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トクメの傷

 この世界の宗教は意外と多い。


 大多数を占めるのは主神カイウスを崇めているカイウス教。

 他にも農業の神や鍛治の神などいるが、基本カイウスさえ最上位に置いていれば何を信仰しようが自由である。


「私と共に七大精霊様を信仰しませんか?」


 ただしその信仰対象がカイウスに敵対していたりする場合信仰は認められず迫害されたり、最悪邪教徒として処刑される。


 トクメ達が次の街へ向かおうと出た瞬間に声をかけてきた女性もそうだった。


 過去にカイウス達神族に戦争を仕掛けた七大精霊は当然信仰を認められず、こうしてこっそりと声をかけてくる。


「崇めるつもりはないから他を当たってくれる?」

「同じく」

「では貴方達はどうですか?」

「いやっ、俺もいい」

「え、ええ私もちょっと……」


 ムメイとシスに呆気なく断られるも女性は慣れているのか特に表情を変えないままウィルフとイリスにも声をかけた。


 代変わりしているとはいえ同じ七大精霊であるウィルフとイリスにこれは非常にきつく、顔が引きつっている。


「話しかける相手を見極めるべきだな、誰もが七大精霊に好意的だと思わない事だ」

「精霊戦争の事ですね? それは貴方の勘違いです。私の話を聞けばきっと貴方も信仰したくなります、さあ共に七大精霊様を崇め奉りましょう」

「勘違い? ああそうだな、勘違いだ。その七大精霊のせいで非常に腹立たしい勘違いがあった」

「あ、あの……?」

「失せろ。七大精霊の話など不愉快なだけだ、口にするのも忌々しい」

「えっ、えっ、七大精霊が嫌いってまさかお姉様も?」

「え? それってどういう意味ですか? もしかして……」


 ルシアの失言に真っ先に反応したのはイリス。


 イリスはルシアを抱えるとそのまま無言で走り出し、ウィルフも素早く後を追った。


「あの……」

「話す事は何もない」

「それじゃあね」


 ムメイ達はもう女性の相手をせずのんびりイリスの後を追った。


 ******


「トクメのあの発言をどう思う?」


 あれから次の街へは無事に着き、その頃にはトクメの機嫌も治ったのかいつもの通りだった。


 それでもあの発言は気になり、ウィルフはイリスの部屋を訪れていた。


「どうと言われても……私達への態度は普通だからよく分からないわ」

「しかし七大精霊を嫌っているのは確かみたいだ。もしかしたら心中は違うかもしれない」


 トクメに直接聞けばいいのかもしれないが、先程の様子を思い出すと良策とは言えない。


「ムメイに聞いてみるか」


 ウィルフがそう言うと同時に突如床が光り出した。


「え、え?」

「っ!!」


 次の瞬間、宿の部屋にいた筈がいつの間にか野外へと放り出されていた。


 そして真っ先に気づいたのは背後にある巨大な樹。

 見た目は普通の樹なのだが、幹や葉がキラキラと輝いておりどこか神々しく感じる。


「この樹……もしかして世界樹?」

「という事は、ムメイの自空間か?」

「正解。何か厄介な事聞いてきそうだったから先手を打たせてもらったわ。ここなら邪魔は入らないし少しは話しやすいから」


 いつの間にか後ろに立っていたムメイの機嫌は悪そうに見える。

 恐らく、いや確実にトクメが原因だった。


 いつもなら街を出るのは遅くても午前中なのだが今回は昼を少し過ぎてから、しかも散歩から帰ってきたトクメが急に決めた。


 そしてムメイはまだ二日酔いだったにも関わらず、トクメは薬で無理矢理治し問答無用で出発を決行。もし街中で偶然シスを見つけていなかったらこのまま置いて行っていただろうと思える程急だった。


 二日酔いが治ったとはいえ余韻の残っている状態からの有無を言わせない強行出発にムメイの機嫌は最悪だった。


「それなら話が早い。トクメは七大精霊と何があった?」


 しかしウィルフはそこには触れず話を続けた。

 恐らくトクメもフローラとレクターの存在に気づいた故の行動だろうが、トクメはムメイに何の説明もしていないのでこちらが勝手に話すと被害が大きくなる。


 多分わざわざ説明しなくとも直前にムメイはイリスからフローラ達の事を聞いていたので感づいているだろう。

 なら今は話を続ける方がいいとウィルフは判断した。


「何も。直接的には何の関係もないし面識もないらしいわ」

「ならどうして……」

「…………」


 ウィルフはジッとムメイの顔を見つめた。

 あまり長くはない付き合いだが、ムメイはトクメの娘。多少話が通じるところはあるが、トクメと同じと見なければいけない。


「直接的にはと言ったな、なら間接的には何か関係があるということか」

「その通り」


 断定的に答えるとムメイは嬉しそうに笑った。


 聞けば答えるが、聞きたい事を分かっていながらあえて外す辺り血の繋がりがないとはいえトクメと親子である事を嫌でも感じられる。


「あの包帯の下ね、火傷跡と言えばいいのかな。やったのはカイウスだけど、原因は七大精霊が引き起こした精霊戦争なの」


 ムメイの話は簡単だが理解するのに苦労した。


 精霊戦争に負けた精霊側にカイウスは賠償を求め、それに一切応じなかったトクメを襲撃。当時自空間に集めていた本とコレクションを半分奪われたらしい。


「……トクメは精霊戦争に参加していたのか?」

「していない。戦争があったのは知っているけどそれだけで、何にもしていないわ」

「えっと、カイウスは何故関係ないトクメを襲ったの?」

「精霊と勘違いしたから」

「……え?」

「世界最古の怪物を精霊と勘違いして、精霊戦争の賠償を無理矢理払わせたの」

「それは……確かにトクメも怒るわけだ」


 精霊ではない上に戦争と全く関わっていないのにそんな事をされれば七大精霊に良い感情を持つ筈がない。


「怒りの矛先はカイウスに向いているし、嫌っているのはあくまで精霊戦争を引き起こした七大精霊だからイリス達の事は何とも思っていないみたいだけど、話題にはしない方がいいんじゃない」

「ええ……そうするわ」

「しかし同じとはいえ七大精霊も厄介だな……ダフネも消滅させているだろう」


 ダフネも精霊戦争には参加しておらず、こちらもカイウスから賠償を請求されるも拒否。

 それに怒ったカイウスが圧力をかけ、より立場を悪くした七大精霊や他の精霊達により追い詰められ消滅してしまっている。


「完全には消滅していないわよ」

「え?」

「ダフネは姿を変え、記憶ももうないけれど確かに今も生きている」


 そう言うとムメイはイリス達の前でパキパキと魔力を具現化させていく。


「ムメイ?」

「私はあいつみたいに絵は上手くないし読み聞かせも上手じゃない。けど、再現は出来る」


 薄紫色の魔力はどんどん色づき出来上がったのは精霊ダフネ。


「ダフネの事知っているみたいだけど事実が曲がって伝わっているわね、誰の仕業かしら。誰かじゃないかも。時間が過ぎれば事実は変わるもんね、七大精霊みたいに。でも私は、ダフネは何をされどうなったのか、正しく知っている」


 ダフネ以外に当時の七大精霊もどんどん作られていく。


「だからイリス達にそれを教える事ができる」


 ムメイの顔は、どこか嬉しそうだった。


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