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戦いの傷跡

 思いがけずに始まった神との戦いが終わり五日。


 ムメイ達はまだ回復していなかった。


 現在ウィルフ達はロコポートに泊まっているが、ムメイとトクメはまだ魔力が充分に回復していない為ベッドに横たまわったままほとんど動かない。

 トクメに至っては人型にもなれないらしく、本来の姿のままで眠っている。


 シスは特に何もない筈だが何故か人型にならず魔物の姿のまま、やはり食事も取らず床に伏せたまま動かない。

 ただ声をかければ普通に返事はするので怪我をしているわけではないらしい。


 そして一番酷いのはイリスだった。

 こちらも普通に話せるのだが、両腕に酷い火傷跡があり少し動かすだけで激痛が走るらしく自力で起き上がる事すら出来ずにいる。

 ウィルフとルシアが支えながらならようやく上半身を起こす事が出来るが、それ以外は全く動けず辛そうに顔を歪めるのは見ている方も辛い。


 ルシアは何とか痛みを和らげる方法はないかと探しているが成果はなく、落ち込んでいるのを逆にイリスに慰められている。


 現状況で唯一頼れるであろうゼビウスはシス達をロコポートまで送ると早々に冥界へ帰ってしまった。


 曰く、もう邪魔者が来ても容赦なく反撃出来るので冥界の仕様を変えるのだと異様に目を輝かせながらシスに話していた。何故かシスの顔が引きつっていたのをウィルフは強く覚えている。


 そんな状態でゼビウスを引き止める事は出来ず、したところで名前ぐらいしか知らない精霊の為に動く事はしない。

 ゼビウスの事はそれ程詳しく知らないウィルフだが、そう断言できた。更に言うならシスが関わらないと動かないのではとも思っている。


 なので今ウィルフとルシアに出来るのは、次にイリスの治療方法を知っていそうなムメイかトクメの回復を手伝う事だけだった。


 ******


 翌朝、ムメイが何とか話せる状態まで回復した。


 と言っても本当に話せるだけで、見るからにしんどそうな顔と雰囲気をしており真っ直ぐ立つ事すら出来ておらず動きも非常にゆっくりしている。髪もボサボサで顔の半分を覆ってしまい少し怖い。


「……大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。けど、ルシアがうるさくて……これもうさっさと見た方がゆっくり寝れるんじゃないかなって」

「ご、ごめんなさい……」


 ウィルフに助けてもらい何とか身体を起こしたイリスの腕を見た途端、ムメイの表情が変わった。

 髪をかき上げ腕に触れようと手を伸ばしたが、イリスがビクリと肩を揺らしたので代わりに顔を近づけて火傷跡を凝視している。


「ルシアは火傷って言ってたけど……火の気配はしない。これ何やったの? 心当たりは?」

「えっと……以前トクメが教えてくれた神通力を……」

「使ったの? え、使えたの?」

「使い方の基本は聞いていたから……ぶっつけ本番だったけれど、上手く発動してくれてカイネにも効いていたから……その、何度か……」


 話を聞いてムメイは呆れたような深いため息をついた。


「なら私に出来る事はないわ。多分自然に治るとは思うけど……詳しくはあいつに聞いた方がいいわね。とりあえず今は何もしないでジッとしておいた方がいいと思う」

「そんなに酷い状態なのか?」

「一応とはいえ腕が動かせているし痛みも感じられているから最悪な事にはならないと思うけど……でも神通力は二度と使わない方がいいんじゃない?」

「ええ、二度とそんな状況にならないよう願うばかりだわ……」

「ムメイ! 言われた通り買ってきたわよ!!」


 話が一段楽つくと丁度ルシアが戻ってきた。腕には幾つかの瓶が抱えられている。


「何だコレ……オリーブオイルにグレープシードオイル、ココナッツオイル……油ばかりじゃないか」

「ムメイが何でもいいから油を買ってこいって。コレでお姉様が治るんでしょう?」

「そんな事一言も言っていない。イリスは治療のしようがないから自然回復を待つだけ、その間は魔法の使用禁止。以上」


 一息で言い切るとムメイはルシアから瓶を受け取った。

 ルシアは言われた内容と感情が追いつかないのか顔を真っ赤にさせ口もパクパク動いているが、肝心の言葉は出ていない。


「ちょっと行儀悪いけど許してね」

「え? うわ……」


 早速とでも言いたげにムメイはオリーブオイルの封を開けるとそのまま口をつけ普通に飲み始めた。

 一気飲みはきつかったらしく二、三度息継ぎの為に口を離したが、それでもウィルフ達の目の前でムメイはオリーブオイルを一瓶飲みきった。


「えっ……え? オリーブオイルって飲み物だっけ?」

「違うと思うが……大丈夫なのか?」

「食用油だから問題なし。バターが一番良かったんだけど、溶けた状態では売ってないからこればっかりは諦めるしかないのよね」


 オリーブオイルを飲みきった割にムメイの顔色が先程より圧倒的に良くなっている。

 表情も辛そうだったのが少し和らいでいるようにも見えた。


「ありがとうムメイ。貴女も大変な状態なのにごめんなさいね」

「少しは回復出来たからいいわ。それに余り役に立っていないのだから謝らないで」

「原因がハッキリ分かって対策も知る事が出来たのだから十分よ」

「……ならいいのだけど。私に出来る事はもうないから戻るわ。ルシア、これ買い物代。換金のやり方はウィルフにでも聞いて」

「え? あ、うん……」


 ルシアの手に小さな宝石を乗せるとムメイは大事そうに瓶を抱えて部屋を出て行った。


「……あいつの味覚はどうなっているんだ?」

「もしかして味覚も壊れちゃってるんじゃ……」

「それはないから大丈夫よ。ムメイは普通に油系、特にバターが好きなだけだから」


 実はトクメの魔法とはまた別に正気を保つ為に魔力消耗が他の精霊より激しいのでそれを補う為カロリーの多いバターなどを摂っているというちゃんとした理由もあるのだが、わざわざ食物から補う必要もなくそもそも魔力自体普段使いでは枯渇する心配がない程膨大にあるので、ムメイのバター好きは紛れもない事実だった。

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