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みんな人間合格

作者: 都会乃靄子

 太陽光線の脅威から逃れるべく、窓の桟が夕映えるまでおうちで独り、じぃーっと読書しております。

 兄上は、遠征で数日の間、お留守との事です。

 独りというものは、淋しいものです。


 

 [わた菓子みたいな思考回路]と、かつて長兄はわたしの明晰な頭脳を揶揄しました。

 なぜかその暴言が、あるときはたと脳裏によぎるということがしばしばあります。

 そんなとき、今行っている行為を少し中断して感慨にふけるのです。

 

 折りしも兄上がこの中傷を思いつき、気まぐれにわたしへ投げかけたとき、わたしは水羊かんを賞味しておりました。

 兄上の、猫の気まぐれのごときさでぃすてっく行為はわれわれ珍妙兄妹の間では日常茶飯事でして、先刻のわたがし云々もいわば妹に対するスキンシップとして、わたしは受け止めました。というか、兄上の言葉責めには慣れました。  

 さして和菓子は好物ではありませんでしたが洋菓子の類がことごとく経口不可の(食べ物の好き嫌いはよろしくありません。わたしも合点ご承知です。わたしは洋菓子を嫌っておりません。口にしたいのですがけれど洋菓子がわたしを嫌うのです。)わたしは必然、巷の少女たちを席巻する魅惑のスイーツ最前線に立てるはずもありませんでした。

 わたしもいちおうは少女なのでしょうから、なんとなく、乙女の特権を踏みにじられているような感が心中にうずまいたりもしたのでした。「あのときはちょっぴり嫉妬しちゃったの。てへへ」とは面映いのでよもやいえますまい。

 少女心的に神様もあったものじゃないこの不条理に息巻いていたのでしょうか。ゆえに独り、黙々と、水羊かんを咀嚼していたのでしょう。

 それはわたしたち兄妹のとるにたりない風景でした。

 けれど人の記憶とは、摩訶不思議なもので、何かのはずみに、兄上のけだるい声とともにあの、あまったるい水羊かんの味と舌触りがぼんにゃりと再現されるのです。

 そして、その折にいつもいつも口元が緩んでしまうのです。

 

 わたしに似つかわしすぎる、と。


 はたせるかな、わたしは四六時中、無意味にふうわり微笑んでいるらしく、人形チックな外見に病的な白い肌(お日様の光を浴びれないから仕方ないでしょうに)があいまって、傍目には、<<おとぎばなしにでてくる城の外で臣民が飢えに喘いでいるのをまったく知らずケーキ(だから食べれませんってば!)ほお張り(わたしは少食なたちです)罪なく微笑する幸福で能天気なお姫様>>に見えるらしいです。

 どうやらこれがわたしの、唯一のお友達がはじめ抱いた初対面のわたしに対する印象です。

 無論、わたしはしゅんとしました。

 もとよりわたしが無理強いして問うたコトですので、幾度も座りなおしながら伏し目がちに極めて慎重に言葉を選びながら答えてくれる健気な友人は、むしろ被害者です。

 悪いのはひとえにわたしでした。


 三日月の透徹した青白いひかりが、小さい窓から差し込んできた頃合には、散歩します。

 月の光も<<わたし>>には眩しいときがあるので、折りたたみの白い日傘を携えて。

 玄関の取っ手のひやりとした手触りが、今宵の夜の好奇心をくすぐります。

 いざ、参りましょう。

 




拙作を目に留めてくれた方がおられたら、それはもう、たまらなくうれしいです。無視はつらいです。

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