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森の異変

「ゼビウス、大丈夫か……?」

「おお、何とか……でも今背中さするの止めて。振動きっつい……」


 昨夜ゼビウスが食当たりを発症してからトイレから出てこなくなった。

 朝になりようやく落ち着いたみたいだが、それでも便器を抱え込むようにうつ伏せになったまま弱々しい呻き声を上げている。


 ゼビウスの異常にシスはすぐに気づいたがどうすればいいのか分からず、ひたすら背中をさすり冷えた身体を温めようと布を被せたりしていた。

 そのおかげなのか一応少しは楽になっていたみたいだが、今は逆効果になっているらしくゼビウスに言われたシスは慌ててその場から離れた。


「まだ吐いているのか?」

「トクメ! 何か薬はないのか?」

「食当たりなら薬で止めるのは逆効果だ、ひたすら毒物を排除させる為に吐かせ続けておく方がいい。こちらが出来るのは脱水症状を起こさないよう小まめに水を飲ませる事ぐらいだな」

「水! まずい、全然飲ませてなかった。確か水差しがあった筈だ!」

「冷えているのは飲ませるなよ。常温かぬるま湯だ」


 呆れているような口調ではあるがちゃんとゼビウスの心配はしているらしく、シスに対してまともな答えを返している。


「うう、シスが当たらなくて良かったけど何で俺が……」

「日頃の行いだな」

「お前に言われたくない。お前にだけは言われたくない」


 軽口を叩ける程には回復しているみたいだが、すぐにまた吐き気が来たのかトイレに向かって吐きだした。


 しかし既に胃は空っぽなのか胃液ぐらいしか出ていない。


 流石のトクメも見かねてしゃがみ込んだところでシスがお湯を持ってきた。


「ゼビウス、飲めるか?」

「ありがと、喉も痛かったし助かる……」


 トクメに支えられながら身体を起こし、ゼビウスはシスからコップを受け取りゆっくりお湯を飲み始めた。

 内側から温められていく感覚にホッと息をつき、強張っていた身体から適度に力が抜けていくと同時に自然とまぶたが落ちてくる。


 中身のお湯より陶器の方が熱かったり、先程まで背後で聞こえていたゴオゴオと燃え盛る炎の音が気になるのだが、それよりも一晩中吐き続けていた事による体力の消耗と睡眠不足による睡魔の方が強く抗えない。


 遠慮なくトクメにもたれそのまま眠りかけたのだが、丁度運悪くドアをノックする音が響き一気に眠気が吹き飛ばされたゼビウスの眉間に深いシワが刻まれ、その様子にシスが慌ててドアを開けた。


「ダルマ……?」

「おお、そなたらの中にも魚介類に当たった者が出たか」

「それはどういう意味だ」

「痛っ」


 ダルマの言葉に素早く反応したトクメが勢いよく立ち上がり、ダルマの元へ向かった。


「こちらもと言ったな。そちらはお前とムメイしかいないだろう、お前がここにいるという事はムメイも食中毒を起こしたのか!」

「うむ、その通りじゃ、ってトクメ!?」

「うるっせえな、こちとら弱ってんだよ静かにしろ」


 ダルマを押し退け隣の部屋へ行こうとしたトクメだが、眠りを邪魔され全体重を預けていたトクメに立たれた事で頭を打ったゼビウスの怒りの電撃ですぐに動かなくなった。

 怒りのままに立ち上がったゼビウスだがやはりまだ調子は悪いらしく、またしゃがんで口を押さえだしたのでシスは慌てて駆け寄り背中をさすろうとして動きを止め、まだ中身の残っていたお湯を飲ませた。


「ゼビウス、大丈夫か?」

「……ん、吐き気はするけど出ないから大丈夫。でもやっぱまだ歩けねえ、立つのも辛い」

「……その、ダルマ。悪いが今ゼビウスは体調を崩しているから子供探しは手伝えそうにない、悪い」

「それは分かっておるから大丈夫じゃ、それより気になる事があっての」

「気になる事?」


 ダルマが言うには朝方森に入った冒険者がいたらしいが、暫くして消えたらしい。


「消えた? 魔物に襲われたのじゃなくてか?」

「それならば何かしら声が聞こえる筈じゃ、しかしそんな声は一切なかった。それに何よりこの冒険者がいきなり森に現れた方が妾は気になる。村を訪れる前から何も考えず無心で来たのならば分かるが、村にいた村人やあの宿屋の主人すら何の反応もないのはおかしい。それに魔物はいないと言っておったが、普通の動物すら一匹もいないなんてことはありえぬ。先程確認してみたがこの村の近くだけではない、森に住んでいる筈の生物の声が全く聞こえんのじゃ」


 明らかに異常な事態に全員が黙り込んだ。

 いつの間にか復活していたトクメすら黙ったまま何か考え込んでいる。


「魔物、生物以外の何かがいるという事か……」

「魔物じゃなくて魔導人形とかの機械系なら可能性としてあるけど、いくら不意打ちされたからって声を出す間もなく全滅ってのは考えにくい」

「調べるべきだな、その何かが村に来て弱っているムメイが狙われては大変だ。ゼビウスも」

「ついでみたいに言うな」

「妾も行こう、もしも妾の子供がここにいて巻き込まれては一大事じゃ」

「……シス、お前もトクメ達と一緒に森に行ってくれるか? こいつ運動系全くダメだし何かあった時に戦える奴いないと危ないだろ」

「え゛っ」


 額に手を当てため息を吐きながらの提案にシスは条件反射とも言える早さで否定的な嫌な声が出た。

 今までトクメにされてきた仕打ちを思えば当然と言える反応であり、更にゼビウスが同行しないとなればトクメに仕留められる未来しか見えない。


「そんな怯えなくて大丈夫だって。トクメがシスに危害を与えない限り、俺もムメイちゃんに危害を加えずに看病しておくから」

「それはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味。お前が自分の娘にするように俺の息子を守るなら、俺も息子に接するようにお前の娘を守る、それだけの簡単な話だよ」

「それはつまり、私がシスに危害を加えればムメイを傷つけるという脅迫に聞こえるのだが」

「そう聞こえるのはお前がシスに危害を加える気でいるからだ。何もしなきゃいいだけの話だよ。あ、でも逆に守れそうな時は守れよ? 見捨てたりしても危害を加えたと判断する」


 シスが聞いても脅迫にしか聞こえないが、トクメが何かしら仕掛けてこなくなるならそれでいいとその事に関してだけは心の中でゼビウスに深く感謝した。


 出来れば何かあってもムメイには何もしないで欲しいというのがシスの本心だが。


「そういえばムメイは大丈夫なのか?」

「うむ、とりあえず食べた分は全て吐き出せた故あれ以上悪化はせんじゃろ。その代わり大分体力を消耗させた故今は眠っておるが……ああ、冷めた白湯を飲ませておるから脱水の心配はない。ゼビウスも大分弱っているみたいじゃが、話せる体力があるならムメイを任せても大丈夫じゃろ」

「そ、そうか……ちなみにダルマは戦えるのか?」

「ふふん、トクメ程ではないが妾も運動が出来ん! 勿論戦闘もじゃ! 何かあった時に妾には期待するな!」

「胸を張って言う事なのか……?」

「出来る事出来ない事をハッキリさせるのは大事な事じゃからの。もしもの時は頼むぞえ!」


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