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泥落とし

 依頼は終わった。トクメが街の近くまで送ったので移動する必要もない。


「泥落としていく? このままじゃギルドどころか街にも入れないし」


 時間は十分過ぎる程あり、一際泥で汚れているシスとルシアの姿を見たムメイの提案に反対する者はいなかった。


「それは構わないのだけど、地面のままだとまた汚れてしまうわ」

「魔力、具現化」

「あ。そうだったわね」


 ムメイが両手を掲げると一瞬にして十メートルはありそうな円形のプールが現れた。

 イリスはそこに魔法で出した水を注いでいく。


「シス、その姿じゃ思うように洗えないだろう。洗ってやるからこっちに来い」

「ああ、助かる」


 ドラゴンに絡まれた恐怖でシスはまだ人の姿になれないらしく、素直にウィルフの元へと向かった。


「ウィルフ、水だけじゃ泥落とすの大変だからこれを使って」

「それは?」


 ムメイが渡してきた白いボトルにウィルフではなくシスが尋ねた。

 

「……魔物とか、動物達専用のシャンプー。最近従魔コンテストとか流行っているらしくて……毛並みを整えるシャンプーとかリンスがいっぱいあるの」

「……ペット用……」

「……毛並みはふかふかの方がいいかなって」


 ボトルに書かれていた文字をシスが思わず読むと流石にペット扱いは悪いと思っているのかムメイは目を逸らした。

 しかしシスは何も言わず洗いやすいよう体勢を変えたのでウィルフは多少気まずい空気の中、シャンプーを泡だて丁寧にシスの身体を洗い始めた。

 汚れた水はムメイがそのまま水分だけを蒸発させ地面へ返しているのでプール内の水が汚れることはない。


 最初は自分についた泥を落とすのに専念していたイリスだが、シスがモコモコと白い泡につつまれていくと急にソワソワしだした。


「ね、ねえシス。私も洗っていい?」

「もう、好きにしたらいい……」

「ありがとう! 前から触ってみたいと思っていたの」

「触るのはいいが尻尾付近だけはやめてくれ」

「分かったわ」


 交代したイリスはモコモコと楽しそうにシスを洗いだし、ウィルフは複雑な表情を浮かべながらも何も言わず少し離れて静かに見守っている。


「……折角だからルシアも行ってきたらどうだ?」

「行きたいけどっ、まず自分の泥を落とさないと」

「そういえばぬかるみにハマっていたな。それに今回で課題が大分増えた」

「嘘!?」

「まず足元に注意していなかった為にぬかるみにハマり、次に池からシスとブラッディダイルが飛び出してきた時に動けず固まっていた。後はそのぬかるみにハマった時やトクメが出てきた時に咄嗟とはいえ俺にしがみついたりイリスの後ろに隠れただろう。あれが敵ならイリスも俺もすぐに反応ができずに被害が大きくなる可能性が高い」


 次々と出てくる問題点にルシアがうなだれていく。


「どうしたらいいのよ……」

「とりあえず慣れる事だ。何度も経験していけば落ち着いて対処出来るようになるだろう。まずは驚いた時に誰かにしがみつくのだけは止めろ」

「とにかく魔物討伐の依頼を受けまくればいいのね」

「魔物の巣窟に放り込む方が圧倒的に早いのでは?」

「いいっ!!」


 急に声をかけられルシアはバシャンと転け、速攻でウィルフを壁にした。


「ルシア……」

「い、あ、これはっ、敵じゃないし! 物騒な事言われたからっ」


 慌てふためきながら言い訳しているが、壁にするのを止めようとしないルシアにウィルフはため息をついた。


 言われた内容を本当にやりかねないので気持ちは分かる。


「お前も入ったらどうだ?」

「泥がついていないので入る必要も意味もない」


 そう言いながらトクメは相変わらず元の姿のままムメイの造った壁にもたれている。

 どうも機嫌が悪いらしいが、先程までは上機嫌だっただけに何が原因なのか全く見当がつかない。


「泥がついていないと入ってはいけないわけでもないだろう」

「無理無理、何言っても絶対入らないからやめといたら?」


 水に入れば少しは機嫌もマシになるかと思いもう一度誘ってみたら遠くからムメイに止められた。


「水が苦手なのか?」

「包帯を濡らしたくないし、相手のいる所で取りたくないのよ。包帯巻いてるんだからその辺りは察してくれる?」

「待てムメイ。私は包帯の事を話した覚えはないのにまるで知っているような事を言うのだな」

「ゼビウスが言ってた。誰に、何故そうなったのかも全部教えてくれたわ」

「ほう、ゼビウスが……」


 周りの温度が一気に下がったような気がしてウィルフは身震いしたが、ムメイは何ともないのかそのまままたシスの方へと向かった。


 確かトクメの包帯の下には酷い傷跡があった事をウィルフは思い出したが、あの時トクメは酔い潰れておりおそらく傷跡を見られた事には気づいていない筈。

 いつかは気づかれるが、明らかに機嫌が悪いしばらくは言わない方がいいと判断し、ムメイが来た事で嬉しそうにしているシスにも口止めしておこうとウィルフは強く決めた。


「あ。ウィルフ、ごめん……私、手に泥ついてた……」

「……しがみつく癖はすぐさま直すようにするぞ」


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