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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
129/155

2_20.オレンセ川両岸

輸送船コスタ・レイは約170km彼方の小さな湖(便宜上ポイントAと呼んでいた)に向かって、そろそろと川を遡上していた。

コスタ・レイには船首と船尾にそれぞれ12.7mm機関銃を搭載している。ヴォートランで航空機用に作られた12.7mm機関銃を船舶用にやっつけで銃架を作って搭載し、弾薬はエウグストで作成された物を供給した。その他にも、エウグスト人部隊は日本から供与された様々な小火器やエウグストで作られた武器で装備を固めていた。


エウルレンの領域内で安全と思われる地域を通過する迄は、コスタ・レイの甲板でエウグスト人部隊の何人かはナイフでの近接戦闘の訓練をしていたが、その訓練の様子を神聖士団が醒めた目で眺めていた。

ストルツとベールが模造ナイフを構えており、片方が姿勢を低くしながら突っ込んでいった。


「よっと!」


「こいつはどうだっ!」


ベールは数度突いたナイフを躱し際のストルツの腕に軽く手を添えてナイフの軌道を反らした。


「おっ…!」


完全に身体の軸を崩されたストルツは、首元に突き付けられたナイフを手で摘まんだ。


「またかよ、敵わねえな。んん?……なんかお客さんがこっち見てるぜ、ベール中尉?」


「ナイフは未だ俺の方が強いぜ、ストルツ。あ、お客さん?」


「ああ、あの真っ白の甲冑来たなんとか騎士団だか神聖士団だかの三人組だ。なんか言いたげだが……」


「大方、魔獣相手にこんなナイフで立ち向かうなんて頭がオカシイとでも思われてんじゃねえか?」


「まあ、あれだ。テネファの領域超えたら射撃訓練に移行だな。にしても、例のレヴェンデールの狂女となんぞ関係あるんかな。あの女と同等の戦闘力持っているんなら、魔獣と対抗可能っても頷ける話だが」


「あのおっかねえ女か。ザムセン以来だな……」


ベールは懐かしむ様に神聖士団を見るでもなく遠くを見つめるように眺めていた。


「ああ、ザムセン以来だな。あれから随分時が経ったように思うが、相変わらず戦争してんな俺達」


「犬馬の労って奴か。今時流行んねえよなぁ……」


こうして神聖士団を後目にベールとストルツは甲板でのナイフでの修練を終えた。

そしてコスタ・レイは5時間程でテネファの安全な領域を超え、魔獣の森領域にゆるゆると侵入を開始した。

魔獣の森の領域に入って早々に甲板に出ていた人員は全員重火器で武装して集合していた。

この集合した武装集団の後方で異彩を放っていたのは三人のレフール神聖士団の姿だった。

神聖士団の出で立ちは、如何にも目立つ真っ白な甲冑で腰に剣を佩いていた。事前にテネファのゲーレン議員は高田に自信たっぷりに、

「森で魔獣に出会ったのであれば彼女らにお任せ下さい。但し、彼女らがこれ以上は危険と判断した場合は必ず従って下さい。彼女らで手に負えない場合は、貴方方にも危害が及ぶ可能性があります。いいですか、必ずですぞ」


と注意喚起をしていたのだ。

だが、高田はレルティシア達にこう言い放った。


「神聖士団の方々は大変に戦闘能力が高いと聞いています。ですが魔獣に出会った際には我々がまず対処を行ってみます。我々が持つ兵器が魔獣にある程度通用する事が確認されていますが、その実証実験も兼ねておりますので」


「貴方方が魔獣に対処……ですか? 一体どうやって? 先程、貴方方の短いナイフでの訓練を見ておりましたが、あのような短いナイフではとても魔獣には対抗出来ませんよ?」


「ええ、基本的には、ですね。その他にも各種用意していますが……」


高田はそれ以降の言葉を出す事を控えた。

今回の目的は魔獣の森縦断はあくまでも過程に過ぎず、その後のヴァルネクに対する遅延と後方攪乱を狙った行動が重要なのだ。それが故に可能な限り魔獣退治を控えて、魔獣の森を早急に抜ける事を目的としていたのだ。勿論、高田本人の思惑とは違ってはいたが。そしてレルティシアの傍に居たアールフレドが抗議じみた顔で喰いついてきた。


「タカダさん、失礼を承知で言わせて頂く。魔獣の森奥深くには我々でさえ知らない魔獣も居る可能性がある。そんなモノに我々の剣も、そして貴方方の武器も効果が無かった場合は何とするのか?」


「ま、そんなモンに出会えたら……(出会える事を祈ってますがね)……ま、色々それなりに対応策はありますので、きっと大丈夫ですよ、アールフレドさん。そんな対処不能な危険に遭えば、可能な限り迅速に撤退しますよ」


同乗するエウグストの兵達は、高田とレルティシアのやり取りを心配そうに眺めていた。

しかし高田達は事前にドローンとUAVで上空から遡上ルートを念入りに調べていたのだ。そのルート近隣で発見した魔獣に関しては、既に評議会に紹介された魔獣の研究機関に確認済なのである。その為、上空から確認出来ない種類や発見出来なかった類に関しての対応のみに注意しているという認識で居たのだ。


そしてレルティシアは"可能な限り迅速に撤退"という言葉を高田から引き出した事に満足した。

どうせ直ぐにでも魔獣がこの船目掛けて襲ってくる。

森の入り口とも言えるこの辺りで危険で対処不可能な魔獣と遭遇したならば、如何に自分達の装備に自信満々な彼らとて直ぐに思い直すに違いない。聞くところによると緑の魔獣ニェレムには効果的な武器が確かにあるという。だが、森の魔獣はニェレムだけでは無いのだ。それにシュリニクを始めとするテネファ人が以前ニッポンの調査団と同行した際に、魔獣に対抗可能な兵器かどうかの実証実験を行い、その様を見て遠距離からの攻撃有効であった旨を報告していたが、それも弱い魔獣に対して有効なのであって、森の奥深くまで侵入する予定であるのに、危険な魔獣が出てこない訳が無い。そんな危険が出る迄に引き返したい所なのだが……

そしてどのタイミングで引き返す提案をするかについて神聖士団の三人はひそひそと話し始めたが内容は高田達には聞こえない。

高田と神聖士団のやり取りを見かけたエンメルスは、当初から隣で作業をしていたであろうトアに話しかけた。


「おい、トア。タカダさん大丈夫そうか?」


「タカダさんですからねぇ……多分、あの白い甲冑の人達をからかってるんでしょうね」


「悪い癖出してんなぁ……ああいう真面目な輩は揶揄うと後が面倒だぜ。おまけにもう魔獣の森に入ってんだ」


そこに輸送船コスタ・レイの艦橋から甲板に居りてきたのは、ロドーニア魔導科学使節団から派遣されたヨナスとキレの二人だった。ヨナスの手には小型の魔道探知機が握られていた。


「ええと、エンメルスさん、複数の反応が出ています!」


「わかった、キレさんはブリッジに戻っていてくれ。ヨナスさんはこっちに」


オレンセ川を遡上し始めて僅か5時間。

距離にすると安全なテネファの領域110㎞を超え、魔獣の森に差し掛かって数分後、ヨナスの手にある魔道探知機は複数の光点を映し出していた。川を中心に前方に光点が次々と現れて、川に向かって来ている。


「周辺に魔獣が集まっています!!」


「全周警戒! 森から何か来るぞ!!」


ロドーニアで用意された魔道探知機はサーチ距離が非常に短い。

索敵可能な距離はおおよそ500m程度なのだそうだ。その為、反応が現ればそちらに攻撃を集中させるという方針だった。

だが、魔道探知が出来たとしても魔獣が森に潜んでいるならば、目視出来なければ攻撃も出来ない。

その為、甲板上にいる警戒部隊は目視で森を見つめ、魔獣の姿を探していた。


「居た! 右岸にニェレム、森の影に隠れているが水を渡る事が出来んらしい。水際の木の陰に集まっているようだ」


ニェレムはやってきた獲物の気配が川の真ん中を通っており、ニェレム自身は川を渡る事が出来ない為、遠巻きに森の葉陰に潜んでいるつもりなのだ。だがエンメルス達は既に視界に捉えている。


「どうします、タカダさん? 撃ちますか?」


「んー……こっちに来れないのであれば放置で。アレは既にサンプル取れてますし、来ない奴撃っても弾の無駄遣いですしねぇ。船までやって来る類が来るまでは放置しておきましょう。あ、そうそう。各員サプレッサー装着」


派手な銃撃の音を聞きつけて他の魔獣を呼び寄せるのも馬鹿らしい、そう考えた高田は魔獣掃討用に用意した全ての銃器にサプレッサーを取付け、ゆっくりと進む船上で森の中に目を凝らした。


「10時の方向、川岸に魔獣……デケえカマキリモドキか? ヴァオラって奴かな? 撃ちますか、高田さん?」


「お、アレ見た事無い奴ですねぇ、早速未知の魔獣ですよ、滾りますね! 初物の場合、銃弾が効くかどうかの確認作業を必ず行って下さい。まずはどの程度で倒れるかの威力調査、それと映像記録開始」


川岸に居た大きなカマキリの様な魔獣は川際まで来てはいたが、流れる川は渡れないようだった。

そこに船上からパスっという音が聞こえた瞬間に、カマキリモドキと称した魔獣の頭が揺れた。

神聖士団は銃の事は聞いていた。大きな音を立てて金属の塊を射出する武器であり、物理的な力を以て敵の抵抗を奪う。以前に実験と称して数発の銃弾によって魔獣ニェレムを倒していたのだ。それは確かに効果があったかもしれない、レルティシアの見る限り何らかの化学的な作用によって魔獣を倒した様に見えた。それが故に、この銃とやらが他の魔獣にも効果があるとは思ってはいなかった。

だがレルティシアの目前では大した発射音も発さない銃によって一匹の魔獣が倒された。


「ふーむ、1発で動かなくなった様ですねぇ。はい、昆虫型魔獣にも有効、と。動物型とか人間型とか佐藤一佐の話だと迫撃砲弾が非常に有効だったという事なので、他の魔獣も同様かとは思いますが個体差が有るようですねぇ……早く別口現れませんかね」


後ろでぶつぶつ言う高田の独り言を聞いたエンメルスは呆れた顔をしながら再び森に目を向けた。

それにしても輸送船のエンジン音なのか、人が来た何かを感知して魔獣は集まってきていた。

その理由を高田達は未だ知らない。だが、魔獣探知を行う為に魔力を持ったロドーニア人を連れて来た事が、その魔力によって魔獣を引き寄せているのだった。

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