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魅惑のチョコケーキ

 夕食を終えたトクメ達のテーブルには一つのケーキが置かれていた。


 十五センチ程のスポンジケーキにはたっぷりと塗られた白いクリーム、中心には芸術作品のような見事な飾りチョコレート、そしてふちには大量の真っ赤なサクランボが囲むように乗せられている。


「少し小さいから六人で食べるには物足りないかもしれないけどサービスだし、代金は要らないから許してね」とは運んできた店員の言葉である。


「お姉様、美味しそうなケーキですね! 苺のショートケーキでしょうか。あ、でもスポンジケーキにはチョコレートが使われているようですからチョコレートケーキですか?」

「……シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ、ね」

「シュバ……べ?」

「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ。チョコレートの生地とサクランボが特徴のケーキよ」


 そう説明するイリスの顔は何故か引きつっている。


「それより何でケーキ……」

「今日はここの店長の誕生日だからだろう。これはその店長の出身国伝統のケーキだ」


 パタリと本を閉じムメイの疑問にトクメは答えるとそのまま腕を組んだまま動かない。

 ムメイもケーキを眺めてはいるが食べようとする様子はなく、シスやウィルフもケーキを取ろうとする気配が全くない。


「……食べないの? なら私が」

「ルシアはダメよ」

「お姉様?」


 ケーキを食べようとしたルシアの手をイリスは優しく止めた。


「このケーキ、お酒が結構な量使われているの。だからお酒を飲めないルシアが食べるのは危険だわ」

「え。私だけ食べられないのですか……」

「酒が無理なのはトクメもだ。絶対に食べるなよ」

「言われるまでもない」

「ウィルフは甘いのがダメだし、ムメイも……」

「ごめん、頑張っても一口が限界」


 残されたのはイリスとシスのみ。

 ふと先程からシスが一言も喋っていないのに気づきウィルフが声をかけた。


「お前も甘いのはダメなのか?」

「いや、甘いのはいけるがチョコレートはダメだ」

「……玉ねぎ的な?」

「玉ねぎ的な」


 その場に沈黙が流れる。


 六人で分けるには少し小さいと言われたケーキ。

 しかし食べられるのがイリスだけとなるとかなりキツイ。


「せめて食事前なら……」

「お、お姉様っ!」


 このケーキが来た時点でイリスはウィルフ、ルシア、ムメイが食べられないと分かっていた。

 しかしまさかトクメとシスもダメだったとは知らず、テーブルに肘をつき嘆いたところでケーキはなくならない。


 好意で贈られたものを返すわけにもいかず、イリスはケーキを食べ始めた。


 クリームはたっぷり塗られているが甘さは控えめでくどくなく食べやすいものの、やはりイリスだけでは限度があり三分の一程食べたところで手が止まった。


「残りは自空間にしまってまた明日食べるわ。明日にはきっと食べきれると思うから」

「お姉様……お酒さえ入っていなければお手伝い出来たのに……!」

「人の好意にここまで追い詰められるってのもそうないわよね」

「…………」


 ムメイはそう言っているが、丁度今朝に経験したばかりのシスとウィルフはお互い目が合うと苦笑いを浮かべた。

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