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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
141/155

2_32.ヴォートランの空襲

補給の滞ったヴァルネク第一軍が、行動の自由を取り戻す為に、第一軍参謀であるウーラム大佐は南方に展開するグゲゴシェクの第二軍からの補給を受ける提案を行った。

だが、シルヴェステルはそれを無下に却下した。


グゲゴシェクの第二軍もまたロジュミタールを前にして停滞しているが、この停滞は計画した物だ。それはロジュミタールが裏切りを予定しており、同盟瓦解を狙うタイミングでそれを実行するというボルダーチュクの計画のためだ。そのため、第二軍には魔道結晶石が潤沢であり、補給を受けるに足る量を確保していると想定したウーラム大佐の提案をシルベステルは却下したのだ。それは戦後を考えた場合、総軍指揮の地位を狙うシルベステルにとってグゲゴシェクからの借りがあってはならなかったからだ。


現状で弾薬に回すべき魔道結晶石を移動に回すような状況では無い。

ただそれは、完全に同盟軍が守勢にまわっているが故の余裕である。

そしてもう一つ、不可解なのは主兵站線とはいえ数ある補給線の一つに過ぎないソルノク補給路が断たれただけで、こうまで前線に影響が出る事だった。これは他にドムヴァル方面を経由する兵站線の方が重要であり、むしろこちらの方が断たれた場合の影響の方が大きい筈だったが、ソルノク方面の兵站路が主兵站線として機能していたのだ。


それは当初ヴァルネク第二軍への兵站をソルノク方面に担っており、ドムヴァル兵站路は第一軍が使用していたのだが、サライ国境を突破した事により、これらの兵站線が相互に離れすぎた事により輸送効率が落ちた事を理由としてソルノク方面を主たる補給線として設定し、ドムヴァル南方から第一軍への補給路を接続するように設定されていたのだ。それは道路が整備されているソルノクを経由して補給・補充を行う方が、数度の戦闘で道路が壊滅状態となったドムヴァルよりは遥かに利用しやすいというのが主たる理由だった。


だが、ソルノク兵站基地が壊滅した今、ヴァルネク第一軍への補給が第一の課題となっていた。

その第一軍はオラテア国境50kmの地点であるラーチ村に集結し、戦闘状態を保ったままオラテアに向けての前進を止められていた。勿論、前進停止は法王ボルダーチュクの命令である。


『シルヴェステルよ、第一軍は停止させたか? 万全の補給体制を敷くまでは一歩も前進する事、まかりならんぞ』


「猊下、無礼をお許しください。我が軍はオラテア国境を現装備を以って突破可能と判断します。どうか前進許可を!」


『ならぬ。あくまでも補給線再開までは現地にて待機せよ。完全な体制を以って完膚なきまでにオラテアを蹂躙する為には、十分な補給状態を維持せねばならん。現状でそれは失われているのだ、シルヴェステルよ』


「ですが猊下!」


『くどい、シルヴェステル。既に海路にて補給路を再開するべく動き出しておる。貴様の第一軍への補給は早晩解決する。それまで数日の間、待機せよ』


ボルダーチュクは、現状の同盟軍の継戦能力から既に防衛能力は失われたか、或いは失われる寸前であると見ていたのだ。それが故に数日の待機が態勢に影響を及ぼすとは全く考えてはおらず、また現状の第一軍の状態からも、仮に数度の戦闘を経たとしても、魔道結晶石不足となる事は考え辛いと考えていた。


それよりも補給補充の体制不備から再び同盟軍の後退を許す事よりは、潤沢な魔道結晶石による圧倒的な火力を以って同盟軍の抵抗する心をへし折る事に主軸を置いていた。この状態にする事で戦闘で失われるかもしれない我が軍の人命を救い、そして対する敵同盟軍を無抵抗の状態で捉え、そして魔道結晶石化するには人命の損失は即ち魔道結晶石の損失に直結するのだ。


このラヴェンシア大陸東方制圧が終えたならば、次なる東方のヴォートラン、そしてニッポン、さらには東に広がる未知の大陸に続くであろう遠い遠征がボルダーチュクには控えているのだ。既に結果が見えたこの戦いで要らぬ損失を被りたくは無い。

それがボルダーチュクの考えだったのだ。


だがシルヴェステルは、この待機の期間があればある程に同盟諸国の防御態勢が高まる事を危惧していた。

そしてその危惧は地上軍では無く、ヴォートランの爆撃隊によって齎された。144実験中隊がソルノクを睨むロジャイネのボスート基地に張り付いた事によって、第一軍の防空担当は通常通りの浮遊軍が担当する事となった。だが、この第一軍のエアカバーを担当していた浮遊軍は旧式の内燃機関式浮遊機を探知する能力が60km程度しか無い探知装置しか無かったのだ。

つまり、60kmまでの接近を許した時点でヴァルネク側に対抗する術は無かった。


・・・


ここロドーニアのトーン空港ではヴォートランから届いた武器弾薬、そして補充品が積み上げられていた。

その中で、エミリアーノ大尉は第三空中艦隊司令のラッザロ大尉と入念な打ち合わせを行っていた。


「既にヴァルネクは勝った積りで居るらしいが、案の定足が止まったぜ、エミリアーノ」


「おお、ソルノクの兵站破壊作戦で結果が出てきたって事か。で、ヴァルネク第一軍の連中はどの辺りで止まった?」


「今の所、オラテア国境手前50kmの所で停滞中だ。こいつらが恐らく主力だろうな。地図を見る限りサライの国境を突破して以降、まっすぐにオラテア国境を目指している。ニッポンからの情報によると、地図のここ……ラーチ村? この辺りで停止しているな。例のドローンからの報告だと、このラーチ村後方30km程度にヴァルネクの航空基地と魔道結晶石とやらの集積所が数か所ある。恐らくは、ここの敵装甲車両に空襲をかけると相当入れ食いになるだろうな」


「まあ、停止といっても直ぐに補給路は回復するんだろうが、それでもこの一撃を入れる事によって主攻撃軸に被害が出れば、更に数日の猶予が出来るだろうな。次の船便は何時頃に入港だ?」


「ラッザロよ。お前自身がその辺りの情報をちゃんと覚えろよ。予定では5日後だ。次の入港にはアマナート大尉とニッポンへの出張組が原隊復帰する予定だ。そうなれば俺は第二航空艦隊に移動となる」


「ん? 第二航空艦隊? すると……次の入港には追加の機体が来るのか? ていうか、ニッポン軍のジェットの機体がここにあればもっと事は簡単に済むんだけどなぁ……」


「ああ、まあそう言うな。俺達がジェット機体を開発可能となるには未だ数年かかるだろう。運よくニッポンから供与されたとしても、あれはレシプロ機とは全く違うから、直ぐに戦力化出来る訳じゃない。俺達は俺達の出来る範囲で進むしかない。たが、幸いにして手探りで進む訳じゃなく、ちゃんと正解のお手本が存在するという幸運を感謝しないとな」


「違いない、ま。アマナート大尉も久しぶりに会うんだ。ニッポンでのシゴキの話でも聞かせて貰おうぜ。その前に一仕事入りそうだが」


「ふ、そうだな。その一仕事なんだが、今回は新型爆弾を使う」


「新型爆弾? どういう奴だ?」


「クラスター爆弾と言ってな。大きな爆弾の形をしているが、その中身には小さな爆弾が沢山詰まっている。そいつが空中でバラけて敵軍の頭上に小さな爆弾をばら撒くという奴だ」


「えげつねえ……それはアレか? ニッポン軍の兵器か?」


「あーその辺りは複雑な事情があってな。設計図はニッポンの物だが作ったのは我が国だ。形としては我が国がニッポンからの情報を得て試験的に作らせてほしいと願い、その代償としてある原油をある程度譲渡するという形になった。といっても、内実はニッポン側のヴァルネクを危険視しているある勢力が政府に働きかけて、ヴォートランがこの戦争に協力する限りにおいて一定の武器や情報を解禁する様に動いたと見ている」


「まあ、人間を魔道結晶石化するなんて訳がわかんねえ事しやがる国だからな。だが、そんなえげつねえ兵器の情報持っているニッポンの危険度も相当なモンだぜ」


「そう言うな。少なくてもむやみやたらと武器振り回す様な事をニッポンはしてこない。一応だが、条約や約束事をベースに止むを得ずという形で動いているしな。ま、例のタカダ機関はどうだか知らんが」


「なんだ、そのタカダ機関て?」


「タカダさんと例の傭兵達だよ。ああ、民間戦争会社だったっけな。PMCとか言われても何の事だかピンと来ないが、俺達爆撃部隊の間じゃタカダ機関と呼んでいるんだよ。分かりやすいだろ?」


「へっ、そいつぁ良いや、タカダ機関ね。俺もそう呼ぶわ」


「という事で、次の出撃の話だが。ラーチ村に集合しているヴァルネク第一軍が攻撃目標だ。第三航空艦隊の皆も集めてくれ。例の動きの良い浮遊機って連中が出張る可能性もある。侵入ルートから爆撃ルートまで設定と脱出路の設定をこれから打合せしよう。第一航空艦隊の皆も既に控えている」


「了解だ、直ぐに集合する」


・・・


最初に異変を感じ始めたのは、ラーチ村後方25kmにある浮遊機の基地だった。

この浮遊機基地では魔道探知と内燃探知の双方の探知機が稼働してはいたが、その内燃探知能力は未だ拙い物だった。

つまりは勝ち戦の最中で、突然に兵器局から使えと押し付けられた内燃探知装置は、これまで使っていた魔道探知機と操作や動作も違い、読み取れる情報を習熟するに多少の期間を要する物だった。にも関わらず、勝ち戦という状況で、そんな物を覚えろと与えられても前線の兵には今一身が入らないのだ。何故ならば、そんな事を覚えなくともこれまで力押しで勝ててきたからである。


だが、そんな中でも与えられてから一度も反応をしなかった内燃機関探知装置が反応を示した時に担当員が示した反応は警告では無く、この反応が示す意味は敵機に反応したのか、それとも故障なのかだった。そしてこの基地に兵器局の人間はおらず、機器は正常に反応したにも関わらずに、前線に警告を出す為の時間は無為に過ぎていったのだ。


結局、結果的に敵機の襲撃を確認出来たのは、前線に敵の十字の浮遊機が来襲した事実を以ってしてだった。

突然に、遠くの空から低いゴロゴロゴロと言った独特の音が響き始め、それに先だって小さな十字の浮遊機が高音を伴って低空に降りてきたのだ。


「ヴォートランの浮遊機だ!!」

「対空魔道砲をまわせっ!!」

「浮遊機の応援を要請しろ!」


前線ではここで同盟が攻撃をしてくる事は無いものというイメージが支配していた。

それは既に同盟軍に魔道結晶石が枯渇しており、防護戦闘に全ての資源を投入しているという情報を得ていた事から守る事に専念し、攻勢に出る事は無いだろうという考えが兵の間で浸透していたのだ。

だが、そんな考えを吹き飛ばすかのようなヴォートランの攻撃は完全な不意打ちとなった。


「シルヴェステル閣下! 地下壕に退避してください!!」


「前線が見えん。どうせ死ぬ時は何をしても死ぬ。ここで指揮をとるぞ!!」


「閣下!! 敵の攻撃部隊は、見慣れぬ攻撃を行っております。あれは兵に被害が大きいです!! 早く地下壕に退避を!」


「くっ、止むをえん。……案内せよ」


小さな十字の浮遊機が気が済むまで銃撃を加えた後で本番の攻撃がやって来た。

それは大型十字の浮遊機から落とされた筒状の落下物が、空中でばらけて中から大量の子弾をばら撒いたのだ。これらの子弾は、それぞれが広範囲に地上に落ちて爆発しながら大量の破片をあたりにばら撒き、その周辺に居た兵達を巻き込んだ。


「なんだ! これは!?」

「地面に落ちていた奴と同じ程度に威力があるぞ!!」

「こっちの浮遊機は何をやってやがるんだ!!」

「誰か、誰か来てくれ!! 俺の足が…俺の足はどこに行った!!」

「自走魔道砲のハッチ閉じろ!! 巻き込まれるぞ!!」

「衛生兵!! 衛生兵はどこだ!」


そして後方の浮遊機の基地からは、基地上空を哨戒する浮遊機さえ飛ばしていなかったのだ。これは後方浮遊機の基地司令から魔道結晶石補給が再開するまでは飛行禁止を決めた事に起因していた。そして、内燃機関探知装置に不慣れな担当員が、航空機を探知したにも関わらず、それが果たして正解なのか、それとも機器の不具合なのか判断がつかなかった事と重なって、重大な被害を第一軍に齎した。


こうして浮遊機から迎撃の為に飛び立った浮遊機が当該空域に到着した頃には、既にヴォートランの攻撃部隊は飛び去った後だった。このヴォートランの空襲によってヴァルネク第一軍が被った被害は主に兵達に集中し、装甲車両にはそれ程の被害は発生してはいなかった。だが人的資源に集中的に被害が発生した事は、今後の作戦に対してシルヴェステルが危機感を抱くには十分だったのだ。

わーい、1600Ptまで行ったぞーー!

今日見たら1596Ptまで下がったぞー!

日経平均かよ的展開。


UPしてちょっとしたら、1592Ptまで下がってた。

そうか、分かったよ……

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