表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
132/155

2_23.トルロフ旅団

魔獣の森氾濫時に、第三軍は大多数が海への脱出に成功していた。

だが、その中で第三軍の一部が脱出に遅れて魔獣に呑まれて壊滅した集団が存在した。

その名をトルロフ旅団という。


東部の最前線に居たトルロフ旅団は、魔獣の氾濫によって海に脱する事も出来ず、魔獣を避けながらヴァルネク北部国境要塞を目指して只管部隊を守りながら陸路を西に後退した。その結果としてトルロフ旅団は大多数が西に辿り着く迄に魔獣に襲われてほぼ壊滅状態となった。それでもトルロフ大佐は生き乗った他の部隊と共同でヴァルネク北部国境城塞にまで辿り着いたが、北部要塞責任者ウーラ少佐によってその殆どは門を閉ざした城壁の外で魔獣の餌となった。


だが城壁に辿り着いたトルロフ大佐がウーラ少佐を階級をたてに城壁を開けさせた事により彼を含む5名が脱出に成功したが、その後に軍機違反によってウーラは中尉へと降格された上で、トルロフによって彼の旅団に組み込まれてしまった。


そのヴァルネク第三軍トルロフ旅団はヴァルネク北部での再編を行っていたが、コルダビアでの政変に際し急遽使用可能な戦力を搔き集められ再編予定を繰り上げられた。そしてトルロフ大佐はエウゲニウシュ将軍に呼び出され、ボルダーチュク法王も同席する場で命令されたのだった。


トルロフ大佐は現状でのヴァルネク軍からのコルダビアの状況を説明を受けた上で、最前線から遠く離れたヴァルネク本国に動かせる即応能力を持つ陸上兵力はトルロフ旅団しか無い事をエウゲニウシュ将軍から等々と説明された。そして、陸軍以外にも、海軍と浮遊軍の協力が得られる事、そして鎮圧の暁にはコルダビアにはヴァルネクの息がかかった王族を後釜に据える事、その為に、現状で国王フランシェクの生死は問題では無い事を伝えられた。

そして直ぐにトルロフは旅団に戻り、ウーラ中尉を呼び出した。



「旅団で軍団を鎮圧、ですか? トルロフ大佐??」


「そうだ、ウーラ中尉。しかも我々は未だ再編の途中で実の所、旅団規模ですら無い。だが早急に鎮圧せねば、我々は後背に危険を抱える事となる。幸いな事に、我々以外にも海軍と浮遊軍の協力を得られている。浮遊軍でも実績を上げつつある実験中隊とやらが、装備刷新だかで本国に部隊事帰還中だそうで、彼らの協力も得られる。勿論、海軍の艦隊もコルダビア海軍の抑えに回る」


「成程……それでは海と空に関してはお任せしても宜しいかと思います。恐らくは反乱した軍が行う事は、王族の拘束、主要幹線道路封鎖と情報施設、警察機構の制圧でしょう。現状で判明している事は、既にコルダビア軍のアンゼルム将軍が臨時政府代表を名乗っておりますから、これらの拘束や制圧は既に完了しているものと判断すべきでしょう。であるなら、これらの施設に対しての徹底的な攻撃を行う事が有効かと」


「ふむ、コルダビアの首都バーラは海に面している。つまりは海軍からの圧力をかけるに易い。連中が情報施設や警察機構を把握する為の行動が、つまりは戦力の分散を行っているという事だ。海軍と浮遊軍によってそれぞれの施設に攻撃を加えた上で、我々がその後を制圧する楽な仕事だな。おまけに彼らコルダビア第一軍も再編中であり大半は新兵の筈だ」


新兵はこちらも同じだぜ……とウーラ中尉は独り言ちた。

だが、政府重要施設に閉じこもってのクーデターへの鎮圧は、建物や人に対して配慮を必要とする訳ではない。自国なら兎も角、隣国なのだ。つまりは容赦の無い方法で鎮圧する事が可能なのだ。果たしてその反乱を起こしたアンゼルム将軍はそこまで考えているのだろうか?


「コルダビア軍のアンゼルム将軍が臨時政府首班とすると……コルダビア第一軍もクーデターに参加しているのでしょうか?」


「前線の第一軍は何も知らんと聞いている。恐らくはアンゼルム将軍の独断だろう。第一軍のパヴェル大佐は、直ぐにヴァルネクへの相互協力と今まで通りの関係を表明したからな。まあ、辺りを我々が囲んでいるのだ、下手な返答をすると直ぐに殲滅されるであろうし、補給も我が軍頼りだしな」


「そうすると、我々の主任務は首都バーラのコルダビア第二軍を鎮圧ですね。ただコルダビア国王フランシェクの動向は掴めておりません。彼が生存していると救出だの何だのとややこしい事になりますが」


「そこは想定せずとも良い。既に亡くなられたとの判断だ」


おっと、これは余計な事を言っちまった。

どうやら思った以上に面倒な事に関わりそうな気配がする。

戦闘以外の事をあれこれ考えると、戦闘以外のなにかが俺を殺すだろう。

そういう類は例の北壁のあの判断で痛い程に身に染みているんだ……


「コルダビア艦隊は?」


「コルダビアの艦隊主力はサダルとドムヴァルに分散配置されておるが局外中立を宣言をした、首都に残る残存艦隊は軍港を離れて沖で様子見を決め込んでいるようだが、恐らく国王を弑逆したとなるとコルダビア国民の支持は得られんだろう事も理解している筈だ。艦隊は平民が多いからな。だが、まだ確定情報では無い。この反乱は正直不明な点が多い。海軍の協力を得ずして陸軍単独で行っているのが解せん」


「ひょっとして、アンゼルム将軍が海軍の説得に失敗した可能性は?」


「そもそもだ。海軍にも話をつけてはおらんと聞いている。完全なアンゼルム将軍の独断だ」


……であるならば、旅団で軍団を鎮圧、も強ち不可能では無いだろう。

アンゼルム将軍のクーデターは、やり方としちゃ首都部分でのみの蜂起は悪手だ。他の軍への共同作戦も、他の地方への一斉蜂起も無く、ただ首都に居る部隊だけで重要施設を占拠しているだけなのだ。こんな事を独断、しかも単独でやるだと?

これは非常に回りくどい形での自殺に他ならない。

何故ならば、このクーデターの後がさっぱり見えて来ないからだ。

臨時政府を宣言した所で首都以外の国内コルダビア軍は従ってはおらず、海軍も同調していない。

しかも隣国である我々が鎮圧部隊として派遣されるが、そもそもこれは想定されていた事だろう。

であるにも関わらず、なんら手を打つ気配も見えない。一体、何が目的なんだ?


「おい、ウーラ中尉。難しい顔をしてどうした?」


「はっ、あ、いえ……一体何故にアンゼルム将軍は蜂起したのか、と……」


「その理由を知ってどうする。意味の無い事だ。それよりも、この鎮圧が成功の暁には貴様が少佐に返り咲く事も可能かもしれん。エウゲニウシュ将軍からは、補給と補充及び通行に関しては最優先の許可を得ている。だが、編成が終了しない事には出撃も出来ん。直ぐに編成に取り掛かれ」


「はっ、了解致しました、トルロフ大佐!」


ウーラは、踵を返して敬礼をして退室した。

残されたトルロフ大佐は、盤上のコルダビアの首都バーラの地図を見ていた。

ヴァルネクへと続く国境は未だ閉鎖されてはいない。

そして閉鎖を行っているコルダビアの部隊は首都バーラに入る為の道路封鎖しかしていない。

これは即ち、首都に居る軍のみが反乱をしている事を意味している。

首都中央の警察機構や報道関連の建物にも、反乱軍を示す赤い旗のピンが刺さっており、軍港や浮遊軍港にはピンは刺さってはいない。これは思いのほか簡単に済みそうだ、とトルロフは思った。


・・・


パラシュートで投下されたコンテナの中身を受け取った高田達はベースキャンプに戻って、中身を再度点検していた。

このコンテナに入っていた大型の通信機と発電機がロドーニアとの通信を可能としたのだった。

そして組み立てて通電して直ぐにロドーニアからの至急電を入電した。


「タカダさん、サトウ一佐から至急の連絡が入ってますよ」


「佐藤一佐から? はいはい、今出ますよ」


至急の連絡内容は意外なモノだった。

なんとコルダビアで政変が勃発した疑いがある、との事だった。

ヴァルネクやコルダビアを監視していたグローバルホークが、コルダビアでの軍の動きや首都内での銃撃戦の様子、そして首都へ至る道路の封鎖の状況を観測し、合わせてコルダビアに向かうヴァルネク軍の動きを確認した事で、コルダビア国内で何らかの政変が発生したものと判断していたのだった。


「え、もうグローバルホークが運用可能なんですか?」


『ここロドーニアのトーンのみですよ。他は未だ電力施設がありませんからね』


「他に何か異常な動きはあります?」


『コルダビア海軍ですが、首都にある船は全部沖に出払いましたね。遠征中の船は港に入った様ですよ』


「ふーむ……あんまり海岸線近くには行けなさそうですね。先ずは本国と前線を繋ぐ補給路へのちょっかいに終始しますか。コルダビアが燃えるとヴァルネクの対応も変わってくるでしょうし、引き続きそっちの監視はお願いします」


『了解です。それと荷物は全部受け取れましたか?』


「万事恙なく、回収の件は海からは無理そうですね。再び魔獣の森を走破する事になりそうなので、手配お願いします」


『回収の件も了解、通信おわり』


さて、コルダビアで政変が発生?

となると高田が考えていた嫌がらせ作戦にも色々と修正が必要となる。

まずはどの段階までコルダビアの政変が発生したかによって、出来る事、やれる事が大きく違う。


当初高田が考えていたのは、徹底的に己の存在を秘匿しつつ兵站線への圧迫を行い、それをヴォートラン空軍によって仕上げる共同作戦だった。つまり自分達の攻撃の痕跡をヴォートランの航空機によって消し去るという事を考えていた。しかし僅か30数名が後方で行う行動など高が知れている。


だがたった今入ったコルダビアのこの情報は有効に使える。

高田は、エンメルス達を集めて作戦会議に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ