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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_09.サルバシュの陥落

コルダビア第二打撃軍司令部のボレスワフ将軍の元に次々と無線が入る。

サルバシュ第二防衛線突破に向かった部隊からの緊急連絡だ。


「こちら第14自走魔導砲大隊、第二防衛線西方に到達せり!」

「こちら第45歩兵大隊、第二防衛線中央からの抵抗強し、援護砲撃頼む!」

「サルバシュ第二防衛線東方、敵の抵抗頑強! 空軍の援護頼む!」


「……ふむ、西方では突破仕掛かって居るな。中央及び東方は現在張り付いている戦力で現状を維持、西方に戦力を回せ。戦力を集中して西方から攻略するぞ、ラファル大佐。」


「はっ、了解しました。現在最も第14自走魔導砲大隊に近いのは52歩兵大隊と55歩兵大隊です。」


「そいつらの他に装甲機動兵力も回せんか。」


「少々時間が掛かりますが、第18自走魔導砲大隊を差し向けます。」


「うむ、西方防衛線を突破した暁には、第14魔導砲大隊と第18魔導砲を防衛線の背後に沿って進ませよ。防衛線前面の歩兵大隊との挟撃となるだろう。そうなれば、サルバシュの防衛力など無いに等しい筈だ。」


「空軍の対処は如何為さいますか?」


「ラファル大佐、空軍は飛んでこそ脅威だ。飛ばぬうちに処理が良いだろうな。だが、連中の浮遊機基地がどこにあるのかが分からん。或る程度分散してはおるだろうが……ん、どうして通信が入らなくなったのだ??」


「分かりません! 急速に魔導結晶石の出力が低下して来ました!!」


「どういう事だ!? 故障か? 直ぐに調べろ!」


「は……いや、これは……故障じゃありません! 何等かが原因で魔導石のエネルギーが吸い取られています!!」


「……どういう現象だ。ここだけで発生しているのか?」


ロドーニアの魔法士アベルトは大規模魔法を発動させた。

みるみるうちにその影響範囲にある魔導結晶石からはエネルギーが抜かれて行き、前線に居るコルダビアの自走魔導砲は、その出力の源を失って動かなくなった。だが、現場の兵達の大混乱は長くは続かなかった。突然目の前に巨大な炎の光球が出現したかと思うと、範囲内に居る兵士は全て酸素を断たれて窒息した。


「なっ、なんだあれは……?!」


大規模魔法範囲外に居たコルダビア第一軍のアンゼルム将軍は、この光景を目の当たりにしても大規模魔法が炸裂したという事までは考えが及ばなかった。ただ、サルバシュの何等かの秘密兵器によってやられた物と考えていた。


「おい、通信兵! ボレスワフ将軍を呼び出せ! 呼び続けろ!!」


「こちら第一打撃軍司令部、第二打撃軍司令部応答せよ。第二打撃軍司令部応答せよ! だめです、応答ありません!」


「アンゼルム将軍! 前方の第二打撃軍からは魔導探知機の反応がありません!」


「なんだと……どういう事だ? 魔導結晶石が全て消費されているという事か?」


「魔導探知機で探知出来ない理由は分かりません。反応が無いのは魔導結晶石が存在し無い事を意味しています。ですが……過去にこのような事は聞いた事がありません!」


「故障では無いのだな? あの光球と関係あるかもしれん。何れにせよ、前方には立ち入るな。異常事態だ。あれが何かが分からんうちは前進するのは危険だ。第一打撃軍はカドリナ周辺で防衛体制を取る。パヴェル大佐、第一打撃軍全軍に後退を命じろ。」


こうしてコルダビア第二打撃軍全滅の報は直ぐにヴァルネクに送られた。ヴァルネク軍部では、エストーノ軍先遣師団と全く同様の事象である事を確認した上で、アンゼルム将軍に連絡回線を開いた。


「アンゼルム将軍! ヴァルネクのグジェゴシェク将軍から緊急入電です!」


「うむ、直ぐに出る。……アンゼルムです、これはグジェゴシェク将軍、ご無沙汰しております。」


「アンゼルム将軍、報告を聞いた。貴軍に起きたあれはロドーニアの魔法士による大規模魔法攻撃の可能性が高い。生存者は居らぬだろう? だが、兵器の類は無事では無かったか?」


「はっ、ま、魔法攻撃ですと? グジェゴシェク将軍、何故それをご存知なのでありますか?」


「我々もリェカで喰らったのだよ。我々の場合は先遣のエストーノ軍であったが。だがこれで判明した。同盟はロドーニアを味方に付けて、何人かの魔法士を呼びつけておるのだろう。来たのが何人かは知らんが、連発は出来ないと推測しておる。そして待ちの戦法であるが故に、ある条件が整わなければ発動出来ない類であろう。」


「そ、その条件とは?」


「特定の指定した場所に居るその範囲内に居る者全て、だ。味方であっても、それから逃れる事は出来んだろう。それが故にむやみやたらと撃つ事は出来ぬだろう。貴軍の状況はどうであった?」


「……確かに、我が方が敵軍前方で突出した状態でありましたな……」


「であろうな。恐らくは攻撃範囲が貴軍のみであるのを特定可能な状況下に誘い込まれたのだ。同じ手を使ってくるとは同盟も追い詰められておるのだろうが、次は無い。この情報は連合軍全軍に告知する。いや、情報を回せなんだ事は申し訳無かった、アンゼルム将軍。我々も確信が無かったのだ。」


「いえ、それほど特殊な事であれば致し方無い事と思いますぞ。気になさらないで頂きたい。それよりも我が軍だけでは少々心もとない。リェカの同盟軍がこちらに向かっていると聞きますぞ。我々がサルバシュを攻略したとしても、その後に同盟軍主力に攻め込まれたならば……」


「なに、アンゼルム将軍。手は打ってあるよ。そうそう、貴軍の正確な位置を教えて欲しい。それと、そこに大規模な浮遊機基地を簡易で良いので作って頂きたい。可及的速やかに。」


「おお、浮遊機の援軍ですな。それは了解しました。直ぐにでも取り掛かりましょう。」


「うむ。この作戦はコルダビア軍に掛かっておるのだ。頼むぞ、アンゼルム将軍。」


こうしてサルバシュ第二防衛線の戦いは小康状態を迎えた。

コルダビア第一打撃軍は幸いな事に、第二打撃軍の補給部隊は全て生き残っていた為、補給が潤沢な状況となった。更にヴァルネクのグジェゴシェク将軍から受けた要請を早急に実行すべく、カドリナの周辺に大規模な浮遊機基地を作り始めた。程無くして臨時のカドリナ浮遊機基地には、大規模なヴァルネクの浮遊機部隊がやって来たのだ。そしてヴァルネクの浮遊機部隊を中心とした空爆作戦が開始された。


首都サルバシュリアと第二防衛線の間は100kmに満たない。

つまりは第二防衛線を飛び越して、ヴァルネクの浮遊機部隊が次々と侵入してきたのだ。当初は同盟軍の浮遊機部隊が全力でヴァルネクの空爆部隊を迎撃していたが、次第に同盟軍は押され始めた。何故ならば、潤沢にあった筈の魔導結晶石が度重なる空戦によってどんどんと予想を超えた量を消耗していったのだ。だが、ヴァルネクの浮遊機部隊は全く尽きる事は無い程に無尽蔵な魔導結晶石を保有していると思える程に、連続の航空攻撃を同盟に強いた。更には、同盟にとって最悪な事に、ジリナ公国を移動していた同盟軍主力から派遣された陸軍部隊は、ヴァルネクの航空攻撃によって足止めされ前進出来ない、と連絡が入っていたのだ。


「シュライデン大統領、大変申し訳ない。我々は動けるうちに撤退したい。既に動けない浮遊機も出始めている。このままでは行動の自由を失う可能性が高い。」


「なんだって!? では…では、サルバシュの国民はどうなるのだ!? 援軍は!?」


「必要な人員を以て後方に後退して下さい。我々は一旦オクニツアに後退します。そこまで後退した上でサルバシュ亡命政府を宣言して下さい。このままでは我々もここで全滅だ。援軍はジリナ公国で航空攻撃を受けて前進出来ないと連絡が入った。だから、今ここには間に合わない。それに陸軍が援軍で来ても、あのヴァルネクの航空部隊には対抗出来んのです。」


「だが……我々だけが生き残っても……我が国民が連中に……」


「致し方ない。生きていれば反撃も出来る。連中に捕まったら終わりだ。」


サルバシュ大統領シュライデンは崩れ落ちた。

だが、ここで大統領までもが捕らえられたならばサルバシュそのものが既に併呑された国々同様となる事は明白だった。シュライデン大統領は全国民に対して緊急放送を行い、直ぐに隣国ソルノク王国かジリナ公国への避難を呼びかけた。同盟軍浮遊機部隊は、動ける機と魔導結晶石を搔き集めてオクニツアへと向かった。オクニツアに飛ぶ浮遊機からは、陸路にはサルバシュを脱出する長い列が延々と続いているのが見えた。


こうしてサルバシュは陥落し、西方同盟諸国は孤立した。

明日公開予定だったけど、ちょい早めに更新しちゃいます。


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