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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_27.マローン評議員の策謀

「やはり、未だ時期尚早であったかもしれん……」


「どういう事だ、マローン?」


「テレントン、コルダビアのクーデターはタイミング的には最上だったかもしれん。だが、コルダビアの反乱は恐らく直ぐに鎮圧されるだろう。ヴァルネクへの対抗戦力も無ければ人員も少なすぎる。もう少し、国民がヴァルネクへの反感を持つような工作を行うべきだった」


「ああ、既にヴァルネク側の艦隊も動いているな。旅団規模の制圧部隊も向かっている様だ」


「そうなのだ。ヴァルネク側の動きは迅速だ……それに何よりコルダビア側の人心掌握が全く出来ていない。こちらの予想よりも彼らは反感を買っている様だ。何故、コルダビア国王を弑逆してしまったのか……」


「すまん、それはこちらのミスだ。恐らくはこちらの精神支配が効き過ぎたんだろう。例の第一打撃軍の司令官アンゼルムは精神支配下に入って暫く経っているからな。彼の心の中は国王への疑惑や猜疑といった感情が相当渦巻いていた筈だ。勿論それはこちら側が植え付けた物だが」


「何故、制御を効かせなかった?」


「報告書は出しているぞ、テレントン? 突発的事態だ。彼が王宮に入った時点で彼はこちらの支配を超えた激高状態となってしまったのだ。それで突発的に王族を惨殺した。こちらが制御に動く暇も無かったのでな」


「むぅ、そうだったか……だが……それにしても、だ。せめて王族を退位させて傀儡を据えておれば、未だ民衆にも何とでも言い訳が立つのだが……どうするのだ?」


「そうだな。何か別の手を考えねばならないだろうな……」


「何か他に策はあるのか? コルダビアはもう使えんだろう。ファーネル議長からの要請はラヴェンシア大陸戦争の中長期化だ。このままだとコルダビアは直ぐに鎮圧され、直ぐにヴァルネク軍は東方侵攻を再開する。これでは目的は達成出来ないではないか?」


「…ふむ、確かにそうだ。だが、コルダビアは未だ無力化はしていない。何らかの方法もあるだろうさ。いずれにせよ、我々が精神操作を施された者がそこに居れば、あとはその者を基点として別の者も操作が可能だろう。例えば、鎮圧に向かったヴァルネクの部隊とかを対象にな」


「そんな適当な……議長が何を言い出すか分からんぞ。既に国家特級術者の稼働は150%に達している。その上で更に新しい対象を、などと戦略情報局の特級術者管理部門が許すはずは無い。それに一級術者も、、」


マローンとテレントンが言い合う最中に割って入った者が居た。


「おい、諸君、聞いたか!?」


「おいおい、なんだロートリンク。落ち着き給えよ」


「ソルノクだ。ソルノクに侵入した者が居るのだ。あの魔獣の森を越えて!」


「魔獣の森を越えて、だと!?」


二人はロートリンクの説明を聞いた。

その侵入者は魔獣の森を越えて、ソルノクにあるヴァルネク兵站基地群を攻撃し、ヴァルネク南方の補給線を潰して飛び去った、という事だった。何故、魔道機関が停止してしまう魔獣の森上空を越える事が出来るのか。そもそもヴァルネクに流した魔道機関は、我々の低位技術が元になっている筈なのだ。だから、彼らが越えられない森は勿論我々も越える事が出来ない。にもかかわらず……ロートリンクは一息に説明を終えて、肩で息をしていた。

だがマローンとテレントンはロートリンクの話を聞き、顔を見合わせたまま意味ありげに笑った。


「マローン、君が何を考えているか分かるが、先ほども言った通り特級術者の数が足りない。これをどうする?」


「うむ、必要な所に必要な者を再配分すれば問題は無かろう。そうだな……中立国相手の人員をある程度引き抜いて、コルダビア周辺国に集中させるのが良いだろう、再配分を行うなら」


「中立国か……今の所、中立諸国に問題は無かろう? だがファーネル議長の了承は必須だろうな」


「議長案件か…まあなんとかなるだろうさ、この機会だしな。それはそうと、ロートリンク。その魔獣の森を越えてきたという件、引き続き情報を収集してくれ。事によると我々の目的に近い出来事かもしれん。私の想定通りであれば、労せずしてヴァルネクの力を削ぐ事になるかもしれん」


「ああ。だが、後でファーネル議長に報告を提出するが、我々の想定よりも大きな問題を孕むかもしれんぞ?」


「分かっている。だが我々が直面している問題はヴァルネクと同盟諸国を如何に喰い合わせるかだよ、テレントン」


・・・


ソルノク兵站線への第一次攻撃を終わった高田達は、ベースキャンプに戻って被害の評価と残存敵勢力の監視、そしてヴァルネク軍の動きを判断していた。上空を飛ぶグローバルホークからはヴァルネクの西方戦力の移動は見られなかった。


「うーん、どうですかねぇ…思ったより西に向かう戦力が無いですねぇ……しかもあの動き、変ですねぇ……」


「というと?」


「現在、ヴァルネク軍は3つの軍がそれぞれ南と中央、そして北から東方に向けて進行中です。で、戦力の主力は中央と判断しているんですが、この主力が後退する気配が無く、引き続きオラテアへ向かって進行中と連絡が入っています。そして南北の両軍もゆっくりと東進中、それでいてこれらの軍から部隊を分けて我々の居るソルノクに来る部隊は居ませんね。一番近い南方に居るヴァルネク第二軍が後退して来るかと思いきや、第二軍は前進が停滞中です。ところが、海軍の一部が出港しているとの事」


「だから、なにがどうなったんだ、高田さん。はっきり言ってくれ」


「表面上、ヴァルネクの陸上戦力の動きは空襲以降も全く変化がありません。それでいて海軍が動いたとなると、恐らくはソルノクの陸上補給路を捨て海上輸送に切り替えたのかと。恐らくは空襲のみに気を取られ我々がここに潜伏している事は想定外なのではないかと」


「と、いう事は……ここに留まってもあんまり意味無なそうだな…」


「そういう事です。恐らくは、兵站再開の為の工兵部隊とかその辺りは来るでしょうが、それはずっと先でしょうね。やる事は……サルバシュかサダル辺りに浮遊機の迎撃部隊を充実させて、再びソルノクに侵入した航空機を迎撃する防空網の設置って所ですかねぇ。ちょっとテネファと連絡をとって今後の事について話し合いましょうか」


こうしてソルノク方面の兵站線切断作戦は、ヴァルネクの南方兵站路放棄の確認と共に終了した。

高田達がテネファに確認を取った際に更に重大な出来事が発生していた事が確認された為だ。

それはコルダビアがクーデターによって王家がひっくり返り、その対応にヴァルネク軍が動き出したという事だった。

なるほど道理で南方を切捨てるという方針も理解出来る。

だが、そうなると本格的にソルノクでの潜入工作に意味は無くなってしまったのだ。


その為、高田達は再び輸送船コスタ・レイを中央の湖への到着予定時間に合わせて呼び出した。

そして再び魔獣の森に向かう為に車両と人員を集めてブリーフィングを開始した。


・・・


ロドーニアのトーン軍港ではひっきりなしにヴォートランからの輸送船が入っていた。

これらの輸送船団は、日本からの供与により一時的にヴォートランの輸送能力を引き上げていた。

だが受け入れるロドーニア側の港の能力により、揚陸物資には制限がかかっていた。


そしてロドーニアへ到着した物資の中には、トーン空港と軍港を電化させる為のガスタービン・コンパインド発電プラント設置に向けた各種機材を運んでいた。そして発電プラントが建設設置されるまでには最速3年がかかるとの見込みから、複数機の非常用ガスタービン発電設備を繋ぎに使うという方針が取られた。また、燃料に使うガスについてはヴォートランから産出するガスをそのままLPG用の輸送船に積み、ロドーニアまで海上輸送を行う事となった。

つまりはトーン空港を可及的速やかに稼働させる為の方法として、どんがらと滑走路だけは先行して作ってしまい、後の電化設備に関しては発電プラント待ちという状況を目指していた。


これにより、ロドーニアにはヴォートラン製発電プラントと4000m級の舗装された滑走路を持つ空港、それに関する必要機材の一切をヴォートランからの借款という形で提供されたのだ。だが、それらは表向き戦争当事国に対しての支援協力を行わずに、日本がヴォートランを経由して輸出する事により、国民感情を荒げる事無く関節的に支援するという形だった。

そしてこの現時点では上手くは行っていた。


だが、ゆくゆくはそれらの施設が本格稼働するまでの間を耐え忍ばなければならない。

その期間がどれだけ短縮出来るか、そしてヴァルネク連合の動きをどれだけ阻害出来るか、時間との戦いが始まったのである。

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