1_02.マゾビエスキ会戦の明暗
浮遊機は魔導システムに結晶石を組み込む事により出力を開始する。魔導結晶石の質が良ければ高度5,000m程を時速400km程で飛行する事が出来る。だが近頃の品質の安定しない魔導結晶石の場合、万が一を考え高度も速度も抑え気味で飛ばない事には安全が確保出来ない。外交官ラドスワフを乗せたオストルスキ共和国の浮遊機ヴォチャンIV型は高度3,000m程を時速270km程で飛行し、数時間後にロドーニア王国上空に到達した。予め通信によって外交官ラドスワフが来る連絡を受けていたロドーニアの空港管制は、オストルスキ共和国の浮遊機を軍空港へ誘導し、秘密裏にロドーニアと接触が出来る様に計らった。
「オストルスキ共和国一等外交官のラドスワフです。本日は急な訪問要請にお答え頂き感謝致します。」
「ロドーニア王国第一外務局局長のオースムンと申します。一体如何なされましたかな?」
「実は我々は御存じの通りヴァルネク連合に対して、我が国を中核として16ヵ国にも及ぶ広域の同盟で対抗して参りました。ですが、ヴァルネクの様々な兵器戦力は強く彼等の勢いを止める事は至難の業です。遂には先程の大陸中央のマゾビエスキ平原で行われた会戦によって、我々は壊滅的な被害を受けてしまいました。」
「マゾビエスキ会戦の結果は聞いております。残念な事でした。」
「では、我々の同盟から4ヵ国脱落した事も聞いていらっしゃる、と?」
「ええ、それも既に確認しております。」
「この同盟から脱落した4ヵ国がその後にどうなったかは御存じですか?」
「いえ、それは……その国々はどうなったのですか?」
「彼らは人造魔導石の原材料となりました。4ヵ国総数120万の民が全て……全てです! ヴァルネクは人を原料として人造の魔導石作り出す外法を開発したのです。彼らヴァルネク連合は、併呑した国々でレフール教に教化しない人々や反抗した者達を全て原料として魔導石を作る為に人々を消費しています。そうして作り出した人工の魔導石を以って我々を蝕み続けているのです。」
「人を原料……ですと? それは何等かの証拠でもありましょうか?」
「製造の現場を抑えた訳でもありません。ですが、この急激なヴァルネク連合の膨張と戦争に消費される魔導石の総量、これらは今迄のラヴェンシア大陸上で産出される量を遥かに上回っています。これが証拠と言えば証拠でしょう。既にヴァルネクに因って滅ぼされた国の人々は同様の運命を辿っていると思われます。」
「いや、だが……しかし……少しお待ちください。」
ロドーニア王国第一外務局局長オースムンは、ラドスワフから聞いた話を俄かには信じられなかった。だが、オストルスキ共和国は武勇と魔導科学を誇る大陸でも1、2を争う強国だった筈だ。彼らの呼びかけによって集まった16ヵ国も決して弱い国では無かった。その彼らが現に一大会戦で敗北を喫している事実に、オースムンは迷う事無く国王直属の回線を開いた。
・・・
法王ボルダーチュクはマゾビエスキ会戦の結果に不満を漏らしていた。
16ヵ国の同盟軍を相手に圧勝とも言える戦果を上げ、4ヵ国の脱落国を出した。だが、ボルダーチュクはこの会戦によって同盟諸国を解体する事を連合軍に希望していたのだ。
ヴァルネク連合軍はヴァルネク法国を中心に7ヵ国の連合体だ。
それぞれの国力に応じて戦力を供出していたヴァルネク連合軍の主体は、ヴァルネク軍陸戦軍と飛行軍であった。そしてヴァルネクの盟友とも言えるコルダビア王国、早期にヴァルネクに恭順したエストーノ国とラビアーノ国、経済的に密接な関係から同盟関係を結んでいたマルギタ国、そしてヴァルネクの快進撃を目の当たりにして参加したオラデア公国とザラウ国だ。それぞれが供出した戦力の総数は敵である16ヵ国同盟と比較しても決して多くは無く、戦力比で4対6、数の上では同盟軍が優勢だったのだ。にも関わらず圧倒的な勝利を上げたこの戦いの戦勝会でボルダーチュクはこう言い放った。
「諸君ら諸国の努力には感謝している。だが結果には決して満足出来ない。何故にこの戦いで、敵16ヵ国同盟を解体出来ぬのか。我等が信望するレフール神が望んでいたのは、我等連合軍の力を以って此度の戦いで奴らを滅ぼす事であった。然るに脱落したのはたったの4ヵ国のみであったのは苦渋の極みである。これには更なる努力が必要だと感じておる。諸君らの忌憚無き意見を聞こう。」
「待ってもらおうボルダーチュク法王。我々にも言いたい事がある。そもそもが貴軍を中心に構成された軍団であろう。貴軍と比較して我々の戦力は旧来通りの能力しか持たんが、貴軍の軍団は明らかに我等よりも強い。にも関わらず、我等には一切の軍事的援助も無ければ、貴軍の指揮下での行動のみであり、我々自身の指揮命令権も無い。そのような状況にあって、結果に対して我々の責を問うのであれば、目的は同じであれど指揮命令系統を本来の形に戻して貰おう!」
コルダビア王国国王のサトゥ=マーレ国王は、明らかに勝った戦いでこのような苦言を呈された挙句に、そもそもが協力したコルダビア王国陸軍が自らの指揮ではなく、ヴァルネク軍の指揮下にて動いた挙句にこの言い様なのだ。しかも彼らヴァルネク軍の装備は、コルダビア王国以下連合の装備と隔絶していた強力な装備だった。にも関わらずヴァルネク軍と同様の戦果を求められたコルダビア王国以外の代表達も鼻白んでいたのだ。
「そうだ。我々の装備は貴国ヴァルネクと比べて弱い事は明白だ。同様の戦果を求めるならば、貴軍の装備を我々にも提供されては如何か?」
「なるほど……他の諸国も皆同じ意見であろうか?」
「うむ、貴国の装備が有れば我が国も貴軍と同様の戦果も望めるであろうな。」
「了解した。だが諸国分の装備が直ぐに揃えられる訳でも無い。また、それらの装備に使用する魔導結晶石自体も直ぐに用意出来る訳も無い。今暫くはお待ち頂きたいのだが如何かな?」
「うむ、そうして頂けると有難い。恐らくは装備が整えば貴殿が望む結果も叶う事だろう。」
表面上、各国が望む事に留意しつつボルダーチュクは自国装備と同等品の提供を約束した。だが、ボルダーチェクの内心は怒りに満ちていたのだ。何も努力をせずに勝ち馬に乗る無能な者共め。そう思いつつも、この連合内で不協和音をかき鳴らせば、この大陸全土の支配に限りなく近づきつつある今、空中分解も必至だろう。今は抑えるしか無い。怒りを秘めつつもボルダーチュク法王は、先程の強い言葉を吐いた同じ口で諸国の代表に対してこれからの協力を柔らかく要請した。