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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_21.魔獣の森へ

サライ中央を突破したヴァルネク連合軍は最も近いオラテア国境まで残す所900km程度だった。

彼らの進軍速度から、残された時間は10日弱。だが、同盟軍内部ではこのサライを進軍するヴァルネク軍を押し留める戦力は残っておらず、残りの魔道結晶石も無い。無為にサライの横断を座視して見逃すのには根強い反対意見もあったが、だからといって何か有効な手段も戦力も物資も無い。いるのは大量の避難民だけなのだ。


こうして同盟内部で行われている今後のヴァルネク対策会議は混乱し続けていた。

そんな暗鬱とした会議室の空気の中、連絡官が会議室に飛び込んできた。


「報告しますっ、ロドーニアのトーン港にヴォートランからの大量の輸送船団が到着しましたっ!!」


「ヴォートランだと……? エルリング王よ、何か聞いているか!? 事前に決まっていた事なのか?」


「いや、儂は知らぬ。だが、今更ヴォートランが来ても魔道の使えぬ国の援助など……」


「まてまて、エルリング王よ。我々はあらゆる物資が不足している。今も増え続ける大量の難民が必要とする物資を何とする! 彼らが我々に善意で提供してくれるというのだ。……欲を言えば、何らかの戦力も欲しい所だが……」


「ヘンリク王、言いたい事は分かる。連絡官、彼らは何を持って来たのだ!?」


「それが……現在確認出来るだけで大量の鉄の箱を運んで来ております。現在トーン軍港にてそれらの荷を降ろしている最中です。トーン軍港ではご承知かとは思いますが、ニッポン軍の施設部隊によって港の復興用の専用機材を持ち込んでおり、今まで見た事も無い速度で荷揚げが行われております!」


大量の資材と聞いて、サライのギンズブルク大統領は目を輝かせた。


「鉄の箱だと……それはなんだ? 兵器の類かっ!?」


「現時点では鉄の大きな箱に入っているので、運んできた彼らの言う通りであれば資材関連であろうかと。ただし、この鉄の大きな箱にはヴォートランの国旗以外にもニッポンの国旗の付いた箱もありますので、ニッポンからの支援物資も含まれている物と思われます」


「今すぐに確認せよ! もしやそれが善意を前提に受け入れさ我等に対する侵略資材やとしても分からぬではないかっ!! ハルワルドとオースムンを呼び出してくれ! よもやヴォートランは兎も角、ニッポンがそのような国だとは思わぬが……」


「ニッポンだと? あの大口を叩いて碌な結果も残せなかった国では無いか。今更彼らが何かを運んだとして何になるのだ」


オストルスキのミハウ大統領は会議室を見渡して声を張り上げた。


「待て、ギンズブルク大統領。取り合えずどんな物が来たのかを確認せねばならん。もし仮に我々の役に立つ物であるならば重畳だが、そもそも兵器の類だとしても直ぐに使えるとは限らぬ。以前に見た銃程度の物であれば、使うのも可能だが、それは開く迄も可能だというだけだ。故障した場合、あの弾薬という撃てば無くなる類の物も別途補給体制が必要だ。いや、そんな事は兎も角だ、一体何がロドーニアに到着したかを確認せねばならん!」


こうしてオストルスキに集まっていた同盟指導者達は、急遽ロドーニアに向かう事となった。


・・・


輸送船コスタ・レイは全く速度を落とす事無く、定速を保って目的地に進んでいた。

目的地に進む間に川岸に現れた魔獣の類は瞬く間に僅か数発の銃弾によって倒されていた。しかも、このエウグスト人の部隊は目標を重なる事無く、射撃する為の順番がある様に次々と魔獣を倒していった。


「よし、グットキル、トア!」


「いや、あんなデカい的外す方が難しく無いっすか? ベールさん?」


「ああ、そりゃまあそうだが。次ぁストルツか? 1発以上かかったらエール奢れよ」


「頑丈な奴出て来るんじゃねえぞ……よし。どうよ?」


左岸担当をしていたベール、ストルツ、トアは弾薬節約と戻った時に呑む為のエールを賭けて勝負をしていた。右岸担当も似たような状況で船は進んで行く。そして両岸には魔獣の死骸が積みあがっていった。水中に潜む魔獣の類は幸いな事に船上に上がって来る事無く、もっぱら川岸に集まる魔獣のみに集中し続けていた。

そして船上中央のコンテナの上には3人の神聖士団が呆然と立ち尽くしていた。


「いったい……一体どうなっているのだ、これは……」


「レルティシア様、彼らの持つ強力な銃が原因なのですが……いや、我々が知っている銃とは違うかもしれません。あの先端に付けている筒は以前にニェレムでの射撃実験時に見かけた際には装着されておりませんでした。あの筒に魔獣に対する効果が付与されているのでは? 魔獣が全てほぼ一撃で倒されております故」


「エルーラ、貴方は彼らからそれとなく探って。それとアールフレド、彼らが危険な状況が来なければ私達が提言する事も出来ない。このまま彼らが何の障害も無く目的地に達してしまえば、我々の目的は達成出来ない……どうする?」


「は……それは、何らかのアクシデントを……でしょうか?」


「そう、人死にが出ない方法はあるか?」


「この船は魔獣の森にある湖に向かっております。湖に着けば陸地に上陸せねばなりません。恐らくは上陸の時にこそ、真の危険があるでしょう。我々三人がこの危機の際に前面に立って魔獣を制圧し、その時こそが機会かと……」


「ふむ、そうだな……それに、あの銃はヴァルネクの魔道銃の様に連射が余り効かぬようだ。せいぜいが三発程度しか連射しておらぬ。恐らく上陸の際に必要なのは事前に上陸地点の掃討だ。だが、この人数でもそれは難しいだろうな。その時こそが我々の真価が問われる、任せて大丈夫であろうな、アールフレド?」


「お任せ下さい、レルティシア様」


「うむ、序列六位と序列九位のお前達の上に私が居るのだ。そこは問題が起こりうる可能性も無いだろう。さて、どうやら湖に到着する迄は我等の出番も無かろう。エルーラ、先ほどの件も頼む」


そして湖に到着した輸送船からの上陸の時は来た。

だが神聖士団思っていたような活躍の場はそこには無かった。

輸送船上はエウグスト人部隊は様々な作業で俄かに騒がしくなり、上陸の為の準備が進められ、部隊の指揮を執るエンメルスはテキパキと指示を飛ばしていた。


「船着けるぞ。事前の手順に従え。俺の隊は上陸地点の安全を確保しろ、ベール隊は二次上陸で機材の運搬を行え。レパード隊、船の安全を維持しろ! どうだ、ヨナスさん? 魔獣はどんな感じだ?」


「あの、湖の北側が魔獣の反応が弱いですね……その他は南側に集まっています」


「よっしゃ、じゃ事前にドローンで偵察した時にちょうど良さげな砂浜が北側にあったろ。あそこに上陸だ」


輸送船からゴムボートが数隻降ろされて、先行する部隊が揚陸可能な場所に向かって進んでいった。その際に輸送船は船体を揚陸ポイントに向けて前後のM2を指向し、何かが出てきたら即対応可能な状態を維持し続けた。そしてボート部隊が辿り着き、一斉に浅瀬へと飛び込んだ。そして上陸した場所で素早く周辺に展開した部隊は、辺りを警戒しながら後続部隊の受け入れを開始した。


「レ、レルティシア様! 彼らがもう上陸を…!」


「速い……彼らの動きが速すぎる。しかも……我々が上陸する術が無い! たっ、タカダさん! 我々も上陸したいのだがっ!?」


「上陸は第一班が安全を確保した後に、私と行きましょう。我々は第二班です。安全が確保されたら、この輸送船を浅瀬に付けますので、そのまま上陸が可能になります」


「そ、それでは……遅いのだが……いや、了解した、第二班だな?」


「レルティシア様! 先ほどの筒の件、あれは消音装置だそうです」


「エルーラ、今その話は……ん、なんだと? 消音装置だと? 音を消す装置?」


「はい、左様に。アレを外すと以前に見た銃と同様の音が発生するとの事です」


「そうか……連中は音が魔獣を引き寄せる要素の一つと見ている訳か……だが、魔獣を呼ぶ要素はそれだけではない筈だ……」


「レルティシア様、タカダ氏が船の準備が出来た、と呼んでおります。こちらに」


こうして輸送船コスタ・レイは湖の砂浜に向かって船首を乗り上げた。

乗り上げた輸送船の船首は二つに割れ、甲板から歩いて上陸が可能な状態となったが、まずは物資降ろす事が優先された。そして先行していた部隊が船からの物資を受け取ると、上陸した部隊は戦闘態勢に入った。


「さ、神聖士団の方々、ロドーニアのお二人さん、こちらにどうぞ。」


すたすたと降りてきた神聖士団の三人と対比するとおずおずと船を降りてきたロドーニアのヨナスとキレの二人に高田は説明を開始した。


「はい、それでは現状の説明と今後をお話します。思った以上に問題無く目的地Aである湖までは辿り着けました。さて、ここからが問題です。ここは魔道の森ど真ん中です。そこで我々はこの森をソルノクまで横断した上で、ヴァルネク後方にて破壊工作を行います。予定通りで行けば今頃ロドーニアには日本からの輸送船団が届いています。これらの輸送船団はヴォートランとの共同で動いていますが、開く迄も日本の支援部分は表向き、魔獣の氾濫によって被災した大陸の方々への支援物資が運ばれています。勿論ヴォートランにはそれ程の船舶がありませんので、ある程度日本からの供与によって国籍変更した状態です。そしてヴォートランからの支援物資は軍事支援がメインとなっております」


「そ、それが我々に何の関係が!?」


「ええ、これからそれを説明します。現状で戦争当事国のロドーニアの方々は良いとして、テネファの神聖士団の方々は中立国であるので、我々と同行するのは問題が発生すると思うんですね。で、我々は神聖士団の方々に選択肢を提示します」


「た、タカダさん、それはもう承知の上で我々は来ているのだ!」


「いやええと、それを承知で来る。それは結構。であるならば今後は我々のルールに従って貰います」


「……何をすれば良いのだ?」


「こちらに着替えて貰えませんかね?」


「これは君達が着ている服と同様の?」


「ええ、我々は一応ロドーニアに雇われている民間軍事会社という立ち位置です。その一行に白い甲冑の方々が遠目に見ても目立ち過ぎますので、それは一旦脱いだ上でこちらに着替えて欲しいんですよね。あ、無理なら良いです、同行も無理になります」


「くっ……そ、それは……了解した、いや呑もう。但し剣は持たせてくれ」


「ええ、じゃ場所を用意しますのて」


こうしてレルティシア達とヨナス達はテントに案内されて全員に迷彩服を着こんだ。

着替えた後には外に出た一団は、見慣れぬ乗り物が用意され、それに跨るエンメルス達が待っていた。


「じゃ、タカダさんの後ろにレルティシアさん乗って下さい。アールフレドさんはベールに。エルーラさんはガートに。ヨナスさんとキレさんは、ファルマーとトアに乗って下さい、じゃ出発しますね。この森は一日で走破する予定です」


まるで近所に買い物でも行くかのような気軽さで高田の一行は魔獣の森横断に出発した。

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