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イリスの傷

 ゼビウスが旅行に参加する。これ自体は何の問題もなかった。


 問題があるのはイリス。

 先日ムメイに見てもらった時はこれといった治療法が分からず、とりあえず魔法、魔力を使わずにはいるように言っていたがそれでもイリスの身体が良くなる傾向は見えない。


「このままイリスはずっと動けないままなのか? 頼む、どうしたらイリスは動けるようになるのか教えてくれ」


 トクメが完全回復した事を知ったウィルフは早速イリスの治療を頼んだ。

 前回頼み事をした時の代償はかなり高くついたが、それでもトクメはきちんと引き受けてくれた。


 今回もどんな代償を払わせる気なのか恐れてはいるが、イリスが治るのならどんな条件でもウィルフは引き受けるつもりでいた。しかし意外とトクメは何の条件もつけずにすんなりと引き受けた。


 そして未だに動けないイリスに対したった一言。


「怪我自体は完治している」


 それだけで終わった。


「は?」

「怪我は治っているの? なら何でお姉様は今も動けないのよ」

「神通力を使った後遺症だ。暫くは魔力を使うだけで身体が神通力を流された時の事を思い出し拒否反応が出る。こればかりはどうしようもない」

「つまりイリスはもう治らないという事か?」

「いいや、魔法を一切使わずに過ごしていればその内身体も神通力を忘れて動けるようになる。精霊のままでは常に魔力が流れている故、人として過ごす必要があるがな。勿論人になっていても魔法の使用は禁止だ」

「ムメイもそう言っていたけど全然良くならないのよ」

「完全な人になっていないからだ」


 トクメの言葉にムメイとイリス、ウィルフが初めて気づいたと言わんばかりに「あっ」と口を開けた。

 シスは少し考えて気づいたみたいだが何も言わず、ルシアはさっぱり分からないのか首を傾げている。


「どういう事?」

「そのままの意味だ」


 元々イリス達は人にはなっていたが、神々との戦いの時は精霊へと戻っていた。

 そして今イリスは精霊と人の中間の状態になっている。


「その魔力に反応しているから動けなかったのね……うっかりしていたわ」

「お姉様! つまり人になれば元のように動けるのですね!」

「……言っておくがすぐには治らんぞ。数ヶ月かもしれんし数年かもしれん。どちらにしろこの状態で魔界には行けんな」


 ゼビウスの目的地は魔界。

 名前の通りここより遥かに強い魔力を有している魔族が暮らしている為今のイリスでは恐らくその魔力にさえ反応しまう可能性が高い。更に魔族だけでなく魔物も強くなっており魔法を使えない状態では命を落とす危険さえある。


「どうにかならないの?」

「ならんな。私とて出来る事ならばイリスは連れて行きたいが流石にこの状態では無理だ」

「ん?」


 この台詞にウィルフは疑問を抱いた。

 トクメが今のように頼まれたからという理由ではなく自ら進んで行動を起こす時は大体何か企んでいるか陥れようとしているか、どちらにしろ良からぬ事しかない。


 そしてウィルフの頼みにトクメは今回何の条件もつけていないのも今更ではあるが強い危機感を抱いた。


「……お前が治療に関して積極的なのは嬉しいが、いつもと違ってやけに親切だな」

「当然。イリスはムメイの数少ない、いや唯一の友だからな、ムメイに寂しい思いはさせたくない」


 この瞬間、辺りの空気は一瞬にして凍りついた。


 トクメからすれば娘が寂しい思いをさせない為の配慮だろうが、余計な言葉をムメイのいる前で、しかも全員が揃っている場所ではっきりと言い切ってしまった事についてはどう頑張ってもフォロー出来ない。


「……イリス。皆も、勿論私も心配しているから無茶はせずに回復に専念するべきだわ。私なら大丈夫よ、シスがいるんだから」

「シスなんかより私の方がよほど安心安全だろう」

「ゼビウスも、いてくれるから、大丈夫よ」

「え、ええ……ムメイがそう言うなら……」


 表情こそ出ていないがムメイは怒っている。

 トクメの横槍を無視し、先程より大きめな声で強調しながら話すムメイにイリスは頷くことしかできなかった。

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