1_24.中央戦線、戦闘開始
キウロスを出港したヴァルネクの艦隊はロジャイネ沿岸を経由してドムヴァル海岸地域を狙える場所に移動していた。ヴァルネク海軍の艦隊構成は、ヴァインヴェック中将率いるヴァルネク海軍教化第一艦隊に所属する戦艦が2隻、重巡洋艦3隻、巡洋艦5隻、駆逐艦12隻を中心に、コルダビア王国海軍、マルギタ国海軍を合算すると総計120隻にも及ぶ大艦隊が集まっていたのだ。
「ヴァインヴェック提督、時間です。」
「良し、通信開け。……全員傾注!本艦隊はこれより当初予定に定められたドムヴァル沿岸への砲撃を開始する。予定では我等第一次攻撃隊が海岸を攻撃を開始、予定時間を以てキウロスに帰港する。絶対に同盟艦隊との交戦を避けよ。同盟艦隊への攻撃は第二次攻撃隊が担当する。各艦、当初予定目標を指向、予定時間に砲撃開始せよ。」
「司令部より入電、特務艦隊ジグムント大佐のロドーニアへの奇襲成功との事です」
「そうか。……オクニツアの同盟艦隊の動きは?」
「長距離偵察機からの報告ですが、今の所ロドーニア方面へ移動する動きはありません。変わらずオラテア方面に西進中。」
「ふむ、同盟艦隊は陽動には引っ掛からなかった様だな。まあよい。どの位でここに着く?」
「最速での接敵時間は22時間後の予定。」
「22時間後か。よし存分に当初の計画通りにドムヴァル沿岸への砲撃を開始する。陸上のヴァルネク第四軍に、これよりドムヴァル内陸を砲撃すると連絡せよ。教化第二艦隊にも接敵予定時間を連絡せよ。」
「了解しました。」
中央戦線に集結した両軍のうち、北方のドムヴァル海岸付近に集結していた同盟軍は主力がドムヴァル陸軍及びオラテア陸軍その他の諸国軍が合わせて20万が集結していた。この同盟諸国の陸軍戦力が展開した陣地に対し、連合軍艦隊からの艦砲射撃が開始された。この攻撃により、同盟軍の北方陣地は大混乱に陥った。
「なんだ! 何事が起きているっ!!」
「敵の攻撃だ! これは艦砲射撃です! ヴァルネクからの攻撃です!」
「遂に来たか。全員退避所に行け。天蓋がある建物に避難しろ! 砲撃が終わったら敵軍が来るぞ!!」
だがヴァルネク連合は執拗に陸地に向かっての艦砲射撃を続けた。
その砲撃は事前の取り決めの通り、海岸線から内陸の射撃限界までをブロック分けした上で定められた区画に存在する一定以上の魔導反応が消え去るまで砲撃を行い、消え去ったのを確認後に次の担当区画への砲撃を開始するという念の入った物だった。
この大陸における砲弾は二種類あり、一つにはエネルギーを放出しながら使い切る物と、一瞬にエネルギーを解放するタイプがある。主に小火器における砲弾は殆どがエネルギーを放出しながら使い切るタイプであり、所謂重火器に使用する物は、瞬時にエネルギーを解放するタイプが使用されていた。前者はエネルギーが尽きるまで連続的な使用が可能であり、後者は瞬時なエネルギー解放時に、このエネルギーが全て熱と衝撃に変換される為、この解放影響内が破壊される事を利用した物だ。ヴァルネク連合が使用している艦砲射撃は後者であり、この影響範囲内は地獄の様相を呈していたのだ。
ドムヴァル海岸線では逃げ遅れたドムヴァル兵達の屍が晒されていた。ヴァルネク艦隊からの艦砲射撃は止む事が無く降り注いでおり、待っ先に大きな被害を受けたのは重火器と自走魔導砲の弾薬集積地域だった。これらの場所には魔導反応に強く反応する弾薬や、自走する魔導動力機の類があり、それらはその地域を担当する戦闘艦の魔導探知機によって反応確認と同時に艦砲射撃を受け壊滅した。中央戦線北方の海岸線地域は艦砲射撃によって同盟軍の戦線維持が難しいと判断し、後退指示を出した頃には前線の砲も、兵も、そして弾薬集積所も何もかもが粉砕された後だった。
そして、中央戦線北方前線部隊の壊滅と時を同じくして、中央戦線中央部も同時にヴァルネクは砲撃を開始していた。中央と南方には艦砲射撃による助攻が無い代りに、ヴァルネク陸軍は砲兵部隊を重点配備していたのだ。そして偵察浮遊機による観測と魔導探査を組み合わせた砲撃は、同盟軍に絶望的な被害を齎した。
「観測機より連絡、敵集積所発見。砲撃をグリッドE-5に要超重砲撃求む。」
「グリッドE-5、魔導反応確認。反応の強さは敵集積所と思われる。観測班の攻撃要請を承認する。」
「こちら第33重砲連隊、観測班及び魔導探査班からの攻撃要請を受領。これよりグリッドE-5に超重砲による攻撃を開始する。超重砲装填開始。」
「超重砲装填完了! 目標に砲身を合わせろ…座標グリッドE-5に指向完了!」
「良し、目標グリッドE-5、各砲門一斉射。」
「了解、超重砲発射。」
重々しい響きを伴った発射音と共に、巨大な砲弾がヴァルネクからはグリッドE-5と呼ばれた地域に向かって飛んで行く。この砲弾は、通常の12倍の魔導結晶石を装填された砲弾で、射程距離は短いが着弾と共に周囲1kmを吹き飛ばす程の威力を持っていた。また、砲身はこの超重砲専用の砲身を使用しており、このシステムを稼働させる為に60名もの専用兵を用意しなけらばならなかった。だが、1か月もの期間はこれら重砲連隊の配備を可能にしたのだ。ヴァルネクは初戦時における前線突破の切り札として前線の中央と南方にこれら部隊を集中配備し、この瞬間をじっと待っていた。同盟軍はこれらの超重砲攻撃をまともに受けて前線に構築していた陣地は全域でほぼ壊滅的被害を受けた。しかも、ヴァルネクによる空からの観測と魔導探知機による同盟戦力の集中部分に対しての砲撃は正確無比に同盟軍の戦力を粉砕した。
ドムヴァル陸軍の第12防衛師団を指揮していたアハティ将軍は、次々に入る自軍に対する被害報告に蒼白となった。突如始まった敵の砲撃は極めて精確で確実に自軍の戦力を削いでいた。しかも早々に何の反撃も出来ないままに、前線は溶けていった。
「通信兵!総司令部に連絡、後退要請だ!」
「了解しました将軍! こちら12防衛師団、後退許可求む!」
「こちら総司令部、後退は許可出来ない。」
「将軍、後退要請が却下されました!」
「なんだと? おい、代われ。総司令部、12防師のアハティだ! 敵の砲撃が始まった。敵の攻撃は正確無比で我々を攻撃している! 既に前線での抵抗は不可能だ。早急な浮遊部隊の援護か、後退の許可を寄越せ!!」
「総司令部より通達、各師団は定められた防衛範囲を堅持せよ。これより浮遊部隊を送る。通信以上!」
「なんだと! おい、貴様! 既に我が師団の戦力は4割減だ!! ……切れている、くそっ!!」
「閣下、如何致しましょうか?」
「如何もクソもあるか! 早急に部隊を纏めろ。ここに居たら何も出来ぬままにあの砲撃の餌食だ。各大隊に俺の名前で後退を指示しろ!!」
「ですが、総司令部は……」
「安全な所からあれこれ指揮する糞共が、我等の命を何だと思って居る! 後退しろ! 責任は俺が取る!」
中央戦線は、同盟軍総司令部の指示に従った部隊から順に殲滅されていった。そして命令に従わず、後退を選んだ部隊は生き残ったが、命令違反のかどで軍法会議となった。こうして、中央戦線において最も戦力を失ったドムヴァル陸軍の士気は初戦にして最悪な状態となった。
そして、それは北方のソルノク軍も同様の状態だった。
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
それにつけてもブックマークの伸びの悪さよ…(遠い目
これから、これから面白くなりますから!多分…きっと…おそらく…