レヴィアタンの災難
「魔界と言っても他とあんまり変わらないんだな」
船から降りたシスは魔界が初めてなのか辺りをキョロキョロと見回している。
「んー、空気中に漂う魔力が濃いぐらい? でもそのおかげで魔界出身は魔法の扱いに長けているのが多いし魔物達も強いのが多いのよね」
「やっと戻ってこれた……これでようやくあいつらから解放される……」
シスとムメイが話している横でレヴィアタンは背中と翼を思う存分伸ばしているが、何故かやつれているように見える。
「レヴィアタン、船では見かけなかったが何処にいたんだ?」
船の中では姿どころか匂いすらなく、逃げ出す事に成功したのかとすら思っていただけに普通に現れたレヴィアタンにシスは不思議そうに尋ねた。
「金使うのに躊躇いはないが俺に使うのは嫌だからって海に沈められてたんだよ」
「うわぁ」
「レヴィアタンは海の怪物と言われているから水中でも特に問題はないでしょう。何でそんなに弱っているの?」
「それ! 普通に沈めても何の苦痛もないからってアイアンメイデンに俺を突っ込みやがったんだよ! 完全密封だから水入ってこねえし! サイズだってわざと小さいの選んで無理矢理詰めやがるから入るだけで痛ぇのにそこから更に全身トゲに刺されたんだぞ!? しかもめちゃくちゃ揺れるから傷口抉られまくって本当容赦ねえよ……」
「うわぁ……」
今度はシスではなくムメイが顔を引きつらせ、シスは絶句した。
アイアンメイデンがどんな物なのか分からないシスだが、レヴィアタンの話を聞く限り相当えげつない代物だと言う事は嫌でも分かった。トクメとゼビウスが選んだ時点でろくでもない物だという事は分かっていたが。
「俺の事知っているとはいえ徹底的に追い詰めるあいつら本当何なんだよ……サディストなんて言葉じゃ収まらねえぞ」
「いや俺別にお前痛めつける事に快感も楽しさも見出していないから」
「私もだ。お前の趣向に私を巻き込むな」
「むしろスクリューに括りつけなかっただけ感謝しろ」
「ひえっ」
いきなり背後から話しかけられレヴィアタンは思わずシスにしがみついたが、トクメもゼビウスも特に気にした様子はなくそのまま先へと歩き出した。
「ほらシス、ここで止まってたら危ないからおいで」
「あ、ああ」
ゼビウスに呼ばれシスは慌てて後を追い、ムメイは少し考えてからレヴィアタンの隣に並んだ。
「なあゼビウス、楽しくもないのに何故レヴィアタンをあそこまで痛めつけるんだ? そこまで敵対はしていなかったと思うんだが……」
「んー? ああ、レヴィアタンに穏やかな時間を過ごさせたくないからだよ」
「……それだけで?」
「それだけ。俺には十分な理由だよ、ついでに復讐する気も起きない程叩いておけばこっちにちょっかい出してくる事もないだろうし。あ、言っとくけどああいった拷問器具は俺の趣味じゃないから。あれ集めてんのはトクメの趣味」
「誤解を招くような言い方をするな、それだけを集めているわけではない」
「興味のないものは集めてないんだから十分趣味に入るだろ、その拷問器具だって種類によっては見向きもしないんだから尚更」
本当の事だったのかトクメはムッとした顔になるとそのまま黙り込み後ろを振り返った。
「ムメイ、何故レヴィアタンなどの隣を歩いている。私の隣の方が安全だ、こっちに来い」
「行かない」
素っ気なく即答されトクメの顔はますます不機嫌になっていく。
「な、なあ隣歩くぐらいいいじゃねえか。行ってやれよ」
「絶対嫌。誰の隣を歩くかぐらいは選ばせてよ」
「そうだよなー、ムメイちゃんだって自由に歩きたいよなー」
ゼビウスの援護射撃に何故かトクメではなく先程から顔を引きつらせていたシスとレヴィアタンの悲壮さが増した。
「ゼ、ゼビウス、あまりトクメを刺激しないでほしいんだが……」
「ああ、大丈夫大丈夫。シスには八つ当たりさせないようにするから安心していいよ」
「俺は!? 今以上に当たりきつくなんのは流石に嫌だからな!? おいお前さっさとあっち行けよ!」
「だから嫌だって言ってるじゃない。あいつの隣歩くぐらいならレヴィアタンの隣にいる」
そのままムメイはレヴィアタンへとしがみつき、レヴィアタンは慌てて引き離そうとするが逆にきつく抱きしめられてしまう。
レヴィアタン程の力があれば無理矢理離す事もできるのだが、それをしたらしたでトクメの当たりがきつくなるのが分かる程には痛めつけられているので大人しくされるがままになるしかなかった。
「すっげえ迷惑なんだけど!!」
ただし口で拒否するのだけは忘れない。
決して今の状況を受け入れているわけではない事を知らせておかないと後が怖い。
「……ムメイ、いくら友達が欲しいからとは言え相手は選ぶべきだ。忘れたのか、奴はお前を攻撃した上に侮辱もしているのだぞ」
「あ、また余計な事言ってる」
二回目の友達がいない発言にムメイは何も言わず、レヴィアタンにしがみついたままトクメを置いて先へと歩き出した。
レヴィアタンは大人しくされるされるがままに歩いているが、その目は完全に諦めて何処か遠くを向いている。
「……シス、あれは恋愛感情とかそんなのは無いから安心しな。つうか、もしムメイちゃんがシスにあれしてたら流石の俺も庇いきれない」
「あ、ああ、それは分かっているから大丈夫だ。大丈夫だけど……レヴィアタンは大丈夫じゃなさそうだな」
トクメの方は怖くて見れないが、後でレヴィアタンに優しくしようとシスは心の中で誓った。