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難しい親子

 シスとウィルフが少し遅めの朝食を取っている頃、ムメイは人気のない浜辺に座りながらイリスと共に海水から塩を作っていた。


 港町であるロコポートではあまり高く売れないが、海から離れた街へ行った時に売る為である。


 「それにしてもムメイとトクメが親子だなんて驚いたわ。ムメイもトクメも、何も言わないんだもの」


 魔法で海水を蒸発させ、不純物を取り除いた塩を紙袋に詰め込みながらイリスはムメイに話しかけた。


 イリスとムメイの付き合いは割と長く、トクメともそれなりにあるのだがどちらからもそういった話が出た事は一度もない。

 トクメがやたらムメイを気にかけているのは何度か見ているが、親子だとは全く思わなかった。


「アレが父親だって言いたくなかったから」

「えっ……えっと……うん、そう、ね……?」


 ムメイのハッキリとした言い方にイリスは少し戸惑ったがどこか納得しつつも簡単に同意していいものなのか悩み、曖昧な返事になってしまった。

 しかしムメイは特に気にした様子もなく具現化させた魔力で海水を包むとそのまま塩を取り出し、紙袋の上まで移動させそのまま下へ落として入れている。


 ただ、トクメの話をするのが嫌なのか思い出して苛ついているのか、塩は紙袋に全て入らず周りにバラバラと散らばっている。


「……向こうも、本当は娘だと思っていないからいいんじゃない」


 塩を作るのを止め、ポツリとムメイが呟いた。


「時喰い虫いるじゃない、私の姉の」

「え、ええ」


 時喰い虫は三十センチ程の白いイモ虫の姿をしているのだが、動物以外の物を見ると発狂して無数に分裂を繰り返し辺りにある物全てを食べ尽くしてしまう。


 植物は勿論石や土などの地面、歴史的価値のある本や建物さえも食べてしまう為過去や歴史を知る事が出来なくなってしまう。


 時喰い虫という名前はそこから来ている。


 過去にこの地上だけでなく神界にも現れ、そのまま姿を消してしまったので誰かに討伐されたと噂されたが違ったらしい。


「トクメが時喰い虫を保護していたのね」

「誰が見ても分かる程にすっごく可愛がっている。いつもあいつの魔力に守られて、あいつの図書館にいるの。けれど私は……、流石にここまで差をつけられると嫌でも分かる」

「ムメイ、それは……」

「言ってたっけ? 私は魔法が使えないって」

「え?」


 イリスの言葉を遮るようにムメイが話題を変えた。

 そのままムメイの魔力が再び動き出すが、先程と違い海水を包んだままグルグルと動くだけで何も起きない。


「どういう事?」

「正しくは属性魔法が一切使えないの。地水火風の基本属性はもちろん他大陸のも何一つ使えない。出来るのは魔力の具現化と転移転送魔法だけ。この塩だってイリスみたいに風や水を操ったんじゃなくて、魔力で塩の素だけを取り出してそれをまた戻しているだけ」

「十分できる事に入っているわ。そもそも魔力を具現化できる程持っている事自体が凄いのだから」

「その魔力だってあいつはこの世界全ての海水を持ち上げてそのまま何百年も保てるぐらいあるけど、私は持ち上げるのが精一杯。三十分と保たないわ」

「ムメイ……」


 ムメイも十分凄いのだが、側でずっと見てきた相手がトクメである以上イリスが何を言ってもきっと信じない。信じる事が出来ない。


 比べる相手が悪すぎる。


「あいつはただ優越感に浸りたいだけ。だって私には使えない魔法をわざわざ見せびらかしてくるし、聞いてもいない、特に興味のない事も知らないだろうと言って教えてくるし。……多分私はいつでもそういった欲求を満たす為だけの理由として娘にしているだけで、本当に娘として大事にしているのは時喰い虫だけだと思う」

「ムメイ……」


 イリスはトクメとムメイが親子だとは知らなかったが、トクメのムメイへの極端な構い方は何度も見ている。

 親子と知ってから思い返せばどう見てもトクメはムメイを娘として溺愛している。


 溺愛し過ぎて空回っている程に。


 ただ、トクメがムメイを長期間放置している間も時喰い虫とは常に一緒にいるのは事実なのでイリスにはどうしようも出来ず、更にムメイ自身がそう思い込んでしまっている為何の力にもなれない。

 それでも何か言えないかと悩んでいる内に気づけば大量の塩が出来ていた。


「話に集中しすぎた……」

「余分な分は海に返しましょうか」


 紙袋から溢れ地面に落ちている分を売るわけにもいかず、ムメイが作り過ぎた分の塩をイリスも手伝いせっせと海へ戻していく。


 戻しながら、イリスはこっそりため息をついた。


 この親子の溝は深い。

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