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正義とは

 休憩を終えたウィルフ達は再び出発したが、先程までと違いキラープラントは一匹も出てこない。


「さっきと全然違うね」

「うーん、普通に狩り過ぎたかそれともさっき倒したのがリーダー的存在だったかのどっちかだろうな。ん?」


 それでも警戒しながら道を進んでいると、ルドラが急に足を止めた。


「どうした?」

「いや、あそこ穴蔵になってんの見えるか? ああいうのってよく魔物が寝ぐらにしてるからよ、もしかしたらワイルドウルフもいるかもしんねえなって」

「……ここからじゃ分かんねえな」


 ルドラの指す方向には確かに穴蔵があり、シスは鼻をひくつかせるが他の魔物の臭いも混じり判断がつかないらしい。


「折角だし行ってみるか」

「いいのか?」

「ワイルドウルフに会うだけでも苦労しているみたいだしな、多少寄り道してでも行くべきだろう。ルドラ、依頼はもう完了しているからここで別れるか」

「いやいや、ここまで来たんだ俺だって一緒に行かせくれよ。サリア、お前は辛いなら先帰っててもいいぞ」

「ううん、私なら大丈夫。魔力もまだ余裕あるから戦闘になっても戦えるよ」

「ルシアはどうだ?」

「私も余裕よ!」


 全員の意見が一致し穴蔵へと向かうと、ルドラの言っていた通り確かにワイルドウルフはそこに居た。


「…………」


 そこに居たのだが、その場にいた誰もが無言でワイルドウルフを見つめたまま動こうとしない。


 穴蔵にいるワイルドウルフは四匹。

 身体の大きさから見て三匹は子供で残りの一匹は親らしい。


 そこまではいい。

 ランクの上がる条件である三匹より多い四匹いるのも問題ない。


 問題は。


 子供三匹は恐らくシスに怯えているらしく、少しでも距離を取ろうと一番奥の壁にビタリと張り付くように引っついている。

 そして親はそんな子供達を守ろうとしてか、シスの前に立ちはだかり必死に威嚇していた。


 尻尾は丸まり身体をビクビクと震えさせながらも。


「……シスの兄ちゃん、これはダメだ、帰ろう。こいつ倒すと人としてと言うか何て言うか……とにかく何か大切なもん失くしそうな気がする」

「ああ……これ倒してまでランク上げたいとは思わねえよ……」


 ルドラとシスだけでなく、全員がこれ以上ワイルドウルフを刺激しないようゆっくり穴蔵から離れていった。


「もしかしてワイルドウルフに会う度こうなのか?」


 十分離れたところでルドラがシスに尋ねた。


「どうだろうな。前回は野盗にボロボロにされていて子供にすら怯えていたからな」

「ああ、依頼人がそのワイルドウルフを保護したんだっけ」

「あれを倒すだなんて相当な悪人よっ」


 ルシアがそう言い切った時、丁度背後で爆音が響いた。


「え? もしかして!」

「あ、おい! ルシア!」


 音が聞こえた方向にあるのは先程の穴蔵。


 それに気づいたルシアは真っ先に駆け出し、その後をウィルフとルドラが続いた。


 穴蔵へ一番に着いたルシアが見たものは、先程のワイルドウルフの倒された姿とそれを掴んでいる冒険者達三人の姿だった。


「あなた達! 一体何をやっているの!」

「え? いやワイルドウルフが襲ってきたから倒しただけなんだけど……」

「親が命をかけて守った子供をむぐぅ!」


 剣を抜こうとしたルシアを間一髪ウィルフが間に合い、口を手で塞いでそのまま後ろへと引きずっていく。


「驚かせてすまない! 俺達はこのまま去るから気にしないでくれ!」

「あんた達も依頼か!? ここって結構強いの多いからお互い気をつけような! それじゃっ」


 まだモゴモゴと暴れるルシアをウィルフとルドラが何とか押さえ込み、そのまま元来た道へと戻っていった。


「何だったんだ、今の……」

「さあ……」


 冒険者達は何が起きたのかいまいち把握出来ず呆然としていた。


******


「何で止めたの! あいつらはさっきのワイルドウルフを倒したのよ!?」

「俺達だって倒そうとしていただろう。それに俺達の場合はシスに怯えて戦意を喪失していただけで、さっきの冒険者達には普通に襲いかかったから倒したのかもしれないだろう」

「それはっ……!」

「思い込みや先入観で行動するのは正しいと言えるのか?」


 元の場所へと戻る途中ようやく押さえられていた手を離されたルシアはすぐさまウィルフに詰め寄ったが、返された言葉に何も言えず唇を噛みしめ俯いた。


「前にも言ったが正義は一つとは限らないし、それに反するものは必ずしも悪というわけじゃない」

「…………」

「なあルシアちゃん、これ」


 完全に黙ってしまったルシアに、ルドラは先程倒したキラープラントの魔石を見せた。


「これが何よ」

「その、俺頭良くねえから上手く言えねえけど……キラープラントにだって仲間や家族がいる。生きる為には俺達人間や他の魔物を食わなきゃならねえ、俺達だってそうだ。だから……生きるのに善いとか悪いとかないんじゃねえかなって。いや勿論中には悪い奴だっているけどよ! 何て言ったらいいか……」

「……いえ、十分よ……」


 先程までの怒りが嘘のように一転して大人しくなったルシアにウィルフはため息をついた。


「俺だって何が正しくて悪いのかなんて分からない。ただ、一つの正義だけを信じて突っ走るのだけは止めておけ」

「うん……」

「よしっ、じゃあ早くサリアんとこ戻るか。置いてきちまったからな」

「シスもだな」


 ******


「今日はありがとうな! 楽しかったぜ」

「こちらも色々教えてもらって助かった、感謝する」


 あれから魔物の襲撃もなくウィルフ達は無事街へと戻り依頼を終えた。

 ルドラ達も今日はこの街に泊まるのだが残念ながら違う宿をとっているらしく、明日の朝一番に街を出て行ってしまうらしい。


「そうだ! これ、あんた達が貰ってくれないか」


 そう言ってルドラが差し出したのは依頼分より多く取れたキラープラントの魔石。


「いいのか? 依頼の報酬も半分貰っているのに」

「勿論! サリアと話し合って決めたんだ。無詠唱無動作を教えてもらったし、その礼には足りねえけどとにかく貰ってほしいんだ!」

「そうか……ありがとう」

「ありがとうございました」


 ペコリとサリアがお辞儀をし、ルドラは力強くウィルフと握手を交わした。


「早速今日の事手紙に書かねえとな!」

「手紙?」

「おうっ! 実は俺今好きな子がいてさ、ミスラちゃんって言うんだけど。押しに押して先日ようやく文通ならって言ってもらえたんだ! あ、勿論兄ちゃん達が精霊なのは秘密にしておくから安心してくれよな!」

「あ、ああ……それじゃあな」

「また会えたらそん時また冒険しようなー!」


 ルドラ達とはそのまま笑顔で別れたが、手紙の話になった時にサリアの顔が曇ったのに気づいたのはウィルフだけだった。

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