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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_14.同盟の抵抗

4月22日より始まったヴァルネク連合の全面攻勢により、僅か1週間のうちに同盟軍はリェカ王国、ベラーネ公国、ジリナ公国を同時に失った。残るは海岸に面するオクニツアと内陸のサダル国だけとなった同盟軍は、消極的抵抗を行いつつ後退を重ねていた。サダル国北部の国境付近には、ヴァルネク連合の5個軍が集結し、突破作戦を企画しているのは明白な状態だったが、ヴァルネクの5個軍は中々に攻め入っては来なかった。そしてヴァルネクが攻勢に出ない理由は、ロドーニアの魔法士による大規模魔法攻撃を警戒しての事だったのだ。騒めくヴァルネク連合司令部では、各軍の代表が集まり戦況図を前にあれこれと協議を重ねていた。そこに、ヴァルネクの法王ボルダーチュクが現れ説明を始めた。


「同盟解体作戦の第三段階を説明する。アンゼルム将軍のコルダビア第一打撃軍はジリナ南部からのサダルへの侵入を行う。エウゲニウシュ将軍のヴァルネク第三軍はベラーネ南東から中央サダルに侵入し、サダル東部国境でコルダビア第一打撃軍と連結する。フランチシェク将軍のヴァルネク第四軍は第三軍と並走した後にサダル東部国境で南下せよ。シルベステル将軍の第一軍はリュカから出撃、サダルまで南進して東部オクニツア国境まで制圧する。グジェゴシェク将軍の第二軍はマゾビエスキから出撃し、東部オクニツア国境まで東進した上で第一軍と連結する。次にエストーノ海軍はザラウを出立し、すぐにオクニツアの全ての港を封鎖せよ。マルギタ海軍はキウロスを出立し、ドムヴァルの港を攻撃。マルギタ陸軍の二個軍はコルダビアの後詰となってサダル国国境を防衛せよ。各々方、宜しいか?」


「概ね作戦と狙いは分かった。だが、これだけ密度の高い戦いとなると例の魔法士の攻撃は大丈夫か? 正に待ち構えた所に突っ込んで行く状況は、まさに大規模魔法攻撃にうってつけの状況ではないのか?」


「サダル国に対する同時侵攻作戦の肝は正にそこにある。サダル国境を5個軍で同時に突破するのだ。例の魔法士が何人居るかは知らんが、これ程の規模で攻撃を行った場合、どこに焦点を合わせたら良いのか連中も混乱するであろう。そして、例の魔法攻撃は連射が効かぬ様だ。どれかの軍が犠牲になったとしても、戦場の大部分は我等が支配する事となる。」


言うのは簡単だが、1個軍を丸々殲滅するロドーニアの魔法攻撃があと何回行われる事となるのか、何人の魔法士がロドーニアからやってきているのか、ヴァルネクには何も情報が無かった。それが故に国境突破からの侵攻速度は自然と加速するように動いていた。つまりは乱戦に持ち込めば敵の魔法士も攻撃出来なくなるだろう、との読みだったのだ。だが、大規模魔法によって滅せられる立場となれば話は別だった。


「これだけ広範囲に我々は展開しておるのに、何故今迄ヴァルネクには魔法攻撃が行われなかったのだ?」


「そう、此度も我々コルダビアがあの魔法攻撃を喰らうような状況が発生したならば、用兵的にヴァルネク以外の軍が被害を受けるように立ち回っているという疑問が沸くのだが。」


エストーノとコルダビアの代表者は、今迄の戦いの中でロドーニアの魔法攻撃を受けて殲滅された側である。どれかの軍が犠牲になっても、などという言葉自体が犠牲を払ったエストーノとコルダビアにとっては看過出来ない言葉だったのだ。しかも二回の攻撃で何れもヴァルネクには被害は無かったのだ。その為、この被害を受けた2ヵ国以外にもヴァルネクに対しての猜疑の感情は武器の提供が未だ進んでいない事もあって深く静かに広がっていたのだ。


「馬鹿な! 我々ヴァルネクは敵の魔法士がどこを攻撃しようとしているか当然分からん。勿論我々が魔法攻撃に合わなかったのは偶々だ。次には我等の軍が例の魔法攻撃の目標となるやもしれん。だが、現状で敵同盟に対して攻撃を躊躇していては奴らにとって一番必要とする物をむざむざと与える事となる。それが故のサダルに対する攻勢なのだ。ところで、オクニツアの戦線はどうなっておる?」


「ザラウ軍とオラデア軍が共同で国境突破を図っておりますが、オクニツア西端部分にあるテナーチェ要塞に立て籠もる同盟軍が思いの外頑強であり、両軍の攻撃を受けても突破出来ておりません。」


「ふむ……それでは艦隊に要塞を攻撃するように伝えよ。それと航空浮遊軍のアロスワフ将軍。浮遊機部隊の一部をオクニツアに差し向け、要塞を空から攻撃せよ。グジェゴシェク将軍、ヴァルネク第二軍はマゾビエスキ南東部よりサダル西端からオクニツアに侵入して要塞後方の補給線を寸断した後に、後方からオクニツアの要塞を攻めるのだ。良いな?」


こうして西方に孤立した5ヵ国の同盟諸国は、既に2ヵ国に打ち減らされてヴァルネクの大攻勢に晒され続けた。だがオクニツアの同盟国軍はテナーチェ要塞を筆頭に抵抗を続けていた。そして抵抗によって稼いだ時間を、全て国民と軍の脱出に使っていたのだ。だがオクニツア海軍もロドーニア海軍も全ての人員を乗せる事は出来ない。そんな中、ザラウから出撃したエストーノ海軍がオクニツア領海に侵入し、テナーチェ要塞に砲撃を加えてきたのだ。


「ロアーム殿、もう少し上昇しますか?」


「いや、遠くまで見通せるこの場所で良い。だがエストーノ海軍はあれで全てなのかな?」


「…3、4……小さな船はどうだか分かりませが、大型の艦艇は恐らくエストーノ海軍の主力があの海域に全て揃っておりますね。」


「よし、それではあの大型艦艇を中心に攻撃を行おうと思うが、宜しいかな?」


「一応、本部に確認しますので少しお待ちください。……こちら第一特別攻撃部隊。目的海域上空に到達、目標選定中。敵ラビアーノ艦隊及びエストーノ艦隊旗艦を含む戦艦5、重巡12、軽巡20を想定枠内に収めております。回線をロアーム殿に繋ぎます、指示お願いします。」


『ロアーム殿、私はオストルスキのミハウだ。その艦隊以外に周辺に大きな船は居るだろうか?』


「ミハウ殿、下に広がる敵の船だが、ここに来るまでに聞いた船の数よりも多いので、恐らくは私の攻撃範囲内には殆ど全てを捕らえていると思う。攻撃範囲の外には小さな船が多少居る様だが、それらは脅威とならぬだろう。」


『了解だ。それではロアーム殿のタイミングで発動させてくれ。ただ、早急に頼む。艦砲射撃をこれ以上喰らうと要塞が持たんのだ。』


「心得た。それでは早速に展開開始する。」


こうしてロアームが放った大規模魔法は、海の上であっても同様に作用した。この大魔法発動範囲の海域に同盟軍は居らず、エストーノとラビアーノの海軍だけであった。この事は再びヴァルネク軍以外に被害が発生した事により、連合内でも後々大問題へと発展したのだ。だが、エストーノとラビアーノの立場では史上空前の大被害が発生した事になった訳だが、ヴァルネク連合軍全体の状況から見ると連合が終始優勢に進めてきたこの戦争で、オクニツア=サダル攻勢は遂にヴァルネク連合軍がオクニツアで最後の仕上げを行おうとする正にその最高潮の瞬間だったのだ。


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