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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_31.補給ルートの確立

ヴァルネク浮遊軍第144実験中隊は、当初コルダビアの反乱軍鎮圧の為にバーラに向けて出撃命令を受けていた。だが急遽ソルノク補給基地爆撃の報を受け、一時的にバーラ鎮圧作戦から外され、ソルノクに飛来した謎の爆撃部隊迎撃の任を受けていた。


ソルノクには爆撃を受けて壊滅した基地以外に浮遊機の整備を行える様な補給基地は無く、やむを得ず一番近い浮遊機の基地、すなわちロジャイネ占領時に設置したもっともソルノクに近い兵站基地ボスートへと移動して飛来する正体不明の爆撃部隊に備えた上で、後続のトルノフ旅団がソルノクの被害状況の調査を行う為の偵察任務につく事となった。


スカルスキー大尉以下の144実験中隊は旧領ロジャイネのボスート基地に到着し、兵器局のヴィンツェンティ博士が取り付けた新型探査装置の漸く実戦の機会が得られたモノといきり立っていた。そして何れトルロフ旅団がロジャイネを経由してソルノクへの偵察と、場合によっては交戦状態に入る可能性も考慮して、144実験中隊はボスートに釘付けとなっていた。更にはソルノクの基地爆撃以降に魔道の森を越えてくる正体不明の浮遊機勢力は待てど暮せど現れず、無為に時間が過ぎていった。


「スカルスキー大尉、一体連中はどこから来てソルノクを爆撃しやがってんですかね?」


「状況からすると……テネファ奥の魔獣の森を越えて、という事になるな」


「魔獣の森か……連中がそこを飛べるとなると俺達は圧倒的に不利じゃないですかね?」


「そうだろうな。連中には絶対の安全地帯だ、こちらは立ち入る事が出来ない。だから俺達の打つ手としては、連中が森に逃げ込める時間的余裕を与えずに攻撃を加える事となる。逆に言うと森の上空から出てきた直後に襲っても、直ぐに森の上に逃げられる。連中が引き返すまでの距離があればある程、つまりソルノクの奥まで突っ込めば俺達が攻撃しても森には逃げられない。積極的に攻撃に入れないのは歯がゆい所だがな」


「待つのは苦手ですよ、スカルスキー大尉。他に何か手は無いモンですかねぇ…」


「連中が魔道の森上空を飛べる、って事だけが分かっている事だ。他に何も分からん状態で、むやみやたらと突っ込んでも良い結果は得られんだろうよ。さて各浮遊小隊長諸君、これよりブリーフィングを行うぞ」


「了解です」


ボスート基地にある浮遊機降着場傍の待機場でスカルスキー大尉の一言で、5人の小隊長が集まってきた。

これは増強中隊となった実験中隊を5つの小隊に分け、それぞれにスカルスキーが選んだ者を小隊長に任命した。彼らはスカルスキー大尉を頂点に、ギスターブ中尉、ギールウッド中尉、マテウス中尉、セルギウス少尉、そして本部小隊付きのユーレク少尉の5名だ。そしてスカルスキーが説明を開始した。


「諸君らも知っての通り、ソルノクが正体不明の敵から攻撃を受け、三つの補給基地が壊滅した。この正体不明の敵は魔獣の森を越えてやって来たとの情報もある。この正体不明の敵に我々が対応し、正体を明らかにした上で二度と侵入出来ない様にする。まあ、どうやって敵を探すかは、博士が説明する。さあヴィンツェンティ博士、説明をお願いします」


「え……紹介されました、兵器局のヴィンツェンティです……皆さんの機体全てに装備した機器について説明します。ええと……まず、機能と計器の使い方について説明します……」


ぼそぼそと話し始めたヴィンツェンティ博士の説明は難解でよく分からなかったが、スカルスキーが補足で説明する事によって何とか皆は理解出来た。その装備は今まで補足出来なかったヴォートランの浮遊機に対する攻撃の際に、目視で攻撃する事無く自動で照準を合わせる装置を組み込んだ物だった。だがその装置を動作させる為の魔道結晶石の消費が激しい為、射撃の際に動力を入れる事で消費を抑えるという構造だったのだ。激しい戦闘中に果たしてその動作を入れる事が出来るのか、という部分で小隊長達はあれこれと自らの戦闘論を戦わせていた。概ね、議論が出尽くした所でスカルスキーが締めくくった。


「さて諸君。これでヴォートランの連中が出てきたとしても、だ。我々は遠くから探知し、そしてそれらを撃墜する術を得た。諸君らがこれまで培った技能を以てヴォートランの連中を魔道の森に追い返そうでは無いか!」


「了解です!」

「おうっ!!」

「やってやりますぜ、大尉!」


「ふむ、それでは各部隊に使い方を教示せよ、解散!」


だが、当のトルノフ旅団はバーラ市制圧の際に投降したコルダビア第二軍の兵達の武装解除と拘束に手間取い、しかも高級将校達がバーラ市を脱出した事により、その追跡の為の人員を割けざるを得ずにリソース不足に陥り、ソルノクへの移動も儘ならない状況となっていた。


「トルロフ大佐、既に捕虜収容施設が足りません!」

「大佐! 捕虜達の証言から将校達は西の方に逃げた模様です!」

「市街地に瓦礫が多すぎて捕虜の輸送に時間がかかり過ぎます、大佐殿!」


「ふむ……早急にソルノクへの調査にも向かわねばならん。ウーラ中尉、2個中隊を指揮してバーラを脱出した将校達の追跡チームを編成しろ、人選は任せる。魔道自走砲はこちらに引き上げるぞ。足の早い車両で編成しろ。ダリル大尉、貴様はバーラに残ってコルダビア兵達をヴァルネクまで移送する様、本国から指示が来た。ああ、徒歩で構わん。全て捕虜収容施設から引き上げさせろ」


「はっ、大佐。……本国は輸送用の車両か何かを用意するのですか?」


「どうやらそうらしい。5日もあれば到着するだろう。郊外の牧場を接収して捕虜全員をそこにぶち込め。我々の方が圧倒的に人数が少ない事に留意しろ。多少手荒い扱いをしても構わんぞ」


「了解しました、直ちに移送に着手します」


「うむ、予め本国に移送地点を連絡しておけ。それでは私はソルノクへの偵察に行く」


「大佐、ご武運を」


「唯の偵察だよ、ダリル大尉。ウーラ中尉、さっさと脱出将兵を追跡しろ!」


「はっ、了解であります、大佐殿!」


市内の廃墟にはあちこちではコルダビア第二打撃軍の兵達が指揮官を失ったままに武装解除して呆然としていた。

これらのコルダビアの敗残兵達は、上官の命令に従っただけでヴァルネク連合への反乱の意思は無く、また国王への反逆への意図も無いと言い張り、武装解除後はまっとうな扱いをして貰えるだろうと楽観視していた彼らが待っていたのは、バーラ市郊外に広がる牧場への移動命令だった。


しかも一応天井がある施設に収容されていた最初の捕虜達も含めた全ての第二コルダビア打撃軍の兵達は、全員が何も遮蔽物の無い柵のついた牧草地に集められた。そこには牧草以外には何も無かった。彼らは、ヴァルネク本国が輸送の為に寄越した輸送車両が来るまで飲まず食わずのまま牧草地で過ごし、その後に控えていたのはヴァルネクまでの道のりを徒歩で歩かされたのだのだった。


結局、ヴァルネクはソルノク放置を決定し、144実験中隊は正体不明の爆撃部隊の来襲に備えてボスート基地に常駐する事となったが、以降にソルノクへの爆撃は行われる事は無かった。それもその筈で、高田達のソルノク潜入部隊が一定の遅延効果を確認した後、魔獣の森を経由してテネファに引き上げた事により、爆撃部隊はトーンに引き上がり、再びオラテアの最前線へと対応する事となったからだった。



ソルノクの兵站基地を破壊した事で、ヴァルネク軍の主攻軸であるヴァルネク第一軍は無人の荒野を進むが如くオラテア国境に向かって前進し続け、国境手前50kmの地点に到達していた。だが、そこからソルノク補給基地壊滅の影響が出始めていたのだ。そこでボルダーチュクは海路を使っての補給ルートを確立するまでの進軍停止を決めた。


この補給ルート確立までは1週間程度と見積もられたが、それは海岸線に居る北方戦線の部隊であって中央戦線にあるヴァルネク第一軍は更に3日程度の遅延が発生していた。


だが、補給のルート再設定によって発生した10日に及ぶ遅延は、その後のヴァルネク第一軍にとって惨憺たる結果を招く事になるのである。それは国境手前50kmにある第一軍が集積所として使っているラーチ村で起きたのだった。

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