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閑話 七大悪魔、揃わず

 魔界の奥深くにある一際目立つ城の中。

 そこのとある部屋に七大悪魔が揃って席についている、筈だった。


「あれ、マモンは? 俺が来てんのにあいつ来てないってありえなくない?」


 何故か上座ではなく下座に座っているサタンはいかにも不満ですといった表情をしている。


「僕としてはお前が下座に座っている方が不満だよ。座る場所ぐらいはちゃんとしろよな」

「ベルフェゴールは相変わらず固いね。ここは実力主義の魔界だよ? 偉いのに座る場所決められてるのおかしくない? むしろ偉いんだから好きなところに座らせろって思うね、俺は」

「あたしもサタンに賛成ー! 階級制度なんてクソ食らえってね」


 呆れているベルフェゴールとは反対にアスモデウスはサタンの隣に移動すると嬉しそうに腕へ抱きついた。

 豊満な胸をサタンに押しつけ、露出の激しい服から更に肌を見せるように腰をくねらせサタンを誘惑している。


 しかしサタンは目尻こそ下がってはいるもののアスモデウスに対して特に何か行動を起こす気配はない。


「ああ、もう分かったよ。お前に規則や決まりを守らせようとした僕が馬鹿だった。で、マモンだけじゃなくルシファーも来ていないみたいだけど?」

「ベルゼブブが呼んだ時点で来ないと分かってんのに毎回聞くお前も馬鹿だよね。なあ」

「俺に聞くな」


 きっちりと決まった席にーーというよりサタンが自由にしているだけで、アスモデウスも移動こそしたがちゃんと下座にいるのだがーー座っているベルゼブブは腕を組んだまま素っ気なく返事をした。


「ルシファーって潔癖症だもんね。ベルゼブブがいる時は徹底して来ないしあたしも大分前に会ったきりだから顔忘れてきちゃった。そうそうマモンだけど、今いなくなった部下を必死に探し回っているから来てないっていうか来る余裕がないみたいよ」

「お、何があった?」

「分かんない。何かいつも貢ぎ物くれてたのに急に貢ぎ物どころか姿さえ見せなくなったらしくって、あたしも一応探すの手伝ったんだけど巣がバラバラに切り刻まれてて部下の大蜘蛛は何処にもいないの。死体もなかったから生きてはいると思うんだけど……」

「へえ、マモンの為に手伝うなんて仲良いねー」

「え、やだマモンとはそんなんじゃないからっ。気になる? ねえねえ気になる?」

「えー、確かに大蜘蛛に何があったのかは気になるけどそこまでじゃないかな?」

「もう、そっちじゃなくてっ」


 はたから見ればイチャついているようにしか見えないのだが、サタンはわざとなのかアスモデウスの話を逸らしまくっている。


「なあ、話全然進んでねえけどいいの?」

「今までまともに集まった事も進んだ事もないから構わない。サタンさえここに留まらせられたらそれでいい」

「まあどうせお前の話ってゼビウスの事だろ、それなら全員知ってるよ。地上を自由に歩き回っているんだろう? それだけなら僕は帰ってもいいよね、来て早々レヴィアタンに喚かれて首輪外させられたし」

「う、悪かったな。俺じゃ外せねえしベルゼブブだってゼビウスの相手して疲れてるからベルフェゴールしか外せる奴いなかったんだよ」

「僕は無理矢理働かされて疲れてるけどね」


 ベルゼブブには気を使って負担をかけさせないようにしている辺りレヴィアタンもアスモデウスと同類である。

 気づいていないのは当事者だけ、という現状にベルフェゴールはケッと舌を出すと付き合っていられないと翼を広げそのまま姿を消してしまった。


「うわ、本当に帰りやがった」

「ねえサタン、あたし達もどっか行かない? 話聞こえてきたけどゼビウスの事ならもう聞かなくてもいいでしょ?」

「うーん……」


 いつの間にかアスモデウスはサタンに跨り向かい合うように座っているのだが、サタンは何故かアスモデウスの腰を真剣な顔で撫でている。

 それもただ撫でるのではなく何かを確認しているかのような動きに流石のアスモデウスも戸惑っている。


「サ、サタン……?」

「七十、いや五十点かな」

「え?」

「俺胸より腰派なんだよね、もっと言うと尻派。それで言うとやっぱレヴィアタンが今のところ満点一位、形も肌触りもバッチリだったし」

「はっ!?」

「うわ、いきなりこっちに話振んなよ!」


 アスモデウスが睨みつけるような勢いで振り向き、その速さにレヴィアタンはちょっと引いた。


「え、何でサタンがレヴィアタンの腰とかお尻の形や触り心地を知ってるの? つまり触ったって事でしょ……もしかしてそういう仲だったの!?」

「違げぇよ!! この間水浴びしてたら偶然サタンが来たんだよ!! それだけ!!」

「あたしだってお肌の手入れ怠ってないのに……! レヴィアタン! ちょっと確認させて!」

「絶対嫌だ!! そもそもあいつ触ってねえからな!?」

「問答無用! サタンの認めた肌がどんなものなのか確かめさせなさい!!」


 身の危険を感じたのかレヴィアタンは座っていた椅子を倒す勢いで何処かへ飛び去ったがすぐ後をアスモデウスが追いかけ、その場はサタンとベルゼブブだけになり一気に静かになった。


「……お前はいつから尻派になったんだ?」

「いやーアスモデウスは相変わらず可愛いよなぁ、俺の気を引こうと必死でさ。多分次会ったら肌とかスベスベになってそうだし楽しみ」


 どうやらアスモデウスのアピールを分かった上で揶揄う為の嘘だったらしい。


「あんまり遊び過ぎるとその内愛想を尽かされるぞ」

「大丈夫大丈夫、その辺はちゃんと見極めて適度に飴あげてるから。てか鞭使った事ないし俺ってアスモデウスにめちゃくちゃ甘いよなあ」

「そうだな、関係ないレヴィアタンを容赦なく巻き込ませた辺りアスモデウスにはかなり甘いな」

「そりゃアスモデウスもレヴィアタンもゼビウスには関係ないじゃん」

「…………」

「ゼビウスの事で俺達呼んでるけど、さっきベルフェゴールが言った通りゼビウスが地上を自由にうろついてんのは皆知ってんだよ。なのにわざわざ呼んだって事はそれ以外の何かがある、もっと言うとゼビウスと因縁あるのは俺とお前だけだから俺を呼びたかった。けどそうすると他の悪魔達が騒いでうるさいから七大悪魔として呼んだ、なら他の奴はいない方がいいと思ったんだけど違った?」


 ジト、とベルゼブブが睨むもサタンは全く怯まず頭の後ろで手を組み口笛を吹いている。

 普段だらしないくせにこうして鋭いところを突いてくるところがサタンの厄介なところだった。


 しっかり出来るのなら普段からそうしておけば周りの評価もまだマシなのだが、このだらしなさもまたサタンの紛れもない本性なので尚更タチが悪い。


「……お前は本当に変わらないな。いや違った、姿こそ変わったが中身は微塵も変わっていない」


 元々サタンは神界の天使だったが色々やらかした後自ら魔界へ降り、その時はまだ天使の羽根が生えており色も白かった。

 しかし今羽根は大きな黒い悪魔の翼へ変化し、頭の横上からは立派な角が生えている。


「だろ? ルシファーとアスモデウスもだけど。まあルシファーは色こそ黒だけど羽根はまだ天使の形保ってるし、アスモデウスは悪魔の翼に変化してる途中なのかまだ小さいよな。あ、でもどっちも角は生えてたや」


 そこまで話すとサタンはフゥ、と小さく息を吐いた。

 先程までの緩い笑顔から何か懐かしむような、少し寂しさも感じるようなそんな表情をしている。


「それを思うと俺は生まれてきた場所と種族を間違えたとしか思えないな、本当。だって初めて魔界に来た時懐かしいっ! って思ったもん、何なら泣きそうになったし。それに実力主義の魔界は俺にすっごく合ってた。神界は年数と階級が最優先だからどんだけ俺が強くても全く評価されなかったし。なあ知ってる? 神界でもイジメってあるんだよ、あの大天使のジジィ俺の方が力あるからって嫉妬してそりゃもうキツく当たる当たる。しかも「お前の為に厳しくしているんだ」って自分を正当化するし周りの天使も「サタンに期待しているからこその厳しさです」でなあなあにするし、どう見てもただのストレス発散と憎悪にその他色々悪魔の好きな感情盛り沢山! ふざけんなって思うよな」


 その結果が大天使に奇襲を仕掛け、原型を留めない程全身殴ってから羽根を全て毟りカイウスの神殿の門に逆さに吊り下げたのだから当時のサタンの怒りはどれ程のものだったのか。


 当然仲間、それも自分より位の高い天使を襲ったサタンは処刑される筈だったのだが天使達が捕まえに来た時には既にサタンは魔界へ降りていた。

 その時からサタンにべったりだったアスモデウスもサタンが行くならとついて行き、とうに神界を見限っていたルシファーもついでとばかりに共に降りてきている。


「あの時は楽しかったなあ。あんだけ偉そうにしてたジジィが泣きながらもうやめてくださいって無様に頼むんだよ? 怒りのままに殺さなかった俺って本当偉いっ。あんだけ見下してボロクソにこき下ろしてた俺にボコられて縛られた挙句自力で解けないって醜態晒して今どうしてんのかね」

「まともに生きてはいないだろうが、それよりゼビウスの事を知っていて昔話をするとは随分余裕だな」

「え、何、いきなり話戻すじゃん」

「お前が話を流すからだ。心当たりがあるんだろう? そしてゼビウスが地上を自由に歩いているんだ、多分近いうちに来るぞ」


 ゼビウスが来ると聞いてもサタンはまだ余裕があり、テーブルに足を乗せグラグラと椅子にもたれ遊んでいるのでベルゼブブはトドメを刺した。


「言っておくが、俺よりもサタンの方に怒りの矛先は向いていたからな」

「、え? いや、何で。勝手に冥界の死者連れて二度も神界侵攻かけたお前の方が根に持たれてるだろ。俺一回だけだよ? しかも冥界に死体放り込んだだけだし」

「誰の死体を何の為に放り込んだのか忘れたのか?」

「えーと……?」


 ゼビウスの狙いがサタンと知り流石にきちんと椅子に座り直し考えるも、サタンにとってはただの暇つぶしのようなものだったらしく本気で忘れているのかしばらく待っても唸り声しか出てこない。


「……ある宗教団体を混乱させる為に聖人と崇められていた人間の死体をわざわざ掘り起こして穢してから人前に晒した後に浄化されないよう冥界へ放り込んだだろう」

「あっ! そーだった、そーだった。そいつらクソジジィの下っ端だったからそんな価値ないよって教えてやったんだった」

「元々埋葬された遺体というのはとある者の管理であり、穢れた聖人の死体はそいつの好みど真ん中だ。その死体が冥界にあると知ったらどうする」

「………………あ」


 ようやくサタンがゼビウスに何をしたのか正確に把握したみたいだが他にもまだある。


「死体の盗難は奴に対して禁忌ともいえる行為だ。いくら好みの死体に変わったとはいえ盗難を許す程奴の心は広くない。その盗まれた死体が冥界にあったなら盗んだのは誰だと判断する」


 ついでにその宗教団体は死体を奪い穢したのはサタンだと分かっているが冥界に放り込んだ為ゼビウスはサタンと手を組んだと勘違いしてしまっている。

 そして冥界が少しでも関わっていると知れば好機とばかりにカイウスや天使達がゼビウスの元へとやってくる。


「……うん、分かった。ゼビウスめっちゃ怒ってた?」

「穏やかな顔でその時の状況を丁寧に説明する程には」


 冥界全体が悪臭に包まれ更には管理者に死体を盗んだと冤罪をかけられ暴れたので、纏わりついていた腐肉が辺りに散らばり掃除が大変だったと話すゼビウスは笑顔さえ浮かべていたが目は笑っていなかった。

 幸いと言うべきかカイウスの事は話に出てこなかったが、いつゼビウスが怒りに任せて行動を起こすかとベルゼブブは生きた心地がせず、ゼビウスの気が逸れた瞬間レヴィアタンと共に逃げたのだが。


「そっかー、じゃあ絶対こっち来るわ。やっぱアスモデウス達は避難させといて正解だったか。あれ、そういやお前は何でここにいんの。ゼビウスの怒りが俺に向いてんなら逃げといた方がよくない?」

「お前と一緒にいればとりあえず怒りはお前に向くから近くにいる方が俺には安全だ」

「……お前俺を生贄にしようとしてない?」

「最初からそのつもりだ」


 逃げた事でゼビウスのベルゼブブに対する怒りは増しているだろうが、サタンと戦っているうちに怒りは発散され終わる頃には多少緩和されているだろう。


 そう考えていたベルゼブブだが、逃げた事は全く問題なくむしろサタンと一緒にいた事でまとめて相手にしてやると挑発され、何気に戦い好きなサタンがそれに乗ってしまい盛大に巻き込まれる事になるのをまだ知らない。


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