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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
14/155

1_13.ヴァルネク連合の大攻勢

同盟軍西方国境に接する三か国、すなわちジリナ公国、ベラーネ公国、リェカ王国は、ヴァルネク連合の国境攻撃の時点で指揮系統が混乱していた。反撃をするのか後退をするのか躊躇していた同盟軍は、瞬く間に国境に殺到したヴァルネク軍に抵抗虚しく防衛線を突破されて行った。


「ボルダーチュク法王、我がヴァルネク軍第一軍と第二軍は計画通りにリェカに侵攻、防衛線を突破しております。第三軍はベラーネを北方から侵攻し、リェカに侵攻した第一軍とサダル国国境付近で合流を果たした上で包囲の輪を閉じます。第四軍はジリナ公国に西方から侵攻し、東方から侵攻するコルダビア第一打撃軍と合流した上で同じく包囲を完了します。数日後には西方同盟国はオクニツアとサダルのみを残る状況となりましょう。敵同盟軍の抵抗が軽微なのは、恐らく我々の主攻目標を誤った事と、航空浮遊部隊による輸送路攻撃が原因で混乱しているのではないかと思われます。」


「であれば良いがな。余り敵を甘く見ぬ方が良い。連中が混乱を装って後退した挙句に例の魔法攻撃を行わんとも限らん。十分に注意せよ。それと、オクニツアの攻撃はどうなっておるか?」


「はっ、ザラウ軍とオラデア軍の集結に時間が掛かっております。同時攻勢には間に合いませんでしたが、あと数刻のうちにオクニツア西方国境への攻勢を開始する予定です。」


「ふーむ…ロドーニアの動きが気になる。オクニツアを先に落とすべきだったか……ロドーニアが連中に与するとなると、連中の海軍が出撃してくるであろう。エストーノとマルギタの海軍はどうなっておるか?」


「エストーノ海軍はザラウの港に向かって移動中、明日には到着する予定であります。マルギタ海軍は北方の占領したキウロスの港にて待機中です。」


「ふむ……マルギタ海軍はそのまま待機で良い。エストーノ海軍はザラウに到着次第補給を済ませ、直ぐにオクニツアの港を封鎖させろ。連中を海に逃がすな。それとだ。北方戦線の状況はどうか?」


「東方国境のロジャイネと接するドムヴァルですが、航空偵察から確認するにドムヴァル中央から西部国境にかけて軍が集結している状況です。この動きはソルノクも同様です。恐らくはドムヴァルとソルノクだけではなく、同盟軍中央方面軍が集結中かと思われます。」


「良し。次なるは中央戦線だな。それと中立8ヵ国の動きはどうなっておる?」


「以前の密約通り、オクニツアとサダルに繋がる西方国境付近に軍を並べております。ただ、後方に陣地も作っておらず、砲兵も居りません。つまり、前面に出している軍は攻撃の意志が無い見せかけの物かと。これも密約通りですが。」


「ふふふ、良いぞ。混乱した同盟軍にはそれがどの様に見えるかが想像出来るな。連中は絶望しながら逃げ惑う事だろう。だが全軍に再度通達せよ。中立8か国には絶対に攻撃するな、とな。」


「御意に。再度、各軍に通達を出します、猊下。」


ボルダーチュク法王から命令を受けたヴァルネク軍法王親衛軍のマキシミリアノ将軍は、各国軍に再度の緊急通信を送った。だが実際の所、中立8ヵ国に各国の軍が立ち入ろうとする思惑はどの国にも無かったのだ。何故ならば、中立国最大の国であるテネファの大森林にはラヴェンシア大陸最大の魔獣の巣があったのだ。そこを攻めるにはそれこそ一軍を要する規模になる為に、どこも中立国に触る積もりも意志も無かった。


・・・


オクニツアの西方のラドアイア港と東方のドロキア港は大混乱だった。

東方にはロドーニア海軍の輸送船や各種の軍艦が大量に避難民や軍の装備を乗せようとひしめき合っていた。そしてラドアイア港もまたオクニツア海軍の船が同様の状況を呈していた。そして警報は西方のラドアイア港に鳴り響いた。


「浮遊偵察部隊より入電! ザラウにエストーノ海軍と思われる艦艇が集結中!!」


「なんだと? くそっ、陸路だけではなく海路も封鎖する積りだな。なんとも念入りな事だ。どの程度だ?」


「戦艦3、重巡8、軽巡14、駆逐艦32、他雑多な船がザラウに集結し、補給を受けている模様。」


「…相当な規模だな……エストーノ海軍全軍か。すると完全な全面攻勢だな。魔法士の三発目はまずオクニツア西方に使う予定だが、四発目はエストーノ海軍を目標とする。海軍が居ると脱出も出来ん。皆、異論無いな?」


ミハウ総統の言葉に、同盟軍の各代表は力なく頷いた。

既に各方面からは絶望的な連絡ばかりが入ってくる同盟軍司令部には、ミハウ総統だけが精力的に指示を出し続けていた。だが、司令部に入る新しい情報は気の滅入るような物ばかりだった。


「派遣していたサルバシュ派遣軍はジリナ公国でサルバシュ方面から進軍中のコルダビア第一打撃軍と交戦中の所、セレ方面から進出したヴァルネク第四軍によって半包囲となり、ベラーネ国への脱出路を遮断されました。現在、サダル国方面に脱出中。」


「…派遣軍がオクニツアまで戻った頃には、既にもう間に合わんだろう。人員だけでも救えんか?」


「現在、浮遊機部隊を総動員でサダル北方に派遣し、人員のみを救出する方向で対応します。」


「うむ、それで良し。それとリェカの状況はどうか?」


「同盟軍陸軍主力は交戦を避け、後退を続けています。ですが……」


「ですが、何だ?」


「はい、同盟軍主力は既にサダル国西方に撤退を完了、装備人員共にサダルの魔導列車にて早急にオクニツアまで後退を行います。ですがリェカは既に陥落し、リェカ北方から侵入したヴァルネク第一軍がサダル国国境にまで達しております。また、ベラーネ北方から侵入したヴァルネク第三軍が既にサダル国国境付近まで到達しておりまして……」


「リェカもサダルもヴァルネクに包囲されたという事か……魔法士はどうなっている? 準備は出来たのか? 連中の速度だと直ぐに手を打たんと、ここオクニツアに直ぐにやってくるぞ!! 魔法士に回線繋げ!」


『魔法士のハーコンだ。ミハウ総統、こちらは準備が出来ている。何時でも指示を頂きたい。』


『こちら魔法士のロアームだ。臨戦状態で待機中だ。儂の目標はどれになる?』


「分かった。ハーコン殿。貴殿にはオクニツアとサダルに侵入しようとしている敵を迎撃して貰う。恐らくヴァルネク第二軍が来るだろう。この連中の足は早い。国境に集結した時点で一撃を与えてくれ。それでヴァルネク第二軍の動きは鈍るだろう。ついでにザラウとオラデア軍の動きも鈍ってくれれば良いのだが。」


『ミハウ総統。儂はどこを狙えば良いのだ? オラデアとザラウの陸軍では無いのか?』


「申し訳ない、ロアーム殿。現在、ザラウに敵海軍が集結中だ。目標をオラデアとザラウの陸軍から変更し、ザラウに集結中の艦隊を狙って欲しい。陸軍を制圧したとしても、敵の海軍がウロチョロしていると脱出が出来んのだ。頼めるだろうか?」


『了解した。では……浮遊機を1機頼む。向かえに来て頂きたい。」


「勿論そうしよう。ロアーム殿、頼みました。」


既に西方の同盟6ヵ国はオクニツアとサダルに押し込まれ、脱出が出来るかどうかも魔法士の大規模魔法攻撃にかかった状況となっていたのだ。しかもエストーノ海軍艦隊がやって来る事で、西方から侵入するであろうオラデア軍とザラウ軍に対して行う予定だった大規模魔法攻撃が、この海軍艦隊に変更された。つまりはオラデア軍とザラウ軍の侵入には、オクニツアが対処しなければならない。しかしそれは殿軍となり、海路脱出が不可能となる可能性が高い。


ミハウ総統は、殿軍の選定を前にして心の底から苦悩していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 陸海両方から大攻勢か…もし嵐の王を倒せていたら、ガルティシアはこんな大戦力を敵に回す事になってたのか…恐ろしや…
2021/06/27 00:09 退会済み
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