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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第二章 ドゥルグル魔導帝国の影】
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2_01.評議会議長ファーネル

ドゥルグルは8000年程前に行われた終末戦争を彷彿させる大規模な対ラヴェンシア戦争によって、互いに致命傷を負った。ラヴェンシア帝国による衛星軌道からの大規模魔導兵器レフールの槍によってドゥルグル全域は荒廃し、人の住めぬ荒野の大地と化した。だが、ドゥルグルは頑強なシェルターを幾つも用意していた為に、国家の重要な人員はそれなりに生き残っていた。そしてラヴェンシア帝国もまたドゥルグルの魔導兵器カルネアの栄光によって人々は自身の魔力への強制干渉を受け大部分が魔獣へと変化した。だが8000年の時を経て、ラヴェンシア大陸は再び人類による復興を遂げた。


だがドゥルグルの復興は簡単には行かなかった。


生き残った彼らは直撃を避けたシェルター内でおよそ二世紀を経た後に外に出ていき、そして国家を復興させようとしたのだ。そして更に数年後、彼等は自分達に子供が出来なくなっている事に気が付いた。ラヴェンシア帝国による攻撃は直接的な破壊と共にレフールの槍を受けとめた大地に毒を齎し、なんとか生き残った人々を傷つけ続けた。こうしてドゥルグルは健全な遺伝子情報をシュルターに厳重保管し、そこから人口受精による人口再生を試みたがドゥルグルの大地自体が汚染されていた事から、新しく生まれ増えた人口もまた汚染された。しかし、そんな環境であっても自らの魔力によって汚染に対抗する人々も少数現れ始めたのである。更には魔力を極めた挙句に禁忌と呼ばれる魔法に手を出し、肉体を捨て幽体化した者も居た。死の大魔導士エヴァハである。


生き残った大部分のドゥルグル人は国を再興させる程に人口を増やす事も出来ず、新たな魔導科学技術の発展も望めず、困窮した日々を汚染された大地にしがみつきながら、大地に残った毒の浄化方法を探し続け、既に2000年が過ぎ去った。汚染された大地の食料事情は人口の増加を許さず、人口は以前に比べるまでも無い程に低下した。そこで彼等は厳重な人口抑制策を用いて、国家に重大な貢献が期待出来る人員のみを残して間引きを繰り返した。その永遠にも思える長い間にドゥルグルの過去の偉大な遺産の大部分を失いながらも記録を頼りに様々な試行錯誤を行い、遂に魔導による土壌汚染の浄化方法を見つけた暁には、殆どの保存遺伝子は長い保存状態に耐えられず使用不能に近い損傷を受けていたのだ。


そして遂に問題の解決方法に辿り着いた者が居た。

ドゥルグル魔導帝国評議会議長、ファーネルである。


カルネアの栄光システムは、敵国に投下後に稼働を開始する。そして敵国中枢で、敵生命体が持つ魔法力に作用して遺伝子の不可逆的改変を行うのだ。だが、この遺伝子不可逆改変の行程手順を改造する事により、損傷を受けた遺伝子を正常に修正する事も可能だという事が判明したのだ。彼はドゥルグルが過去に使用した魔導兵器カルネアの栄光システムを過去の記録が残されていたシェルターを発見し、その記録を読み解いた上で全て封印した。


それを入手せねばドゥルグル自体が今後どうなるかは火を見るより明らかであった。恐らくドゥルグル人は民族としての再興も出来ず、自らの遺伝子損傷を抱えて暗いであろう未来が待っている。そしてこの情報を公開したならば、入手もしていない過去の遺産の存在と現在の状況に絶望したドゥルグル人が自滅的な行動に出かねない事を慮ってファーネルはこの情報を秘匿した。これら全てを知っていたのはドゥルグル魔導帝国評議会のファーネル議長と、その報告を受けたドゥルグル皇帝だけだったのだ。


そして皇帝はファーネルにカルネアの栄光に関する一切を情報封鎖を命じた上で、捜索と入手を命令した。


ファーネルは評議会はおろか全てのドゥルグル人に対してこの情報を秘匿したままカルネアの栄光システムの情報と入手の手がかりを探し全土に散らばる生き残った各シェルターの資料を漁った。そしてカルネアの栄光システムは、対ラヴェンシア戦争でラヴェンシア大陸に投下して、彼の国を滅ぼした所までは判明した。


ラヴェンシア大陸には既にラヴェンシア帝国の末裔と思われる人々が過去の帝国の遺産を全て失い、そして新たにレフール神を主神とした宗教に縋る国家とその周辺の有象無象の国家群と成り果てていた姿だった。だが彼等ラヴェンシア人は、ドゥルグルと比較しても圧倒的な人口を誇り、ドゥルグルが何等かの戦争を仕掛けたとしても、やがてラヴェンシア人の人口の多さによって押し潰される事は明白だったのだ。


そこでファーネルは、ラヴェンシア大陸でのカルネアの栄光システム捜索と入手の為にラヴェンシア大陸の人口削減策を勘案し、人工魔導結晶石の精製方法を秘かにヴァルネクへと伝えた。ヴァルネクの欲に溺れた権力者の手に渡れば、その期待された性能を元に大量に存在するラヴェンシア人を、その欲望のままに我々を目的へと近づけるだろう。果たしてファーネルの思惑通りに事は或る程度進んでいた。そしてファーネルの策動によって、ラヴェンシア大陸間を二分する大戦争を引き起こしたのだ。


だが、ファーネルにとって予想外の事が起きた。

それは魔獣の森が氾濫した事だった。それによりラヴェンシア大陸の大戦争は休戦状態となり、互いに魔獣への対処で精一杯の状況となった事だ。彼等ドゥルグル評議会のメンバーは真の目的を知らなかったが故に、この魔獣の氾濫も結果的にラヴェンシア人が減る事となるならば由との判断だったが、ファーネルは気が気で無かった。


恐らくはこの魔獣の氾濫はカルネアの栄光システムが稼働した事を意味する。

つまりはこのシステムは今も稼働状態にあり、何等かの条件を満たした場合は今も即座に稼働する。このシステムの性質上、ドゥルグル人が攻撃の対象となる可能性もある。だとするならば、事を慎重に運ばなければ、それは希望の光と思えたカルネアの栄光はドゥルグルの破滅を意味する事にも成りかねない。


そしてラヴェンシア大陸で行われたヴァルネク連合の戦争に関して、延々とドゥルグルの評議会では戦略会議が開かれていた。それは、順調に進んでいた筈の戦争による人口削減が休戦によって停止した事と、休戦の終了が2ヵ月後となった事、そして各方面に潜ませていた精神操作を行われている者達からの情報を吸い上げ、ラヴェンシアにおける人口を更に効果的に削減する為の戦略会議だったのだ。


居並ぶ評議会議員を見渡しファーネルは言った。


「現状のラヴェンシアの状況は皆も存じておろう。先ずは休止したあの戦争を一刻も早く再開させねばならん。魔獣の氾濫が落ち着いたという状況に於いて、双方がこのまま終戦を選択させる状況にしてはならん。我々の目的はラヴェンシア大陸に眠るカルネアの栄光を無傷で入手する事なのだ。その為に彼等双方に我々は長い年月をかけて精神操作を受けたラヴェンシア人を増やして来たのだ。その成果は目前なのである。さて、会議を始めよう。最初は誰かな?」


「議長、同盟側の状況説明です。現在、同盟側……正確に言うとロジュミタールに忍ばせている精神操作を行っている者からの報告ですが、同盟はヴァルネクの休戦破棄のタイミングに合せて後の先でヴァルネクを挟撃する戦略との事です。陸での決戦場所はドムヴァル中央部のブオランカ盆地にて行う様に部隊編成と配置を進めている様です。ドムヴァルの海岸線は一部魔獣の森に汚染されている部分があり、ヴァルネクの侵攻を阻んでいる為にドムヴァル中央部を通らざるを得ません。尚、ロジュミタールは同盟への離反を目論んでおり、自分達を一番高く買ってくれるタイミングを図っている模様です」


「うむ、ご苦労だった、テレントン議員。さて中立国の動きはどうか?」


「中立国ですがテネファもムーラも動きはありません。中立国ムーラに忍ばせているの精神操作対象者の元には特に変わった情報は入っては居ない模様です」


「テネファの例のアレはどうなのだ?」


「例の……ああ、レフール神聖士団ですか。今の所何も動きはありません。入ってきた情報によると、魔獣氾濫に備えてテネファでは厳戒態勢が取られており、その攻撃主力がレフール神聖士団に任されています。その為、全て防衛配備に回されており、動きが無いというよりは動きが取れない状況ですね。ただ、それ程警戒すべき対象ですか?」


「ロートリンク議員。君はあれの正体を知らぬからだ。アレは精神操作が効かぬだろう。その他にも色々と通常の人間とは異なる能力を有する。しかもそれは魔導による強化の類では無い。そもそもが古の昔にラヴェンシア帝国が生み出した魔力と引き換えに異常な能力向上を図った実験の成れの果てだ。生まれついての殺人機械なのだ。しかも生殖能力を有しており、純粋な血族であればその能力が十全で発揮されたならば、そこらの人間には太刀打ち出来ぬ。仮に連中を相手にする場合は、手練れ10人掛かりでも難しいだろうよ」


「なんと……ファーネル議長に於かれてはその情報は何処から?」


「第12遺物庫だ。最も最古のシェルターと言われているアレの資料庫だ。限られた者しか閲覧出来ぬからな。だが、あのレフール神聖士団自体は魔力が存在しない。それが故に魔導で動く銃の類は一切扱えぬのだ。それが欠点でもあるがな。まあ動きが無い事は良い事よ。さて、ヴァルネクはどうなのだ?」


「マローンです。ヴァルネクは順調に魔女の鍋の中に入りつつあります。休戦破棄を決めたのもヴァルネクからであります」


「ふむ、だが問題が生じたと聞いたが?」


「は……ヴァルネクは魔獣対処の為にヴォートランへの接触を図りました。ここで我々はヴォートラン側……艦隊司令のジグムントと戦艦エーネダー艦長のスワヴォミル大佐を操作支配下においていたのですが、彼らがヴォートランと接触した際に戦闘が勃発しました。ここまでは良いのですが……ジグムント少将がヴォートランとの接触の際に意識を喪失し、その後に精神操作のリンクが外れました」


「リンクが外れた、だと? 同様の事例は他にあるのか?」


「はい、過去に例がありません。操作担当者によると強い恐怖によって精神が過負荷状況となり、そこで精神操作が外れたようだ、との事です」


「強い恐怖……それは具体的にどんな内容か分かるのか?」


「操作担当者が言うには、ジグムント自身がニッポンに対する恐怖の感情に制御不能になったとの事ですから、平たく言うとニッポンとの敵対を恐れたという事でしょう」


「……その後、ニッポンの情報入手は進んでいるのか、マローン議員?」


「申し訳ありません。どうにもガードが固い上にロドーニアのみを接触の窓口としている様で、今一つ情報入手は進んでおりません」


その時、マローンを見ながらロートリンクが手を挙げた。


「発言の許可を、ファーネル議長」


「宜しい、何だね?」


「はい、ありがとうございます議長。ロジュミタールの精神操作要員からの情報ですが、例の包囲下にあったコルダビア軍にヴァルネクは潜入員を潜ませていた様で、その脱出がロジュミタール経由でした。その際に、精神操作支配下にあったロジュミタールの人員が手を貸しました。具体的な情報は掴んでおりませんが、この包囲脱出に関してヴォートランとニッポンが何等かの協力を同盟側に行った節があります」


「それはどの様な協力かは分るかね?」


「それが実に荒唐無稽な話なのですが……あの魔獣の包囲を抜けるにあたり、ヴォートランはたった500名程度の部隊でその退路を切り開いたと。その際に使用した兵器には魔獣の森の上を飛ぶ浮遊機を使用していたという事です。コルダビア軍は捕虜交換によりヴァルネク連合の領域に戻る予定なので、その後の調査をマローン議員にお願いしたいのですが」


「……魔獣の森の上を飛ぶ浮遊機だと?」


ファーネル議員は、想像の埒外の言葉に思わず独り言を言ったまま黙り込んだ。

第二章の始まりです。

いよいよドゥルグルが本格的な関与を開始します。

という訳で、ちょっと早めの更新でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ドゥルグル側の背景、これは辛い。 戦争どころじゃないほど国民がいない、は大ハンデすぎる。 高度技術がそこそこ残っていても表に出れない……というか、カルネアの栄光で遺伝子…
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