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王都脱出〜アルバートの場合〜

「あ、すいませーん。乗ります! 乗りまーす!」


 王都から出発しかけていた馬車を呼び止めアルフォイは急いで中へと乗り込んだ。


「よいしょっ、と……ふぅ」

「随分お疲れのようですね、何かあったんですか?」


 既に結構な人が乗っていたが運良く空いていた席を見つけ、無事座れた安堵から息をつくと隣にいた男がアルフォイに話しかけてきた。

 横に置かれた荷物から行商人のように見える。


「あ、分かります? 実は俺王都に住んでいるんですけど、何か数日前から急に街の雰囲気が変わった気がするんですよね。騎士団の人達もピリピリして全然相手してくれなくてつまんなくなったし、だからちょっとここ離れようかなーって。一、二ヶ月もすれば元の感じに戻っているでしょうし、折角だからその間観光旅行でもしようかなと。でもちょっと手持ちに不安があるんですよね、これだと一週間ぐらいしか遊べないんでどうしようか悩んでいたんですよ」

「そうなんですか、それは大変ですね」


 お金をたかられると警戒したのか行商人は適当に答えさり気なく距離を取ろうとしているが、アルフォイは全く気にせず自空間からリュートを取り出した。


「というわけで、一曲いかが?」

「え?」

「ここにいる皆さんも! 何もせずにいるのは暇でしょう? 俺吟遊詩人じゃないからそこまで上手くないけど、大体の曲は弾けるし歌えるよ。代金は小銀貨一枚、勿論気に入ってくれたならそれ以上くれても大歓迎!」

「うーん、それぐらいなら……じゃあ一曲お願いしていいかしら」

「いいよー、何にします?」


 早速近くにいた婦人が一曲頼み、アルフォイは快く応えた。

 本人は謙遜しているがその腕前と歌声は充分吟遊詩人として通じる程で、乗客全員がそれぞれの目的地までアルフォイの歌を楽しんだ。


******


「そういえば、貴方は何処に向かっているんですか? もうずっと乗っていますよね」


 あれから新たに乗ってくる客にも同じように話しかけてはお金を稼いでいたアルフォイに行商人が再び話しかけてきた。

 何時になっても降りる気配がないのが気になったらしい。


「え? あ、そう言えば決めてなかった。うーん、この馬車って最後は何処に着くんでしたっけ」

「ヒールハイですよ。あと街二つ過ぎたら着きます」

「うわ、流石にそこは危ないから次で降りようかな。そんな兄さんはまさかのヒールハイ?」

「いえいえ、私も命は惜しいので次で降ります」

「ですよねー。ヒールハイは闘技場とか気になるの沢山あるんですけど治安がなー」


 そのまま行商人と話は盛り上がっているがアルフォイの心中はあまり穏やかではなかった。


 アルフォイの目的地は王の言っていた世界最古の怪物の胴体部分であるダルマのいる街、ヒールハイ。

 既に日が経っている今姿を変えているとはいえ追っ手の可能性も考え直接ヒールハイに行くわけにもいかず、アルフォイは焦る心を必死に抑えながら表面上では楽しげに行商人と話を続けた。


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