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絵本『冥界の神ゼビウス』

 神界にゼビウスという名前の男の子がいました。


 ゼビウスにはカイウスとリビウスという兄がいましたが、傲慢で乱暴者なカイウスはいつも弟のリビウスと一緒になってゼビウスを苛めてばかり。

 父親のディメントレウスは自分の造った世界に夢中で欠片も気づきません。


「今日も仲良く遊んでいるな、これなら安心して地上界に集中できる」


 関節技で極められたり絞め技で気絶していてもこんな感じで助けに入る事は勿論、そもそも苛めに気づいていません。

 カイウスとリビウスの「弟の面倒はちゃんと見ている」「一緒に遊んでやっている」という言葉を鵜呑みにしていました。


 そんなある日、ディメントレウスは長男のカイウスを呼んで言いました。


「死者の世界、冥界を統べる神にならないか?」


 冥界の支配者といえば聞こえはいいですが、実際は死者の住む場所を造ったはいいもののまた一から育てて世話するのを面倒くさがったディメントレウスが押しつけにきただけです。


 当然カイウスもそれに気づいており、そしてカイウス自身も不便しかない冥界になんて行きたくありませんし開拓もやりたくありません。

 しかし普通に断ったところでディメントレウスは納得しないのも分かっていたのでこう言いました。


「ゼビウスが冥界の神になりたがっていた」


 更にカイウスは続けます。


「冥界とか死に興味を持っていたみたいだし、今から何も言わずに冥界へ送った方が絶対喜ぶ」


 都合のいい事を言いますが、やはりディメントレウスはそれは丁度いいとカイウスの言葉を鵜呑みにしてその場でそのまま、まだ部屋で寝ているゼビウスを冥界へと送ってしまいました。


 当然ゼビウスは何も知らされていないので、起きたら何もない薄暗い世界に自分だけという状況にパニックです。


「何!? ここ何処!? 何があった!?」

『ゼビウス、お前の願い通り冥界の神にしてやろう。後はお前の好きなようにしたらいい、くれぐれも地上界に手は出さないようにな』

「はあ!?」


 哀れゼビウスは何の道具も知識も与えられず、誰もいない冥界で自分の力だけで過ごすハメになりました。


 一応ディメントレウスは支援物資を用意したり適度に神界に顔を出すよう伝えていたのですが、それを兄のカイウスとリビウスに頼んだ為彼らは荷物は横取りし伝言も伝えないどころか、そもそも冥界に行きませんでした。


「ゼビウスは親の力は借りず自分の力だけで冥界を創り上げると折角の荷物を突っ返した」

「立派な冥界の神になるまで家には帰らないと言っていた」

「そうか、末っ子で少し甘えたなところもあり心配していたがそれなら安心して任せられるな」


 ディメントレウスはすっかり安心し、その後本当に冥界には何の援助も連絡も取ろうとしませんでした。


 それから時は経ち。

 ゼビウスの必死の努力でようやく冥界でも安定した生活が出来るようになった頃、カイウスから今すぐ神界に来るよう連絡が来ました。


 元々カイウスとリビウスが大嫌いなゼビウスは当然無視していましたが、痺れを切らしたというより短気なカイウスにより神界へ強制召喚されてしまいました。


 久しぶりに帰ってきた神界では他の神々がカイウスを讃えるように並び、ゼビウスを見る目は冷ややかでちらちらと顔を見てはヒソヒソと囁きあっています。


 不思議に思いながらもゼビウスはカイウスの元へと進みます。


 カイウスはディメントレウスが座っていた玉座に偉そうに座りながら言いました。


「冥界の神ゼビウスよ。お前がこの神界と地上界を我がものにする為だけに実の父親であるディメントレウスを殺害した罪は重い」

「は?」

「犯した罪は重いがお前は俺と血を分けた弟。本来なら存在を消滅させるところだが、温情としてお前は冥界へ永久に封じ込め、以後冥界から出る事を禁ずる」

「はああああ!? ディメントレウス死んだの!? いつ!? 俺初耳なんだけど!!」


 なんと久しぶりに帰ってきた神界ではディメントレウスは殺され、殺したのはゼビウスという事になっていました。


 これにはゼビウスもビックリです。

 いきなり冥界に置き去りにされた時並みの驚きです。


 まあ考えるまでもなくディメントレウスを殺したのはカイウスなのですが、周りの神々はカイウスの言葉を信じゼビウスがディメントレウスを殺したと完全に信じきっています。


 実はカイウスがディメントレウスの造った世界を乗っ取って思うように作り変えたいだとか、ついでに一番強くて偉い神になりたい為だけに殺したなんて誰も思いません。

 リビウスも世界の半分、海の部分をやると言われて協力しているとは微塵も気づきません。


 当然、親を殺しては他の神々から反感を買うので都合の悪いこと全てをゼビウスになすりつけたなんて誰も考えつきません。


「ゼビウスよ、残念だ。反省し懺悔していればまだ救いはあったのだがな。罪を清める浄化の炎に焼かれながら冥界へと繋がれるといい!」

「殺してないっつってんだろ!!」


 ゼビウスは無実を訴えますが信じる者は誰もいません。


 可哀想にゼビウスはそのまま両脚を燃やされ、首にはいつの間にか鎖がつけられ冥界へと繋がれてしまいました。


 こうしてゼビウスは、ありとあらゆる悪事を働き冥界に封じられた最悪の邪神てゼビウスとして名を馳せる事になってしまいましたとさ。


 終わり


 ******


「とまあ、ゼビウスの半生はこんなところだな」


 パタリと、トクメは読み終えた本を閉じた。


 依頼を終えた夜。珍しくトクメがシスとウィルフを連れてムメイ達の部屋へ訪れたと思ったらいきなりこの絵本朗読が始まり、何の心構えもなかったムメイ達は全員衝撃で固まった。


「嘘だろ……」

「嘘なものか、全て事実だ。まあ、絵本という事を考慮してゼビウスの幼少時代の苛めだとか、冥界に戻された後の仕打ちなどは省いたがな」

「本当はもっと酷かったの!?」

「苛めという名の拷問に加えて奴隷以下の扱い、冥界に戻った後は更なる罰として冥界にあった全てのものを没収されて更地にされ更に冤罪追加があるが聞くか?」

「い、いい! 聞きたくないっ!」


 思いもしなかった真実にウィルフとルシアは衝撃を受けながらもまだ話せているが、イリスはあまりの内容に完全に固まり何も話せずにいる。


 ゼビウスの事情を知っているシスとムメイも固まっているが、こちらは理由が少し違っていた。


「お前、ふざけんなよ……登場する奴全員の声微妙に変えた上に無駄に高い演技力で読み上げやがって……」

「無理無理……ファンシーな絵柄とか、朗読とか……うっわ、鳥肌すごいんだけど……」


 こちらは単にトクメの無駄な演技力と声使い、あとは仮にも父親の全力の絵本朗読とおそらくトクメが描いたであろう可愛らしい絵柄の衝撃にプルプルと震えその場に突っ伏していた。


「ほ、本当に何もしていなかったのね……」


 ようやくイリスが話せる程に回復したが、その声は震え上ずっている。


「私はちゃんと言っていただろう、ゼビウスは何もしていないと」

「なあ、なんかものすごい真実を聞かされた気がするが話して大丈夫なのか?」


 この世界は主神カイウスが造ったと信じられているが、トクメの話では世界を造ったのはディメントレウスでありカイウスは父親を殺害して世界を乗っ取ったとなっている。


 カイウスが本当は世界を造っていないだとか、父親を殺したとかが知られれば教会関係は勿論神族が黙っている筈がない。


「私が話した事を誰かに広めるつもりか?」

「い、いや自殺行為はしないが……」

「でも神族ならカイウスが世界を造っていないって知ってるんじゃないの?」

「多少造り変えているからそれを拡大解釈しているだけだ。奴も創造神とは名乗らない辺りそこは理解しているのだろう、世界の呼び名もディメントレウスの世界は旧世界、乗っ取った今の世界を新世界と変えているからな」

「ゼビウスに怒られても知らねえぞ」


 ボソッと呟いたシスにムメイはうんうんと頷いた。


「あ。確かに、知らない所で勝手に過去を話されていい気はしないな」

「違う、そっちじゃない。脚の話をするとゼビウスの機嫌が悪くなるし、物凄く怒るんだ。もしまた会っても絶対脚に関する話はするなよ、問答無用で逆さ吊りにされるから。昔ケルベロスと喧嘩してうっかりゼビウスを巻き込んで服破いた時は即刻逆さ吊りにされた」

「え」

「多分その直後に私が来たのかな。あの時のゼビウスやたらニコニコしてたし、頭撫でられながら脚に触れたら私相手でも容赦しないからなって優しい声と顔で言われて……何ていうか、軽く消滅の危機を感じた」


 一瞬にしてその場の空気が冷え、シスとムメイ以外の視線がトクメと向けられる。


「お前……逆さ吊り確定じゃないか?」

「奴の逆さ吊りなぞ恐れる程のものではない。今まで何度受けてきたと思っている」

「胸張って言う事じゃねえだろ」


 何故か自信満々に答えたトクメにシスは呆れながら突っ込んだ。


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