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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_108.休戦協定終了までの2か月

二か月後に休戦終了を通達された同盟諸国の反応もまた様々であった。

既に同盟諸国内では魔獣の動きが氾濫状況から南方の森への後退と行動が変化するにつれ、直ぐにでも連合軍による襲撃があるものと臨戦態勢を整えてはいたが、コルダビア第二打撃軍集団を纏めて同盟軍の捕虜状態としていた事がどうやら連合の動きを止めていた物であると判断された。ヴァルネク連合が捕虜交換を受け入れるとの返答があった為である。


そこで連合諸国と同盟諸国は中立地であるテネファの仲介を以て、ロジャイネとドムヴァルの国境付近での捕虜交換となったのだ。結果として同盟各国の雑多な所属軍10万が捕虜交換で同盟領サライへと引き上げて来た。そして捕虜達の口から同盟諸国に"人間の魔導結晶石化"という事実が荒野に広がる野火の様に広がっていった。


この情報に同盟諸国は混乱した。

飽く迄も噂に過ぎない程度の話が、捕虜達の口から告げられたのである。その噂は正しい、と。彼等が生きていたのは魔導結晶石化の順番待ちに過ぎず、その順番が訪れたなら魔導結晶石に注入する生体エネルギー源としての役割を果たした後に墓場へと放り捨てられる定めだったのだ。そして現在故郷を失い戦い続けている同盟諸国の軍人達は、故郷を脱出して何時の日かこの戦いに勝利し、捲土重来を果たした暁に戻る故郷にあの懐かしい人達は既にどこにも居ないという事実が襲い掛かっていた。


更に同盟諸国内部では、魔導結晶石化に関する新たな問題が秘かに生じ始めていた。このまま戦争を継続しヴァルネク連合を打倒するのだという故郷を失った諸国と、未だ領土への侵入は行われてはいないものの、レフール教に恭順したのであれば領土領民は安堵されるのではないかと考え始めた国があったのだ。


それはロジュミタールである。


ロジュミタールは未だ領土を侵されてはおらず、そして軍の損耗もそれ程では無かった。

ロジュミタールの主な戦力は海軍であり、供出された陸軍兵力もまた温存されたままであったのだ。そもそもロジュミタール自体が商業国家であり、この同盟に関しては消極的賛成である事と単純に周辺諸国が同盟派であった事から、連合に与する事も選択肢を取り難いという事情もあった。だがこの連合有利に進む戦局が、ロジュミタール内部に果たしてこのまま同盟として戦い続ける事が正解なのかという疑問が沸き上がってきた所に持って来ての人造魔導結晶石化である。つまり敗北は国家が滅ぶだけで無く、国家の人的資源さえもが消え失せる事態である事をロジュミタール首脳陣は理解したのだ。


そしてロジュミタールは水面下での動きを加速していった。


そんな状況下で開催された16ヵ国同盟にロドーニアを加えた各国首脳による戦略会議では、2か月後に控えたヴァルネク連合の休戦破棄に関する同盟の対応と人造魔導結晶石に関する詳細情報の開示がドムヴァルのネストリ首相主導で行われた。


「さて、お集まりの方々にご報告申し上げる。我がドムヴァルとサライ国共同で行ったコルダビア第二打撃軍に対する調査、そして解放われた同盟諸国軍からの聞き取り調査の結果であるが、ヴァルネクが行っていると噂される人造魔導結晶石の件。これは真実である事が判明したのは周知の事実であるが…」


居並ぶ同盟諸国の代表者の前でドムヴァル国総理大臣ネストリは沈痛な顔で続けた。


「我々の調査の結果、連合諸国内でこの魔導結晶石に関する情報は共有されていない事が判明した。恐らくは今回の捕虜交換によってこれらの情報は連合内でも共有される事となるだろう。だが、その結果連合国内がどのように動くかは不明だ。彼等が行っているこの戦争は結果的に我々が全て魔導結晶石と化して終わる絶滅戦争だ。となれば、我々が今後どのような政策をとるべきか、諸賢の方々にお伺いしたい」


こう切り出したネストリの言葉に諸外国の代表は押し黙ったままだった。そこでネストリは後ろに居並ぶ軍人を見渡し、目線があったドムヴァルの将軍に目配せをするとその将軍が一歩前に踏み出した。


「ドムヴァル陸軍第三軍のアハティ少将です。現状でコルダビア軍への聞き取り調査をした結果ですが、保護したコルダビア第二打撃軍将校リュートスキ大佐は人造魔導結晶石の件を知りませんでした。また、他のコルダビア高級将校も同様です。これを見る限りヴァルネクの隣国であるコルダビアにさえも人造魔導結晶石の情報を秘匿していたと見るべきでしょう。これは複数の理由が考えられますが、主に連合諸国内での技術的優位の維持、それとこの情報を開示した事によって倫理的な観点から連合諸国内に不協和音が生じる可能性を考慮した物かと考えます」


アハティ少将の発言に、サルバシュ大統領シュライデンが噛み付いた。


「馬鹿な。負けている戦なら兎も角勝ちそうな連中に不協和音がある筈も無い! それよりもだ。2か月後に休戦解除となるのだ。このまま再び開戦となっても我々同盟軍に対抗手段があるのか? この人造魔導結晶石とやらで連中の兵站は無尽蔵に魔導結晶石を供給し続けるだろう。翻って我々には搔き集めても限度のある魔導結晶石しか無いのだ。どうにか入手する伝手でも手に入れる方が話としては先であろう!」


そこでオストルスキの軍人が現行の同盟側が持つ魔導結晶石の備蓄量と採掘予定量を説明した結果、どれほど節約したとしても全力での会戦は三度程と見積もられたのだ。これはコルダビア第二打撃軍から接収した魔導結晶石も含まれての状況である。


「……三回程度か」


「これでは徹底抗戦どころの話では無いな……そうだ、エルリング王。例のあの国はどうなのだ?」


「あの国? それはヴォートランの事か? それともニッポンか?」


「おお、そうだ。ニッポンは戦力となり得るのか?」


ニッポンの話題が出た事によりお通夜の様な空気の会議室の空気が一変した。だがロドーニア王エルリングの発言は、この微かな希望の火を即座に吹き消した。


「ニッポンの外交交渉団曰く、交戦中の国とは外交交渉を行わないそうだ。そもそも国が定める憲法によって対外戦争を禁じているという事だよ。攻撃された場合は反撃するが、自らが戦力を提供する事は無いと言ってな。全く期待は出来ぬだろうよ」


「なんと……そんな憲法になんの意味があるのか!?」


「左様、私もそう考えるに吝かでは無いがな。だが、ヴォートランは古来より我々ロドーニアとの国交があるが故にヴォートランの支援は多少得られる可能性がある。我々としてはむしろヴォートランに期待した方が良いだろう」


「おお、貴国がその仲立ちして頂けるのか?」


「うむ、当然そう動いては居る。例のロドーニア特別調査隊以降のヴォートランとの結び付きは急速に強固な物となりつつある。ただ、ヴォートラン自体も問題を抱えておってな。現在、彼等の国自体が戦争中であるが故にこちら側への全力な支援も難しいという事だ。だが、可能な範囲で協力したいとの事だ」


「ふむ、まあ敵にも味方にもならん存在であるならばせめて大人しくしていて頂きたいものだが。これがヴァルネク側に近寄った場合は目も当てられん」


「それに関しては中立国テネファからの情報だが、ヴァルネク側ともニッポンは没交渉なのだそうだ。だが、彼等ヴァルネクはロドーニアに対する攻撃の一切を控える、と一方的に宣言している。このヴァルネクの動きをどう見る?」


今迄大人しく話を聞いていたオストルスキ共和国のミハウ大統領は、漸く口を開いた。


「ヴァルネク連合は、今回のラヴェンシア大陸に於ける戦いが終わるまでは部外者の介入を嫌っているのだろう。色々漏れ伝わってきた情報では、ヴァルネク側の艦隊が一方的にニッポンの軍船に沈められたとも聞く。幾ら勝ち戦の状況であっても、余計な異分子の介入によって戦局が不透明になる可能性を排除したいのだろう。であるならば、ヴァルネク連合側としては局外不介入の方が都合が良い」


「ミハウ大統領、そうであれ、またそうでは無い場合もあるかもしれぬ。だが、どちらもニッポンはこの戦いに不参加である事が憲法とやらで決まっているのだろう? であるならば、ニッポンとやらの話に拘泥するよりは可能性のあるヴォートランとの協力を進めた方が良かろう」


サライ共和国大統領ギンズブルクのこの発言により、会議の方向は決した。

最終的に、この会議において同盟諸国はヴォートランの協力に関しては、ロドーニアが主導で引き続き行う事となった。そして2か月後を睨んで再びドムヴァル領内で防御態勢を整えると共に戦力の再編と現行の魔導結晶石の総備蓄量から勘案し、先にヴァルネク連合を引き込んでからの逆撃を行うという方針で一致した。


そしてラヴェンシア大陸は休戦協定が終了する2か月後を迎えた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すみません、簡単な地図を載せて頂けないでしょうか。都市や砦、森などの形や位置解ると物語がイメージしやすので。
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