1_28.ジグムント大佐、日本と接触す
「浮遊部隊上げておけ。だが、絶対に撃つな。ラビアーノ艦隊も攻撃を控えろ。いいか、絶対撃つなよ。」
「しかし大佐、危険ではありませんか?!」
「相手は1機だけをこちらに寄越して来ている。という事は、攻撃の意図は持っていない筈だ。何等かの接触を目的としているだろう。もし、攻撃の意図を持つならば、向こうは我々が全滅する迄、あの筒を撃ち続けているだろう。あの攻撃能力を見たか?」
「はい……単艦であれ程の攻撃力を持つ上に、魔導探査に反応しないとなると……我々の攻撃がどこまで通用するのかは不明でしょう。」
「そうだ。どれだけ攻撃能力があるかも分からん。そんな相手にむやみやたらと攻撃を仕掛けるなど愚か者ののする事だ。まずは相手の出方を確かめねばならん。もし、ラビアーノ艦隊から攻撃された事で単に反撃しただけならば、不慮の事故という事で和解が成立するかもしれん。何れにせよ、何者かであるか、どのような思想であるかを確認した上で判断する。」
「しかし、それではラビアーノ艦隊が納得しないのでは?」
「そもそもアレはドッテイル将軍の勇み足だ。勝手に攻撃を行った結果、反撃されて沈んだだけだ。」
「ですが…残存のラビアーノ艦隊が従うでしょうか?」
「ラビアーノ艦隊の現在の指揮はどこだ?」
「現在ラビアーノ艦隊の最高階級は重巡洋艦レゼクネーのイーデルゾーン大佐です。」
「イーデルゾーン大佐だな? 分かった、レゼクネーに回線繋げ。」
「大佐、回線繋がりました、どうぞ。」
「イーデルゾーンか? こちらはジグムント大佐だ。只今より戦闘行為の一切を停止せよ。あの正体不明艦へ一切の攻撃を禁ずる。
分かったな?」
「ジグムント大佐……それではドッテイル将軍は無駄死にですか!? 了承出来ません。」
「いいから黙れ。元は貴様等のドッテイルが勝手に攻撃を始めた事が発端だ。記録にも残っているぞ、重大な連合規約違反のな。だが、生き残った貴様等はドッテイルに従っただけだ。今の段階であれば見逃そう。だが、これ以上我々の意向にそぐわん行動をとるならば、貴様等ラビアーノ艦隊に我々は照準を合わせるが。」
「……直ちに戦闘を停止します、ジグムント大佐。」
「理解して頂けて喜ばしい限りだ、イーデルゾーン大佐。」
こうしてヴァルネク艦隊の上空には直掩の浮遊機を数機上げ、ラビアーノ艦隊も攻撃を停止した事で正体不明の艦との戦闘が一旦停止した。その上で、正体不明の艦からやってきた浮遊機がヴァルネク艦隊旗艦である戦艦ルトビスキの近隣まで飛行してきた。それは異様な姿をした浮遊機だった。大きな球形の上部に何やら動力機関がある様だが、魔導反応が確認出来ない。そして非常に低速で接近し、その飛行機械から音声が至近に響き渡った。
『こちらは日本国海上自衛隊第3護衛隊所属、護衛艦みょうこうである。直ちに戦闘を停止せよ。こちらに攻撃の意志は無いが、貴軍の攻撃を受けた場合、止むを得ず反撃を行う。停戦の意志ある場合、旗艦の砲身を下げよ。』
「大佐……どうします? 攻撃の意志は無いそうですよ?」
「元よりこちらにも攻撃の意志は無い。おい、砲身を下げろ。それと誰か本艦の後部甲板に誘導しろ。」
「あの、出撃した浮遊機はどうしましょうか?」
「順次引き上げて空いてる甲板に乗せろ。俺も下に行く。連中に会って来るぞ。ニッポン国だと? 一体どこの国だ。何故、魔導反応が無い。聞きたい事は山ほどあるぞ。」
「大佐、その……危険ではありませんか?」
「今更、自爆攻撃もあるまい。連中は、その気になればこちらを攻撃可能なのは先程も見た通りだ。しかも何ら被害を受けておらんのだ。まずもって連中の方が遥かに攻撃能力が高いと想像出来る。実際に会えば、その確認も可能だろう。行くぞ。」
こうして戦艦ルトビスキの後部甲板に誘導され、日本国を名乗る奇怪な飛行艇が着陸した段階でジグムント大佐は飛行艇の傍まで近寄った。そして中から降りて来た日本国の軍人と思しき者にすぐに尋ねた。
「ヴァルネク海軍所属戦艦ルトビスキ艦長のジグムント大佐だ。一つ聞きたい事がある。貴殿はニッポン国を名乗ったが、それは一体どこの国だ? 何故、この海域に居る? そしてその浮遊機は何故に魔導反応がないのだ?」
「私は護衛艦みょうこうの艦長下浦一等海佐と申します。先ずは此度の我が方の停戦要請を受諾頂き感謝します。それと日本国の場所に関してですが……」
こうして護衛艦みょうこうからやって来た下浦一佐と軍属では無いもう一人の人物である柊が、ヴァルネクの戦艦ルトビスキに降り立った。本来は護衛艦みょうこうはヴォートランに寄港した際に、ロドーニアのスヴェレと魔導科学技術団のエーブレが見学をする予定だったのだ。だが、見学の際にロドーニアに接近する艦隊を日本国の哨戒システムが発見した、ロドーニアのスヴェレに確認してもどこの艦隊なのかが分からないという事で急遽ヴォートラン防衛を理由として、ヴォートランからこの海域に接近していたのだ。だが、ヴァルネク艦隊である事がロドーニア襲撃によって判明した事で、急遽戦闘を行わないように一定の距離から監視していたのだ。
ところがヴァルネクの艦隊は再び嵐の海方面に向けて移動を開始した為、みょうこうの下浦一佐としては日本に向かってくる事も考えた上で警戒しながら接近した所、全く双方の通信方式が合わない為に警告も何も発する事が出来ず、ロドーニアの魔導科学技術団のエーブレに何等かの警告方法は無いものか、と相談していた矢先にラビアーノ艦隊からの攻撃を受けたという事だった。だが当然の事だが、ヴァルネク艦隊には、護衛艦みょうこうにロドーニア人が乗っている事は知られてはならない。その為、下浦一佐に柊が帯同して戦艦ルトビスキに降りたという寸法だった。
そしてロドーニアのスヴェレとエーブレは感嘆していた。
魔導科学とは全く異なる体系で動くこのシステムは、まるで自分達から見ても魔法の様に敵を捕捉し、確実に敵を排除していた。しかも外れ無しで攻撃し続け、相手の戦意をへし折った様を間近で見ていたのだ。
「エーブレ。君はどう見る? このニッポンという国を。」
「……全く信じられん。誰かからこの状況を話に聞いたのなら、全く信じないどころか、そいつを嘘つきと誹謗中傷する事に躊躇を覚えんよ。一体、あの攻撃はどうやって目標に指向しているのだ? 何故、魔導機関も無いのにあれほどの動力がある? 一体、内燃機関とはどれほどの出力があるのだ。火薬とやらの攻撃力も、それを搭載しているはーぷーんとやらも、たったの1発で敵艦を沈めたんだぞ。どれほどの威力なのか正直底が見えん……」
「魔導科学技術部の君からして、そういう反応なんだな。味方につければ絶大だが、敵に回るとヴァルネクよりも恐ろしいという事か。」
「ヴァルネクなんぞ、我々と同じ理で動くのは変わらん。それ故に利点も欠点も理解出来る。だが、このニッポンの仕組みはどこからどこまでどうなのかさっぱり分からない。だが、敵に回れば恐ろしいという事は同意だ。なぜならば……」
「なぜならば?」
「我々はニッポンを捕捉出来ないだろう。何故ならば魔導機関を使っていないからだ。だが、ニッポンは我々を捕捉可能という事だ。どういう意味か分かるか? 先程、ヴァルネクの艦隊をいとも簡単に沈めただろう。しかも外れ弾が無かった。つまり、ニッポン側は我々の魔導機関を捕捉する能力を持っている。それがどういう仕組みでそうなるのかは分からないが。」
「……それは……我々は撃たれ放題、相手は撃ち放題、という事か。」
「ああ、そういう事だ。是非とも仕組みを解明したい。喫緊の課題となるだろう。」
スヴェレとエーブレが護衛艦みょうこうでこんな会話をしている頃、下浦一佐と柊は戦艦ルドビスキの艦橋に案内されていた。既に下浦一佐は、柊から説明を受けてヴァルネク連合軍によるラヴェンシア大陸侵攻も、非人道的な人口魔導結晶石の事も聞いてはいたが、全く素知らぬふりをして、初めて聞いた国という体でヴァルネクのジグムント大佐と話をした。
ジグムント大佐は事前にボルダーチュク法王に通信を行った結果、その強大な攻撃力を持つ国を自らの傘下に収めるべく、ニッポン国の情報を収集し、可能であれば教化せよとの指示を受けていた為、その線に従って日本の護衛艦艦長下浦一佐と対応した。
「我々は現在我等の住む等のラヴェンシア大陸で大陸統一の戦いをしている。今後ニッポン国には我等の傘下に入って貰うが、それには二つの条件が必要だ。一つ、我等ヴァルネクの国教であるレフール教に恭順する事。もう一つには、」
「待って頂きたい。我々は偶発的に戦闘に巻き込まれただけで自衛の戦いをしただけだ。それに我々は外交権を所有していない。当然、外交に関しては然るべき立場の者との交渉となるが、ここにその立場の者は存在しない。それと我々は外交を希望であるならば、対等な立場の者同士としての経済的文化的交流を望むが、そもそも何等かの戦闘を含む侵略的戦争行為は我々日本人は断固反対する立場だ。」
「な!? 貴殿は何を言っているのだ?」
ジグムント大佐は、日本の護衛艦艦長が何を話し始めたのか全く理解出来なかった。
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それよりも、島戦争更新バンザーーーーイ!!