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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_19.オレンセ川の遡上へ

魔獣の森横断に関するオレンセ川遡上作戦はテネファ評議会の認可が得られた。

反対意見はメイエル評議会議長が押し切り、その代わりにレフール神聖士団の同行を了承させた反対勢力の代表であるゲーレン議員はレルティシア神聖士団長にこう言い含めた。


「魔獣の森の氾濫を招きよせる前に、彼らと共に引き返せ。必ずだ」


その命令を受けたレルティシアは然程不思議には思わなかった。

そもそも今回は魔獣の森に立ち入るだけではなく横断するとまで言った無謀なニッポン人達に、早急に魔獣の森に立ち入る事を諦めさせる事が目的だったのだ。我々神聖士団同行を提案したゲーレン議員は、ニッポンの技術を高く買い、そしてヴァルネクを危険視している。それが故に、危険な森に立ち入って大きな被害を出して日本の不興を買い、援助の手が引かれる事を恐れている。


そのゲーレン議員からは団長の私だけは名を名乗る事を許可された。我々神聖士団に所属する者は対外的には名を名乗らない。だが、今回私がニッポン人に名乗ったのは、彼らに偽名を名乗るよりも掟を曲げて本名で名乗る方で彼らの信用を得る事が出来、かつ我等神聖士団の判断、つまり引き返すべきという判断も重要視されるだろうというゲーレン議員の思惑もあった。

それが為、テネファに到着した船からタカダというニッポン人と挨拶を交わした際に突然にこんな事を聞いてきたのだ。


「ご親族の方でガルディシア帝国に行かれた方は居ますか?」


それは何を意味するかとっさの事に分からなかったが、つまりはレルティシア氏族の過去の話の事なのだ。ガルディシア帝国がどこの国かは知らないが、ロドニア海を越えた西方大陸バラディアにある国の事らしい。


何代か前に我が親族、正確にはダーレント法皇の時代、魔獣の森を縦断する為の開拓事業がその後の魔獣氾濫、つまりダーレントの惨劇が引き起こされ国家存亡の危機が発生し、その際にロドーニアに向けて多数の船で脱出を図った人々の中に、我が氏族の一つがあった筈だ。


結局、魔獣の氾濫が収まった後にロドーニアにはその船が到着しておらず、恐らくはロドリア海に流された挙句に死の王の餌食と成り果てたのだろう、と残された当時の氏族は納得した。だが、もしその時に脱出した船がロドニア海の突破に成功し、そしてガルディシア帝国とやらに辿り着いていたとしたら?


まあこれが他人の空似であるなら別に問題は無い。

だがもし……仮に我がレルティシア一族の氏族であったなら……


・・・


現地で評議会の面々と挨拶を交わした後に、レフール神聖士団との詳細を打ち合わせる前にエウグスト人部隊と高田のみで事前に立てていた作戦内容を現地で得た情報と3名の神聖士団が同行する事に合わせて修正した。


「タカダさん、ドローンに積んでる機材で水深分かるんじゃないっすか?」


「音響測深かい? 大まかには判断可能なので、湖までは行けるという判断は既にそれで下しているんですよね。ただ、実際に通ってみないと流木があったり予期しない障害物があったりするからね。というより、本当の目的は違う所にあるのだけれど」


「違う所?」


「実際の所、テネファの神聖士団との接触が図れないとの事を事前に聞いていたので、何とかこの作戦に引き込む事が目的だったんですよねぇ。ただ向こうから提案してきたというのは予想しなくも無かったんですが、まさか団長自らとは多少以外でしたねぇ」


そもそも我々だけでは魔獣の探知が出来ない。

魔道探知機は。魔獣の持つ魔力にも反応するのだ。

その為、我々が持つ探知装置とは別の理を持つテネファの人員をどうやってこの作戦に巻き込むかを考えての事だった。その際に自らの身を守る能力を持つ人というカテゴリは限られている。しかも魔獣の氾濫という過去を持つ人々が、その恐れを踏み越えて我々と同行可能かと考えると難しい。その為、可能な限り安全を保証した上で早急にテネファに戻す事を考えていた。

そういった人員の選定となると、事前に柊から聞いていたレフール神聖士団が望ましい。


だがレフール神聖士団、というよりテネファの人達はあまり魔力を持たないのだった。

高田が当初考えていたテネファ人に魔道探知を持たせてという想定は意味が無くなった

そこで魔力を持つ人員としてロドーニアの関係者を連れていき、結局は輸送船コスタ・レイは5名程の増員をして行くという事で、計画を修正した。


最も目的の湖まで辿り着いたとしてもそれは開く迄も魔獣の森横断の途中であり、そこから同行の人達を戻した後でその先をどうやって走破するかという問題もあったのだ。途中の湖で機材を降ろし、そこにベースキャンプを設けた上で魔獣の森を陸路走破する、という計画だった。その為、そのベースキャンプにロドーニア人とテネファ人を置いていけば良い。何なら船の残置部隊は一旦テネファに戻しても良いと判断していた。湖から魔獣の森を抜けるまでの距離は直線で30㎞程、持ち込んだ機材を以って可及的速やかに森を抜ける事が十分に可能、と高田は考えていたのだ。


「ああ、成程っすね。通りであんな意外な顔していた訳すね。いやあの神聖士団長とやらの顔見た瞬間、"レヴェンデールの狂女"かと思いましたよ。似た人は三人居るとか本当っすね。本物の方は元気なんすか?」


高田はここテネファに来る前、エウグストの首都エウルレンにあるホテル・ザ・ジャパンでル・シュテル伯爵との秘密会合の際に急な呼び出しを受けて、ロドーニアに飛ぶ事になったきりだった。その後にル・シュテルから、レティシア大尉がホテルのバーにやって来て高田に会いたがっていたという話を聞いていた事を思い出していた。


「ああ、レティシアさんですか。元気そうだと聞いていますねぇ。僕も会って無いんですよ。あったら別の何かが始まりそうな気がしますが」


「別のナニカ? なんとなく艶っぽ話じゃない事は分かりますが……いきなり切り結ばないで下さいよ、タカダさん」


「あはは、それも楽しそうですよねぇ」


ちっとも楽しそうじゃねえだろ、そんな顔をしながらエンメルスはウキウキ顔の高田を呆れながら眺めていた。


・・・


テネファ評議会の建物の一室では、評議会議員ゲーレンとその取り巻きのアルフレドが、日本から渡された地図を前にしていた。その地図にはテネファの港そばからテネファ中央を通り抜け魔獣の森奥深くまで続くオレンセ川、そして奥深い所にある丸い湖まで続く書き込みを渋い顔で見つめていた。


「あの連中はどうしている?」


「何やらあの輸送船で積み下ろしを行っておりますね。彼らは神聖士団のレルティシア他二名も同行を了承しましたので、彼らの荷の積み込みも行っている様です」


ふむ、そうか。よしよし。頼むぞ、レルティシア。必ずやあの一行を引き戻せ。お前を付けたのはそういう意味なのだ。勿論分かっているだろうがな。ここであのニッポンの一行に何かの被害があってみろ。せっかくの未知の技術を持つニッポンという国から、どんなものが我々に齎されるか考えた事があるか? あの、ヴァルネク連合でさえ正面からの敵対を避け続けているのだ。当然、ヴァルネクの国力と比しても圧倒的な何かがそこにある事を連中は既に知っているからだ。その何か、我々テネファが頂く。

だが、その一歩が魔獣の森なんぞに好んで入りに行く馬鹿のせいで台無しになってはならない。


「ふむ、大事なく作業は進んでいる様だな。アルフレド、レルティシアには誰を付けた?」


「特級神聖士のアールフレドとエルーラの二人です。恐らくはレルティシアを含む三名が付いていたならば、ニッポン人達の一行に危害が及ぶような事態になる事は無いかと……」


「神聖士団の10傑中3名か。であれば、問題は無かろう。いいか、お前からもレルティシア達に必ず伝えろ。少しでも危険を感じた時点で直ぐに引き返せ、とな。何ならあの三人なら船を力ずくでも制圧して戻る事も可能だろう。彼らがどれほどの戦闘力があるかは知らぬが、あれほど危険な場所に入るのであれば、多少は強引な事をしたとしても咎められはすまいて」


「はい、その様に思います。彼ら三名は我等テネファが誇るレフール神聖士団の中でも選りすぐり。何の問題も無く指令を遂行するでしょう」


満足そうにアルフレドの返答を聞いたゲーレンは頷いた。

ゲーレンは、あの輸送船がオレンセ川遡上の途中で魔獣によって危険な目に会い、その際にはレルティシア達の活躍によって途中で引き返すビジョンが見えていた。そうなれば、命を救われたニッポン人達は我々テネファの神聖士団に、ひいては評議会に感謝をするに違いない。多少彼らの銃が魔獣に対して使えたとしても、小型の魔獣なら兎も角、大型の魔獣には対抗も抵抗も出来まい。その絶体絶命を救う我等の神聖士団がおれば、彼らとの外交も我等に有利に色々運べるだろう。


平時であればメイエル評議会議長のようなタイプでも問題は無かろうが、今は戦時下といっても差支えないだろう。

何せ嵐の海喪失に死の王の消滅、そして更にヴァルネクの東方戦争、そして強力な科学力を持つ新国家ニッポンの登場、これ程の難治が立て続けに続き、更には歴史上二度目となる魔獣の森氾濫が起きた。

今や戦時下は、まったく大げさではないのだ。この事実を以って次の評議会議員選出の際の強力なカードとなるだろう。

そんな時代に、メイエル評議会議長は少々役不足だ。

そう、そろそろ退任して頂く頃合いだろう……


そんなテネファ評議会議員ゲーレンの思惑、そしてその指令を受けた神聖士団の三人とロドーニア人二人が同乗し魔獣の森北方の湖を目指す輸送船コスタ・レイはオレンセ川の遡上を開始した。


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