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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_19.ドゥルグルの陰謀

「今回の評議会呼び出しは一体何事なのだ、マローン?」


「ふーむ、それがな。……どうやら、東方に追放された魔導士エヴァハが死んだ様なのだ、ロートリンク。」


「何を馬鹿な。奴は恐らくこのドゥルグル魔導帝国の中でも殆ど居らぬ不死の術で自らをアストラル化するに至った者だ。それに東方世界は蛮族の集まりだぞ? 奴を殺せるような何か何ぞ在りはしない。何かの間違いではないのか?」


「うむ、それがな……奴が数日前に何か強大な魔法術式を発動させたらしいのだが、それ以降に奴の反応が無い。幾ら探りを入れても全く反応が無くなったのだ。ただ余りにもここから遠い為に感知魔法が届かない、或いはこちらの探知を逃れる方法を編み出したか、もしくは何か全く別の可能性もあるのだがな。貴様もエヴァハの所在を探知してみろ。」


「……確かに見つからん。もしや、何か異界から奴が制御出来ぬ物でも呼び出したのか?」


「分からん。だが、奴が東方世界に数百年も前から引き篭もっていたのは我々にとっても好都合だった。奴がその気になれば、我々ドゥルグル魔導帝国もタダでは済まんからな。あれから我々の魔導科学も相当に進歩を見たが、どうにも奴を倒せるとは思えなんだ。それが故の東方世界への進出断念だったが、奴が消えたのなら……」


「待てまて。エヴァハの奴でさえ制御出来ない代物を呼び出したとすると、それはそれで危険だ。先ずは情報を集めん事には手出しもなにも出来んでは無いか。全く彼奴めは一体どんな化け物を呼び出したのやら、死して尚迷惑な。」


「そうだな、テレントン。まずは情報だろう。幸いな事に、ラヴェンシア大陸にある国の一つであるヴァルネク法国には我々の密偵が入っている。ラヴェンシア大陸統一を行うようにヴァルネクの支配層に精神操作を施してきたが、漸く動きがある様だ。禁断の外法も教えたしな。それに東方世界のラヴェンシア大陸にはこの世界を司る12の秘宝の一つ"カルネアの栄光"が眠っている筈だ。それがどんな力を持つかは知らんが、あの蛮族共に発見されると厄介だ。逆にそれさえ入手出来たのなら、その化け物にも対抗出来るだろう。」


「カルネアの栄光か。大層な名前だが何が出来る事やら。」


「さあな、ノールゴント。何れ、蛮族共が早い所ラヴェンシア大陸を統一する事を祈ろう。我々は、その後に戦争で疲弊した蛮族共に神として君臨する。ああ、それとだ。例の不死に至る関連情報は全て抹消しておけよ、ロートリンク。第二のエヴァハが出ると厄介だ。」


「心得た。だが実の所、あのエヴァハの不死の法も失敗に過ぎぬのだがな。結局アストラル化とは聞こえが良いが、生身の肉体を持って不死に至る方法など無い。それが分からん馬鹿どものなんと多い事か。おまけにアストラル化と共に吸精まで身に着けて、近寄る人間を全て殺してしまうからな。何百年が過ぎてもエヴァハの惨劇は語り継がれているだろうに。」


「ああ、エヴァハが居た頃のドゥルグルの魔導士は頭のいかれた奴が多い時代だったからな。今では数多ある禁忌が禁忌として確立されておらん時代が故に、やれ不死だ、やれ永遠だと皆が研究してはエヴァハの惨劇のような事が立て続けに発生した。エヴァハの場合は、不死の存在が確立した瞬間に周囲の人間が瞬時に何百人も死んだからな。しかも殺せない事が判明した時点で東方世界に放逐という形でご退場願ったのだ。だが、それを殺す存在か……」


ここドゥルグル魔導帝国の評議会には8人のメンバーが揃っていた。

彼らが皆が口々に出したエヴァハという男は、東方世界における嵐の海に存在した不死の大魔導士の事だった。そして、彼を生み出したドゥルグル魔導帝国自体が彼を持て余した結果、東方の中央ロドリア海への放逐をした過去があった。決して死なぬ存在であった筈の大魔導士エヴァハの死は、帝国評議会のメンバーを集めるに当然の理由だったのだ。恐らく、彼らはエヴァハが魔法術式によって呼び出した制御不能の何かがこの世界に解き放たれた物、とマローンは判断していた。


ドゥルグル魔導帝国はラヴェンシア大陸の西南方向に位置し、両国の交流は余り無い。ドゥルグル側がラヴェンシア大陸の勢力を蛮族と見なしていたからだ。それは彼らが自らの魔力を使う事無く、魔導結晶石に頼るという言わば邪道な方向に科学を発展させ、正道である魔法科学の発展が捻じ曲げられて進んでいる、と見ていたからだ。


また、ドゥルグルの魔導帝国は、過去数百年に渡り古代に滅んだ世界を統べていた古代帝国の遺産を探し続けていた。これらは12の秘宝と呼ばれ、それぞれに固有の力と名が冠せられていたのだ。古代の文献を解析した結果、そのうちの一つである"カルネアの栄光"という名前だけが判明した物がラヴェンシア大陸中央部に密かに隠されているという。その為、魔導帝国評議会のマローンはヴァルネクに密偵を送り込み、人造魔導結晶石の製造方法を彼の国の科学者に秘かに伝えていた。それから数年後、ようやく野心的な法王ボルダーチュク即位と共に法王に接近し、ヴァルネクを戦争の道に誘導したのだ。


「そうそう、忘れていたぞ。ラヴェンシア大陸西方でのヴァルネクの戦いで大規模な魔法発動の反応があった。どうやら、未だ大規模魔法を使える術者がラヴェンシア大陸にも居るらしい。全て魔導石とやらで代替するような邪道者ばかりかと思っていたが。ただ、問題なのはヴァルネク側ではなく、敵側だと言う事だ。」


「それで、魔法発動の結果はどのように?」


「大勢にはほぼ影響無しだった。敵側は海に落とされ北部に集まっているようだ。だが、これまでの所、カルネアの栄光と思しき物は見つかっては居らん。もしや中立側の領地にあるのやもしれんな。」


「中立というとあれか。魔獣の巣を持つ森林地帯がある所か。秘宝とは得てしてそういう場所にあるのだろうよ。」


これを聞いた評議会一同は一斉に破顔した。

ラヴェンシア大陸での中立国は大森林地帯が横断しており、その中には魔獣の巣が幾つもある事から人が入る事を拒んでいた。それが上にヴァルネク連合も中立国の主張を尊重し、立ち入らない様にしていたが、何れ大陸をヴァルネクが制覇した場合には、中立国への侵攻も視野に入れさせるべく工作をしなければならない。


「まぁ、まずはヴァルネクへの工作は大陸が奴等の手に落ちるまでだ。大陸の中立国への干渉云々の前に、連中が余り増長せぬ様に制御可能な状態とせねばならんのだが、分かっておろうな、マローン?」


「勿論に御座います、ファーネル議長。奴等が手にする技術は我々に幾世代も前の物。幾ら増長しようとも、我等が本格的に対処を行った場合は立ちどころに雲霧四散する事でしょう。それよりも、東方世界に呼び出された可能性のある異界の何かの方が危険度が高い。彼奴は一体何を呼び出したのか、これを探る事も重要でしょうな。」


「ふむ、そうだ。ラヴェンシア大陸への工作と合わせて探りを入れておけ。良いな? 私は皇帝陛下にラヴェンシア大陸でのヴァルネクの件の現状報告を出しておく。」


「心得ております、ファーネル議長。」


こうしてドゥルグル魔導帝国の評議会はこの日の協議を終えて解散した。

帰路につく評議会議員のマローンは、魔導士エヴァハが呼び出したであろう異界の何者かについて思案していた。奴はアストラル化しているが故に物理的な攻撃を受け付けない。また、幽界から引き出す力によって魔法攻撃の類もそれ程に効かない状態となっていた筈だ。それなのに、一体どうやって。そういう類の者を攻撃可能な、そして殺し切る事が出来る方法を持つものが呼び出されたという事だ。とするならば、アストラル体に有効な攻撃方法を持つ何等かの存在……

マローンが思いつく限りの過去の情報にはそういう事が可能な者の答えは無かった。

カルネアの栄光とは何か? と質問が多かったので、多少前倒し。

そうです秘宝の一つです。でも何が出来るかは未だ分かりません。

そんな訳で、ドゥルグルの名前が随分久しぶりに出ました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここにきてようやくタイトル回収。さて、日本はどの様に巻き込まれる事になるのやら…
2021/07/03 13:31 退会済み
管理
[良い点] 更新お疲れ様です。 あっ、ちゃんと国家転移モノの王道に従って「敵が順番に強くなる」んですね。 というかドゥルグルは現状敵側の黒幕国、という立ち位置でしょうか。 日本もどっちかというと黒幕ポ…
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