ワイバーンの群れ討伐
ワイバーンの群れはヒールハイから少し離れた上空に留まっていた。
恐らく狩りの最中なのだろうが、このまま進めば確かにヒールハイを縦断して被害が出てしまう。
「大体二十匹ぐらいか……これならすぐに終わりそうだが、さてどうするか」
「何か問題でもあるのか?」
クライスは双眼鏡を覗き群れの数を確認すると何故か動かなくなり、シスが少し心配そうに声をかけた。
「いや、問題はない。ただ一匹ずつ気づかれないように狙撃していくか、正面から撃ってこちらに近づく前に全て撃ち落とすかどちらにしようか悩んでいるだけだ」
「問題ないなら良かった、のか……?」
勝つ事は前提として、どう仕留めるかで悩んでいたクライスにシスは何とも言えない表情になった。
倒し方で悩んだ事がないシスにとってはクライスの悩みは理解が出来ないらしい。
「ああ、でもシスにもワイバーンを倒させろと言っていたし、流石に今回は言う通りにしておかないとこっちに勝ち目がない。よし、今から一匹撃ち落としてこちらに気づかせるがワイバーンと戦った事は?」
「一応ある。ただ群れで襲われるとちょっと自信が……そっちは?」
「こちらに来る前に撃ち落とすから大丈夫だ。誤射はしないよう気をつけるが派手に動くようなら少し離れたのを狙うがどうする?」
「どうなるか分かんねえからそっちの方がいいと思う。最悪群れは俺が何とかする」
「そうか、なら始めるぞ」
話がまとまるとクライスは背中に担いでいた銃を構え、狙いを定め一発撃った。
直後に一匹のワイバーンが頭を撃たれて地面へ落下すると群れは一斉にクライスの方を向き、シスは前方に走り出した。
群れの半数はクライスの方へ向かっているがその内の数匹がシスに気づくと威嚇し、一匹が襲いかかってきた。
しかしシスは落ち着いてその攻撃を避けると右手で尻尾を掴んだ。
いきなり尻尾を掴まれたワイバーンは驚いたのか暴れて空へ飛ぼうとするが、シスは両手で尻尾を掴み直しそれを阻止している。
「こ、のっ……おらぁ!!」
そしてそのままワイバーンを勢いよく地面へと叩きつけた。
叩きつけられたワイバーンは気絶したのかぺたりと地面に伏せたまま動かなくなったが、他のワイバーンがシスへと襲いかかる。
シスは焦る事なく尻尾は掴んだまま近づいてきたワイバーンの方へ向くと、思い切り息を吸い込んでから火を吐いた。
流石にワイバーンを燃やし尽くす程の火力はないみたいだが、予想外の攻撃に怯んだワイバーンの尻尾を掴みまた一匹地面へと叩きつける。
そのまま順調に倒していくかと思われたが、他のワイバーンが集まりシスを取り囲みはじめた。
シスはまだ持っていたワイバーンの尻尾を握りしめ攻撃に備えていたが、襲いかかってきたワイバーンの頭がいきなり弾けた。
突然の事に動きを止めている間にもどんどんワイバーンの頭は弾けていっている。
驚いたシスがまた目の前で頭の飛んだワイバーンの方角を見ると、こちらへ銃口を向けているクライスがいた。
どうやらクライスに向かっていたワイバーンは全て撃ち落としたらしく、周りには頭のないワイバーンが散乱している。
そのままシスが呆気に取られている内にシスの周りにいたワイバーンも全て撃ち落とされ、群れの討伐は何の問題もなく終了した。
「悪い、助かった」
「気にしなくていい。そっちがワイバーンを最初に引き付けてくれたから俺も撃ちやすくて助かった」
そう言うとクライスは構えていた銃を下ろした。
「さて、次はこのワイバーンの片付けだが……全て撃ち落とすんじゃなく追い払う程度で済ますべきだったかな」
「このワイバーンは毒を持っているか?」
「一応尻尾の先に毒針があるが、そこさえ取り除けば何の問題もないしむしろ肉は高級品として貴族の間で人気がある」
「それなら」
「だがゼビウスと言ったか、毒の有無に関わらずワイバーンは食わせるなと言われているし食べた場合俺は止めたがそれを無視して食べたと言うが構わないな」
「…………」
ヴィルモントのようにクライスもシスが訊く前に答えを返し、シスは何も言えなくなった。