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大事じゃない用事

 ガヤガヤと賑やかな大衆向けのレストランでトクメとゼビウスは食事をしていた。


 トクメは少し不機嫌な顔をしているが、ゼビウスは運ばれてきたナポリタンに目を輝かせている。


「店って便利だよな。金さえ払えば後は待ってるだけで料理が運ばれてくるし、しかも後片付けもしなくていいなんて完璧じゃん」

「後片付けは大抵私に押しつけていなかったか?」

「お前が来たときはな。普段は俺が作って俺が片付けてんの」


 話もそこそこにゼビウスはナポリタンを食べはじめ、トクメも大人しくミートスパゲティを食べはじめた。


「それで? わざわざ私とムメイを引き離した理由は何だ」

「元から遠すぎる程距離取ってきて今も直してない奴が今更何言ってんだ。お前本当そういうとこあるよな」


 普段会おうとしないくせに、いざトクメを呼びだせば結構な確率で出てくる文句にゼビウスは呆れてため息を吐いた。


 天邪鬼な部分もあるので、ゼビウスに呼び出されるとムメイに会いたくなるらしい。


「ほら、前に言ってたそんな大切じゃない用事。ムメイちゃんいたらちょっと話しにくいから離したんだよ」


 そう言ってゼビウスが手を見せると同時に綺麗な水晶玉のようなものが現れた。


「……魂?」

「そう、フローラの」

「成る程、確かにムメイには話しにくいな」

「大丈夫とは思うけど、万一フラッシュバック起こしてまた発狂されたら大変だろ」


 不老不死になった者はその言葉通り死なないので本来なら冥界とは無縁なのだが、フローラは幸か不幸か死んでしまった。

 その為冥界まで来たはいいが、不老不死の石の力により輪廻の輪に戻れないどころか魂の形を保つのさえ危うい程であり、今はゼビウスの力のおかげでなんとか形になっている。


「このまま彷徨わせておこうかとも思ったんだけど、冥界の仕組み変えてるからこの状態で放置はちょっと困るんだよ」


 現在冥界はゼビウスの住居地帯、死者達が過ごす場所、そしてゼビウスの独断と偏見と気まぐれにより決められた救いようのないどうしようもない者達の三つに分けられそれぞれ侵入出来ないよう門が作られている。


「このどうしようもない奴等の場所は冥獄って名付けた。で、その冥獄の奴等がフローラの魂に目をつけるとどうすると思う?」

「……どうするだろうな。可能性があるとするならば、その魂をつなぎに一つの個体となる事か」

「そう、後は門関係なしに彷徨うからそれを狙って侵入してくるか。どっちにしろ厄介事しか起きないし、もうどうにかしてしまおうかと」

「どうにかとは?」

「人間に転生させる」


 軽く言い放ったゼビウスにトクメは予想していなかったのか軽く目を見開きパチパチとさせた。


「……出来るのか?」

「転生自体なら。ただフローラ自体が大分あやふやだから普通に転生させてもまず生きて生まれてはこないし、これない」


 一度外れてしまった輪廻の輪はたとえ神であろうとそう簡単には戻せない。

 不老不死の力により魂の情報を書き換えられている以上どうしても無理が生じてしまう。


「だから、死体に魂を入れようと考えてる。ある程度育った肉体なら多少魂に問題があっても生きる事は出来るし」

「それなら何故まだやらない?」

「俺の管轄はあくまで死者の魂であって身体は管轄外。だからあの死体愛好家の根暗引きこもりウジ虫野郎に許可取らないとそれはそれで厄介事が増える」

「……名前で呼んだ方が短くないか」

「名前呼んで反応されたら嫌だから呼ばない。まあそういうわけだ、許可が取れたらちゃんと報告しろよ」

「は?」


 前振りなく面倒事を任されトクメは思わずミートスパゲティを巻いていたフォークを落としてしまった。

 フォークは皿の上に落ちソースが跳ねたが幸い服には飛ばず、それを確認してからゼビウスへと視線を向ける。


「何故私が?」

「俺があいつ嫌いだから。常に死体抱えてるのもあるだろうけどあいつ自身の腐敗臭も凄まじいんだよ」

「お前が嫌っていない者の方が珍しいが……私は関係ないだろう」

「そっか、じゃあ仕方ないからムメイちゃんにでも聞いてみるか」

「その手には乗らんぞ」


 さらりと脅迫してくるゼビウスだが、娘を引き合いに出されたからと言ってこのまま大人しく従う程トクメは甘くない。


「でもなあ、フローラってムメイちゃんの元になった人物なわけだし全くの無関係というわけでもないだろう」

「話の論点をすり替えるな。フローラの魂を放置しても私は勿論ムメイも全く困らない。困るのはお前だけだ」


 脅迫はゼビウスの常套手段だが話の論点をすり替えるのはトクメの常套手段、相手が使ってきたところで簡単には誤魔化されない。


 完全に食事の手は止まり無言の交渉を続けるトクメとゼビウスに、いつの間にか周りの客は距離を取り騒めきもなくなり誰も動けずにいる。


 やがてトクメがため息とともにゼビウスから視線を逸らした。


「この場はお前が奢るなら話をつけてきてやろう」

「交渉成立だな」

「あと追加でクアトロフォルマッジもだ」

「はいはい、俺もピザ食べたいしシーフードの頼むか」


 勝手に緊張状態になっていた周りもゼビウスが追加を頼んだ事で解放され、再びザワザワと賑やかになった。


「…………」

「何だよ」

「いつの間に金を持っていたんだ?」

「お前俺が金無しだと思って奢れとか言ってきたのかよ、諦めの悪い奴だな」


 金が無ければ奢れない、奢れないなら引き受けないと話を終わらせるつもりだったらしいが、予想に反してゼビウスが承諾してしまいトクメは引き受けざるをえなくなった。


 しかし地上に出て間もないゼビウスがどうやって金を手に入れたのかはトクメにも分からない。能力を使えば一発だが、過去に俺には二度と使うなと強く言われこうして直接聞く以外に知る手段がない。


「冥界の神ゼビウスに金品を捧げればその額に応じて死んだ時に責め苦が軽減されるって信じてる奴らが一定層いて、そいつらが持ってくんの」

「実際応じてるのか」

「いいや、そもそも俺死者に何もしないし。そりゃ反抗してきた奴にはそれ相応以上の事はするけど、基本貰うだけ貰ってそれでおしまい」


 なのでかなりの額をゼビウスは所持しており、奢る事に何の問題もない。


「私には金を集めるなと言っておきながら自分は貯めていたのか」

「集めるだけ集めて一切使わず世界の経済止めたお前と、勝手に貯まって使いようが無かった俺と一緒にすんな。今だって俺はちゃんと消費してんだろうが」


 直接ではないといえ世界規模の死者を出した話を出されると流石に分が悪く、トクメは何も言い返せず黙ったまま食事を再開させた。


 しかしこのまま素直に負けを認めるのが嫌なのか、ささやかな抵抗としてドクターペッパーとサルアミッキを二つずつ追加注文した。

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