機の空襲部隊は四隻の潜航艦全てを港の中で撃沈した。補給を行っている途中であった為か、一隻の潜航艦は攻撃と共に予想外の大爆発を起こし、第一空襲部隊の2機がこの爆発に巻き込まれて四散した。だが、同盟軍として失った物と引き換えに得た戦果は莫大だったのだ。今後、ドムヴァル沖は同盟軍が握る事となるのだ。全ての潜航艦の撃沈を確認し、ネルダ大尉は全機の帰投を命じた。そして同盟軍司令部に短く作戦成功を伝えた。


・・・


もうほんの目の前にあった筈の潜航艦アウグストゥフは、北からやって来た浮遊攻撃機に攻撃され、全く抵抗が出来ないままに魔導爆弾数発の直撃で、開口部から火を吹いた後にそのまま沈んでしまった。それどころか他の三隻も同様の攻撃を受け、直ぐに沈んでしまった。間近で見ていた潜航部隊司令のグンドラフは青い顔のまま茫然と立ち尽くしていたが、後から駆け付けた酒臭い部下達に声を掛けられ我に返った。


「……貴様等、全員無事か!?」


「司令官殿、俺達は酒場にずっと居たんで被害はありませんや。だが艦はすっかりやられちまった様ですね。」


「いや、そうか。無事なら良い。お前等時間ぐらい守れとは今回だけは言わん。他の連中は?」


「そうっすね、誰一人店を出たのは居なかったんで。ただ、他の店に行った奴等は分かりませんが。」


「ふむ、この分だと全員まだ店で呑んだくれているだろうな。今回ばかりは肝を冷やしたが、生き残っているならば後で連中に借りを返す事も可能だな。よし、一旦俺も店に戻って呑むぞ。生き乗った事に乾杯だ。」


「いや司令官殿、宜しいんで?」


「どっちにしても我等の乗るべき船は無い。やる事無いなら、やる事は決まっている。」


「違ぇねえ。じゃ、一杯奢らせて下さいよ、司令官殿。」


「お前に払えるのか? そういう役目は俺に任せろ。」


こうして同盟軍は全ての、そしてほぼ無人の潜航艦を沈めた。

だが、この潜航艦の乗組員は空襲を結果的に逃れて全員生き残っていたのだ。この乗組員達は、更なる増員と訓練をした上で新型の潜航艦隊に配置され、新たなる海域での戦いに出撃する事となるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 船は失われるも兵士は失われず、戦術的には同盟が勝っても、戦略的には不十分、と… さて、ここから連合と同盟の戦争はどの様に動く事になるのやら…
2021/07/31 22:38 退会済み
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