世界最古の怪物講座
「ようこそ、冥界へ」
ウィルフが目を覚ますとそこには笑顔のゼビウスがいた。
「は。はあああああ!?」
驚いて周りを見ればウィルフだけでなくトクメ以外の全員が揃っており、イリスやルシアはゼビウスの姿に戸惑い挙動不審になっている。
「ちょっ、ムメイが連れてきたのか!?」
あまりに予想外だったのかムメイ相手にでもシスの口調が若干荒れている。
「いやいや、私も今気づいた。もしかしてあいつの仕業?」
「え、普通に俺が呼んだんだよ。俺だって空間転移ぐらい余裕で出来るし」
「知ってるけど! でもこんな事したら神族に気づかれるだろ!」
「いいんだよ、今はそんな事よりもっと大事な話があるから」
「話……?」
そう言うとゼビウスは持っていた指示棒でパシパシと軽く手の平を叩いた。
「というわけで、今から世界最古の怪物についての講義を始める!」
いきなりの宣言に全員がポカンとした。
「何でまた急に……」
「何故かって? そりゃムメイちゃん以外の精霊が俺の姿見て真っ先に脚を見た辺り分かるんじゃない?」
その瞬間何となく察していたシスとムメイは確信し、ウィルフとイリスそしてルシアさえも気づいた。
ゼビウスは怒っている。
そして心当たりは昨日のトクメの絵本。
この時点でウィルフ達は大人しくゼビウスの話を聞く姿勢に入った。幸いイリスはトクメの絵本のおかげでゼビウスへの不信感などは消えたらしく、特に敵対するような気配もなく静かに席へついている。
「ちなみにあいつから新世界と旧世界の話は聞いた? はいシス君答えて」
「え!? あ、ああ一応そこは聞いたけど……」
どこまで答えていいのか分からずシスの声は弱々しく小さくなっている。
「微妙に自分の事隠してやがんなあいつ……まあいいや。新旧知ってんなら話が早い、じゃあカイウスが新世界造る時に一旦旧世界の生物全部潰したのも知ってるな」
「それは初めて聞いた!」
「なら世界最古の怪物がどういう存在か説明すんぞー」
まず世界最古の怪物というのはディメントレウスが創り出した一体の怪物であり、ディメントレウスの代わりに世界を見回り異常を見つければ排除、報告するという特別な役割を持たされていた。
その特別感を出す為にディメントレウスは七つの能力を持たせ世界最強の存在として世界に放とうとしたのだが、その直前。
『流石に七つはやり過ぎだな、あと目立ち過ぎる。やっぱ一つの能力につき一つの身体にして、最強とかよりちょっと不便で変わった見た目の方が格好いいから新しい身体は作らずこのまバラそう』
こんな軽い理由で世界最古の怪物は七つにバラされそのまま世界へと放たれた。
「で、それぞれ自我が芽生えて役割ほっぽって思うように過ごしてんのが世界最古の怪物。ちなみにトクメは頭部分で、残りは両手両足、胴体と内臓にバラされたらしい」
いつの間に用意していたのかゼビウスは黒板に今の話の要点をまとめて簡潔に分かりやすく書いていく。
黒板にはその七つの能力が書かれており、相手の過去を読む、相手の心を読む、過去の出来事の再生、夢への介入、未来予知、時間操作、別世界への移動とある。
その内の一つ、相手の過去を読むのところは丸で囲まれていた。
「勘違いしやすいけど、トクメの魔力が膨大なのは世界最古の怪物とか能力に一切関係ないから。魔力だったら俺もあいつぐらいあるし、一番多いのは時喰い虫ちゃんだからここ間違えないように。あと説明するとしたら完全な不老不死で旧世界唯一の生き残りである事かな、実質世界最年長でもあるし。中身は子供以下だけど」
「ちなみに幾つ? 億単位なのは知っているんだけど詳しくは知らなくて……」
「端数切り捨て三億二千万」
「ゼビウスより二千万も歳上なのか……」
シスとムメイ、ゼビウスは普通に会話しているが桁違いの年齢を知ったウィルフ達は内容についていけずにいる。
「本当に世界最古なんだな……」
「でも不老不死という事は、他の怪物達もいるという事よね」
「もしかして皆トクメみたいな性格なんでしょうか……?」
ルシアがポツリと呟いた言葉にさもありなんとウィルフとイリスが難しい顔になった。
トクメだけでも十分ややこしいのに、それがあと六体もいてはたまったものではない。
暗い顔になっているウィルフ達をよそにゼビウスは世界最古の怪物について更に話していき、内容はともかくその話し方にどんどん引き込まれ時間は過ぎていった。
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「もうこんな時間か。折角だし昼ご飯も食べていったら? でも俺こんな大勢の作った事ないから全員で作ることになるけどいいよな」
話がひと段落つきウィルフが顔を上げ時計を確認すると十二時を過ぎていたが、ゼビウスの口ぶりからまだ帰す気はないらしい。
「なあ、そんな余裕あるのか? トクメもここに来れるんならそろそろ危なくないか」
「シス君、俺は冥界の神だよ? トクメの一体や二体出禁にすんのなんて簡単簡単。あいつ今頃悔しくて転がりまくってんだろうなあ、ざまあみろ!」
ハッハッハッーと軽快に笑いながら台所へ向かうゼビウスにシス達は呆然としてその場に留まった。
「相当怒っているな……まあ当然か」
「こっちに怒りが向いてなくても怖いんだけど……」
「そんな状態でルシアにも料理を手伝わせて大丈夫なのか……」
「お、お姉様……」
「大丈夫よ、いつも頑張って練習しているじゃない。私もサポートするから落ち着いてやりましょう」
「はい……」
シスやムメイでさえ引いていて中々動こうとしなかったが、台所からゼビウスが呼んできた為全員駆け足で台所へ向かった。