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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
28/155

1_27.第一次ドムヴァル沖海戦

同盟軍艦隊後方深度40mの海底に潜む数隻の艦艇。

それはヴァルネク連合軍の秘匿兵器、魔導反応遮断装置を装備した潜航部隊だった。

魔導反応は、大なり小なり何等かの反応が発生し、それらの発生した反応の大小でどういった兵器であるのかを想定する。ヴァルネクの陸軍砲撃隊や海軍の艦砲射撃も、相手側の魔導反応を確認した上での攻撃だった。そしてこの海上での戦いの中で、両軍共に相手側の魔導反応を確認しながら攻撃と反撃を繰り返していたのだ。


だがこの潜航部隊の魔導機関は魔導反応の遮蔽を行い、完全に自らの存在を暴露する事無く、敵である同盟軍の後方に回り込んで優位な射撃位置を取りつつ潜航待機してたのだった。


「艦長! 教化第二艦隊ステパン中将より入電! 攻撃を開始せよ、との事。」


「よし……各艦深度20まで浮上し魚雷攻撃の準備。目標、前方のオラテア艦隊と思しき集団。各艦に攻撃目標を割り当てる。前方集団は当艦アウグストゥフと二番艦オルターデイン。後方集団は三番艦シュドルツェと四番艦オストルダ。それぞれ魔導魚雷を1番から4番まで撃ち込む。」


『こちらオルターデイン、発射準備完了』

『こちらシュドルツェ、発射準備完了』

『こちらオストルダ、発射準備完了』


「うむ。射撃後急速潜航し海底にて待機せよ。……魔導魚雷発射。」


魔導潜航部隊の計4隻から放たれた水中発射可能な魔導魚雷は全部で16本。至近距離から撃たれたオラテアの艦隊は、雷跡も何も見えないままに直撃した魚雷の大爆発により9隻もの船が突然沈んだ。オラテア艦隊旗艦アリートゥスでは全オラテア艦隊のうち半分近くが沈められた状況の上に、どこから攻撃されたのかが全く不明であり、どこを探しても自分達を攻撃した相手の姿が分からない。こうして既に戦闘続行は無理だという空気に支配されていた。こうした弱気を元にしたオラテア艦隊は、同盟艦隊の艦隊機動から徐々に離れ始め、遂には徐々に戦線を離脱し始めたのだ。


『艦隊司令アムンセンだ。オラテア艦隊、何故離脱する! 戻れ!』


『こちらオラテア艦隊旗艦アリートゥス艦長ヴァナガス准将だ。現在、正体不明な敵から攻撃を受けている。我が艦隊を防御する為の機動だ。』


『正体不明だと? 先程、突然爆発したのはそれか?』


『そうだ。敵の正体が分からん以上、距離をとって敵を確認後に攻撃を再開する。』


『馬鹿な! 我々は敵よりも射程が短い上に足も遅い。固まっておらんと各個撃破されるぞ!』


『それも理解はする。だが、既に我々は攻撃を受け戦闘艦の半数を失った。これ以上は損害に耐えられん。固まっておらんと各個撃破されるというが、裏を返せば固まって被害の分散化を図りたいだけだろう。我等オラテアはこれ以上の損害を受容出来ん。』


『ヴァナガス准将! よく考えろ! 貴様等が離れた場合、真っ先に攻撃されるのは』


『………ザザー……』


「なっ……ま、まさか? おい、オラテア艦隊はどうなった!?」


「魔導反応確認出来ません、オラテア艦隊が魔導探知機から突然消えました! 消える直近に何も無い海域から、高速で移動する魔導反応を複数確認しています!」


それっきりオラテア艦隊からの通信は途絶えた。ヴァルネク潜航部隊による第二波攻撃を受け、大爆発を起こして海底深く沈んでいったのだ。だが高速で移動する魔導反応を複数確認している、という事実は何等かの魔導反応を遮断するような仕組みを持つ敵の船が潜んでいるという事であろう、という事に気が付いたアムンセンは、急いで全艦隊に回線を開いて通達した。


『艦隊司令アムンセンより全艦隊に通達。敵の潜航艇型の艦艇あり、動力装置の魔導反応を遮断する装置を搭載している模様。即時戦闘を打ち切り、サライ王国に集結せよ。』


正体不明の探知出来ない敵がおり、しかも敵からは自由に攻撃可能なのだ。艦隊司令アムンセンはオラテア艦隊の惨状を確認し、即座に撤退の道を選んだ。だが、未だ数は連合軍よりも多いものの、敵連合軍の艦の方が優速なのだ。果たして逃げ切れるかどうか、アムンセンは逃げる方に賭けた。


長年、魔導探知機能は、潜水艦の類や偵察機の類の秘匿性を意味のない物にしていたのだ。魔導動力を使う限り、必ずそれは暴露する。それが故に、潜水艦のような船はいくら潜航深度が深くとも魔導反応により即座に場所が露見する事から、それなりの発展しかしなかった。だが、この魔導反応遮断装置は一定の条件下で潜航部隊を完全に秘匿していたのだ。これらの情報を持ち帰り、この遮断装置による効果が陽の目を見たならば、潜水艦以外にも活用の目は山の様にある。この実験艦隊でもある潜航部隊の指揮官グンドラフは魔導遮断装置の考案者でもあり、この戦いによって自らの功績が果てしなく広がるであろう事を実感していた。


「よし、あと魚雷は何発残っている?」


「当艦は残り4発、全艦隊で残り16発です。」


「ふむ……潜航艦は何れ改良の必要があるな。もっと魚雷を積み込める様にしないと、せっかくの攻撃力が勿体ない。敵の動きはどうか?」


「オラテア艦隊が壊滅した事で、どうやら逃げる方向に転じた様です。」


「なるほど賢明だな。我らが艦隊は追撃態勢にあるのか?」


「いえ……教化第二艦隊も後退中。ステパン中将からの指示も特にありません。」


「なんだと!? みすみすの好機を何故!?」


「わかりません。ですが教化第二艦隊は戦域を離れつつあります。」


「何だ。一体、何が起きているんだ?!」


この時ヴァルネクでは驚きの事態は発生し、急ぎ戦闘中の艦隊を引き戻すように指示を出したのはボルダーチュクだった。それはロドーニアに対してほぼ被害を受けずしてロドーニア東方を砲撃や爆撃で荒らした後で南方方向に大きく迂回し、オクニツアまで戻ろうとしているヴァルネク特務連合艦隊から入った情報だった。


ヴァルネク特務連合艦隊は帰りがけに嵐の海海域を航行中、正体不明の近代的な船と接触した。

だがこの正体不明の船は、一切の魔導通信に反応しなかった。そして奇怪な事に魔導探知装置に反応に全く反応せず、正に艦隊の前方30km程に突然現れたのだ。特務連合艦隊のジグムント大佐はこの正体不明の何者かを探ろうと、更に言うと接触をしようとしたのだ。しかしラビアーノ艦隊のドッテイル将軍は即座に撃沈を主張した。こんな海域で接触する連中など、当然同盟国か、その息のかかった連中に決まっている筈なのだ。


「ジグムント大佐、貴殿は分かっていない。この海域には敵しか存在しないのだぞ!」


『まて、ドッテイル将軍! 艦隊司令は私だ、私の命令に従って貰う。敵対行動を取るな!!』


「そこが分かっていないと言うのだ。我がラビアーノ艦隊はこれよりこの正体不明の敵を排除する。」


『貴様、重大な連合協約違反だぞ、ドッテイル! 今直ぐ敵対行動をやめろ!!』


「おい煩いぞ。魔導通信を切ってしまえ。沈めた物勝ちだ。おい、あの船に照準合わせろ。」


「閣下……照準が合いません。魔導反応がありません!!」


「なんだと? 動力を切っておるのかもしれんな。おい手動で合わせろ。観測員! 着弾見張れ!」


「あっ、て、敵艦動き出しました。ですが…ま、魔導反応ありません!」


「なんだとう?一体どうやって動いておるのだ? まあよい、手動で自由砲撃だ。前方の敵艦を各艦自由砲撃せよ!」


こうしてラビアーノ艦隊は、自由に謎の船に対して攻撃を続けるが、そもそも魔導反応が無い為に全ての砲が目視で射撃を行わなければならない事から、敵の船には全く当たらなかった。だがジグムント大佐がラビアーノ艦隊を制止するよりも早く敵の艦からの攻撃がやってきたのだ。それは大きな筒のような物で、とても兵器には見えなかった上に、魔導反応が一切検知されなかった。だが、突然、煙と共に正体不明の敵から射出されたそれは、真っすぐにラビアーノ艦隊旗艦ツェージスの艦橋に飛び込み突き刺さったかと思った瞬間に大爆発を引き起こし、ツェージスを真っ二つに引き裂いて撃沈した。そして次々とこの筒が飛んできては一発でラビアーノ艦隊の戦艦を沈めて行った。


茫然とこの光景を眺めていたジグムント大佐は、我に返ると慌ててラビアーノ艦隊に対して砲撃中止を叫び、ようやく止めた頃には既にラビアーノ艦隊は10隻まで数が減らされていたのだ。こうしてジグムント大佐は魔導通信を慌てて開き、本国に確認の連絡を入れた事から、本国のボルダーチュク法王の判断は、確認出来ない新たな敵の存在、しかも海軍が強力と思われる敵の存在を確認し、今ヴァルネクが持つ海軍を一度下げて、新たな敵にぶつける方向に方針を決定したのだ。その結果、同盟艦隊率いるアムンセンを救う事となったのである。


そして、ジグムント大佐の艦隊の前に、正体不明の艦艇から奇怪な浮遊機が飛んできた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『魔力を隠せる兵器』と『魔力に一切頼らない兵器』の恐ろしさが分かる回でしたね。まぁ連合にとって魔力に頼らない機械文明なんて想像すらできないでしょうし…
2021/07/13 19:36 退会済み
管理
[一言] 返信前コメの後に読みました… 水上艦も潜水艦も駆動系はスクリューなんですな? 無音で航行できるわけではないと…
[一言] 海中で通信可能なんですね、魔導は… 音で探知するなんてこの調子だと知らんかな? 潜水艦の騒音を気にしていないかもね… いきなり交戦状態に入ったですか… しかし、その状況でヘリ飛ばすのはちょ…
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