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始まり

 ああお父様、私は貴方の言葉に従います。


 近々この街を訪れる銀色の髪をした男を私の夫にしろと仰るのならその通りに致します。

 偉大なるお父様のお言葉に逆らう者などこの世界に誰一人とおりません。


 その銀髪の男もお喜びになる事でしょう。


 何と言ってもお父様から認められ、この私をただの平民が妻にできるのですから。

 ええ、涙を流して感謝し、喜んでお父様の下につき仕えるに決まっています。


 全てはお父様の御心のままに。


 ******


 トクメ達が到着した街の名前はダウコートン。

 ロコポートと同じ港町だが発展具合は全く違い、街の規模も賑やかさも段違いにこちらの方が大きい。


 活気もあるのだが、何故か街に着いた途端トクメの機嫌が悪くなった。


 目の前には見るからに教会関連者の男達を引き連れた一人の女性。

 二十代前半ぐらいの金髪碧眼の女性は慈愛に満ちた笑顔を浮かべている。


「おお、確かに銀色の髪をしている! 流石は聖女様、預言の通りだ!」

「つまりこの男が……」


 ザワザワと男達は何か話し、ムメイ達の視線もトクメに集まる。


「何かやったの?」

「何も。あの女も周りの男とも初対面だ。だが……」

「初めまして、私は聖女メイリン。お父様である我が主神カイウス様の命により貴方様をお待ちしておりました」


 カイウス。

 その言葉が出た瞬間イリス達に緊張が走り、トクメを待っていたという言葉にムメイが反応した。


「待っていた? 今度は何を企んでいるの」

「貴様! 聖女様に何と失礼な!」

「止めなさい。お父様から御言葉を頂いたのです、近くこの街に銀の髪を持つ男が現れると。この紙は貴方が作られた物ですね」

「これって……」


 メイリンが差し出したのは二枚の紙。

 それは以前トクメがチンピラに絡まれた際街にばらまいた、チンピラが若い頃に書いたポエムやラブレターだった。


「紙と言いましたがこれは魔力を具現化させたもの。お父様は全てお分かりです、これ程の魔力を扱いしかも相手の過去を見える貴方が何の身分も持たず、定住する場所もなく放浪しているなんて嘆かわしい事です。貴方の力はもっと人の為、この世界の為に使うべきなのです」


 何やら良いことを言っているのか周りの男達は「流石聖女様、奴隷にも優しく声をかけるとは何て清き心を持った方なんだ」「正に聖女の名にふさわしい」と心酔しているみたいだが、トクメとムメイの目は冷えて乾いている。


 そんな視線に気づかずメイリンは『正に聖女にふさわしい清き心でもって』力の使い方を話し続ける。


「本来身分というものに差はありませんが気にする者がほとんどなのは事実。なので私と結婚しましょう。そうすれば貴方の身分は王家と並ぶ程のものとなり文句を言うものはいなくなります。つまりその力をもっと多くの人の為に、更には主神カイウス様の為に問題なく使う事が出来るようになるのです」

「虫唾が走る話だな、用はそれだけか? ならばさっさと消えろ」

「貴様聖女様になんて失礼な! 本来なら貴様等のような平民が聖女様の御姿をこんな近くで見るどころかこうして言葉を交わすなどあり得ん事! 更には結婚などこれ以上ない名誉な事なのだぞ!」

「人の価値観を私に押し付けるな。それはお前達にとってはの話だろう」


 ぞんざいにあしらわれ、男の一人が腰に差している剣に手をかけた。


「聖女様! このような無礼な男をまだ夫にするおつもりですか!」

「っ、お父様がこの者の力を望んでおられるのです。逆らうわけにはいきません」

「そうかそうか。前回の事があったにも関わらず懲りずに再び干渉してきた上に今回は私自身か……ふざけるなよ」


 ズズ、と辺り一帯の空気が歪む。


「な、何だこれは……!」

「何て凄まじい魔力……これだけあれば……」


 バチっと音がすると同時にトクメ達は聖女達と浜辺へと移動した。


「……? な、なんだ、ただの転移魔法にあれだけの魔力を使うならそんなに凄くはなさそうだな」

「いや違う! おい! 上を見ろ!!」


 一度は魔力の量に怯んだ兵士だったが、ただの転移魔法だったと気づき鼻で笑った。

 しかし異変に気づいた一人の男が空を指差すと、そこには大量の水が街を覆い尽くすように浮かび上がっていた。


 海を見ればそこには水が一滴もなく地面が露出している。


「こ、こいつ! 海の水を全部持ち上げたのか!?」

「ウィルフ、お前は私に借りがあっただろう。それを今返してもらうぞ」

「な、何をさせる気だ」

「そう難しい事ではない。ただ神界へ向かおうとする奴をここに引き止めるだけの簡単なものだ。私は今から神界へ向かうが、奴に来られると迷惑だ」

「へ、え、はあ!?」

「餌は撒いたから奴は必ずここに来る。ムメイ」

「何」

「神界へ行っている間私はここの水を持ち上げている余裕がない。だからこの水を任せる、一滴も溢さないようにな」

「っ!? ちょっ、いきなり!?」


 返事も待たずに任された為か少し海水が下がったがムメイは何とか持ち堪えた。

 しかしかなり負担らしく、ムメイの顔にいつもの余裕そうな感じはなく両手を掲げている。


「い、いつまで……?」

「私が戻るまでだ、頼んだぞ」


 それだけ言うとトクメは姿を消してしまった。


「一体誰が来るんだ……ん? 海の水……まさか……いや、そもそもあいつ神界に行けるのか?」

「精霊じゃないから何の問題もないわよっ、シスも、時喰い虫も。っ、それより頼むわよ。私今動けないし本当に何も出来ないんだから」


 言われて見渡せばシスの姿が見えない。


「連れて行かれたのか……」


 誰が、どれ程の数来るのか分からないが相手が強いのは確か。

 シスがいれば心強かったのだがいない者に頼るわけにはいかない。


「ウィルフ」

「イリス?」

「来るわよ」


 イリスが一点を見つめたままレイピアを構えた。ウィルフも異変に気づきすぐに剣を抜く。


 その視線の先、空中から一筋の水が現れた。水はどんどん量を増していき竜巻のようになっていく。


「また七大精霊か。性懲りも無く神に勝てると再び争いを仕掛けてくるとはな」


 水が勢いよく弾けその中から現れたのは長く青い髪をなびかせた男、カイウスの実弟にして海の支配者リビウスだった。


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