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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_09.兵器局の天才達

ヴァルネクでは帰還した教化第二艦隊の惨状とそれを齎したヴォートランと日本による航空攻撃による脅威の対処に頭を悩ませていた。未だかつてヴァルネクでは戦艦や重巡洋艦といった大型艦が航空攻撃によって沈められた事は無かったからだ。それが突然現れた日本という得体の知れない国によってならともかく、恐らくはヴァルネク連合諸国内の国と比べても格下であろうと見積もられていたヴォートランさえもが、大型戦闘艦を沈める実力を持っているという報告に戦慄していた。更には、その戦艦を沈めたヴォートラン王立空軍とやらが本腰を入れてロドーニアに肩入れを始めたという情報が、ドムヴァルに潜ませているヴァルネク親衛軍情報部から入ってきたのだ。今、この時点でさえ中央戦線でのヴォートランの戦闘機部隊によって航空優勢を屡々奪われているヴァルネクとしては、これ以上得体の知れない対処不能な連中をのさばらせる気にはならない。この脅威にどう対抗すべきかを最前線で話合っていた第二軍グジェゴシェク将軍と浮遊軍のアロスワフ将軍の元に、兵器局局長メーシェがヴィンツェンティ博士を伴って現れたのだ。


「ふひゃひゃひゃひゃ。あー諸君、実に頭を悩ませている様だね! だが、安心したまえ。ここに紹介するヴィンツェンティ博士が諸君の悩みを立ちどころに解決するだろう」


「メーシェ局長? 一体どうしてこんな前線に?」


「法王猊下からの直々の命令でな。ああ、レフール神の加護を。私がここに来た理由は先に述べた猊下からの要請もあるが、諸君を悩ます問題の解決に参ったのだ。まあ、聞け。このヴィンツェンティ博士の話と装置を!」


「……どうもヴィンツェンティです」


グジェゴシェクとアロスワフの眼前に現れたヒョロっとした伏し目がちの長身の男は、メーシェ局長に紹介されて嫌々ながら二人に挨拶をした。この戦場に似付かわしく無い風采の男は、それっきり口を聞かなくなってしまった。


「第二軍を預かるグジェゴシェクだ。ここに居るのは浮遊軍のアロスワフ将軍だ。君は兵器局の者か? 一体何用でこの前線にやって来た?」


だがヴィンツェンティが答えるよりも早くメーシェ局長が、独特の口調でその問いに答えた。


「将軍! 諸君らを悩ます敵軍を撃滅可能とするやもしれぬ素晴らしい開発をしてきたのだぞ! その開発を成し遂げたのはここに居るヴィンツェンティ博士なのだ。まあ、彼を見出したのは私なのだが」


「それは分かった。で、一体何の開発をして何を持って来たのだ?」


「うむ。よくぞ聞いてくれた。以前試験した魔導遮断装置は覚えているな?」


「ああ、確か海軍の魔導潜航艦で使用したというアレだな。敵からは全く探知されずに一方的に攻撃が可能だったと聞く。それが何か?」


「うむ。聞くところによるとヴォートランの浮遊機はまったく魔導探知に引っ掛からず、しかも照準も出来ないと言うではないか。恐らくこれは私が開発した魔導遮断装置に類似した機構ではないかと推測したのだ。だが……諸君らの報告と、ヴォートランは蒸気系機械文明であると言う事、そして浮遊機の飛行形態から推測するに、彼等は魔導では無く別の原理で浮遊しているモノと判断した」


「魔導では無い別の原理だと……? い、一体どうやって?」


「まあまて。結論を急ぐではない。私の様な天才を以てしても、この仮説から導き出した結論は信じがたい物だった。だが、例の魔獣による包囲から抜け出た兵…何と言ったか。ああ、そうだコールガスと言ったな。アレだ、コルダビア軍に居たコールガスとエルネスキという者達からの聞き取りで、私の仮説が裏付けられたのだ!」


「早く結論を言って頂けると有難いんだが……」


「軍人というのは何故にこうもセッカチなのか。世が世なれば世紀の発見なのだよ、グジェゴシェク将軍。彼等ヴォートラン、そしてニッポンは内燃機関による浮遊を行っているのだ。魔導探知出来ぬも道理なのだよ、何せ魔導結晶石を動力源とはしておらんのだからな!!」


将軍二人を前にしてメーシェは一際叫ぶように言った。

だが、グジェゴシェクはそれが何を意味するのか、今一分かって居なかった。だがアロスワフは驚いた。


「では……では! 我々の武器が全く使えないではないか! 我々の照準装置は魔導力を感知し、そこに向けて射撃するようになっているのはご存知だろう。という事は、その内燃機関とやらで飛ぶ浮遊機は撃墜不可能という事になる!」


「それが私がここにヴィンツェンティ博士を連れて来た理由なのだよ。彼は私の次に天才であるのだよ。多少人付き合いが苦手だが、彼の頭脳は本物である事を私だけが理解しているのだよ、諸君。それは即ち同じ天才同士が惹かれ遭う、」


「メーシェ局長、その動力云々は分かった。で、この連れてきた博士が来た理由は何だ?」


「全く軍人という人種には大いに失望を禁じえないね。ま、いいだろう。彼、ヴィンツェンティ博士が開発した内燃機関による飛行物体を探知する装置だ。基本は魔導探知装置と同様の内容ではあるが、別の物を探知する様にしている。それは金属だ。ある一定量の金属に対して反応をする様に探知対象を変更してあるのだ。勿論動力源は魔導結晶石であるので、兵站に負担もかける事も無い。使い方も魔導探知装置と同様だ。如何かね?」


「……すると、例のヴォートランの浮遊機が来るのが分かる、という事か?」


「私はそう伝えた積りなんだがね。そう伝わらなかったのであれば、私の伝える能力が低いか君の汲み取る能力が低いかの何れかであるが、この場合は…」


「ああ、いい。理解した。よく、やってくれたヴィンツエンティ博士! 何か使用上気を付ける事なり制約なりは無いのかな?」


「……これは試作でありまして、著しく探知範囲が狭いのです。量産が可能となるまでには、性能の向上を試みたく思いますが……」


「探知範囲が狭い……どの程度だ?」


「……凡そ探知可能範囲は出力の問題で60km程度かと。それと現状は試作品が5個しかありません」


「だ、そうだ、アロスワフ。貴様の例の実験部隊に早速使わせてみよう。効果が実証出来れば、直ぐに量産して貰いたい。それは大丈夫だろうか、メーシェ局長?」


「誰に物を言っているのかね? 当然、量産を行う為の下準備は終わらせてきているのだよ。諸君らが前線にてこの装置が如何に素晴らしいかを実証したならば、たちどころに量産に入る手配は終わっている」


「さすがメーシェ局長。例の魔導遮断装置と言い、天才とはかくある者に言うべき言葉だな」


「グジェゴシェク将軍。当前の事を言われてもな。それよりも、だ。例の魔獣対応部隊はどうなったのだ?」


「ああ、あのヴォートラン式銃の部隊か。あれから魔獣と接敵しておらんからなあぁ…何か報告があれば直ぐに届けさせよう。メーシェ局長は暫く前線に?」


「探知装置に関する件は全てヴィンツェンティ博士に任せておるからな。それでは帰還の浮遊機を待たせているので私はこれにて首都に戻る。では博士、後は任せたぞ!」


「……」


ヴィンツェンティ博士の返事を待たずにメーシェは立ち去った。

そして後には二人の将軍と、彼等に目を合わせない博士が一人残された。


「では博士。早速144実験中隊に案内しよう。彼等が主に迎撃任務を専門に行っている部隊だが、彼等にその探知装置があれば相当な戦力となるだろう。期待された能力が発揮されるのであれば、だが」


「……」

ヴィンツェンティ博士は、ただ黙って頷くだけだった。

二人の将軍は彼の態度に少し不安になった。

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