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王都脱出〜王の場合〜

 王都から出発している馬車に一人の少年が乗り込んだ。

 身なりからして相当な身分である事は確かなのだがお供の姿はなく、そして少年は馬車に乗るのは初めてなのか恐る恐るといった様子で席に座るとキョロキョロと落ち着きなく周りを見回している。


「……王、心許ない不安気な表情と動きは大変愛らしいのですが他の者から怪しまれてしまいます。いつものように自身と威厳に満ちた振る舞いをしてください」


 ふいに少年、王の腹からインネレ・オルガーネの声が小さく響き王は慌ててお腹を諫めるようさすった。


「インネレ、静かに。いや分かっておる、この馬車に大臣の手の者がいる可能性は高いのだが……このように大勢の者と共に馬車に乗るのは初めてな上に、いくらそなたがいるとはいえ余の内臓と同化している今は一人も同然。どうすればよいのか分からんのだ……」

「安心してください、何かあれば私がさり気なく教えますのでいつものように……あ、やはり先程の挙動不審のままでいてください。事が終わってから滅多に見れない王の狼狽える様を何度も見返して細かいところまで確認したいので。そう思いますと王が若き御姿なのが残念です……若い頃のでしたら何度も見ていますし、出来れば成人しきった姿か少しお歳を召された姿ならば……」

「……そなた、随分余裕だな」


 命だけでなく国の未来もかかっているこの状況でも平常時と変わらないインネレに流石の王も苦笑いを浮かべている。


「王が生きておられますから。生きてさえいれば何だって出来ます、反逆者の大臣共から王座を取り返す事も。勿論私も全力を尽くします。それに今はこうして馬車に乗る事以外に出来る事はありませんし、それなら今しか出来ない不安気で憂いを帯びた王の姿を堪能します」

「……そうか、だがもう少し静かにしておくように。そろそろ怪しまれる」


 インネレの言う事にも一理あるといつもの言動は適度に流し、勇気づけられる言葉だけを受け取り王は優しい笑みを浮かべ腹を撫でた。


 尚乗客達からは自分のお腹に話しかけながら撫でている十五、六歳の少年を既に怪しんで警戒し、距離を置かれている事には気づいていない。


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